ココロ ニ アカリ ヲ・・

ココロ ニ アカリ ヲ・・

2004.08.12
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 真っ白な空間にもうずいぶん長い事放り出されていたような気がする。
 その間、誰かが自分の名前を呼んだような気がするけれども、それも定かではない。
 ものすごく頭が痛い。割れそうだ。
 ただ、痛みだけが春奈をこの世の形あるものとしてとどめていた。

 春奈は自分の額を左手で押さえうずくまった。左手にべっとりと脂汗を感じ、嘔吐しそうになる。

 目が覚めるときはいつもそうなのだが、顔が目が口が春奈の思うとおりにならない。
 ああ。夢を見ている。これは夢だ。
 そろそろ起きなくては・・・。

 春奈は顔をゆがめるようにして目をそうっと開けてみた。
 耳元で鍋をガンガン叩かれているような頭痛を感じ、春奈は道ではない赤茶色い煙の中のような空間をよろりと歩き始めた
 ああ、これも夢だ。

 春奈はそう感じ、ふと顔をあげると、そこは教室だった。というか赤茶色い煙の中で、唯一浮かび上がった高校の2年5組の教室。
 春奈はひんやりとした壁に手をあて教室の入り口から、西日のあたる窓際で笑う男の子達をぼんやりと見ている。数人いる男の子の中でたった一人の男の子の笑い声と表情だけがクッキリ浮かび、教室の入り口に立つ春奈を振り返った。
 その男の子と目が合った瞬間、切ないような幸福感が春奈を満たし、頭痛がスウッーとひいていった。
 その男の子はガタリと席を立ち、春奈の立つ入り口に近づいてきた。
 そして春奈の横まで来てピタリと止まると耳元でささやいた。

「好きだよ」

 春奈は一瞬硬直し、その後からだが気体になってしまったかのように自分がなくなってしまった。

「好きだよ」
「好きだよ」
「好きだよ」
 男の子の言葉だけが春奈の頭の中の空間に何度も何度もこだまする。

 私の大好きな男の子。
 しかも私の事を好きだと思ってくれる男の子。
 春奈はたまらず声をあげた。


「カズくん!」

 自分の声で、目を覚ました。


 白い天井、消毒液の匂い。
 なにより体が重くて起きあがれない。

 必死で目だけで周りを見渡すと、見知らぬがっしりとした男が春奈の手を握って春奈の枕元でウトウトと眠っている。 春奈は見知らぬ男が手を握って寝ている事にびっくりして、手を振り払おうともがくと、男はガバッと起き上がり、春奈をじっと見つめたのち、ガバッと春奈をだきしめた。
「きゃーーーーーーーっ」
 恐怖のあまり悲鳴を上げると白衣の女性が2人かけつけてきて、春奈を抱きすくめる見知らぬ男を慰めるように諭しながら追い出してくれた。
 春奈は自分がいるのが病院だという事を推測しながらも何が起こったのかわからず、子供のように泣きじゃくり始めた。
「お母さんは?お母さん・・・・。お母さんは?私なんでこんな所に?」

 何がなんだかわからない。
 お母さん。助けて。

 年配の浅黒いがしかし優しい顔つきをした女性が春奈の母の代わりを努めようかというように、春奈の手や頬を優しく擦り始めた。
「大丈夫ですよ~。お母さん呼びましたからね。目を覚ましたと聞いたらお喜びになりますよー。もう大丈夫安心してくださいね~。」
 歌うように優しく話しかけてくれた後、点滴を入れられた。
 春奈は体中の痛みがひいていき、また意識が遠のいていくのを感じた。

 ともかく眠ろう。
 お母さんが来るまで・・・・。
 何が起こったのかはよくわからないけれど、お母さんが来てくれたらきっと大丈夫。

 お母さん・・・。






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Last updated  2004.08.13 18:06:22
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