躰道∞(無限) 

2006年02月17日
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ここは侍たちや、その連れの美女が真ん中を歩いて、私のような者はすみに寄って歩かねばならないと、すぐそこのだんご屋のオヤジに聞いていた。聞いて初めてだが、そんな決まりがあることを私は知った。

 その木でできた橋は私のような図体のでかいものが歩いても、きしむ音はしない。逆に弾む感じさえした。

 何もかもが田舎とはまるで違う。

 半円を描くような橋の中間地点、ここを山と見れば頂上にあたる一番眺めがいいところで腰をおろした。もちろん端に寄ってだ。歩けば腹が減るほどの長さの橋ではなかったが、高いところで見わたしていると、こんなところで腹ごしらえをしたくなってきた。

 さっそく風呂敷を広げて、いざ食おうとしたとき、箸がない。こんな立派な橋の上で、しかも端に座っていて箸がないときては滑稽にもほどがある。手で食ってはそれこそ、はしたないってもんで、その辺をひとっ走り代わりの物を探しに行くことにした。

 ここは大工の姿がやけに多い町で、代わりは案外すぐ見つかった。

 箸にしてしまった木を手裏剣を連続で飛ばすようにこすりながら風呂敷まできて腰をおろした。

 さぁ、食うかといったときにぬくぬくとした感じが消えて、薄暗くなった。まさか夕立が。猫背を伸ばして見ると、太陽を隠したのは子連れの若い女だった。

 やせた女は、もっと痩せた女の子の手を引いていた。が、私の前で足を止めてしまったのだった。一目見て分かった。この子はただの痩せすぎではない。麻疹(はしか)による赤いぶつぶつが日陰よりも冷気を私に吹かせていた。



 私も貧乏だが──。おそらくこの親子、町のいい医者に診てもらおうと来たのだろうが、お決まりの台詞を並べられて帰されたに違いない。「安静にすることと、滋養をつけることだね」

 商いは上場だったことだ。村までほんの一日歩くだけだ。私は仕方なく拾ってきた箸を渡して、風呂敷だけをたたんで「おあがりよ」と言った。親子二人がそろってすみません、ありがとう、と、頭を下げたが母親のほうが重病のような声だった。

 さてと、と私は立ち上がり歩き始めた。しかし、その足は下るも登るもしなかった。無理に中央まで体をもって行って、周囲をぐるりと眺めてから肩をいからせて歩いてみた。見栄を張ったつもりが、渡りきるまでにお侍が来やしないかと膝がガクガクとしてあやうく転ぶところだった。

 やはり私のようなものは人に頭を下げて手すりのある端のほうを歩くのが似合っている。

 土を踏むと今のが嘘のように膝がしゃんとしている。どうれ、走って帰るとするかな。






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最終更新日  2006年02月17日 23時52分01秒
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