ケイト・ぺニントン 著、 柳井薫 訳『 【送料無料】エリザベス女王のお針子 裏切りの麗しきマント 』(徳間書店、2011年8月)を紹介してみようと思います。 しかし、どーも図書館に勤めていると読みたい本が配架されたのに利用者が優先なので、一月から二月ぐらい待たないと自分が読めないというのはつらいところです。
このお話の舞台は、16世紀、 エリザベス一世 が君臨していたイングランドが舞台です。このエリザベス女王統治初期から中期にかけてのイングランドは、政治的に不安定な状態でした。なぜならこの時代、イングランドはイギリス国教会とカトリックの間で政治的紛争が絶えなかったからです。エリザベス女王の前の女王、姉でもある メアリ一世 はガチガチのカトリック教徒でイギリス国教会を含むプロテスタントを弾圧、「 血まみれメアリー 」と国民からおそれられる存在でした。また、スペインのフェリペ皇子と結婚して、これがさらにイングランド国民から人気を失墜させる原因ともなりました。そのメアリーが死去したのちに王座に就いたのが姉から宗教反乱に加担したとしてロンドン塔に幽閉されたこともあるエリザベスです。王位についたのちエリザベスは姉のプロテスタント弾圧を緩め、異端排斥法を廃止、と同時に国教忌避または不参加、不使用への罰則を緩やかなものとして、両者の緊張の緩和を図ります。しかし国内には急進的なカトリック教徒が多数存在し、エリザベスは何度も暗殺などの陰謀に遭うことになります。 この本は、そうしたエリザベス女王の治世下の時代背景を巧みに取り入れて物語を展開していきます 。
この本の主人公は、 メアリー・デヴェロー という十三歳の 仕立て職人の娘 です。メアリーは刺繍が得意なお針子さんです。花や鳥など、自然の美しさを布に刺していくメアリーの腕は、かなりのものでした。メアリーは父親と一緒にデボン州にあるシドニー卿のサルタリー・ホールという館で働いていました。そこへある日、シドニー卿の姉の息子である冒険家の ウォルター・ローリー が訪れます・彼は、シドニー卿の妻子がエリザベス女王を訪問するのに同行しようとやってきたのです。
ここで、 ウォルター・ローリー について簡単に解説しますと、彼はエリザベス朝において一流の詩人のひとりであり、旅行・探検・植民目的での新世界、アメリカ大陸への航海を行った冒険者・航海者でもありました。また、エリザベス女王の寵愛を受け、一時愛人との噂が立ったほどの人物でした。
この本の中ではローリーはエリザベス女王の寵愛を失い、再び宮廷に返り咲こうとして叔父のシドニー卿の妻子が宮廷に参上する機会を利用しようとやってきたことになっています。 最近の映画等でも分るように、男も女も豪華な衣装が好まれたエリザベス女王の時代、人々が目を見張るような豪華な衣装をまとうい宮廷に参上することは特別な意味がありました。 つまり一度は落ちぶれたローリーが、起死回生のチャンスとして女王に謁見するためメアリー親子の手技が必要となったわけです 。しかしその結果、 ただの仕立て職人であるメアリーの父親やお針子のメアリーが大きな歴史のうねりの渦中に放り込まれて行ってしまうことになります 。それは、 ある夜にメアリーがカトリック派の数人の男が、エリザベス女王の暗殺を計画している話を偶然聞いてしまし、さらにそこに来合わせたメアリーの父親が殺されてしまうのを目撃してしまったことによります 。 このような物語の過程を、カトリックとイングランド国教会との対立、新世界への植民地活動に代表される大航海時代を背景に描いている事が本書の特徴の一つですね。
話を本文に戻しますと、 こうして天涯孤独となってしまったメアリーは、エリザベス女王の暗殺の陰謀を知る人間として、極普通のお針子にとってはあり得ない世界に放りこまれてしまって途方に暮れることになります 。 そこでメアリーは生き抜くための手段として、父と共に養ったお針子としての才能を発揮し、その手によって生み出されたローリーの華麗なマントはメアリーをエリザベス女王の宮廷に導くことになりますが、女王暗殺という陰謀の存在を告げようにも女王の周囲には敵か味方か分らない人物ばかりで、さらにこの小さなお針子の身にも暗殺者の影が迫りまるといったスリリングな展開となっていきます 。
この本では、 エリザベス女王を恐ろしくも優しい孤独な人物として描いています 。また、 登場人物たちが最後の瞬間まで敵味方のどちらになるか分らないという様子が描かれるのは、女王と言えども死と隣り合わせだったという時代を実感させてくれてます 。少々ネタバレになりますが、ただの仕立て職人やお針子かと思えば実は名の知れた家柄の末裔だったという結末は イングランド、今のグレート・ブリテン(イギリス)の歴史も感じさせてくれて楽しめます 。 裁縫の才を持つ普通の少女と、国の頂点に立つ女王を結びつけるお針子という存在に着目し、細々とした職人の日常と王宮でのドラマチックな出来事を上手く取り込んで描いたロマンティックでスリリングな作品言えるでしょう 。
さて、私がこの本の中で印象に残る場面を一つ上げるとしたら、 メアリーがその刺繍の腕をかけて作り上げたローリーのエリザベス女王に謁見する際に纏うマントが、しかも寝る間も惜しんで縫ったそのマントが、ローリーの手でエリザベス女王の足元の水溜りを覆った場面ですね 。私も司書という一種の専門職、まぁ職人みたいな仕事についているわけでして、それなりに自分の仕事に誇りを持っています。 その仕立て職人であるメアリーの生涯最高の作品であるマントが、メアリーの夢であったものが、踏みにじられ、泥にまみれた瞬間のメアリーの胸の張り裂けそうな心情はいかばかりであったでしょうか 。その先の描写とお話の展開、メアリーがエリザベス女王に直接仕えることになることは、この本を読んでみてください。
このようにこの物語は、 プロテスタントとカトリック派の勢力が水面下でせめぎあう時代、女王暗殺の陰謀を知り、女王を救おうと奔走するお針子の少女を描くいた、実在の人物を巧みに配したYA向け歴史小説としてもお薦めの物語です 。
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