サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2009.10.30
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: 文学
 故あって、しばらく休んでしまいました。
 さて、ここから「玉鬘(たまかづら)十帖」と後世呼ばれるところのスピンアウト(派生)系の物語が始まるのですが、ここは前も触れたように、極盛期を向かえつつある光源氏の様子を、できるだけゆっくりと読者に堪能してもらうために、彼女が考えついたエピソードとも考えられます。

 当初の「桐壺」の帖で高麗の相人が言った「国の親となるべき相ではあるが、最高の地位につくと国が乱れるかもしれない。かといって、国の重鎮として政治を補佐する立場の人か、といえばそうでもない」という謎掛けのような予言に基づいた、a系物語をそのまま続けていくなら、すでに六条院という地上のパンテオンが完成して、この物語は何となく先が見えてきた、という感じがしますね(a系、b系の区分けは、くどいですが、源氏1000年 その二 32.の一覧表を見てください)。
 しかし困ったことに六条院が完成したのが、源氏三十四歳末ごろとすると、彼女がおそらく予定していたであろう、源氏四十歳ごろの准太上天皇(天皇に准ずる位)への昇段にはまだ四~五年の時間があるのです。
 丸谷さんが言われるように、今どきの作家なら、適当に端折って時間の経過を表現する、というのはよくあることですが、大陸風紀伝体を土台に据えた物語である以上、紫式部は律儀に暦年を辿ろうとします。

 彼女が、天下に並びなき皇子の一代記を、昔風の「貴種流離譚」の古物語を下敷きにして、年代記的に語り始め、「槿(あさがお)」の帖まで語り継いできて、彼女の個人的必要から光源氏中心の物語をいったん休止し、あらためて別伝という形で、時系列をさかのぼって「帚木」以下のb系物語を語り始めたのではないか、という話はすでに「『乙女』の前に」で触れました。暦年ごとの事跡は外さない代わり、時系列をいったんさかのぼるという手法を考えついたのです(これは後に「宇治十条」で、もっと洗練されたかたちで出てきますね)。

 その個人的必要というのが、おそらく源氏一人の物語としてこのまま押していくには、残りの数年間にこれ以上の展開や挿話を編み出すのが難しい、つまり話題に倦んできたのではないか、したがって今まで語ろうとして描いてこなかった彼周辺の物語を、今度は「求婚譚」を下敷きにした群像劇として語ろうとした。このa系物語の終盤に時間的空白が生じてくることに、おそらく彼女はかなり以前から気付いていて、それを埋めるために相当用意周到に、「帚木」以下の別伝を構想として準備していた。それが今あるb系物語なのではないか、ということなのです。
 しかし従来言われているように、これらはこれから話する「玉鬘」で、a系の時系列に戻ってくるのではなく、その前の「乙女」の帖で戻ってきたのではないか、というのが前回までの私の妄想でした。
 その根拠もすでに触れたように、

2.b系物語が、多かれ少なかれ内大臣(頭の中将)絡みの話である
3.「乙女」の冒頭が、「槿」の再現部のような繰り返しになっていて、それまで話してきたb系物語が、ここでa系物語と時系列的に接続することを、読者に暗示している
の三点でした。

 もともとの発想が、光源氏が准太上天皇になるまでの四~五年間の挿話として、もくろんでいたあろう「求婚譚」が、その前史を「帚木」や「夕顔」で語るうち、彼女自身が新しい表現の面白味を知って、思いのほかに話が長くなった。その結果、当時の読者に対して「ここから本編の時代に戻りますよ」という予告を入れた、それが「乙女」の帖だと思うのです。a系に出てきた主な人物を、ここにほとんど登場させているのも、おおいに示唆的ですね。
 それで私は何となくa系物語の一本の直線が、いったん時系列的には初めのほうに戻って、別の地点からb系物語が始まり「乙女」の帖が結節点となって、いわばY字状にこれ以降この物語は一本になったように漠然と捉えていたのですが、今回UPするために再読していて、むしろX字状にここで交差して「真木柱」まで、別の話が展開しているように思えてきたのです。

― つづく ―





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Last updated  2009.10.30 09:40:45
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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