サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.02.27
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カテゴリ: 文学
 さてそろそろ、この「葵」の帖で再び登場した六条御息所(の物の怪)を、どう着地させるか、ということになってきたのですが、世阿弥の謡曲などを補助線にして、今段階の印象を言うとするならば、六条御息所(の物の怪)というのは、光源氏と対峙する 女性なるものが本質的に具有する自然性 を、暗示するために置かれた一種の霊媒(自然性と人を結ぶもの)のような気がするのです。彼女(の物の怪)が、後に死霊となってからも、光源氏の前だけに顕現して、他の人の前には姿を現さないというのは、もちろん彼が光り輝く貴公子=選ばれた人であるからでした。繰り返しますが彼が死んで後、こうした超常現象的な記述は、この物語には出てこないのです。
 しかし― 、という反論があるかもしれません。後に死霊となって紫の上や女三の宮に取り憑き、おおいに苦しめたときは、周りの女房たちも僧侶たちも、それが御息所の物の怪だと認識していたのではないか、と。
 これに対する反論は、実はわりあい簡単に出来るような気がしています。この物の怪が何であるかを喧伝して周ったのは、他ならぬ光源氏本人だっただろう、ということです。御息所が死亡してのち、彼女の(荒ぶる)御魂を鎮めるのに、源氏が意を尽くしたのは言うを待たないところで、当然その中には僧侶に対して、口固めすべき重大な彼女の秘密を語るという場面もあったでしょう。
 ところが、この僧侶というのが、わりあい口が軽い、というのは、この物語の後半でも出てきますが、紫式部のそうした当時の僧侶や祈祷仏教に対する距離というのが、何となく推し量られておもしろい(寂聴さんゴメンナサイ)。しかしこれはずうっと先の話。
 さて、このあたりがどうやら、この帖に描かれた御息所という、紫式部が投げてきた豪速球に対して、私が打ち返せるすべてのようで、ちょっとしんどかったですね。

「葵」の帖、終盤で葵の上が死亡する直前、彼女が源氏に向ける眼は哀切を極めます。

― (源氏が)「院などに参りて、いと疾うまかでなん。…」
など、きこえおき給ひて、いと清げに、うちさうぞきて、いで給ふを、 常よりも目をとゞめて
 「院などへ参上して、すぐに退出して来ましょう。…」
などと(源氏が)仰せ置きになって、大そう爽やかに装束を整えてお出ましになるのを、女君は いつもよりは眼をとめて見送りながら 寝んでいらっしゃる。 (円地文子訳、新潮文庫、下線筆者)

 それまで、沈黙させていた葵の上の、最後に記された仕草が、おおいに彼女の意志を含んだものに描かれているので、上のような長い議論をすることになってしまいました。この一見感傷的な一行があることで、あるいは末摘花にみられたような作者の冷淡さが、葵の上にかんしては(その不幸な人生のわりに)感じられず、ちょっと救われた感じがあったのでした。

 ここでのこういう話は、ある程度予想していたとはいえ、それこそ糸が切れたタコのように、どこまでも飛翔していきかねないということが、今回書いていてよく分かりました。いずれにしても御息所とは、つづく「賢木」の帖でも、いきなり付き合わなければならないし、あわてて結論めいた話をするのは、だいいちMottainai!
 それとこの話にあまり深入りすると、「源氏物語」本来の姿を歪んだ印象(イヤにSpiritualな感じになるのは業腹です)にしかねないところがあるのです。物語はまだまだ長い、そして私たちと紫式部とのキャッチボールもまだまだ続くのです。
 それにしても、ここ最近の話はちょっと疲れた感があって、おおいに気分を変えたい欲求がありますね。
 というわけで、ここでいったんひと休みして、しばらくして「源氏1000年」のシリーズは、再開ということにしたいと思います。それが明日になるか、一カ月先になるか、一年後か(そんなにかかりません)分かりませんが、いずれにしても再開するときは、今回のように初見の印象というわけにはいかないでしょう。

― 「源氏1000年」第一部 おわり ―





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Last updated  2009.02.27 15:58:36コメント(0) | コメントを書く


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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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