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2019.03.24
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カテゴリ: 神話伝説
僕は海外文学作品だとたまに複数の翻訳を読み比べて見たりするんだけど,『ラーマーヤナ』のレグルス文庫版を読んでみたら,以前読んだグーテンベルク21版と大きく違った。自分用のメモも含め,ちょっと書き残していきたい。

まず,『ラーマーヤナ』ってなんだという話なんだけど,古代インドの叙事詩である。
内容的には,古代インド版のスーパーマリオブラザーズだ。主人公ラーマ王子の嫁であるシータが羅刹の王に誘拐されたので,ラーマは弟のラクシュマナと猿軍(ヴァナラ)とともに羅刹と戦うという話だ。
この手の物語の古さというか,オーソドックスさを感じる。

見どころは数えきれないほどなんだけど,ラーマが昨今のなろう系かと思うほど強すぎて楽しい。
羅刹カラがカチコミをかけて来たときなど,たった1人で1万4000の羅刹を打ち取っている。また,ラーマの矢はミサイルなのかと思うほどの威力で,山のような巨人クンバカルナの頭を切り落としてる。
また,面白いのが,ラスボスである羅刹の王,ラーヴァナだ。こいつ,苦行の成果で「神々には絶対に殺されない」という体になっている。人間であるラーマが倒さないといけないというわけだな。

さて,読み比べなのだが,まずグーテンベルク21版。河出書房版の電子化したもの。訳者は阿部知二。


ラーマーヤナ(上)【電子書籍】[ ヴァールミーキ ]

この阿部知二は,本業が英文学者であるから,決してインド文学の専門家ではない。しかも,英語版からの重訳なので,もしかしたら不正確なところや,大きく省略したところがあるのだろう。
解説で阿部知二は,7巻の羅刹との戦いの後日談は大幅にカットした点について,「7巻は不必要であるばかりではなく,あえていうならば,むしろ感興を害なうものですらある」とまで言っている。

なんというか,時代とともに道徳が変化するのだが,ラーマはせっかく羅刹軍と戦い,妻であるシーターを取り返したのにもかからず,長期間さらわれていたということでシーターを離婚してしまうのだ。
現代でというか,スーパーマリオでこれをやった大問題である。ちなみに,ラーヴァナは羅刹の王のくせにその辺は妙に律儀で,超絶紳士なので,誘拐したシーターに1年以上も手を出していない。人間よりよほどできた男じゃないのかな,とこの辺は不自然なのではあるけど…。
たまに,ネット上の記事で,インドだとかアラブだとかで,性的犯罪にあった女性が迫害されるというニュースを見るたび,こういうものか,と思わないでもない。
また,阿部知二が簡単に紹介しているエピソードなのだけど,ラーマはシュードラ(奴隷階級)の者が苦行をしているところに遭遇すると,ただちに殺してしまっている。このあたり,ラーマの行動はカースト制度の保護という観点から,当時の人々には賞賛されたのだろうが,現代人の目から見ると奇異に映る。
ただ,古典の魅力というのは物語の面白さも当然だが,こういう,当時の文化を知ることができるところにもあると思う。7巻について不必要とまで論じながら,簡単に紹介されている著者の姿勢は感心する。

一方,レグルス文庫版である。訳者は河田清史。翻訳家である。


ラーマーヤナ(上)【電子書籍】[ 河田清史 ]

こちらは年齢層が低いのか,文体時代が「です・ます調」になっている。また,分かりやすさ重視だろうか,敵方は羅刹ではなく,「悪魔」と訳されている。いままで断りなく,羅刹という言葉を使っていたが,原典だとラークシャサになっていて,それを忠実に訳すと羅刹とすべきなんだろうが,分かりにくいからな。悪魔でええやん,ということだな。

そして,あのラーマとシーターの後日談であるが,やっぱり離婚エピソードはカットされている。
それどころか,ラーマがシーターの貞節を疑う場面もかなり好意的に書き直されている感じがあって,ギスギスしていないのである。

2つの『ラーマーヤナ』を簡単に紹介してみたけど,さっくりと短時間で読みたいのならレグルス文庫版がいいかなと思う。kindleunlimitedが使えるなら,上下巻まとめて読めるし。
ただ,僕はグーテンベルク21版をお勧めしたい。レグルス文庫版よりボリュームが増えているし,残虐描写というか,戦闘描写もかなり丁寧。また,レグルス文庫版だと,ラーマたちを現代人から見ても理想の人間として描く傾向にあるんだけど,グーテンベルク版はあまりそういうところがなく,ラーマが猿軍のヴァーリンを背後から不意打ちで殺した場面なんかをしっかりと取り上げていたりする。大人向け,という感じなのかな。





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最終更新日  2019.03.24 21:03:51
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