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2008年03月23日
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カテゴリ: ミステリ
 色々と文句をつけつつ、日本のミステリは依然として折に触れて読んでいます。いきなり新しいものから読むのは何だか抵抗があるのでどうしても少し古いものになってしまうのですが、最近読んだものとしては真保裕一『ホワイトアウト』と高村薫『照柿』があります。


 かたやミステリというよりは冒険小説、かたや地味な警察小説と、全く似ていない2作ですが、無理を覚悟で言うと、どちらもそれなりに「場所」にこだわった作品という共通項がないでもありません。そしてそう考えると、 日本のミステリには場所性が希薄であると以前書いた手前 、それぞれのミステリの内容はともかく、その点については何か書いておかなくてはと思ったのでした。

 まず『ホワイトアウト』からいきますと、多くの人がご存知の通り、冬山でのダムをめぐるテロリストと職員の攻防戦というお話で映画化もされました(当時その映画の評価をめぐって『キネマ旬報』で立川志らくと高島某との間で論争が繰り広げられていて、ひどく面白かったのですが、それはともかく)。とにかく雪やら氷やらの描写が凄まじく、それが冒険小説を構成する重要な要素となっています。つまり、少なくとも物語が展開する「場」の存在感は少しも希薄ではない。ただ問題は、その雪やら氷やらのいわゆる「自然」が、その「土地」から完全に切り離されてしまっていることです。外界から完全に遮断されたダムが舞台という設定なので、仕方のないところもあるのですが、甲信越のどこかにあるらしいそのダムは、正直言って、雪さえ降っていればどこにあってもいいダム。登場人物にしても、テロリストとダム職員と警官以外には、人質になったダム職員の家族がお情け程度に登場するだけで、例えば麓の住民など影も形も見えない。

 真保裕一は現代日本を舞台にした本格的冒険小説が書きたかったそうで、その試みは実のところテロリスト像にあまりにリアリティがないという点で相当つまづいているのですが(日本の左翼の過激派にこんな優秀な人たちは多分いません)、もう1つの問題としては、極端な話、これが日本を舞台にする必要すら殆ど感じられないということもあります。少なくとも、日本でなければ成立しなかった冒険小説とは言い難く、そしてその理由の一部は、周りから切り離されてしまったが故に、その舞台が「場所性」というか「風土性」を失ってしまったことにあるのではないかと思うのです。

 一方『照柿』はどうかといいますと、話は主に青梅線沿線で進み、時折大阪の西成が顔を出します。どちらもそれなりに丁寧な描かれており、主要登場人物の一人が働く工場の描写があるのもなかなか悪くない。ただそこに住んでいる、ないしは働いている人たちの具体的な様子が見えてこないという点は、これまで僕が読んできた日本のミステリと基本的には大差ありません。描写が丁寧と書きましたが、実のところ描写の殆どは、2人の主要登場人物が、周りの風景やら人やらに投影する一方的な自己意識についてなのです。そこに住んでいる人の気配、ざわめきのようなものは殆どない。何というか、外側から見ている人の視線なのですね。それが悪いとは言いませんが、それだとその場所に棲息している、ないしは育まれた色々なものは決して見えてこないのです。

 それからこれはどちらの作品にも共通することなのですが、とにかく作者が色々とよく調べていることは間違いないと思います。ダムの内部についての説明も、工場の労働過程の説明も、実に詳しい。ただそうしたものを詳しく書いたからといって、その場の雰囲気が立ち上がってくるかというと、そう言う訳ではないと思うのですね。むしろそれは外側からの視線を強化してしまうような気がしてなりません。それからこれは小説であれ何であれ言えることですが、調べたことをもっと物語の中に上手に織り込んで欲しいなあと思います。読んでいる方が、それと知らぬ間に、その場所やその職場の空気に触れることができるような。もちろんきちんとした取材もしていないような作品に比べれば遥かにましなのですが。





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最終更新日  2008年03月23日 17時08分56秒
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