サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.10.31
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 「玉鬘」の帖は、冒頭次のように始まります。

― 年月隔たりぬれど、あかざりし夕顔を、つゆ忘れ給はず、心々なる人の有様どもを、見給ひ重ぬるにつけても、「あらましかば」と、あはれに、口惜しうのみ、おぼしいづ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 年月を隔ててしまったとはいえ、(源氏の君は)諦め切れない夕顔のことを、ゆめお忘れになることはなく、おのがじし異なった女の人の様子などを、(さまざま)ご覧になるのが重なるに連れ、(むしろ)「(夕顔が)生きていてくれたらな」と、哀れにも、残念にばかり、思い出しておられる。

 もし「源氏物語」が、今ある順番で世に出て来たとするならば、「夕顔」の話ははるか二十年前の出来事で、彼女がとても禍々しい死を遂げたとはいえ、普通の読者ならその後のさまざまな話に紛れて、誰の事だったかすっかり戸惑ってしまうでしょう。しかしこれが、さんざん話してきたようにb系物語として、「槿」の帖のあとに続けて語り始められたとすれば、読者の記憶は混乱することなく、夕顔の娘の話に入って行けるのです。

 はたして続くくだりに、「夕顔」の帖で随身、惟光とともに活躍した夕顔の乳母姉妹、右近の話が出てきます。

― 右近は、なにの人数ならねど、猶、「その形見」と、見給ひて、らうたき者に思したれば、ふる人のかずに、つかうまつり馴れたり。須磨の御移ろひの程に、対のうへの御方に、みな人々、きこえ渡し給ひし折より、そなたにさぶらふ。 ― (山岸徳平校注、岩波文庫)

 右近は、物の数にも入らない身ではあるが、それでも、「その(亡き人の)形見」と、(殿は)お思いになって、目を掛けていらっしゃるので、古参の女房の一人として、すっかりお仕え馴れしている。須磨への流遇の際に、(殿は)対の上(紫の上)の御方に、すべての女房どもを、お預けなさって、(以後、右近は)そちらに伺候していた。

 乳母子というのは、前にも触れたように、主人と乳兄弟姉妹の関係で、同じ乳でいっしょに育てられるせいか、えてして実の兄弟姉妹より心理的な結びつきが強い。実の兄弟姉妹は、血は繋がっているとはいえ、とくに腹違いの場合、当時はそれぞれの母方の家で育てられたので、紐帯よりは競争相手であるという意識が強かったでしょう。惟光も光源氏の乳兄弟なので、通常の主従関係よりはるかに強い紐帯と、主人に対して遠慮のない振るまいがありました。右近も夕顔の死に際して、葬送の途中で身投げしようとするのを、惟光がなだめるというようなシーンがありましたね。
 彼女は長く紫の上に伺候しながら、一連の源氏方の様子を見ているのですが、例の明石の方などについては、私の夕顔の君が生きていたなら、きっと同じように寵愛されただろうなどと、おおいに身びいきな感想も抱いているのです。






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Last updated  2009.10.31 10:27:16
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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