躰道∞(無限) 

2006年10月27日
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 タイトルの響きは「ぜんにほん」

 それほど意識のない中で今日の出発を迎える。


 全日本にちなむ話をどうぞ。



  『中学二年の女の子がいました。いる場所は枯葉の姿がチラホラ見える道路です。散歩にでる前は西の空がまだ紅かったのですが、もう、すっかり暗くなりました。しかし、さほど怖くありません。一緒にサンタがいるからです。サンタはフカフカの毛でおおわれた中の上型犬です。ロープを手にグルグル巻いているので歩くたびにサンタの横っ腹が女の子のひざとぶつかります。かといってロープをゆるめていてもサンタはひざに腹をあててきます。一心同体とはこのことでしょうか。サンタが急に立ち止まって女の子は跳び箱の直前であたふたするように犬の腹に両ひざをぶつけて立ち止まりました。こころの中で「こら!サンタ」と言いそうになりましたが、やめといてよかったです。女の子の鼻先をかすめるように無灯火の自転車が猛スピードで通り抜けていったのです。振り向いてその自転車をしばらく眺めました。マフラーをなびかせバランスをくずしながら信号無視をして自転車をこいでいきました。サンタが甘えるようなおかしな声をだしているのに気づき、女の子は腰をおとしてサンタの顔をみました。サンタは舌をだして左前足をちょいちょいと浮かしていました。通り過ぎる車のライトをたよりに女の子はサンタの足を注意深くみました。薄っすらですが、黒っぽい跡がついています。さっき、女の子をかばうためにサンタの足がひかれてしまったのです。サンタは家のほうに向かって歩き出そうとしています。女の子はサンタを歩道の端によせ、首をムギュッとだいて心の中でささやきました。「少し休も」すると返事をしたようにサンタがクーンとなきます。女の子はめじりに涙をたずさえますが、それをがまんしてサンタの首にグリグリ顔をうずめます。女の子はだんだんお尻が冷たくなってきました。そろそろいかなくてはと、思ったときです。サンタにうずめた顔に首輪以外の金属があたるのを感じました。女の子は目を開けてひざ立ちでサンタの首もとをさすりました。その金属をつまむと一円玉をさわったときのような、いえ、それよりもっとスリムな感触があって、何かに似ているなと思いました。そう。ファスナーです。女の子は一瞬おもしろく思いました。しかし、サンタに悪いのでこらえました。それでも、ファスナーのつまみみたいな感触がどうも気になります。おもいきって下におろしてみました。すると、ほぼ治ったカサブタでもはがすように簡単に取れてきました。嫌な感じがしました。目の前のサンタが水溜りのように伏せてしまいました。女の子は背筋が凍り、あわててサンタの腹に手をやりました。手が吸い込まれるようでした。サンタの体の中身がまるでありません。まるで雪男のジャンパーです。女の子は、殺しちゃったのと毛皮になったサンタに顔をうずめました。サンタの毛が涙を次々にすってくれます。泣きながら、漫画のみたいに涙で生き返るとかはないのかなと思いましたが、あの大きいサンタのガタイの感触はよみがえりません。女の子はしばらく泣きましたが、やがて恐る恐るサンタのお腹に手をいれてみました。そして、考えました。さっきのファスナーが原因だったのかな?お腹の辺りをさぐると金属のものが当たりました。さっきのアレです。思い切って一気に首までファスナーのつまみをもちあげました。女の子はでっかい風船におされたようにやさしく尻餅をつきました。ほっとしました。すると現実が急によみがえり、こんなに遅くなって親にしかられることを考えました。ホッとしたり、あせったり、混乱した女の子はロープを引っ張って「サンタ、いくよ」と声をかけました。いつもより重く感じて、大事なことを忘れていた、と振り返りました。サンタは左前足をピョコピョコさせています。女の子は何度も心の中でゴメンを言って、叱られる覚悟をきめました。ゆっくりかえろう。そう決めました。ゆっくりでもサンタは苦しそうでした。でも、女の子にこんな大きな犬を持ち上げる力はありません。あ。そうだ。女の子は落とした目ん玉を急いで探すようにかがみ、サンタの首をさぐりました。あった。思ったときには腹までファスナーをおろしました。やはり、さっきみたいに毛皮へ変化しました。こうすれば抱いていける。そう思いましたが、歩いてみるとサンタの頭が重くて、ゴンゴンと固い地面に打ち付けます。かといって、首を持てば体が地面にすれてかわいそうです。閃いたのはオンブでした。おぶっていけばいいんだ。おぶるとサンタのアゴが女の子の頭をコンコンとうちます。前足と後足がプラプラしています。女の子は汗が冷えてきて寒気を感じました。サンタの前足に手をつっこみました。とてもあったかいです。もう片方もつっこみました。やはりあったかいです。足も入れてみました。顔も入れてみました。閉まった店の鏡で自分の姿をみました。すっかり犬ですが、立っているその姿には笑いがこみあげます。お腹のファスナーがパックリ開いているのがものすごく情けない。女の子は短い前足をつかってなんとかファスナーに手をかけて引き上げました。すると、急にバランスを失って立っていられなくなりました。慌てて両手をついて反応します。左手に激痛が走りました。痛かったのは手の甲です。まさか。まさか。と念仏のように女の子は繰り返し、痛みのないすでに前足になった右手で首もとのファスナーを探しますが、みあたりません。涙が出てくるのに反応して女の子は「ゥオーン」と動物のような鳴き声をだしました。家を目指すしかありません。とにかく、帰れば両親が助けてくれるだろう。家について、お母さんと玄関で呼びかけているつもりが自分にも「ワン。ワン」としか聞こえません。でてきたお母さんが自分になんとよびかけているのがよく理解できません。自分の家にどれだけの人が集まったのでしょうか。クラスの仲間、先生。小学校の旧友。女の子は自分の知っている人間全員があつまったように思えました。自転車でだれかがきました。自分の好きな人でした。マフラーをなびかせてとばしてきます。自転車をおりてこっちにきます。男の子は女の子の首をギュッとだきしめました。見た目はサンタだから、さっきはゴメンとあやまっているのでしょうが、女の子は不幸中の幸いだと思ってまた泣きました。誰の声も理解できなかったのが理解できてきました。「あれ、なんだ。このファスナーは」』

 自分の信じる何かと一体になったとき現実が奇跡をもてあそぶ。さて、大会がんばりましょう。





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最終更新日  2006年10月27日 22時12分56秒
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