濫読屋雑記
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みなさま、お久しぶりです。家のゴタゴタと私が今まで通院していた精神内科が突然、診察をやめて店じまいをしてしまって、新しい医者を探して鬱が落ち着くまで時間がかかってしまい、更新が滞ってしまいました。そんなこんなで7月は、仕事から帰ってからは鬱で身体がだるくてやる気がおきず、家のベッドの上でゴロゴロしながら大量の本やマンガを読むともなく、眺めるともなく過ごしていました。幸い、勤め先が高校の学校図書館ですので、仕事へ行けば自動的に好きな、というか気分に合わせた本を手に入れることができるので、その点は楽なのですがね。あと、通勤経路にそこそこ大きな書店があるので、運転で疲れると、なにせ片道1時間半も掛かるのですから、休憩と称して立ち読みして本やマンガを買えるという利点もあり、読書量はこれまでとあまり変わりませんでしたね。ところで、学校は夏休みです。一般人は学校に勤めているから夏休みは楽でいいでしょう、と思われるでしょうが、これが違うのですよね。まず、教員はクラブ活動の監督、夏季講習や補講の担任をしなくてはいけないので、夏休み中も普段と変わらない日常を送っているのです。いや、クラブ関係の先生方は、土日も出て夏季特休や代休も9月に取るというハードな夏休みを過ごしているので、通常より大変かもしれません。一方の私はといいますと、夏休み中は課外や補講の合間に勉強しに来る生徒や、小論文で大学を受ける生徒へのレファレンスなどがあり、忙しい日々を送っています。通常の授業であれば、授業中は生徒が来ないので図書館の中での作業もできるのですが、夏休み中は入れ替わり立ち代り生徒が開館時間から閉館時間までいるので、自分のペースで仕事ができず、苦労しているところです。それに、生徒たちは節電で28度に設定しているエアコンにたいして気温が高い日は「暑い」と文句を言ってくるので、「東北の人のことを考えて我慢しましょう」となだめることもしばしばです。では、愚痴はこのくらいにしておいて本の紹介にいきましょうか。今日は高城高さんの『【送料無料】函館水上警察』(東京創元社、2011年6月)についてツラツラと雑感を書いていきたいと思います。この本は、題名から察せられるとおり、明治時代の北海道函館の水上警察署を舞台にしています。時は、明治24年(1891年)の国際都市、函館。幕末の条約により開港場として発展してきた函館に水上警察署が誕生します(正確には明治18年に発足したものが、一旦函館警察署の分署になってこの年、再び警察署として再発足した)。管轄は沿岸を含む函館港内。水上署の定員は署長・次席のほか署員は14名、船長、水夫らが16名、庶務会計を担当する御用係が1名、使丁2名というこじんまりしたもの。その中でこの本の主人公となるのが、水上署次席の五条文也警部です。この人、水上署発足の時から署長・分署長に下で働き、港湾周辺の人脈や業務に精通していて、町の人たちから名前なしで、「次席さん」と呼ばれるような人です。この主人公、五条警部の経歴がこれまた面白いのです。父親は国際法に通じた学者肌の人で、そのお蔭で外交団の書記官になります。当の本人、五条警部は父親がつけた名前の願いに反して武道に打ち込む青春を送り、北辰一刀流は中目録免許まで進み、起倒流柔術を修めて、父親とは対照的な母親からは小太刀を習うといった調子でした。そんな五条警部が駐米日本公使館にいる父親のもとに渡ったのが明治11年のことです。ところがこの五条警部、地元の大学に馴染めずに飛び出して全米を4年間、気ままに放浪するのです。で、行き着いた先がカリフォルニアのサクラメントで、そこの酒場(サルーンと呼びます。西部劇でお馴染みの撃ち合いが始まる賭博場やらステージ、2階に宿屋などがあの酒場です)の主人、ハンガリー人の亡命貴族であるケルメン・ラズロという人が素手で大男を投げ飛ばす五条警部を目に留めて用心棒として拾ってもらったのです。