濫読屋雑記

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2006年06月26日
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カテゴリ: 手に取った本
先週後半は、 激務と夏風邪による体調不良により 家に帰ってからは、 食事をして風呂に入って寝るだけ、という生活 をしていたのでブログ関係はコメントを書くだけに終わってしまい、 日記記入率が下がってしまいました 。でもまあ、日曜日の夜にしっかりと寝たためか、目の疲れによる肩こり・頭痛対策にサルメチール(臭いがキツイので、風呂上りにしか塗れないのが辛いです)を寝る前に塗ったのが良かったのか、 今日は調子が良いので久方振りの更新と相成ったわけです

という次第で、今日は 前から延び延びになっている機関銃話にするか 、アニメ化進行中の『 少年陰陽師 』シリーズにしようか、はたまた今月号の『 コバルト 』の巻頭を飾った『 風の王国 愛知地球博 関連のネタで(ニュースで「」についてやっていたのでね)、エルジェ著、川口恵子訳『 タンタンソビエトへ 』(福音館書店、2005年9月)を取り上げてみます。

タンタンソビエトへ

この本、 実はどこの図書館へ行っても児童書の、しかも場合によっては絵本コーナーに置かれていることがあるのですが、それは間違いだと思います 。この『 タンタンソビエトへ 』は『 タンタンの冒険旅行 』シリーズの最新刊なのですが、私が「 過激! 」と表現したように 絵はノホホンとしているのですが、中身はかなり濃く (後で説明しますが、GRUやらチェキストが登場します。知っている人はコレだけでウワァーッ、と思われるでしょう)、シリーズの他の本はともかく、 配置でいくと児童書のEや9分類ではなく、一応コミックなので7分類あたりが妥当だと思われるような内容です

さて、そんな本と 愛地球博 エルジェ 、本名 ジョルジュ・レミ (1907-1983)の紹介から。彼は、 ベルギー出身の作家 で「 ヨーロッパ・コミックの父 」と呼ばれるほどの 欧米の各ジャンルのアーティストに影響を与えた人物です 。その中には、映画監督の ジョージ・ルーカス インディ・ジョーンズはタンタンの冒険物語をコンセプトにしている 」と云わしめるほどの インパクトのある作品を創り出したベルギーが世界に誇るアーティストです 。そんな理由で、 愛地球博 ベルギー館 にはベルギーの風景を描いたよくわからない、綺麗だなーと言う位の印象しかないパノラマや絵画の他に、ベルギーご自慢のビールが飲めるレストラン(人が多くて、ビールの1杯も飲めなかった・・・)と、 タンタンのグッズを扱う専門店が併設されていたのす (でも、グッズの値段が高くて、何も買いませんでしたがね)。そんな、 ベルギーどころかヨーロッパの誇るアーティスト (コミックを描いているのでマンガ家でもよさそうなのですが、なんだか違和感があるので) エルジェ が描いた『 タンタンの冒険旅行 』シリーズの第1作がこの『 タンタンソビエトへ 』なのです。

この『 タンタンソビエトへ 』は、長らく本国でも「 幻の作品 」とされ、初版以来長らく絶版状態でした。これは、著者 エルジェ 氏の意向、他の『 タンタンの冒険旅行 』シリーズが 主人公であるルポライター、 タンタン の訪れる国について、政治や歴史・風土や文化等を綿密に資料を調査して、正確に描写したのに対して 、処女作である『 タンタンソビエトへ 』は、連載された雑誌『 プチ20世紀 』が 保守を地盤とするカトリック系の政党が主催する新聞であったこと。次に、資料として渡されたのが『 ヴェールをはがされたモスクワ 』というロシアに領事として赴任にしていたベルギー人が書いた共産主義を危険視し、警戒感を煽り立てるような内容の本、1冊だけしか使わなかったことの2点により 、他の『 タンタンの冒険旅行 』シリーズとは異なる作品、つまり エルジェ 本人とっては「 若気のいたり 」で 描いた納得のいかない作品であった訳でして、1930年の初版以降、1981年まで再版されなかったのです

このように作者、 エルジェ が反省するような内容だったこの作品。ですがこの時代、 第1次世界大戦と第2次世界大戦の間、1920~1930年代の「 戦間期 」は第1次世界大戦の余波が色濃く残り、 ロシア革命により社会主義国家 ソビエト (ソ連です)が誕生して、欧州各国は共産主義革命の影響に戦々恐々としていた時代でした (日本も同様でした)。しかし一方では、 ヨーロッパの著名な知識人たちは平等な社会を建設するという「ユートピア」的社会の実現を目指すソビエトに憧れ、活発な協賛活動を行っていました 。作中にも、ソ連共産主義の素晴らしさを見せつけられているイギリスのコミュニストたちのご一行が登場します。最も、その理想は スターリン による ボリシャビキ(共産党)政権がロシアの全てを支配するという非民主主義的な国家への形成で裏切られるのですがね 。その共産党一党独裁の尖兵となったのが 悪名高き秘密警察・GRU (ゲーペーウー)後のKGBで、この『 タンタンソビエトへ 』の中でも、 革命以降、一種の鎖国状態となっていて、ヨーロッパの人々に「謎の国」となっていたソビエトの悲惨な実情を記事にしようとしたタンタンを、執拗に追い掛け回して始末しようとしています

また、この本では ソビエト だけではなく、ベルギーからロシアに向かう通過国の ドイツ についても描かれていて、 これも前半部分はかなり印象が悪い、タンタンがボリシャビキの過激派よる爆弾テロの容疑者に勘違いされて、ドイツ警察に捕まり脱走して追いかけられる、という内容となっています 。これは、 第1次世界大戦中にベルギーがドイツに占領されていた事による影響でしょう

最後に、この『 タンタンソビエトへ 』の「 訳者あとがき 」から 私が前々から思っていた事を端的に解説してある一文を紹介したいと思います

(前略) しかし彼 (エルジェ) は、天性のジャーナリスト的直感によって、コミュニズムとファシズムにはよく似たところがあることを見ぬいていました。それは「個の否定」ということです。コミュニズムにとってもファシズムにとっても、ひとりひとりの個人はまったく意味をもたず、全体に従属するために否定されねばならない存在でした

この文章、「 個の否定 」という意味では、 われわれ日本人にとっても耳が痛いお話ではないでしょうか?

そんなこんなで、 歴史が好きな人にはヨーロッパの同時代人の目から見たソビエトの姿を知るユーモラスな作品としておススメする一品です 。ただし、唯物史観万歳!という方は見ない方が良いかと・・・。まぁ、今時共産主義を盲目的に信奉する人なんていないでしょうがね。あと、他の『 タンタンの冒険旅行 』シリーズとは異なり、 この作品は全篇モノクロで絵の印象もずいぶん違うので注意してくださいね





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最終更新日  2006年06月27日 01時31分37秒 コメント(7) | コメントを書く


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