ココロ ニ アカリ ヲ・・

ココロ ニ アカリ ヲ・・

2004.08.11
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 宇宙が透けそうなほど透明に近い水色の空の東側に島のようにデーンと構える入道雲。
 ワカメ色の海水は表面に金粉を散りばめキラキラと光っていて、その上を漁船や水上スキーを楽しむ人々が、スウーッと白い線をひいていく。
 もったりとした海水に浮かぶ島々。
 旧式のあちらこちら錆び付いたフェリーの手すりに寄りかかり、夏の鮮やかな景色を無言で眺める私の脳裏に浮かぶのは、寒々とした冬のフェリーの錆びた鉄階段にハンカチをひきチョコンと座る私の祖父母の姿。

 私の母は人口5千人程の小さな島に生まれた。
 その小さな島で、祖父はミカンを作り、祖母はお菓子やパンを作り生計をたてていた。
 小さな島ながら港に近く家の前が銀行だということが母の小さな小さな自慢だった。
 かつかつの生計ながら、子供にしっかり学問をつけたいと願う祖父母は2人きりの子供を大学に入れた。
 県外の大学に通う母はそこで父と知り合い、他県に嫁いだ。


 2~3年に1度の盆と正月に帰ってこられるかどうかの子供や孫達を、笑顔と採れたての魚で迎えてくれる祖母。
 すっかり遠くなった耳をかたむけ、何度も何度も優しくうなずく祖父。
いろんな色の石がはめ込まれた広い玄関から入ると、古く広い部屋が4つあり、みんなが集まる仏間には線香と湿気の匂いがまとわりついていて、この匂いを嗅ぐと祖父母の家に来たのだという実感が幼い頃からあった。

 そんな祖父が、私が高校に入った年の冬に足を悪くして、もう起き上がれないと宣告された。
 しかし、「祖母の手厚い看病と祖父の生命力もあって杖をついて歩行できるまでになった。」というのは遠い実家になかなか帰れない私の母のさみしさを紛らわすような自慢話の一つ。

 短大に入った年の冬のある日、法事の為2年ぶりに実家に帰った母を、子供の頃は思い及ばなかったガイドマップと少し稼ぐようになったアルバイト代を片手に私はウキウキと旅行気分で追っかけた。
 いつものフェリーに乗り、冷たく刺さるような甲板に立っていられず客席のある部屋に座ろうとした所、フェリーの上り口の錆びた鉄階段にちんまり私の祖父母が座っている。
 「おばあちゃん、おじいちゃん!!!」
 祖父母にフェリーで会えた驚きと喜びと、風の吹きすさぶ階段に祖父母が座っている不思議さで一瞬言葉に詰まった。
 「ああ。○○ちゃん、ようきたねー。」

 「○○、このフェリーできたの?会えてよかった。」
 「なんで、おじいちゃん達あんなところにすわってると?こんなに寒いのに、風邪ひくよ。」
 「いいから、あんたは客室に入っていなさい。あんたこそ風邪ひくよ。」と有無を言わせず、私を客室に押し込んだ母は、刺すような北風の吹き込む甲板から祖父母から見えない場所から、祖父母を見守っていた。

 後から話を聞くと、杖をつけばなんとか歩けるようになった祖父だけど、フェリーの急な階段の上り下りは時間がかかるしものすごく大変らしい。
 そんな訳で、「ここにいれば、人に迷惑をかけずにすぐ降りられるから」と真冬のフェリーの鉄階段にハンカチを敷き、祖父母は北風にさらされながら、30分会話もなく座って病院へ通っているのだった。


「お前達がここにいると風邪引くから」と本気で嫌がる祖母が気になり、結局甲板の端で祖父母に見つからないように祖父母を見守る母。

 私にとってフェリーに乗るという行為はほとんど母方の祖父母の家に遊びに行く事だった。
 そんな訳で、この光景が、フェリーに乗るたび昨日の事の様に私の目の前にまざまざとよみがえり、私の胸をチクチクと刺したり重たいものを飲み込んだ気分にさせるのだった。

 今年の夏は祖父の一周忌。

 優しくて穏やかな祖父だった。
「年をとるという事はなんと残酷なことだろう」

 自分の老いた両親に接したあと、母が必ず漏らす言葉。

 私の子供達が甲板を走り回り、ハッとする。

「危ないから、お父さんと客席のある部屋に入っていなさい」
 夏の湿気を帯びた海風に目を細めアキラが私を見上げた。
 祖父の冷たく刺すような風に目を細め私を見上げた笑顔と一瞬重なった。
 アキラの戦う事が嫌いなおっとりとした気質は祖父の血からくるものだと、母は嬉しそうによく言っていたことが私の頭をよぎる。

 ともかく、芽吹き初めたばかりの命がここにある。







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Last updated  2004.08.12 10:12:05
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