そして、ケルメン氏から五条警部は2年間、フェンシングを仕込まれます。私は、鉄砲主義者なので剣や刀は門外漢なのですが、物語によりますと五条警部は、慣習剣(フレーレ)から決闘剣(エペ)、そして洋刀(サーベル)を教わったそうです。そして帰国後、相次いで両親を亡くした五条警部は、明治15年12月の太政官達によって巡査の帯刀が認められた際に、巡査に帯剣させるのに必要な日本刀が揃わなかったため、輸入物のサーベルが使用されることになり、警察力で政党運動を封じ込めようとした内務省の思惑に沿う形で再設置された東京警視庁に指導者として迎え入れられます。しかし、五条警部は警視庁での嘱託的な身分に満足できず、函館水上警察署が発足に当たって英語力を求めて招聘したに応じて、北海道へ渡ってきたのです。本書は、そんなサーベルの名手でもある五条警部に率いられた函館水上警察署の面々が、ラッコ密猟船の水夫長の変死や、英国軍艦の水兵失踪などの難事件にたいして、日夜陸と海を駆ける・・・、といったお話です。本の内容は読んでのお楽しみとしていただいて、目次を紹介してみますと『密猟船アークテック号』、『水兵の純情』、『巴港兎会始末』、『スクーネル船上の決闘』と推理物や斬り合い、決闘などの事件が描かれ、そして当時の日本が苦しんだ領事裁判権の問題等が丹念に調べ上げられた時代背景のもと、鮮やかにそして軽快に物語は進みます。読み始めると、池波正太郎などの時代小説を感じさせるところもあるのですが、内容は「海洋冒険小説」であるといって良いでしょう。その点からも、海軍大好き人間の私には新鮮さがあって良かったです。また、巡査のサーベルの使用に関しても、明治16年の巡査帯剣取扱い規則の第4条の説明、「帯剣は護身の用具なるを以てたとえ凶賊逮捕の時といえどもやむを得ぬ場合のほか、みだりに抜剣すべからず」(今の警察官職務執行法と同じですね。殺傷能力のある武器の使用方法は。サーベルと拳銃の差はあれども。)など当時の警察事情が丹念に描写されていて勉強になります。あと、事件の舞台となるスクーナー船や千石船などの図面が掲載されているところも良かったですね。そして最後に、物語の中に出てくる食べ物や料理の描写が上手いこと。当時の函館では洋食は、ロシア料理が主流だったり、出来たばかりのラムネ屋でラムネをコップに注いで飲むシーンや、開拓使の工場のビールなど。この辺の描写なども池波正太郎の小説を連想させるものかもしれません。あと、番外編的なものとして、若き日の森鴎外の函館訪問譚「坂の上の対話」を併録されていて、これも明治時代の函館の雰囲気が感じられて面白かったです。登場人物にあの有名なアーネスト・サトウが出てきたのには驚きましたが。そんなところで、五条警部をはじめとして魅力的な登場人物が活躍する、明治時代を舞台とした警察小説としても、日本版「海洋冒険小説」としても、ライトなミステリー小説としてもおススメな一作でした。あと余談ですが、ピストルで決闘する場合は、刀剣を持った相手とは至近距離でやりあわない方が良いことが確認できましたね。私が米国で射撃の練習をした時も、指導者だった海兵隊の退役軍曹さんから銃器を使用する場合は、相手から最低15mは離れること、それ以下の距離だったら刃物の場合の方が有利になる事がある、と教えてもらいました。なぜなら、銃器は、ホルスターから抜く、構える、撃鉄を起こす、狙う、引き金を引く、と5段階の作業が必要なのに対して、ナイフは抜いてそのままの勢いで急所、首筋の頸動脈を狙えますし、刀やサーベルでしたらナイフよりアウトレンジがありますから、手首や腕、足の指先・膝頭、そして首や顔など急所を突いたり切り裂いたりできます。でもまぁ、日本ではこんな知識は役に立たないでしょうし、役立つような状況になっては困りますしね。蛇足でした。
2011年08月04日
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