サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2013.07.26
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テーマ: 古典の日(312)
カテゴリ: カテゴリ未分類
 そもそも、こんな藤原摂関期の政治社会形態などという、退屈が前提のような調べものをやり出したのには、もちろん懸案の「源氏読み」が前提としてあったわけですが、紫式部が想定した当時の読者が「すでに知っている(共有されている)」知識というのは、今では注釈を見ないとほぼ理解不可能。しかし物語中の注記は、あくまでその中でのみ有効なので、実際はどうであったのかということは、やはり体系だった歴史書を読んでみるしかない。
 で、さまざま手軽に読めそうな入門書に手を出してみたのですが、結論から言うと摂関期といわず平安時代全般の歴史というのは、江戸期より長いにもかかわらず、先に言ったような理由で、必ずしも明確な歴史像がいまだに提示されていないのです。というより、先にあげた日記類の詳細な読み込みが、本格的に始まったの、ここ二十年ほどで、平安期の現代的な歴史像は今まさしく描かれ始めた、という意味で日本歴史のフロンティアなのです(同じような事例は、一時期盛んに行われた壬申期の天武天皇の再評価がありました。戦前は天皇家の継承争いをまともに取り扱うのは、何となく憚られるところがあったのです)。

 「そんなことはないだろう。要は平安期は奈良期の大陸的律令制が次第に崩れて、荘園のような私領が跋扈した政治的には無秩序な時代だったんじゃないか」というのが中学高校で習った日本史の漠然としたイメージですが、これでは何度も言うように摂関期を盛期とした(そしてその後二度と起こらなかった)、文化文運の隆盛は説明が付かないのです。
 文化の興隆というのが政治経済社会全般の安定的な隆盛が前提なのは、江戸時代を見ればわかる。そう言えば江戸期だって、私が子供だったころのイメージでは、士農工商の封建的階層社会が固定化した、前近代的な時代という前提で話されるのが、常識とされていたものですが、今どきそのようにこの時代を捉えている歴史好きの人はまずいないでしょう。明治維新が江戸期の否定という形で、「近代化」という物語を演出したように、敗戦後日本はマルクス的な発達史観に基づいて、江戸期を否定して来たのです。
 今どきこのように楽天的な歴史観を持った人は、よもやいまいと思いますが、それでもややもすると漠然とした発達史観で過去を見てしまうのは、新たな歴史像がまだ明晰なイメージで世の中に提示されていないからです。江戸期に関しては歴史学者文書史家文学者こきまぜて、その膨大な史料をすこぶる魅力的に読み込んできた結果、ようやく世界歴史的にも極めて独自(好いも悪いも含めて)な「秩序社会」を形成してきた時代だったという認識が、ようやくここ最近になって一般に定着したという感じでしょう(しかし、ここには何やら「クールジャパン」に代表されるような、和ものブームの底意が見え隠れしますね)。

 平安時代もまたそうした意味で、江戸期とはもちろん異なった、しかしこれまた極めて独自的な「秩序社会」を形成していたのだろう、というのが私の観測です。平成の現代から判定すれば、もちろん貧しく非合理的でとても納得出来ない(一緒には住めない)としても、それが当時の普通の今だったとするならば、道長の陰陽道や仏事好きというのは、間違いなくそれが当時最新の思想文化の体現者としての示威であったからです。その前提に立たないと摂関期の文化の隆盛は説明できない。道長自身、四男坊であるにも拘らず、三人の兄が流行病(麻疹か?)でバタバタと死亡した結果、ほとんど偶然のようにして摂関家の頂点に立ったのです。当時は皇族貴族と言えども、病、災害その他自然の力は、人間社会を圧倒していたのです。
 そんな今から考えれば、とてもじゃないが落ち着いて沈思に耽ったり、嬉々として遊び(女遊び含む)に興じるどころじゃないだろうという雰囲気の中にあっても、道長を中心にした摂関期の研究本をみればみるほど、彼も含めた当時の貴族たちの教養というのが、おそろしく高かっただろうというのが、だんだん分かってくるのです。それは何も有職故実や漢文の教養に、現代人に比べてはるかに詳しかったということではなしに、それ以前の「知的枠組み」とでも言うべきもの、知識の用い方のようなところ(「知恵」と言っても好い)で、おそらく現代に限らず日本史上でも最も高い水準に達していた時代だったのではないか、という気がするのです。
 紫式部のような才能が出てくるのには、それなりの理解者(あるいは知的枠組みを共有する人々)が周囲に数多くいただろうというのは、「源氏」を読み始めたころからの私の印象で、そういう知的な読者を前提にしないと、たぶんああした物語は生まれないだろうというのが、最初からの私の読みでした。少なくとも道長、実質、行成、公任(きんとう)には、それが彼らの日記や書、詩歌に現れているし、だからこそそれに拮抗し、ついには凌駕し得る女流文学者歌人も現れたわけでしょう。





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Last updated  2013.07.26 10:49:14
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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