サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.04.20
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カテゴリ: 文学
 ところで、紫式部はおそらく、「葵」「賢木」の帖あたりで、登場人物が自由に呼吸し動き出すという、長編ロマンの気息というか、霊感を感じ取ったのではないかと私は思うのですが、人物を自由に呼吸させながら、なおかつさらに大きな物語世界を、意識して操ってみようという考えに到るには、まだまだ長い旅が必要なのでした。
 というのも、おそらく当初の構想では、夢の王朝物語として、光り輝く皇子とお姫様が試練に会いつつも、夢の御殿をこの世に実現するという、神話を下敷きにした昔物語風の筋書きが、明らかに見て取れるのですが、実際に書き進めるうちに、その枠に収まりきれない欲求が、出てきたのではないかということです。

 その第一の分岐点が、どうも「賢木」と「須磨」以下の帖の間にあるように、私には思われるのですが、なぜかその間に、今の文庫本なら5、6ページ足らずの「花散里」という帖が挟み込まれています。何やら政治的陰謀めいた動きがありそうな気配で終わった「賢木」の後にくる、この帖にはまるっきりそうした緊張感はなく、例の女遍歴の、新たな挿話にしか見えないので、はなはだ弛緩した印象を与えます。
 私は初めてこのくだりを読んだとき、なぜこんな話がここになければならないのか、理解に苦しんだものです。話というより、ほとんどスケッチに近いような中味で、あとあと花散里の君が六条院の夢御殿で、結構重要な役割を果たすとはいえ、何もわざわざここで登場させる必要はないんじゃないの、という印象は今も変わっていません。
 それをことさらに入れたというのには、何か予定変更めいた事柄があったのかどうか。
 一つには彼女がいつもやる急―緩―急のバランスを取ったのではないか、という見かた。しかしここでの緩みかたは、その間源氏に起こっている境遇の変化との落差が大きすぎて、不自然すぎます(次の「須磨」の帖では、すでに彼は官位を剥奪されているのです)。
 もう一つは、当初構想にあった花散里の役柄を、何らかの事情で変更する必要が生じたのか?その後の花散里というのは、はなはだ影は薄いながらも、さながら光源氏の「よろず便利屋さん」のような役回りで、あまり映える位置づけではない(げんに息子の夕霧が、彼女を見てビックリしている)のですが、結構それなりの存在感はあるのです。

 これはまたまた私の妄想ですが、紫式部はこの役を、もともと朝顔の君で予定していたのではないか、と疑っています。彼女もまた、この物語では初めのほうから登場しながら、存在感の薄い人で、後に独立した帖で語られてもその印象は変わらない。げんに語られる花散里のような役をやって、ようやくバランスが取れるような気もするのですが、もちろんこれは完全な空想です。この空想にさらに尾ヒレを付け加えるとすれば、紫式部を取り囲む女房社会の中に何らかの変化があって、急きょ登場人物の変更を迫られたのではないか、とも思えてくるのです。それを裏付けるためには、朝顔の君と花散里のモデル探しをしなければならないのですが、もちろん私にはそんなヒマはありません。この「花散里」の帖を取り扱いかねて、あらでもの話をしてしまいました。

― つづく ―





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Last updated  2009.04.20 14:52:35
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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