サイレン 0
シーサーの微笑み 0
スク水シーサー 0
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=楽しい朝食♪= 無視されふて腐れた松島さんは、キッチンに向かい、冷蔵庫な中の食べ物を漁った。 松島さんは「ハムしかねえ。」 と言った。 そして、そのハムをナイフで手際よく切ると、フライパンで焼いた。船の中にハムの焼けた香ばしい匂いが立ち込めた。すると、リビングにいた4人の視線が一斉にキッチンに向かった。 詩織は「私達のもある?。」 と聞いた。 松島さんは「どうだろ?お前の態度しだいだな。無視してすいませんでした。と謝れば無い事も無い。これは連帯責任だ。お前が謝らない限り、こいつらのも無い。」 と詩織に言った。 プライドが空高くにある詩織さんが、普段ケダモノと罵ってる松島さんに、そう簡単に謝るはずは無かった。詩織は「そんなやり方気に入らない・・・。」 と呟いた。 ハムはその香ばしさから、上質な物である事は涼子にすら解った。 松島さんは4人を前に、テーブルで、香ばしく焼けたハムを美味しそうに食べ始めた。松島さんは「熱くて美味しい内に謝ったほうがいいぜ。」 と言った。 涼子が詩織を見ると、あの誇り高い詩織が、物欲しそうにハムを眺めていた。「こんな詩織さん見たくなかった。」と涼子は思った。 そして、誇り高いはずの詩織は「無視して、すいませんでした。ハム、食べさせてください。」 と頭を下げた。「ウワ!。」と涼子は心の中で叫んだ。 松島さんは勝ち誇った至福の表情を浮かべた。そして「そんなに食べたいなら、食べさせてやるよ。」 と言った。 そして、5人で焼きたての香ばしいハムを、召し上がった。 焼きたで香ばしい香りの、ハムのステーキ♪街のレストランで食べる普通のステーキなんかより、格段に美味しかった。 その証拠に、五人の表情は笑顔に満ちていた。 最初に食べ終わったのは詩織だった。詩織は「美味しかった。」 と言った。 そして、詩織はふと立ち上がったと思うと、松島さんの頭部にハイキックを直撃させ「人を食べ物で釣ろうなど、卑怯者!。」 と松島さんを罵った。 松島さんの表情から、至福の表情はあっという間に消えた。 ほんの20分にも満たない時間の出来事だった。 つづく
Feb 10, 2007
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=良く出来た、おもちゃの様に= 松島さんは深いため息をついた。そして、「解った。それじゃあ、涼子ちゃんの護衛の数を揃えよう。連中も何十人で押しかければ、さすがにやばいことは出来ないだろ。何してる高梨、さっさと招集かけろ!。」 と高梨に命じた。高梨は素早く「はい。」 と言って携帯を取り出した。涼子は「高梨くん、待って。私、1人で行くつもり。」 と言った。松島さんは「はっ?。」 と驚いた。 詩織と高梨と長老の視線も、涼子に集まった。 涼子は「今にも死にそうな人の所に、大勢で押しかけたら迷惑だし、礼儀に欠ける。それに私がびびってるから、大勢で押しかけたと思われるのは嫌。」 と言った。 涼子の発言に、松島さんは失笑した。詩織は「そこ、笑わない。」 と松島さんに言った。松島さんは「だって・・・あんな連中に対して礼儀って。襲って来た連中だぜ。」 と言いながら失笑を続けた。 詩織が松島さんのおでこを「パチン」と叩くと、よく出来たおもちゃの様に、松島さんの失笑が止まった。 詩織は「あの人たちは、すでに権力の座から滑り落ちた人たちよ。人を殺して平然としていられる状態じゃないはず。」 と分析した。松島さんは「言っただろ! 夜、奴らを俺を殺す気で襲って来たって。奴らは今でも平然と人を殺すさ。」 と言った。詩織は「あんたは、ケダモノでしょう。ケダモノと人を殺すのとは訳が違う。」 と言った。 松島さんは「この女、人をケダモノ扱いしやがって!。」 と言った。 詩織は松島さんを無視して「権力の座から滑り落ちた、いわば敗軍の将だからこそ、礼儀を尽くすべきでしょう。私は涼子ちゃんの考え、嫌いじゃない。」 と言って、涼子・高梨・長老の順に視線を送った。長老は詩織の視線に答えて「いいんじゃない。」と言った。 詩織は「それで、いつ行くの?。」 と涼子に聞いた。涼子は「出来るだけ早くがいい・・・今すぐにでも。」 と言った。 つづく良かったら押してね。
Feb 9, 2007
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=8ヶ月の延滞料金= 松島さんは「それで、その薬は何?。」 と聞いた。詩織は「良次のお得意様だった人の薬。この薬が無いといつ死んでもおかしくは無い状態らしい。まあ、飲んでもそう長くは生きられないらしいけど、その人、8ヶ月後に生まれるお孫さんの顔を死ぬ前に、どうしても見たいらしいの。」 と言った。松島さんは壷を見ながら「その薬でいつ死んでもおかしくない奴が、8ヶ月も生き延びられるのか?。」 と聞いた。詩織は「そう。それも、寝たきりで管まみれにならずに、意識を正常に維持したままで8ヶ月以上。飲んでみる?。松島さんが飲んだら、なんか凄い事が起きそう・・・。」 と楽しそうに言った。松島さんは「遠慮しとく。」 と言った。詩織は「ちなみに、この壷の薬の代金だけでマンション一棟、簡単に建つ。」 と言った。高梨は「マンション一棟・・・確か10億円以上。」 と言った。涼子は目の前の壷を前にして「10億円!ホントに?。」 と言って驚きながら詩織を見た。 詩織は「ほんの冗談よ。」 と言った。 涼子は止まった。 詩織は「私も、正確な額までは知らない。」 と言った。 松島さんは、止まったままの涼子を見ながら「それで、連中はその薬が欲しくて、良次と一緒にいた涼子ちゃんを襲った。って訳か。」 と言った。詩織は「純粋に裏切り者の良次を捕まえたいって言うのも、在るんでしょうけど、本来の目的はこの薬ね。」 と言った。松島さんは「それで、これからどうする気。この薬を持って逃げ回るのか?。」 と聞いた。詩織は「涼子ちゃんがこの薬を、良次の元お得意様に、届けたいんだって。穏便な形で。」 と言った。松島さんは「なぜ?」 と聞いた。涼子は「だって、恩義がある人が、ただ、孫の顔が見たいって言ってるだけなのに、見捨てるなんて、人として筋が通らないよ。それにあのお爺ちゃん、良次を本当の孫の様に優しく見つめてたんだよ。そんな人見捨てられない。」 と言った。松島さんは「筋が通らないのは解る・・・でも、それは良次の問題だろ。」 と言った。涼子は「良次は新しい契約者の手前、古い契約者とは接触しづらいって言うから。」 と言った。松島さんは「だからって、涼子ちゃんが身を危険に晒す必要は何もない。俺は奴らと戦ったから解るけど、奴らこの辺のガキと違って、本気で殺しに来るぜ。あんな奴らと関わるのは、やめた方がいい。」 と言った。涼子は「私は届けに行く。行って人としての筋を通してくる。」 と断言した。 つづく良かったら押してね。
