サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.09.19
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 しかしよく考えてみると、この夕霧に字(あざな)をつける儀式を企画し、臆する博士たちに「なだむることなく、きびしう行へ」と指示したのは他ならぬ源氏であって、並み居る上臈たちに馴れない儀式の相伴をさせたのも彼でしょう。
 このあたり何となく、光源氏の上臈たちに対するスタンスも感じさせるので、学問を軽んじて何の痛痒も感じず、既得権益に浴している上達部、殿上人たちは、彼から見れば文章博士と同様に哂うべき存在なのです。その点では彼は紫式部の思いを体現しているわけで、彼女は光源氏といっしょに「御簾のうちにかくれて」博士たちを笑う上臈たちを哂っているのです。

 紫式部が漢籍に通じていたことは周知の事実で、彼女がそれらを世俗の道具としてではなく(それらはむしろ女には有害とされていました)、いわば純粋な好奇心と楽しみで親しんでいたというのは、かえって漢籍をさまざま目的化せずに読めたということで、その面白味や思想的な奥行きを相当程度つかんでいたのではないか。
 1000年前の日本にとって、大陸とは(今どきの西欧文明と同様の)世界文明そのものであり、しかもそれは大和政権誕生以前から国家としての自意識に、少しずつ目覚めてきた日本にとって、おそらく600年以上お付き合いしてきた文明なのです。我々が西欧文明に親しんで200年に満たないことを考えると、この世界文明の圧倒的な奥行きと幅広さというものが、現状の平安の世で簡単に太刀打ちできるような代物でないことは、聡明な頭をもって漢籍に親しんだ人であれば、すぐ気付いたことでしょう(道真の遣唐使廃止というのは、そういう意味でも文明史的な鎖国ということではなく、ひらたく言えば「費用対効果」の計算から行なわれたのでしょう)。

 そういう彼女から見れば、漢籍のような基本の学問を(今どき英語教育が、ほとんど学習の必須科目であるように)ないがしろにする上臈たちも、古びた権威だけにすがる文章博士(外人に通じない英語をしゃべる英語教師?)と同様に、笑い飛ばすしかないのです。ここのくだりに、そうした皮肉が込められているのに気付いた上達部、殿上人などがはたしていたのかどうか?
 彼女が先に、源氏に夕霧の教育方針について「才を本としてこそ、大和魂(やまとだましひ)の、世に用ゐらるゝ方も、強う侍らめ」と語らせた「大和魂」の意味するところは、皮相な国風に浸っている摂関家の現在では、とてももともと持っている日本人の資質というものは、磨かれない。「和魂洋才」ならぬ「和魂漢才」のススメを示唆しているようにも思えるのですが? ― 思わぬ深読みになってしまいました。

 さてそうして、内心文章博士たちをバカにしているふうな光源氏ですが、表向きはきわめて政治的に振るまって、それまで干されてきた彼らを手厚くもてなす。世俗の世で子孫が繁栄できる体制作りに、手を抜くことはしません。

― うちつゞき、入学といふことを、せさせ給ひ、やがて、この院のうちに、御曹司つくりて、まめやかに、才深き師に、あづけ聞こえ給ひてぞ、学問せさせたてまつり給ひける。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 引き続いて、入学の礼を、おさせになって、そのまま、二条院(源氏の自邸)の内に、御曹司(勉強部屋)を造って、学識深い師に、(夕霧を)預けなさって、(厳しく)学問をおさせになる。






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Last updated  2009.09.19 10:58:10
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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