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2021.11.17
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カテゴリ: 読書
僕は池波正太郎信者である。中学生のころから池波正太郎を読んでいるので,池波暦は20年を超える。
そんな僕が,最も好きな作品は何かと言えば,短編集『賊将』に収録されている『秘図』と,この『秘図』を長編化した『おとこの秘図』である。
昼は謹厳実直なサムライみたいな顔をしていながら,セックスレスな妻に悩みつつ,それを発散させるため夜はこっそりエロ絵を描く。描きためたエロ絵を隠すのに苦労している主人公を見ると,昭和生まれの僕としては強い共感に襲われる。このあたり,デジタル世代の令和生まれには分るまい。
僕は,この2作が鬼平よりも剣客商売よりも好きである。久しぶりに再読したので感想を書いていこう。

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おとこの秘図(下)(新潮文庫)【電子書籍】[ 池波正太郎 ] ​

作品背景を調べるために池波正太郎の公式サイトを見ると,『秘図』は1959年,『おとこの秘図』は1976年発表と言うことになっている。
主人公は,実在する火付盗賊改,つまり盗賊対策にあたる特殊警察の長官である徳山五兵衛秀栄である。鬼平こと長谷川平蔵の先輩格だ。
この五兵衛については,史実なのかどうなのか分らんが,池波正太郎が「夜はこっそりエロ絵を描いている」大胆な人物設計をしている。


長編『おとこの秘図』だと,主人公は必死でエロ絵を描いていることを隠そうとするし,自分が急死したあと,家族が隠し持っていたエロ絵を発見してしまえば,「たちまち自分を尊敬していた家来や妻が自分を軽蔑するかもしれない・・・」という恐怖心から,中盤,徳川吉宗に命令で危険な任務に行く際にエロを全て処分したりしている。
それでも,またエロ絵を描き始め,死の直前に絵を焼いてから死亡する。
このあたり,昭和生まれの男たちにはよくわかることではあるまいか。こういう共感できる部分があるからこそ,僕は鬼平よりも五兵衛の方に感情移入しながら読みやすかった。
どうしても鬼平犯科帳を読むとき,鬼平よりもその部下たちの方に視点が行ってしまうんだよね。

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賊将【電子書籍】[ 池波 正太郎 ](「秘図」が収録されている短編集)
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で,短編の『秘図』と長編『おとこの秘図』の違いであるが,文学性というか作品のテーマ性でいえば短編の『秘図』の方が優れていると言える。
短編の『秘図』を焼酎なりウイスキーの原液とするならば,長編『おとこの秘図』は水割りとかソーダ割りみたいなものだ。
短編は老齢になった五兵衛と盗賊・日本左衛門の対決を表面としつつ,裏面でエロ絵の作成を語る感じである。表と裏がはっきりしていて分りやすいし,僕なら30分,読書に慣れていない人でも1時間もあれば読み終わるだろう。
一方で長編は,少年期の五兵衛と忠臣蔵の話,父親との確執,徳川吉宗の秘密任務など,やってることが多いのだ。裏面は主人公の性的な欲求でいいとして,表面が盛りだくさん。僕は1週間で上中下の3冊を読み切ったが,読書に慣れていない人では全3冊を読み切るのに1か月はかかるかもしれない。
実際,ネットでレビューを見ていたら,「修業時代の少年期は剣客商売,盗賊と戦い始める中年期は鬼平で,池波正太郎の集大成である」とあった。確かに,そういう読み方もできるだろう。ただ,こういう読み方になってしまうのは,表面の方にばかり気を取られるからであって,裏面の主人公とエロ絵の方をあまり重視してないとも思える。


もっとも,文学性とかテーマ性はともかく,娯楽性は長編の『おとこの秘図』だろうか。
幼い主人公が赤穂浪士の討ち入りに心を震わせたり,中年期の主人公が吉宗の秘密任務に赴くシーンもある。
紙幅も十分あるわけだからキャラ付けはしっかりしており,特に短編には登場しなかった家臣,小沼治作はいいキャラであって非常に好きである。
なお,著者の執筆時の年齢を見ると,『秘図』の時点で30半ばくらい,『おとこの秘図』の時点で50代となっている。
老齢になりながらも,主人公が小沼治作とともに「いまどき若い者はだらしがないのう」とやりとりするシーンは長編執筆時の著者の心ばえが反映されているのかもしれない。


結論は,長編も短編もどちらも読め,とこういうことになる。
表と裏,昼と夜を切り替える主人公というテーマ性は変わらないものの,父親との確執については大きく変更されており,短編では「理解のある主人公の父」だったのに長編では「主人公を廃嫡しようとする陰険な父」になっていたりする。

ところで雑談だが,もし五兵衛が現代に生きていたらどうだったろうか。
彼は1人きりでエロ絵を描いていたが,ネットのある現代ならばTwitterあたりで神絵師として活躍できていたかもしれない。
そういうことを考えると,楽しくなってくるよね。

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おとこの秘図(上)(新潮文庫)【電子書籍】[ 池波正太郎 ] ​





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最終更新日  2021.11.17 11:51:15
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