Feb 8, 2007
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=ちょっとした矛盾= 詩織は「良次の家はね。一般人が手に入らない高価な薬を扱う家系なの。」 と言った。松島さんは「家系?。」 と言った。詩織は「良次が言うには500年の伝統があるらしい。」 と言った。松島さんは「500年・・・。」 と言って500年と言う単位を思い浮かべた。 詩織は「良次の家は、松島さんが一生かかっても払いきれない額の薬を、ある特別な人達に供給してるの。」 と言った。松島さんは「特別な人達?。」 と聞いた。詩織は「金と権力の頂点を極めた人達。」 と言った。 決して豊かとはいえない家に育った松島さんは、あからさまに嫌な表情を見せ「金と権力に媚びる・・・良次らしい。」 と言った。涼子は「だから、松島さんに知られたくなかったのに・・・。」と思いながら、詩織を見た。 詩織は涼子に可愛く首をかしげて見せた。 涼子は「可愛い。」と思ったと同時に「この可愛さに、人は威圧され騙されるんだ。」とも思った。 詩織が「・・・で、今回、金と権力の頂点を極めた良次のお得意様が、金と権力の頂点から滑り落ちました。」 と言うと、松島さんは少し嬉しそうに興味を示した。詩織は「すると、うちの良次君は、幼い頃から恩義があるお得意様を、素早く裏切りを決断、そしてお得意様を見放失踪。そして、恩義あるお得意様から追われる羽目に。」 と言った。 それを聞いた松島さんは恐ろしく眉を顰め、怒りのやり場に困った手を自らの目の前で、結んだ。 『裏切り者』松島さんが最も嫌う人種だ。 先程、裏切り者として殺されかけた長老は、表情を著しく曇らせた。その隣にいた高梨はそれ長老以上に表情を曇らせた。 それはまるで今にも豪雨に見舞われるかの様な、雲行きだった。 涼子は高梨のその表情に、少しがっかりした。 詩織は可笑しそうに、恐ろしく眉を顰めている松島さんを見つめた。 この『裏切り者は絶対許さない。』と言う思想を、人として壊れていた松島さんに、ほとんど洗脳に近い方法で植えつけたのは、今、松島さんの怒りの矛先が向かっている良次だと言う事を、詩織は知っていたからだ。つづく良かったら押してね。
Feb 1, 2007
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=作戦会議= 長老の一声に、4人の目つきが変わった。松島さんは「ちょっと待ってくれ。」 と言った。みんなの視線が松島さんに向いた。「なんの作戦か知らないが、俺に事情も説明せず、お前らだけで作戦を立てるつもりか?作戦を立てるって言うなら、俺の意見も聞いたほうがいいんじゃないか?。俺はだてに『最悪の世代』で戦い続けて来たわけじゃないぜ。」 と言った。詩織は「今まで『最悪の世代』で作戦を立ててきたのは、良次でしょう。あんたが何してきた?。」 と言った。松島さんは「少なくともお前ら素人よりは、戦いの勘ってもんは知ってるつもりだ。大事だぜ。そういう経験から来る勘ってのは。戦いってのは用心に越したことは無い。俺の意見を聞いておけば勝てたのにって、後悔してからでは、遅いんだぜ。そりゃー良次の意見を聞ければいいが、連絡取れないんだろ?。」 と高梨と長老に聞いた。 高梨と長老は頷いた。詩織は「松島さんの言う事にも一理、あるわね。」 と言った。涼子は「でも、良次が家の事、あまり松島さんには知られたくな言ってたし・・・。」 と言った。詩織は「・・・でもね。一番危険に晒されるのは涼子ちゃんなんだよ。」 と涼子を諭した。涼子は仕方なく「うん・・・。」 と、まだ納得していない様子で頷いた。 そんな事構わず、松島さんは「涼子ちゃんのいいって言ってる事だし、さっ、この事件の全貌と、良次の家業の全貌を話せよ。」 と詩織に言った。詩織は涼子に「いいよね。」 と言って、涼子が再び頷くと、良次の家業の事を話は始めた。 つづく
Jan 26, 2007
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=揺り籠の揺れの中で= 陸地が小さな絵画の額縁に収まりそうな程になった頃、長老は船を海上に泊めた。 揺り籠の様な、ヨットの揺れが心地よく感じられた。漁村生まれの長老は、今まで多くの船に乗ってきたが、揺り籠のように心地よく揺れる船には乗った事は無い。 船の大きさや豪華さからくる類の揺れではない。長老は、この不思議な揺れに、まだ生きていた頃の良次の両親の雰囲気が重なった。「ただ、眠気を誘うこの心地が良い揺れは、仕事として使うにはあまり向いているとはいえない。」と長老は思った。 そして、涼子たちがいるリビングに向かった。 リビングでは、4人がソファーにそれぞれくつろぎながら、静かに座っていた。 朝の太陽の光が、まだあどけなさが残る、4人の眠たげな表情に降り注いでいた。 長老は、そこにかけがえのない時間と美しさを感じた。「もし、自分に上手く絵を描く事が出来たなら、この風景を永遠に額縁の中に閉じ込めたい。」と思った。しかし、長老にはその技術も才能も無かった。 そして今はそれどころではない。 長老は良次から預った壷を4人の前に置いて「さあ、作戦会議始めよう。」 と言って、そのかけがえのない風景を、自ら壊した。 つづく
Jan 23, 2007
