サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2016.06.25
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カテゴリ: クラシック
「国民音楽」とは?
武満徹が残したものは 」を覗くと、その影響の大きさが伺えます。日本で意識されている以上に、彼の存在は西欧音楽の世界で大きかったわけで、それは逆に言うと、あちらのクラシック音楽界が今後の純音楽のありようについて、極めて高い危機意識を持っていたことを示しています。

 さはさりながら、じゃあ武満の音楽が私たちの国民音楽として、耳朶にすっかりなじんでいるのかと言えば、もちろんそんなことはない。彼の名を世界に知らしめた「 ノヴェンバー・ステップス 」にしても、あるいは調性音楽に回帰したかにみえる晩年の「ファミリー・ツリー」にしても、例えば「威風堂々」とか「フィンランディア」とか「モルダウ」みたいに国民に愛唱されつつ、国家を越えて世界中で演奏されている曲とはとても言えません。
 と、ここでまた「そりゃあ、国民楽派の時代と今では、状況がまったく違うじゃない」と反論されるのですが、まさしくそのとおりで、武満と言わず優れた純音楽の日本人作曲家たちが輩出しだした20世紀半ばには、とっくに国民楽派的書法は過ぎ去って、むしろそうした国民意識あるいは民族という概念を、根底から問い直さざるを得ない時代だったのです。

 これは何も日本だけの特殊事例ではなくて、二つの世界大戦の惨禍を経た欧州においても同様でした。イタリアのL・ベリオだのハンガリーのG・リゲティ、フランスのO・メシアンといった、現代音楽を代表する人たちの極度に前衛的な書法もまた、国民とか民族固有の歌をはるかに飛び越えて、一直線に世界だの人類だの自然、あるいは神に向ってしまう。
 というわけで、、日本の音楽界がようやく自前のオーケストラを手に入れようとしていたその矢先に、それを用いた「自前の歌を唄う」ことが出来ないという、まことに皮肉な状況になっていたのです。実際には黛敏郎のように、急速に日本の伝統文化に傾いていった作曲家もいましたが、そのかなり保守的な言動とは裏腹に、彼の残した作品が「日本の歌」になることはなかった。まあ彼のように極端なケースは別としても、敗戦後の純音楽の作曲家は多かれ少なかれ「日本人とは何か?」「日本人である自分が、純音楽を作曲することとは何か?」という問いを意識せざるを得なかったはずです。

 ここで大事なことは、敗戦後日本人は作曲家に限らず、「国家を語ること」「民族を語ること」(とはすなわち、自分を語ることに他ならないはずですが)に一種の罪償感というか、心の疚しさを長く持っていた(今でも心の奥深くで、そういう囚われをしている人は多いのではないか?)ということで、「戦争に負けたからこそ、国民を勇気づけるような音楽を書こう」という仕方で、音楽に臨んだ作曲家はもちろん一人もいなかった。ショパンやシベリウスがしたような仕方で、「愛国的」な楽曲を作るには今次大戦における日本の負け方は尋常じゃなかったのです。犯した大罪と蒙った犠牲の大きさは、従来の国家観民族観をすっかり覆し、それをどう腑に落として語って(歌って)いいのか、たぶん誰にも分らなかったのでしょう。
 そうした中にあって、1950年代から急速に前衛音楽のさまざまな書法が、日本の現代音楽家の間で流行したのは大いに納得がいく。どういう書法を取るにせよ、それらもまた国家も国民もすっ飛ばして、一直線に自分と世界を結んでいるように思えたからです(それらが、西欧でどういう歴史的文脈で現れて来たか、ということは一切斟酌せずに)。


 私は高校当時「ノヴェンバー・ステップス」の演奏をテレビで観て衝撃を受け、言わば逆輸入する形で学生時代尺八に凝っていましたが、彼のような仕方で伝統楽器に向き合った曲に出会ったことはありませんでした。

 とはいえ、音楽を通して「国家国民としての意識と、幸福に結合出来る」機会は、現代日本では不可能になってしまったのです。まして標準的な(つまり今どきの日本には、主要都市ならたいていある)オーケストラを用いた現代の「国民音楽」など、ほとんど望むべくもなくなってしまったのではないか?
 と、また難しい話になってしまいましたね。





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Last updated  2016.06.25 23:22:14
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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