サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.06.06
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カテゴリ: 文学
 さて、尼になった御息所が源氏に語るのは、我が身のことではなく娘斎宮のことでした。彼女もまた藤壺の女院と同様、ある意味不本意ながらも、面倒見の良い光源氏の後見を頼らざるを得ないのです。

― 「心ぼそくてとまり給はむを、必ず、事にふれて、かずまへ聞え給へ。又みゆづる人もなく、たぐひなき御有様になむ。「かひなき身ながらも、今しばし、世の中を思ひのどむるほどは、とざまかうざまに、物を思し知るまで、みたてまつらん」ことこそ、思ひ給へつれ」
とても、消え入りつゝ泣い給ふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 「(この姫宮が)いかにも心許ない状態で後に残られるので、何かにつけて、お世話してあげて下さいまし。他にこれといって後見してくれる人もなく、例のないほどおいたわしい身なのです。『何の取り柄とてない我が身でも、今少し、この世に生き永らえるならば、あれこれ、物心がつくまでは、お世話したい』とだけは、思い申し上げていたのですが」
とおっしゃる声も、消え入るようで弱々しく泣いていらっしゃる。

 源氏は、もとより斎宮の後見を疎かにするつもりはないと、御息所を励ますのですが、そのあと彼女から出た言葉は、彼にとって少し意外なものでした。

― 「いと難き事。まことにうち頼むべきおやなどにて、みゆづる人だに、女親に離れぬるは、いと、あはれなる事にこそ侍るめれ。まして、おもほし人めかさむにつけても、… 人に、心もおかれ給はん。うたてある思ひやりごとなれど、かけて、さやうの、世づいたるすぢに、おぼしよるな。憂き身をつみ侍るにも、女は、思ひのほかにて、もの思ひを添ふるものになん侍りければ、「いかで、さる方をもて離れて、見たてまつらむ」と、思う給ふる」 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 「それがたいへん難しいことなのです。本来頼るべき男親がいて、後の世話を託す場合でさえ、女親がいない場合は、いかにも、あわれなことが多ございます。まして、あなたがいつもの想い人のように(斎宮を)扱ったなら、… 他人に、疎まれることもお出来になるでしょう。言いにくく考えすぎなのかもしれませんが、誓って、そのような、世の色めいた筋の類で、(斎宮に)想い寄らないで下さい。不本意な我が身を振り返ってみましても、女というのは、どうしょうもなく、心悩みを募らせていくものなので、『どうしても、この方だけは(世の好き事とは)分け隔てて、見守り申上げたい』と、私は思っているのです。」

 源氏との激しい愛の交歓から、世に耐え難い浮名を流し、はたまたそれでも感情を抑え切れずに、とうとう心病も発した御息所としては、その張本人である光源氏に対しては、どうしても我が娘には同じ地獄を合わせるな、しかし後見だけはかたがた頼みます、ということでしょう。

 藤壺のときもそうでしたが、源氏にかかわる女性は出家したとたん、わりと彼に対して物事をハッキリ言うみたいで、前にも云いましたが、天下の好き者光源氏といえども、さすがに尼さんには禁忌が働く。女性方はそれを見越して、(この時とばかり)言うべきことをキチンと伝えるという仕儀になります。

― つづく ―





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Last updated  2009.06.06 11:30:29
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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