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=主導権を握れ= 東の空から太陽が眩しいその姿を見せると、高梨は頬に流れかけた涙を拭いて、詩織のいる船内に入ろうとした。 その時、ヨットハーバーの微かな異変を気づいた。何かの気配を感じた。高梨は慌てて船内に入ると「誰か来る。多分、奴らだ。」 と言った。ふわふわと浮いていた松島さんは、目つきに攻撃性が戻った。そして「間違いないか?。」 と高梨に聞いた。高梨は「はい。」 と言った。松島さんは長老に「船を出せるか?。」 と聞いた。長老は「はい、一応。」 と言った。松島さんは「出せ!。」 と命じた。涼子は「もう、薬があるんだから、渡せば済むんじゃないの?。」 と聞いた。松島さんは「数時間前に、やられた連中だぞ。血走ってるはずだ。薬を渡したからって、簡単に帰るとは思えない。大切なのは主導権をこちらが握ることだ。」 と言って、詩織に同意を求めた。詩織は「そうね。」 と言った。 長老はヨットのエンジンをかけ、ヨットが動き出した。 松島さんは甲板に出ると、昨晩、松島さんと格闘した連中が、ヨットの動きを察して駆け寄ってきた。 ヨットは連中を振り切って、穏やかな外洋にでた。松島さんは追っ手が無いことを確認すると、船内に入った。 2月の海はまだ寒い。 涼子は舵を握る長老の横で「長老、船、動かせるんだね。」 と言った。長老は「16の時、船舶免許取ったんだ。家、漁師だからね。」 と言った。 涼子は舵を握る長老が突然、逞しく見えた。ただの爺少年だと思っていたのに。涼子は「ヨットなのにエンジンがついてるんだ。」 と聞いた。長老は「この船は基本はクルーザーだからね。」 と言った。詩織が「長老、ところでどこへ向かうの?。」 と聞いた。長老は「さあ・・・。」 と言った。 ヨットは当ても無く、冬の青い海を疾走し続けた。 つづく 良かったら押してね。
Jan 22, 2007
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=好転の始まり= 詩織は「良次の思い出の船だから、綺麗にしよう。」 と言って船内の掃除をさせた。 奈々子先生は、長老あきらの怪我を治療すると、詩織に「詩織ちゃん、ありがとう。」 と言った。そして松島さんにも「松島君・・・ごめんね・・・。」 と言おうとしたが、突然世の中が楽園と化した松島さんは、もう奈々子先生や長老の裏切りなど、どうでも良いらしく、ふわふわと飛ぶようにに、船内を歩き回って、涼子にすら「松島さん邪魔!。」 と怒鳴られていた。 詩織は奈々子先生に「あいつなら今は、ほっといていた方が・・・。」 と言った。奈々子先生は、今はふわふわ浮いている松島さんを見て「松島君には悪い事をしてしまって・・・。」 と言った。詩織は「元はと言えば、あいつらの悪行の数々が問題なだけで、先生が気にすることじゃないと思います。本来、刑務所に入って無くてはいけないレベルの人間ですから。あいつは。」 と言った。 詩織は、早朝から学校に用がある奈々子先生を見送ると、長老あきらの尋問に向かった。 詩織は「長老ーーーー奈々子先生をどうやって口説いた?。」 と尋問した。詩織の尋問が始まると、ふざけながら掃除をしていた涼子と松島さんも、長老の元へ集まった。 ヨットの船内で始まった尋問をよそに、先程、詩織への恋が終わってしまった高梨は1人ヨットの甲板で、水平線から今にも登ろうとしている太陽を見つめていた。「もうすぐ、朝が来る。」 と言って高梨は、幼い頃から憧れていた詩織への恋心に、別れを告げた。 つづく良かったら押してね。
Jan 21, 2007
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=不満?= 松島さんにノックアウトされて意識を失っていた、長老あきらはすぐに起き上がって「松島さん、それだけは待ってくれ。」 と言った。松島さんはすぐに起き上がった長老あきらを見て「ほう。」 と感心はしたが「裏切り者!。」 と叫んであきらを蹴り上げた。長老あきらの血が飛んだ。涼子は「松島さんやめて!。」 と叫んだ。松島さんは「ガキは黙ってろ。」 と言った。涼子は「私はガキじゃない。」 と言った。松島さんは涼子を無視して奈々子先生に「生徒に庇ってもらえるなんて、奈々子先生は生徒からの信頼が厚いようですね。一見。」 と言った。 動揺した奈々子先生は無言のまま、松島さんを見た。すると高梨が「松島さん・・・僕にはその時の事情はよく解らないけど、松島さんの退学は奈々子先生の一存で、決めたことじゃないはずです。」 と言った。松島さんは「お前はいつから、俺に意見できるようになった。」 と言って高梨の腹部に拳を入れた。前に倒れこむ高梨に松島さんは「ガキのくせに調子に乗るな。」 と言って高梨を蹴飛ばした。 松島さんは再び携帯電話で、学校のアドレスを探し始めた。 詩織は「世話の焼ける生き物。」 と呟いてため息をついた。そして「今さら、先生の復讐してどうなるの?高梨が言ったとおり先生の一存で決まったことじゃないでしょう。」 と言った。松島さんは「この偽善者は俺を理解しているような事を言って、信頼させて事情を話させておきながら、次の日には俺を裏切って俺を退学させた。こいつら2人とも裏切り者だ!。」 と言った。詩織は「世の中には裏切りはつきものよ。」 と言った。松島さんは「俺は裏切りを許せん。」 と言った。詩織は「松島さん・・・とりあえず落ち着いて。」 と言った。 詩織は松島さんに近づいて「奈々子先生は組織の一員に過ぎない。高梨の言ったとおり、奈々子先生の一存でどうこうなることじゃ無い事ぐらい、解るでしょう。」 と言った。松島さんは「でも、こいつらは俺を裏切った。俺が退学させられたのに、教師が何も無いなんて許せない。生徒を裏切った教師が・・・。」 と言った。詩織は一度ため息を付いた。松島さんの耳に詩織の息が吹きかかった。そして詩織は松島さんの耳元で「松島さん・・・私が味方なだけじゃ不満?。」 と聞いた。松島さんの動きが止まった。 詩織は携帯電話を持つ松島さんの手を握って「それとも、私も敵に回す?。」 と言った。立ち尽くす松島さんは、携帯を握る手の力を徐々に抜いていった。 詩織は松島さんの携帯を取ると「よく出来ました。」 と言って松島さんの頬に顔を寄せた。そして「ご褒美。」 と言って松島さんの頬にキスをした。 その様子を船内にいた人々は、呆然と見つめていた。詩織の松島さんへの想いを知った高梨は、自分自身の初恋が終わった事を知った。 つづく
Jan 20, 2007
