あたしはあたしの道をいく

2006.06.28
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カテゴリ: 拙文であそぼ
指輪の色が褪せてきた、とカヨコは左手の薬指に目をとめた。

当初の輝きを失ってかえってわが意をえたというようにそこにある。

初めの頃は何をするにも指輪の存在が気になって、
買い物に出かけた先で見ほれた商品の並ぶ陳列棚よりも
伸ばしたその手に光る銀色の光に目を奪われて、
目指す商品がなんだったのか忘れて考えて込んだものだ。

それが、5年の間に陳列棚に伸ばす手の先からはマニキュアが消え、
指輪は小さな擦過傷のようなものがたくさん出来て光を失い、


カヨコは新しく買ってきた華奢なグラスを洗いながら、
商品を陳列棚から取るとき、指輪になんの興味も惹かなかったことに気付いた。
左薬指に光る銀色の輪は、既にカヨコの肉体の一部になっていて、
右手になんの装飾も無いのが全く違和感を覚えさせないのと同様、
左薬指を終の棲家と定めたようにゆったりと腰を据えている。

カヨコはこの指輪の輝きに伴って色彩を失っていった結婚生活を思った。

初めは何もかもが目新しく輝いて見え、同時にとても不慣れで小さな衝突を繰り返した。
靴の脱ぎ方、箸の上げ下げのような細かいことまでが異文化との遭遇で、
痴話ゲンカとしか言えない小競り合いを繰り返しながら妥協点を探った。
今は……小競り合いを必要とするようなものもない変わりに、刺激も減ってしまった。
あるものは惰性のような、日常。


結婚指輪を右手の指でくるくると回す。
こんな華奢で細い輪のくせに、それで覆われた部分が蒸れるのだ。
気付いたときには、何か考え込むときなどに必ず指輪を触る癖が付いていた。

指輪をはずして内側を見る。
本人たちにしか識別できないほど小さく、結婚記念日とAtoKという文字が刻まれている。

カヨコが初めて手にしたときの輝きを維持している。
カヨコは、新婚当初と5年後がこの指輪に象徴されている気がした。

どだい、結婚指輪というものは理不尽なのだ。
たかだか3万だかそこいらの飾り気の無い銀色の輪。
これが生涯、カヨコの薬指にはまっている。
仮に二十歳で結婚して喜寿まで夫と添い遂げるにしても、
年間にならすと何千円かの買い物に過ぎず、ずいぶん安いものだと思う。
ずっと高価な婚約指輪は年に1度の日の目も見ず、箪笥の奥に眠っているというのに。
婚約指輪と結婚指輪の対比は、「釣った魚にえさをやらない」という言葉を思い浮かばせる。

実際、結婚前と後ではずいぶん愛の言葉が減ったものだ。
以前は熱っぽく語られていた賛辞も、今は稀にさえ聞くことが無い。
装飾品のみならず、言葉というエサさえ結婚後には減ってしまうらしい。

はあ。
とカヨコはまた吐息をついた。
それから、指輪を外して右手薬指に嵌めてみる。
あるはずのものが無い左の薬指にも、
無いはずのものがある右の薬指にも、ひどい違和感。

くすり、と笑う。
なんのかんのと言った所で、今が一番幸せなのだ。
色が褪せようが、傷がつこうが、結婚指輪は左薬指だけのものだ。
それ以外には似合わない。

折からの日光がざるの上のグラスにあたり、キラリとカヨコの目を射た。

そうだ。
買ってきたばかりのグラスで、アイスティーを淹れよう。
それも贅沢に新しい葉で、あたしひとりのために。

ああ、今日はなんていい天気なんだろう。
アイスティーを淹れたら、庭の木陰に腰掛けて飲もう。
きつくなり始めた日差しを受けて、草花はとても映えているだろう。
木陰に座るあたしの横を、風がここちよく吹き抜けていくだろう。

アイスティーを飲み終えたら、夫の好きなビシソワーズを作ろう。
夫が帰ってくることには程よく冷えて、飲み頃になっているだろう。

カヨコは真新しいグラスを一つかごから取り上げ、陽にかざした。

☆end☆

たすく流ビシソワーズもどき(4人分くらい)
材料:じゃがいも大きめ4個くらい。
   玉葱大きめ1個くらい。
   あれば、キャベツの芯、カリフラワー。
   色が付いても構わなければ、ブロッコリの芯、人参。
   コンソメ1個。
   水……テキトウorz
   牛乳1カップくらい。
   塩。コショウ。

皮を剥いたジャガイモを電子レンジ6分。

電子レンジ君が頑張っている間に、玉葱1個、薄切りにしてバターで炒める。
しんなりとしたら、煮るのに必要な最低限くらいの水を加え、コンソメで煮る。

ジャガイモが柔らかくなっているのを確かめて、玉葱の鍋に追加。

キャベツの芯とか、カリフラワーとか、白い野菜があれば、電子レンジで柔らかくなるまでチン。
(色を気にしなければ人参とかブロッコッリーの芯とかもおいしい。
 でも白色じゃなきゃ、ビシソワーズの雰囲気出ないよね)

火を止めて、水を加えて鍋の温度を下げる。
鍋の温度が下がったら、ジューサーで粉砕☆

ジューサーくんの仕事が終わったら、再度火にかける。
(水を足したからちょっと沸騰させたいじゃん?)

火を止めて、牛乳を1カップくらい(かなりテキトウ)加えて、塩コショウで味を調える。
冷蔵庫で冷やして出来上がり☆





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Last updated  2006.06.28 12:28:25
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