サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.05.13
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カテゴリ: 文学
 この故桐壺院の霊験は強力で、夢で故院と目を合わせたと思った朱雀帝は眼が悪くなり、例の口さがない母大后は体調を崩し、はては俗世を牛耳っていた祖父の右大臣が亡くなるに及んで、帝は早急に光源氏を流遇先から呼び戻し、復位させようと考えます。
 もともと「なよびか」に過ぎ、大后や右大臣に遠慮して、何かと意のままならなかった朱雀帝ですが、ここでおそらく生まれて初めて自ら決断を下します。まあ、もともと彼と源氏は腹違いとはいえ、故院の兄と弟の関係であって、むしろその気質の違いから、個人的には気が合っていたような節がありましたね(後々、感情的には少し微妙なことになるのですが)。

 年が明けて七月二十日過ぎに、帝より帰京の宣旨が下り、源氏の一行は喜びに包まれるわけですが、微妙なのは明石入道の一家です。入道の「頑ななる志」によって、ようやく光源氏と明石の君は契りを結んだとはいえ、何しろ身分の上では受領風情と天上人の差ですから(かつての空蝉の立場と同様ですね)、奥さんや娘本人があれこれ気を揉むのは当然の成り行きでした。で、これまたタイミングというか、よくある話ですが、明石の君はどうやら懐妊した気配である。
 やむごとなきお方の落し胤を残して、このまま一家は明石に捨て置かれるのか、もちろん源氏は「心配するな」とは言うけれども、しょせん別れの「あいさつ代わり」と取れなくもない、というわけで、このあたり入道本人も自信はないわけです。娘が打ち萎れているのを見て、

― 母君も、なぐさめわびて、
 「何に、かく心づくしなる事を、思ひそめけむ。すべて、ひがひがしき人に従ひにたる、心のおこたりぞ」
 といふ。
 「あなかまや。思し捨つまじき事も、ものし給ふめれば、さりとも、おぼす所あらむ。おもひ慰めて、御湯などをだに参れ。あな、ゆゝしや」
 とて、片隅によりゐたり。 ― 同上


「どうして、こんなしんどい事を、思いついたのでしょう。それもこれも全部、この偏屈な人の言う事を聞いたからで、これは私の心の油断でしたわ」
と言う。
「やい、うるさい。思い捨てになるはずのないこと(懐妊)も、ご承知なのだから、帰京されても、しかるべきお考えがおありだろう。気持ちを引き立てて、お薬などを飲ませて上げなさい。あ~ぁ、ろくでもないことを」
と言って、隅に引きこもっている。

 と、意気まいてみたものの、内心の不安は隠しようもなくて、

― 乳母、母君など、ひがめる心を言ひ合はせつゝ、
 「「いつしか、いかで、思ふさまにて見たてまつらむ」と、年月を頼み過ぐし、今や、「思ひかなふ」とこそ、たのみ聞こえつれ」「心ぐるしき事をも、もののはじめに見るかな」と、なげくを、みるにも、いとほしければ、いとゞぼけられて、昼は日一日、寝をのみ寝暮らし、夜は、すくよかに起きゐて、「数珠の行方も知らずなりにけり」とて、手をおし摺りて、あふぎ居たり。弟子どもにあはめられて、月夜には出でて、行道するものは、遣水に倒れ入りにけり。由ある岩の片側に、腰もつきそこなひて、病み臥したる程になむ、少し物まぎれける。 ― 同上

 乳母と母君は、入道の依怙地な気性を謗りあって、
「『いつかは、何としても、思いどおりの婿君を拝めるのかしら』と、長年あてにして過ごしてきて、今やっと、『願いがかなった』と、頼もしくも思っていたのに」「気がかりなことに、ご縁のしょっぱなから会ってしまったことで」などと、嘆きあうのを、見ていて、娘があまりに可愛そうに思われたか、入道ははなはだ頭がボケられて、昼は日がな一日寝て暮らし、夜になると、ゴソゴソ起きてきて、「数珠をどこへやったのかも分からなくなった」と、手だけすり合わせて、空を仰いだりしている。弟子たちにもバカにされて、月夜に外に出て、行道(ぎょうどう)していたところが、遣り水に足を踏み外して倒れてしまった。けっこうな形の岩の片側に、腰を衝いて痛めてしまい、病み臥している間くらいは、少しは気が紛れたか。

― つづく ―





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Last updated  2009.05.13 14:25:55
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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