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=好きになってしまった= 松島さんは「どういう事だ。あきら。」 と怒りに満ちた声で言った。 近隣の市町村にまで悪名を轟かせている『海辺の街・最悪の世代』と学校サイドとは、険悪な空気が流れていた。 学校サイドはジョニーが良次の仇を討った事件を機に、敵討ちに参加した『海辺の街・最悪の世代』中心メンバーの退学に踏み切った。 警察がジョニーの出頭と引き換えに、他のメンバーには手を出さなかった事と比べて、学校側の態度は、メンバーには厳しいものと映った。 そして今、松島さんの目の前にいる奈々子先生は、高2の松島さんに対して、退学の宣告をした松島さんの担任教師だった。 その学校サイドの奈々子先生と、『海辺の街・最悪の世代』の長老・あきらが奈々子先生と情事を重ねていたことは、松島さんにとって、裏切り行為以外の何者でもなかった。 松島さんは「あきら・・・説明してもらおうか?。」 と長老あきらを睨み付けた。 長老あきらは、見上げるような身長で、哺乳類とは思えない恐ろしい形相の松島さんに、睨み付けられ、動きを失った。長老あきらが「奈々子先生の事、好きになってしまった・・・。」 と言い終えると、松島さんの凶暴な拳が、長老あきらを吹き飛ばし、長老あきらはヨットの壁にぶち当たり気を失った。 奈々子先生は慌てて長老あきらの元へ駆け寄った。そして「あきら!あきら!。」 と長老あきらに声をかけた。 その様子に松島さんは笑った。そして「先生は俺に『あなたは本校の生徒として相応しくない。』と言いましたよね。男子生徒とこんな夜中に密会を重ねることは『本校の教師として相応しい。』のですか?。」 とどこで覚えたのか、極めて丁寧な口調で言った。そして、携帯電話を取り出して「確か宿直が要るはず。」 と言って携帯電話を操作して「あなたの教師人生は、今日で終わりです。」 と笑いながら言った。 つづく良かったら押してね。
Jan 19, 2007
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=アノコトスキャンダル= ヨットハーバーの周囲を警戒していた、松島さんが船内に入ってくると、詩織は「早速、例の物を出して。」 と長老に言った。長老は キッチンの底を外しにかかった。松島さんは「ヤクの取引みたいだな。」 と言った。詩織は「薬であることには変わりは無い。」 と言って長老の作業を見守った。長老はキッチンの底から、30センチぐらいの高さの風呂敷に包まれた、壷を取り出した。長老は「これにはちょっとした仕掛けがあってね。」 と嬉しそうに言った、時、松島さんの触覚?が背後に異変を感じた。松島さんが「誰か来る。」 と小声で言って出入り口の方を見た。 ヨット内に要る他の全員も一斉に、出入り口の方向を見た。 松島さんは素早く涼子を引っ張って自分の後ろに隠し、警戒を強めた。そして「女?。」 と呟いた。するとヨットの出口から甘えた女の声で「あきら、いる?。」 と聞こえた。あきら・長老の本名だ。 その女の姿が見えた時、船内は一瞬固まった。涼子が「奈々子先生?。」 と言った。奈々子先生・涼子と高梨の担任の教師にして、松島さんが高2の時の担任教師だった。長老あきらは「何で?・・・今?・・・ここに?。」 と言った。 18歳の長老あきらと30歳前後の奈々子先生とでは、年が一回りは違う。 しかし、奈々子先生の「あきら、いる。」と言った甘えた声は、涼子たちがいつも聞いている教師としての声ではなく、あきらの彼女としての声だった。 つづく良かったら押してね。
Jan 18, 2007
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=思い出の詰まった船= ヨットハーバーに着くと、長老と呼ばれる少年が私服で待っていた。腰には愛用の十手がぶら下げてあった。 松島さんは「あの格好、ファッションセンス以前の問題だぜ。」 と言った。詩織は「いいんじゃない。好きでやってるんなら。」 と言った。 長老はポケットから仁丹を取り出すと、4人に配り始めた。松島さんは「いらねえ。」 と言って断った。 涼子の前に来た長老は「涼子ちゃんは若いから、イチゴ味ね。」 と言って涼子に特注のイチゴ味を渡した。詩織は「二つしか違わないのに。」 と愚痴った。松島さんは「若いって言うか、子どもって言うか。」 と言った。涼子はむっとして、松島さんをにらんだ。松島さんは「冗談だよ。」 と言った。長老は「とりあえず、我が家へどうぞ。」 と言ってヨットハーバーに泊めてある、ヨットに4人を案内した。涼子は「長老は、ここに住んでるの?。」 と聞いた。長老は「良次が、綺麗に使うなら使っていいって言われたから、たまに使ってるだけだよ。」 と言った。涼子は「このヨット良次の?。」 と聞いた。長老は「うん。両親との思い出が詰まったヨットーだから、捨てづらいんじゃないの。」 と言った。松島さんは「・・・!、良次のヨットじゃあ、奴らが張り込んでるかも・・・。」 と言って、ヨットハーバーの周囲を警戒しながら見渡した。 明け方前のヨットハーバーには、さざ波の音だけが聞こえていた。松島さんの警戒心をよそに、涼子と詩織と高梨は、長老に促されるままヨットに乗った。 木目調の船内は、質素なキッチン・寝具・ソファー・テレビ等があり、一家族がゆっくり出来るほどのスペースがあった。 涼子は「両親との思い出が詰まったヨット。」 と呟きながら船内を見渡した。詩織が涼子の横で「なんだかほっとするね。この船。」 と言った。 つづく良かったら押してね。
Jan 17, 2007
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=詩織のささやき= 本部に呼ばれた事なかれ主義のタクシー運転手は「国道沿いで乗せた4人の高校生、どこで降ろした?お前が乗せた事は解ってるんだ。」 と謎めいた黒服の男たちに聞かれた。 事なかれ主義のタクシー運転手は「その高校生4人なら、高速バスのバス停の下辺りで、降ろしましたけど。」 と言った。謎めいた黒服の男たちは「高速バスで逃げやがったか。」 と悔しそうに話した後、謎めいた黒服の男たちは雪降る街に消え去った。 本部の事務員が「何か事件か?。」 と聞いた。事なかれ主義の運転手は「さあ。私には関係ない。」 とだけ答えた。 20分ほど前、ヨットハーバーで4人の高校生を降ろした時、一際美しい少女の払ったタクシー代のおつりたった20円の代償で、馬鹿が付くほどの正直者で通っている、事なかれ主義の運転手は、謎めいた黒服の男たちに嘘の証言をした。 まじめ一筋で事なかれ主義の運転手にしてみれば、大冒険に等しい大嘘だった。 事なかれ主義のタクシー運転手は、小雪がちらつく明け方の海辺の街を走りながら「女は恐ろしい、特に美しい女は・・・。」 と呟いて、普段のまじめ一筋で事なかれ主義の運転手に戻っていった。 つづく良かったら押してね。
Jan 16, 2007
