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マンションのベランダで、バケツに土を入れて彼は大根を育てた。青虫も成長していた。
青虫の1匹目は、抜く前の大根の葉で暖かい日差しを浴びていた。
青虫の2匹目は、抜いた大根を洗った洗面台の底にCの字になっていた。
青虫の3匹目は、大根に残した葉におとなしくしていた。
青虫の4匹目は、大根を抜いた跡のそばにあった石の上に寝そべっていた。
4匹とも柔らかい腹をピンセットで挟まれた瞬間は悪いことをしていたのが見つかったように体をびくっとさせて、彼自体もびくっとして、それでも気持ち悪いのを我慢してマンションの5階から青虫を放り出していった。 空中でくるくると回転して、一階の植え込みの葉に当たってどこかに跳ね飛ばされていった。
ベランダに土がかなりこぼれていたから箒で掃除をしていると、蛾が一匹現れた。こいつが親なのだろうと思った。 ただ、かれこれ青虫をもう10匹以上はピンセットで放り出している。この一匹がすべて産み付けたのだろうか。
昼間で蛾も動揺していたのにちがいない。羽を激しく動かしているのに、同じところをうろうろと飛び回っている。ベランダのコンクリートに叩きつけるように箒でその蛾を打った。姿がなくなり、間違いなく箒が当たったと思った。
ゆっくり箒を持ち上げると、同時に蛾が飛び上がった。もう一度、箒で叩いた。それから、同じようにゆっくりと箒を持ち上げた。またもや、蛾が飛び上がった。
箒の穂先に弾力性があるためだろうと、前よりも力を込めて蛾を叩いた。今度は蛾はひっくりかえってコンクリートの上に横たわった。ただ、よく見るとまだ、足をばたばたさせている。毛むくじゃらの頭が気味が悪かった。彼はもう一度叩いた。
小さな子供のときに昆虫や魚を捕まえること、そして結局は殺してしまう、そんな経験が必要だという。そんな経験がないと大きくなってから生命の大切さが理解できないらしい。
彼が子供のときは、昆虫を捕まえることは残酷だと思った。小川を泳ぐ魚をようやく捕まえても、かわいそうだと思って、必ず逃がしてあげた。
そんな心やさしい少年が成長し、人生の残りも少なくなった。
ベランダにもたれ、眼下の灰色のコンクリートに向かって、「青虫を放り投げるように日常の不愉快な人々を排除できない」と、「蛾に対してのように彼らの頭に何かを叩きつけることができない」と、なんとか正常な道徳感を、倫理観を失わないように彼は青ざめて念仏を唱えるようにつぶやいている。