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2020.12.28
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カテゴリ: 漫画



本誌での掲載がなくなったのでもしや打ち切りか,と思ったものの,きれいに話が終わっていたので個人的には大満足である。振り返りで感想なども書いていきたい。


雪女と蟹を食う(1)【電子書籍】[ Gino0808 ]

そもそも,『雪女と蟹を食う』だけれど,タイトル通り,主人公の青年が雪女を連想させるような冷たい感じの人妻ヒロイン,雪枝彩女(以下「彩女さん」という。)と2人,蟹を食べるために北海道に向かうという物語である。
当初の主人公は痴漢冤罪で仕事も恋人も失って自暴自棄となっており,「自殺する前に蟹を食べたい。金もないから強盗しよう!」という発想から彩女さん襲ったのだが,どういうわけか2人で北海道に蟹を食べに行くことになるのだ。
あらすじをざっと書いてみても意味の分らんことになっており,こういうことになるのは彩女さんにも色々あるのだ。このヒロインの方の事情は,ゆっくりと語られるのだが,1つ,また1つと開示されるたびに僕はなんとも言えない気持ちになったものだ。

以下,単行本にもなっていないけれど,ある程度のネタバレはしながら書いていく。
当初,主人公はヒロインの彩女に「自殺する前に,北海道で蟹を食べたいかな,って・・・」と言い,彩女は「それはいいですね」と答えたことから2人で北海道に行くことになった。

旅行中,徐々に主人公は彩女さんに惹かれていき,その真意に気がつくものの,自殺はとめられない。ついに彩女は「 次生まれてくることがあれば,宮沢賢治を愛せる女になりたい」 と言い残して入水自殺するのだ。
そして,ここで唐突にヤングマガジンでの連載は終わってしまい,僕は打ち切りなんかと不安に思ったものだ・・・。

さて,この漫画はそこかしこに文学の匂いがする。テーマとして,色々なものがあるのだろうが,「心中」,つまり恋人同士がいっしょに自殺するというのがあるのかもしれない。明治の文豪は自殺しまくりだし,特に太宰治なんか3回心中して,そのうち女だけが死ぬという心中未遂を2回はやっとる。
また,心中の起源をさかのぼってみても,江戸時代の歌舞伎で恋愛を扱うと,たいていが心中ばかりで,ジャンルとして心中物というのがあったとか。いまでいう,異世界転生ネタのようなものか。

とはいえ,『雪女と蟹を食う』は単純な心中ではない。同じように自殺を目的としていても,2人の死ぬ動機が全然違うのだ。
本来的な心中は,結ばれない2人が,せめて死後の世界では一緒になれることを願っていしょに死ぬと言うことだろう。
ここで,主人公の青年は,社会からつまはじきにされて自暴自棄になって死にたいと思っている。途中,彩女さんを恋するようになったことで死ぬ気は完全に失せてしまっているし,できるなら彩女さんと2人で生きていきたいと考えてしまっている。
一方で彩女さんは,夫を日本一の作家にさせるためにスキャンダラスな自殺をしたいのだ。どういうことかといえば,文豪・太宰治が愛人の日記から着想を得て『斜陽』を完成させたことから,自分も夫の文学作品のため犠牲になろうというのだ。

そういうわけで,一時的に主人公の青年の腕の中にいたとしても,放っておけば夫の所に帰って行ってしまいそうな気もする。
もう,この女を夫の元に返さず,主人公が独占しようと思ったら,どうしたらいいのか?

実際,主人公も第64話で彩女さんの遺体を抱きしめながら,こう独白するのだ。

たとえ魂が入っていない半分の身体でも
旦那に・・・骨の一本返さない

この64話を読んでいたときの俺は,「 この女とならば,いっしょに死んでも惜しくない 」と思ったものだ。そういうわけで,彩女さんといっしょに自殺もできず,おめおめと生き残ってしまった主人公には少々の不満はあった。


なお,最終回の68話については・・・,読後感は非常に爽やかだった。
主人公は彩女さんの夫をぶん殴ってスッキリはしたし,最後のどんでん返しもあった。
この,最後のどんでん返しについては,気に入った人もいるだろうし,逆に気に入らなかった人もいるかもしれない。
僕は・・・どちらでも良かったのかな。俺ならばたぶん,彩女さんといっしょに死んでしまって終わりだ。主人公の青年のように,夫を殴りに行ったりはできない。
あの結末は,主人公の熱意が生んだ奇跡ということでいいのじゃなかろうか・・・。
一応この最終回のあと,作者のTwitterを見ているとエピローグがあるようだ。こちらも楽しみである。


雪女と蟹を食う(4)【電子書籍】[ Gino0808 ]





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最終更新日  2023.07.03 11:00:22
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