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=要警戒人物、懺悔する?= 国道に出ると、小雪が降る真夜中だったがタクシーは簡単に捕まった。 タクシーの運転手は、詩織と涼子と高梨を見るなり「お前ら高校生だろ。高校生がこんな真夜中に、何やってるんだ!。」 と言った。高梨は「すいません。色々事情がありまして。」 と言った。 すると、背後で松島さんが「やっぱし、俺も行く。」 と言った。 タクシーの運転手は、松島さんを見るなり黙り込んだ。 “要警戒人物『海辺の街・最悪の世代』の松島”に、気づいたのだ。 タクシー運転手の間で、“ぶっ壊れた少年”と呼ばれているあの少年だ。 事なかれ主義の運転手は、慌てて車を発車させようとしたが、思いとどまった。『“ぶっ壊れた少年”を乗車拒否すると、地獄の底まで追ってくる。そして、挙句の果ては路頭に迷う。』と言う噂を思い出したからだ。「“ぶっ壊れた少年”に会ったときは、少し無愛想な表情で接するくらいがベストだ。」といつか仲間に聞いた言葉を思い出した。「無愛想か。無愛想ならいつもどおりだ。」タクシー運転手は深呼吸をして、心を落ち着かせ「いつも通りの無愛想で。」と自分に言い聞かせた。 詩織は「いいの?愛車とお別れして。」 といつもはホットドック屋の車が停まっている、国道沿いのちょっとした広間に、駐車している自分の愛車を、心配そうに見つめている松島さんに言った。松島さんは「大丈夫、大丈夫。だれも俺の車だと解って、盗る奴はいない。」 と言った。詩織は「この街にはあなたを憎んでいる奴なんて、いくらでもいると思うよ。盗らなくても『ぎ~』って。」 と引っ掻く手つきをしながら、脅した。 松島さんの脳裏に数百人近いリストが上がった。 詩織には、松島さんの顔が今にも泣きそうな顔で、懺悔している顔にも見えた。「懺悔・・・そんな高等な感情、ケダモノにないか。」と詩織は思った。 松島さんは愛車に頬をつけながら、じっと考えた。そして、「やっぱ、お前らだけじゃ、心配だ。」 と言って、自分の愛車に別れを告げた。 タクシーは“ぶっ壊れた少年”とその仲間たちを乗せて、ヨットハーバーに向かった。 つづく良かったら押してね。
Jan 15, 2007
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=鬼の目にも涙?= 管理事務所を出ると、小雪がぱらつく暗闇の中で、1号バンガローで何かが壁にぶつかっている音がした。 松島さんが黙らせた連中が、脱出しようと試みている音だ。詩織は「大丈夫?。」 とまた呆然としている松島さんに聞いた。松島さんは「ん?。」 と聞き返した。詩織は「あの人たち大丈夫?。」 と再び聞いた。松島さんは「当分は抜けられん。」 と言った。詩織は「そういうことじゃなくて、こんなに寒い中あんな小屋で。」 と言った。松島さんは「死にはしないだろ。雪に埋もれるわけじゃあるまいし。」 と言った。 4人は気にせず、松島さんの車に乗り込んだ。松島さんは無駄にでかいエンジン起動音を鳴らしエンジンをつけ発車させた。 助手席に乗る詩織は「あっこの車。こんな目立つ車になんかじゃだめね。すぐばれちゃう。山を降りたらタクシーに乗り換えましょう。」 と言った。松島さんは「え!俺の車に乗って行かないのか?。俺の車のどこが不満なんだ!」 と言った。詩織は「だから、目立つでしょう。」 と言った。松島さんは「いいじゃん。目立って。」 と言った。詩織は「馬鹿?あなた。」 と言った。松島さんは「もう、奴らをやってしまったんだぜ。全面戦争は始まってんだぜ。犀は投げられたんだぜ。今さら逃げ隠れしてどうなる?正面突破といこうぜ。」 と言った。詩織は「奴らをやったのは、あなたであって、私たちには関係ないわ。」 と言った。松島さんは「俺は、お前らを守るためにやっただけで、完全な正当防衛だ。」 と主張した。詩織は「闇討ちしておきながら、何が正当防衛よ。松島さん、お願い自首して。そうすればすべてが収まるの。」 と言った。松島さんは「ふざけんなよ。」 と言った。詩織は「犯行の一部始終は、キャンプ場の防犯赤外線カメラに収められている。証拠はそろっていのよ。もう、逃げられないのよ。あなたは。」 と言った。松島さんは車を止めて「待てよ!俺見たいな気さくないい人が、悪そな連中ばかりのいる鑑別所に入ったら、悪に染まって極悪人になってしまう。」 と言った。詩織は「その心配は要らないわ。この世にあなた以上の悪人なんていないから。」 と言った。松島さんは「あっ!良次だな。こういう悪巧みを考え付くのは、あいつしかいない。腕力じゃかなわないから、こういう手段を使って!詩織、騙されるな。あいつの悪巧みは半端じゃない。俺はあいつの悪巧みを、ジョニー一味でずっとこの目の前で見てきた。夜襲のしかただって、敵の拘束の仕方だってすべてあいつの入れ知恵だ。」 と言った。詩織はため息をついて「言い方を変えれば、味方の怪我人を最小限に抑えて、敵に怪我を負わす事無く拘束する。って事でしょう。 あなたが相手に大怪我を負わせたり、人を殺してしまう事無く、今まで生きてこれたのは、良次のその入れ知恵のおかげででしょう。私と良次とジョニーが、人として壊れていたあなたが人を殺してしまわないように、どれだけ注意を払っていたか解ってるの?。」 と怒り混じりに言った。松島さんは黙ったまま、詩織から視線を反らして、ハンドルを握った。 詩織は「あなたが一線を越えずに今いるのは、良次の入れ知恵のおかげじゃなくて?。」 と言った。松島さんはじっとハンドルを見つめた。詩織は「車、出して、自首しなくていいから。ほんの冗談よ。折角、ここまでまともにしたのに、また壊れられたら、私達の努力が台無しでしょう。高校三年間、私達、壊れたあなたに付きっきりよ。なんだったんだろう?。」 と言った。 松島さんはハンドブレーキを下げると、車を走らせた。 無駄にでかいエンジン音がする車は、新雪が積もっている山道をゆっくりと走り続けた。 いつも厳つい松島さんの表情が、少し緩やかな表情に見えるようになったのは、山を1つ越えて山道を降り始めた時だった。 詩織が後部座席を見ると、涼子が高梨のひざの上で熟睡していた。詩織は「仲がいいね。」 と高梨に言うと、高梨は慌てて首を振った。 しかし、涼子の肩には高梨のコートが掛けられたいた。 つづく気が向いたら押してね。
Jan 14, 2007
