サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.06.08
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カテゴリ: 文学
 それにしても御息所を描くとき、紫式部の筆致は「賢木」の帖のときもそうでしたが、ずいぶん心を込めているように思える。これはあるいは私の思い込みかもしれませんが、背景の描写がいかにも、という具合に書かれているのです。

― … 外は暗うなり、内は、大殿油(おほとなぶら)ほのかに、物より通りて見ゆるを、「もしもや」と、おぼして、やをら、御几帳のほころびより、見たまへば、心もとなき程の火影に、御ぐしいとをかしげに、花やかにそぎて、よりゐ給へる、絵に描きたらんさまして、いみじうあはれなり。帳の東おもてに添ひ臥し給へるぞ、宮ならむかし。御几帳の、しどけなく引き遣られたるより、御目とゞめて、見透し給へれば、頬杖つきて、「いと物悲し」と、おぼいたるさまなり。はつかなれど、「いと、うつくしげならむ」とみゆ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫()筆者)

 … 外はすでに暗くなって、内からは、大殿油の灯がほのかに、物越しに透けて見えるので、(源氏の君は)「もしかしたら」と、お思いになって、やおら、御几帳の隙間から、内を覗き見なさると、ゆらゆら心許ない灯影に、御髪を美しく、華やかに切り捨てて、脇息に寄りかかっていらっしゃるお姿は、絵に画いたように、たいへん奥ゆかしい。御帳台の東面に添い臥しておられるのが、前の斎宮であろうか。御几帳が無造作に引き放たれている隙間から、お目を止めて、見透うされると、(斎宮は)頬杖をついて、「ひどく物悲しい」と、思っておられる風情である。ほんのわずかの隙間見ではあるが、「どんなにか、美しい姿なのだろう」とご覧になる。

 この時代、女が男に顔や姿を見られるというのは、ほとんど我が身の裸体を見られたのと同然の、恥ずかしさとして捉えられていたようで、それは逆に男=オスからすれば、何としても見てみよう、見てしまいたい、という行動になって現れるのです。
 隙間見、覗き見は男=オスの習性をいたく刺激する振るまいのようで、そうした時、実際より?際限なく膨れ上がっていく想像力の圧力に、男=オスは勝てないようですね(それについては今も同じ)。貴婦人方の顔や姿を、じかに見ることのできなかった彼らは、半ば以上周囲のうわさやゴシップをもとに、想像力で女性を追い求めていたわけで、だからこそ和歌のやりとりに使われる紙や香りや筆跡など、ほとんどFetishismに近いようなこだわりを示すのです。後に登場する柏木や夕霧その他も、想い人を無限の想像力で膨らませて、懸想していた気配がありますね。
 同様に奈良・平安の世では、男から名を聞かれた場合、女が自分の名を明かすときは、すなわちその男と契りを結んだしるし、ということになったようで、やはり一千年前の社会習慣や人の心を、今どきのNet社会で何もかもDiscloseされて、却って周囲に対する想像力が劣化したような時代に、生き生きと想像するのは難しいのかもしれません。

閑話休題 ―
 どちらにしても、隙があれば覗くという、この時代の男=オスのごく標準的な振るまいを、この期に及んでも源氏はしているわけで、そのもたらす結果はやはり御息所の心配するところであったわけです。

― つづく ―





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Last updated  2009.06.08 09:30:36
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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