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カテゴリ: Book Review
「虐殺器官」(伊藤計劃、ハヤカワ文庫JA)を読む。

伊藤計劃には前から興味があったのだが、漸く読めた。本作を含めアニメ化されたものもあり、確か「ノイタミナ」で放送されていたのもあると記憶しているが、それも録画しただけで結局観ずに消してしまった。勿体無いことをしたものだと本書を読み終えて思った。

第一印象を例えるなら、円城塔は難しい「エヴァ」で、伊藤計劃はそこまでではない「PSYCHO-PASS」かなと感じた。ディストピア的世界観が似ているから、というのもあるが。

さて、この「虐殺器官」であるが、一言で言えば近未来のミリタリー系SFミステリ。主な舞台のアメリカでは、社会の超高度情報化と超管理化が進み、人々は生体内に埋め込まれたIDタグで管理されるも、同じシステムで買い物や交通機関の利用や決済までもが、指紋などの認証ひとつで「ピッ」と済む、便利さと引き換えに息苦しさもある、それでいて安全な社会が構築されている。実際、国内のテロやジェノサイドの発生件数はゼロにまでなっている。

しかし、それと反比例するように発展途上国ではテロや大量殺戮の件数が膨大に膨れ上がっている。その陰にはジョン・ポールなる男の姿が常にある。そこでアメリカは彼の身柄拘束に乗り出す。主人公のシェパード大尉はアメリカ軍の暗殺のプロとしてジョンの追跡の命を受ける。

この時代、世界的にはサラエボが手製核兵器で焦土と化し、インド・パキスタン国境などでも核が実際に使われている。また、戦闘員が殺戮を行う際の良心の呵責や痛覚などの負担を軽減するために、脳の特定のモジュールをマスキングする技術や心理カウンセリングなどが行われたり、戦争そのものを民間にアウトソーシングすることが行われている。「人工筋肉」とは名ばかりの素材を得るためにクジラやイルカを人工的に養殖したりもされている。

そんな世界でジョンを追うシェパードの1人称で描かれている本作は、扱われているテーマが壮大であるにも関わらず読みやすく、実際スラスラ読めた。勿論、難解で理解不能な専門用語もそれこそ戦場の銃弾の如く飛び交うが、だからといって難しくて読めないという感はない。ストーリーの一貫性と明晰性がそれを可能にしているのだが、他にも文学・哲学・宗教・心理学・法学・社会学から理工学・医学・芸術・アニメ・ゲーム…と、ありとあらゆる分野の視点から、「戦争の本質とは何か? 戦争を止めるにはどうしたらよいか?」といった深淵かつ本質的な議論が交わされるという面白さもある。実際、それら様々な分野からの大量の引用が作品世界をよりリアルにしている。というか、これはホントに近い将来起こる話なのだと思った。結末は、意外性と必然性のないまぜみたいな感じだが、私は好きだし、やっぱりそうだよねと思った。ひとつヒントめいたことを書くとすると、タイトルが虐殺「機関」ではなく、何故虐殺「器官」なのか、ということが判ると面白いということだと思う。

まだまだ書き足りないのだが、取り敢えず以下に気にいった箇所を引用させてもらおう。

「理解できない文化は排斥の対象になりやすいのと同じくらい、崇拝や美化の対象になりやすいんだよ。エキゾチック、とか、オリエンタル、とかいう言葉のもつクールさは、理解できない文化的コードから発しているというべきだね」

情報を発信するのは容易だが、注目を集めるのはより難しくなっている。世界は自分の欲する情報にしか興味がなく、それはつまり情報そのものは普通に資本主義の商品にすぎないということだった。

「職業に貴賎なし、と言いますが、同時に思索は職業を選ばないのです」

狂信のかたちは宗派に拠らない。

死者はぼくらを支配する。その経験不可能性によって。

鳥のように自由に、なんていう人もいるが、それこそ鳥は、ほんとうに遺伝子に命令されてひとつしか選べない行動をとっているだけだ。





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Last updated  2019.01.16 05:42:04
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