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=突然訪れた挫折感= 高梨は「長老が・・・はい、はい、解りました。」 と言って携帯電話を切った。深刻な表情の詩織は「良次、何だって?。」 と聞いた。高梨は「長老が薬を持ってくるそうです。」 と言った。『長老』とは高3にして長老の風格を持った、良次の穏健派のメンバーだ。 深刻な表情のままの詩織は「良次は来ないの?。」 と聞いた。高梨は「なんかまだ色々あるみたいです。」 と言った。松島さんは「良次が来ないってどういうことだよ?。あいつがらみで、涼子ちゃんが狙われてんだろ?。」 と言った。深刻な表情で思慮に耽っている詩織は「色々あるのよ。」 と言った。松島さんは「色々って何だよ?お前らだけでさ、解った様な事言いやがって!さっきの奴らを黙らしたのは俺だぜ。少しくらい教えてくれたっていいだろ。」 と言った。詩織は力なく「色々あるのよ。」 と言った。そして「とりあえず、ここは移動しましょう。新手が来るかも知れない。」 と言った。松島さんは「新手が来たっていくらでも俺が始末してやるぜ。ここにいようぜ。」 と言った。 詩織は松島さんに向かってあからさまに『うるさい』と言う目で睨み付けると、高梨に「長老は今どこにいるって?。」 と聞いた。軽く無視された松島さんは「無視かよ。」 と言ったが、それすらも詩織に無視された。 高梨は、そんな松島さんに気を使いながら「今、ヨットハーバーにいるそうです。」 と言った。詩織は「この真夜中に?。」 と聞いた。高梨は「はい。」 と返事した。詩織は「とりあえず、行きましょう。」 と言って、ドアに向かって歩き出した。松島さんは「俺、車運転しないぜ。何も知らされないのに、はいはい解りましたって俺が運転すると思ってんのか?どうやって行く。遠いし寒いぜ。まだ、雪降ってるし。どうする?俺に全部話して、車で行くか?寒い中ぞろぞろ歩いていくか?どうす・・・。」 と松島さんが話し終える前に詩織の平手が、松島さんの意識が詩織のその素早い攻撃に気づく前に、松島さんの頬を直撃した。 管理事務所内にその直撃した音が鳴り響いた。そして詩織は「車で行く。」 と宣言した。 海辺の街の誰よりも強く、そして素早い攻撃性の持ち主だと自覚していた松島さんは、詩織の後姿を見ながら「俺が・・・避け切れなかった?。」 と言って呆然と立ち尽くした。詩織は「運転手、早く!。」 と言った。 松島さんは今だ納得し得ないまま、詩織の後を追った。 高梨は、呆然と立ち尽くしているもう1人の存在に気づいた。 さっきまで、嬉しそうに妄想に耽って、妄想の中では恋愛がかなり進んでしまった涼子だ。涼子は「良次、来ないんだ。」 と呟いた。高梨は「行こう。」 と言って、優しく涼子の背中を押した。 つづく気が向いたら押してね。
Jan 13, 2007
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=高梨の思惑= 携帯電話の良次の声に耳を傾けながら、高梨は目の前で嬉しそうに妄想に耽っている涼子を見ていた。「この娘(こ)に現状認識能力があるのだろうか?。」 と高梨は思った。 高梨が詩織と松島さんを見ると、2人は窓から外の様子を伺っていた。 高梨は「ここにいるメンバーはこの娘(こ)を守るために、ここにいるわけで・・・大体、この娘(こ)と一緒にいると言うだけで、危険な状態なのに。 松島さんだって今は平気な顔をしているが、命懸けでこの娘(こ)を狙っていた連中と戦ってきたと言うのに、この娘(こ)の表情には自分が狙われていると言う緊張感すら感じられない。まあクラスでも、どちらかと言うと天然の部類に属してはいたが・・・。」 と思慮していると、 目の前の涼子がちらっと高梨を見て微笑んだ。 高梨は「何だ?今のは!少しは詩織さんの緊迫した表情を見習えよ。狙われてるのは詩織さんじゃ無くてお前だろ。」と突っ込みたかった。 しかし、相手はジョニーの妹、 そして尊敬する先輩の良次が大好きな人。 突っ込めるはずは無かった。 その時、涼子が何かを照れくさそうに呟いた。窓際で松島さんと話していた詩織が「涼子ちゃん何か言った?。」 と聞いた。涼子は「いや、別に。」 と言った。詩織は「そう。」 と言って特に気にもせず、再び窓の外を伺った。 詩織や松島さんには聞こえなかったかも知れないが、涼子の近くにいた高梨の耳には涼子の呟きが確実に届いた。高梨は「この状況でこの娘(こ)は『勝負パンツ』と言った。それも嬉しそうに・・・『勝負パンツ』って・・・何なんだ?この娘(こ)は!。」と高梨が思慮していると、携帯電話の向こうで良次の「高梨!聞いてんのか?」 と怒鳴る声が聞こえた。高梨は「はい、ちゃんと聞いてます。」 と返事をした。良次は「お前、解ってんのか?命に関わる事なんだぞ。連中は人の命なんてなんとも思ってない連中なんだぞ。お前、今の現状理解してんのか?。」 と良次は声を荒げていった。高梨は「現状をまったく理解していないのは、僕の目の前で、嬉しそうに妄想に耽っているあなたが大好きなこの人です。」と心の奥で思ったが、口に出さずに「はい。理解してます。」 と丁寧に答えた。 つづく気が向いたら押してね。
Jan 12, 2007
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=好きでいてくれる人の存在、そして勝負パンツ= 高梨の携帯電話が鳴った。「公衆電話・・・多分、良次さんだ。」 と言って高梨は携帯電話を取った。 『良次』と言う言葉に、涼子の体温が少し上昇した。自分の事を異性として好きでいてくれる人の、名前の響きに涼子の心は絞めつけられた。「こんなに綺麗な詩織さんより、私のほうが好きなんだって?。良次君。」涼子は綺麗な詩織を一目見た。 携帯で良次と連絡を取る高梨に、詩織と松島さんの視線が集まっていた。「もしもし、高梨です。」 と高梨は対応した。 高梨は電話の相手が良次である事を、3人に目で合図を送った。 一瞬、高梨と目が会った時、涼子は「あっどうしよう、高梨との事・・・。」と思った。クラス内での噂では、涼子と高梨は相思相愛の関係にある。そんな事実は1つも無いのに。「どうしよう、語茶語茶してきた。」涼子は困惑した。 携帯電話の向こうで、良次の声が微かに聞こえた。高梨は「はい、はい・・・薬が出来た。はい、はい。」 と言った。松島さんは「薬って?。」 と詩織に聞いた。 しかし、詩織は無視した。松島さんは「無視かよ。俺を無視するなんて、野郎だったら一瞬でボコボコにしたのに。女で良かったな。」 と詩織に愚痴った。 でも、詩織は無視した。 詩織はじっと宙を見つめ、今後の成り行きについて、思考を走らせていた。 松島さんは、考え込む詩織の横顔の美しさに、じっと見とれた。 涼子は「薬が出来た・・・と言う事は、良次が来る。私の事を好きな良次が、私に会いにくる。どうしよう・・・どうしよう・・・勝負パンツ?・・・!まだ気が早い。まだ、付き合う事も決まってないのに、それに私自身が良次の事を好きかどうかも解らない。そんな急展開はしないはず、良次なら私の気持ち尊重してくれるはずだし。」と詩織とはまったく違う次元の思考回路を回転し続けた。 携帯電話で良次と話してる高梨は、ぼんやりと口を開けて嬉しそうに何かを思い描いてる涼子を、じっと見つめた。つづく気が向いたら押してね。
Jan 11, 2007
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=クローゼットの中での秘密= クローゼットの暗闇の中では、時間だけが過ぎた。涼子を力強く抱きしめていた、詩織の腕の力が徐々に弱まっていくのを涼子は感じた。そして、詩織の体の微かな震えが、涼子の体に伝わった。「泣いてる・・・詩織さんが泣いてる。」と涼子は思った。 涼子が手を詩織の背中に回すと、詩織は声を上げて泣き始めた。 閉じられた狭い密室のクローゼットの暗闇の中は、詩織の泣き声で満たされた。 涼子はその泣き声の中に、色々な感情を聴き取った。良次との思い出が編みこまれた泣き声。 初恋、嬉しさ、楽しみ、愛情、そして悲哀、別れ。 涼子の目頭も熱くなった。そして、その泣き声も1つの楽章が終わるかのように、トーンダウンしていった。 クローゼットの中は、静寂が訪れた。微かに詩織と涼子と高梨の、息遣いの音だけが涼子の耳に入ってきた。「うおおおおおおおおお!!!。」その美しい静寂を破るかのように、管理事務所の外で、雄叫びが聞こえた。 高梨が「松島さんだ。松島さんが勝利の雄叫びを上げているんだ。」 と言った。 詩織が「ふっ。」と笑って「まさにケダモノね。」 と言って、涼子から離れ「ごめんね。感情的になって。」 と涼子に謝った。涼子は「ううん。」 と言って首をふるのが精一杯だった。 管理事務所のドアを激しくたたく音がして「開けろ!ボケ!。」 と松島さんの怒鳴る声が聞こえた。高梨は急いでクローゼットを出ると、ドアを開けた。 松島さんは管理事務所に入ると、「電気ぐらいつけろ!。」 と言って管理事務所の明かりをつけた。松島さんは詩織と涼子の目を見て「怖くて、泣いてたのか?」 と聞いた。詩織は「まさか、眠くて寝てただけよ。ただの寝起きの目。あんまり見ないで。」 と言った。松島さんは「俺が命がけで戦ってたのに、寝てただと!お前らどういう神経してんだ!信じられん。」 と喚いた。 つづく良かったら押してね。
Jan 10, 2007
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・・・暗闇の中での告白・・・ 涼子が「えっ。」 と聞くと詩織は「冗談よ・・・冗談でもないか。ねえ。」 と高梨に同意を求めた。高梨は「まあ。」 とはっきりとは答えなかった。涼子は「そう言えば、さっき松島さんが『奴らを殺すつもりは無い。』って言った時、詩織さん嬉しそうにしてたけど・・・。」 と涼子は言った。詩織は「あっ、あれね。昔に比べたらまともになったと思うと嬉しくなって。一種の親心よ。昔の松島さんは、人として壊れてた。未だに問題が多々あるけど。」 と言った。 そして、詩織は涼子の頭をなでていた手を、涼子の背中に回し、涼子を抱き寄せた。涼子が「えっ何?。」 と慌てて聞いた。詩織は「涼子ちゃんきれいになったね。良次が好きになるはず。」 と言った。「良次が私の事を好き?。」 涼子は、突然の告白に混乱した。詩織は「良次、昔から涼子ちゃんの事、好きだったんだって。異性として。」 と言った。 「兄・ジョニーの親友でもう1人の兄の様な存在だった良次が私の事を好きだった?それも昔から。異性として・・・?良次が私を異性として好きだった。 そして、それを良次の元彼女の詩織さんが、私に告げた。私は詩織さんの腕の中・・・何?この複雑な状況。よく解らない。」と思った。 詩織は涼子を力強く抱きしめた。涼子は「詩織さん・・・ちょっと・・・苦しい。」 と言った。 混乱している涼子に詩織のこの行為に、どういう感情が込められていたのかを、知る余裕は無かった。 暗闇の中で涼子を強く抱きしめ、涼子の肩に顔をうずめている目の前の詩織を、高梨は何もする事が出来ずに、ただじっと詩織を見つめていた。「私が詩織さんから良次を奪った?。私、詩織さんに恨まれてる。」暗闇の中で、詩織に抱きしめられながら、涼子の思考はそう判断を下した。 つづく
Jan 9, 2007
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詩織は「窓の鍵が開いたまま。」 と言ってクローゼットを出ようとすると、高梨が「僕が閉めてきます。」 と言って、窓の鍵を閉めに走った。高梨は素早く鍵を閉めると、すぐに涼子の背後に戻ってきた。そして、涼子の肩に手を置いて「大丈夫、僕らが絶対涼子ちゃんを守るから。」 と言った。 その時、客のいない雪に埋もれたキャンプ場に、突如車のクラクションが鳴り響いた。「松島さんの車のクラクションの音だ。」 と狭いクローゼットの中で高梨は、涼子の耳元で興奮気味に言った。 その音は一般車のクラクションの数倍の音量で、音質はクラクションと言うより、トランペットの音に近かった。松島さん自身が作った自慢の代物だ。 クラクッションの音を合図に、外の様子が騒がしくなった。「どうした?」「おい!。」「あっちだ。誰かいるぞ!。」 と男たちの声が、管理事務所のすぐ間近で聞こえた。 管理事務所のすぐ前を、誰かが走り去る音がした後、銃声が3発、冬のキャンプ場に鳴り響いた。 涼子は思わず「あっ!。」 と声を上げた。すると誰かの手が涼子の口をふさいだ。匂いと感触から高梨の手だ。 涼子が目の前の詩織を見ると、詩織は涼子の頭をなでながら「松島さんなら大丈夫よ。」 と確信に似た声で言った。涼子が「うん。」頷くと詩織は「あいつが死んでも、幸せになる人はいても、不幸になる人は誰もいないから。」 と淡々と言った。 つづく
Jan 8, 2007
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「涼子ちゃんに対しては、紳士的に振舞ってきたつもりだぜ。」 と松島さんは小声で愚痴った。 そして「奴らは俺が始末してくる。お前らはクローゼットに隠れていろ。」 と3人に指示した。高梨は「僕も行きます。僕だって最悪の世代の一員です。乱闘には慣れてます。」 と言った。松島さんは「お前はここにいろ。暗闇の中で動くものはすべて仕留めるつもりだ。お前と奴らを見極める余裕は無い。」 と言ってその攻撃的な豪腕で、高梨をクローゼットの方へ押した。 詩織は「これ、持って行って。」 と言って拳銃を差し出した。松島さんは「奴らを殺すつもりはない。それは最悪の時お前が使え。」 と言って詩織の申し出を断った。 その時、詩織はなぜか微笑んだ。涼子にはその微笑の意味は解らなかった。 松島さんは、涼子と詩織と高梨をクローゼットに押し込むと、静かに管理事務所の窓から出て行った。 その静かさは、肉食動物が自らの気配を消して、獲物に近づく時の静けさに似ていた。 クローゼットの中では涼子の背後から高梨が抱きしめるように、涼子の体を庇っていた。正確に涼子の背後に立っているだけなのだが、狭いクローゼットの中では抱きしめられているように涼子は感じた。 涼子の目の前には、いい香りのする詩織が緊張の面影で、外の様子を伺っていた。 そんな2人にはさまれた状態の涼子は「なんだか幸せ・・・。」と思った。狙われているのは自分なのだが。 つづく読んだついでに、押してって。
Jan 7, 2007
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「涼子ちゃん、涼子ちゃん。」 と小声でささやく声で涼子は目覚めた。 目を開けると目の前に、薄明かりの中にケダモノ・・・違う松島さんが涼子の体を揺すっていた。涼子は松島さんの凶暴な顔立ちに、一瞬息が止まった。 松島さんは「奴らが来た。」 と小声で言った。突然目の前に現れたケダモノの出現の動揺が解けないままの涼子に、松島さんは「詩織も起こして。」 と小声で言った。 隣を見ると、起きている時にはまず見られない、甘えた寝顔の詩織が涼子の腕に抱きついていた。詩織の可愛く甘えた寝顔を見ると、涼子は自分の心の中で、張り詰めた動揺が心地よく溶けていく感触がし、ほっと息を漏らした。そして「詩織さん、詩織さん。」 と小声で声をかけた。詩織は目を開けると甘えた表情のまま涼子を数秒見ると、すぐに甘えた表情を消して、いつもの詩織の表情に戻った。 そして、枕の下に潜ませていた拳銃を手にし、詩織の甘えた寝顔に見とれていた松島さんに拳銃を向けた。松島さんは慌てて「待て、俺だ。」 と自分が松島さんであることをアピールした。 そのアピールが完全に逆効果である事は、涼子にもわかった。 詩織はそのケダモノが松島さんであることを確認すると「このケダモノ。」 と言って松島さんに狙いを定めた。そして、涼子を守るように涼子を自分の方へ引き寄せた。涼子は慌てて「違うの、詩織さん。今日の松島さんはケダモノじゃないの。」 と言って、詩織が持つ冷たい質感の拳銃を握った。 松島さんは「奴らが来たんだ。涼子ちゃんを狙っている奴らが、解るね。」 と必死で詩織を説得した。 詩織はやっと納得して拳銃を下ろした。 涼子が二段ベットの階段を下りてる時、松島さんが「『今日の松島さんはケダモノじゃないの』ってどういう事?いつもの俺はケダモノだって事?。」 と涼子に小声でに言った。 涼子は聞こえないふりをした。 つづく良かったら押してね。
Jan 6, 2007
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学校ではかなりクールな部類の高梨だったが、松島さんに言われるまま、こき使われ続けた。 その日の夜、管理事務所には寝る場所が、仮眠室の2段ベットしかないことに気づいた。松島さんは「これは仕方ないと言う事で・・・。」 と意味ありげに言った。松島さんと高梨と涼子は、それぞれ何かを期待するように表情を緩ました。 しかし、詩織は「私と涼子ちゃんが二階で、あんたたちは一階。」 と言って3人の思惑を素早く却下した。松島さんは「男同士で寝ろって言うのか?取り返しのつかない過ちを犯したらどうするんだ。」 と抗議した。詩織は「ケダモノと過ちを犯すことのほうが、取り返しがつかないでしょう。」 と相手にはしなかった。松島さん「ケダモノって誰の事だよ!。」 と叫んだ。 詩織はケダモノの叫びを無視して、高梨に「あれ、出して。」 と言った。松島さんは「あれ?。」 と言った。 高梨は懐から拳銃をだして、詩織に渡した。涼子は詩織がなんの表情も動かさずに、拳銃を受け取った事に、不安を感じた。 その拳銃の重く冷たい質感に、さすがの松島さんは顔色を変えた。そして「本物?。」 と聞いた。詩織は何も答えなかった。松島さんは「良次か・・・。」 と言った。 松島さんには、良次の家庭の事情を知らされてはいないが、松島さんなりに何かを感じてはいるらしい。そして「俺が言うのもなんだけど、あまり危険な事には首を突っ込まないほうがいい。」 と心配そうに詩織に言った。 危険な事・・・涼子を拉致した連中・怪しげな黒幕老人・雪の中にいた呪術師・・・涼子の脳裏に危険な人々の映像が浮かんだ。良次と関わることの危険性を、涼子は経験したばかりだ。 詩織は少し微笑んで何も答えなかった。そして「さあ、寝よう。」 と言ってベットの二階に上がった。涼子も後に続いた。 ベットの下で松島さんがベットに入る音がした。「あ゛ー?男同士で寝れるか!ボケ。お前なんか床で転がってろ!。」 と松島さんの声が下でした。すると涼子の横で詩織が「高梨、二階においで。」 と言った。涼子の体中に血が駆け巡った。 高梨は嬉しそうに「ハイ。」 と叫ぶと松島さんの豪腕が高梨を掴み、一階のベットに引きずり込んだ。 詩織が「電気消して。」 と言うと高梨がベットから飛び出して、部屋の明かりを消した。 つづく気が向いたら押してね。
Dec 29, 2006
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ケダモノの目をした松島さんは、一目詩織を見た。詩織は松島さんを調教師の目で睨み付けると、松島さんは仕方なくドアを開けた。そして、ドアの外にいた高梨を掴むと、勢いよく部屋の中へ引きずり込むと、ドアの外の様子を素早く確認し、ドアを閉めた。 勢い欲引きずり込まれた高梨は、テーブルに体ごとぶつかり、テーブルをひっくり返してしまった。詩織は「もうー手加減ってものをしてよ。」 と松島さんに愚痴った。 詩織は松島さんに愚痴ったが、涼子は「高梨や良次なんかよりずっとボディーガードとしては、松島さんは頼りになる。あのケダモノの目は怖いけど。」と思った。 ケダモノの目をしたままの松島さんは、耳を立てて外の様子を監視していた。ケダモノのオーラを漂わせ野性味にあふれた松島さんに、涼子は良次や高梨には無い魅力を感じた。 外の監視を終え振り向いた松島さんは、いつも涼子に向ける優しい表情に戻っていた。 涼子はほっとした。 つづく気が向いたら、押してね。
Dec 19, 2006
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暖炉で管理事務所内が暖まると、朝食にすることにした。詩織が入れたコーヒーの匂いが管理事務所に漂い、管理事務所が詩織がバイトしているレストランと同じ上品な匂いになった。 松島さんは、そんな上品な匂いとはまったく関わりがない様な、大声で「ジャムパンうめえ!詩織もジャムパンが好きだったなんて、俺たち気が合うんじゃない?。」 とジャムパンを頬張りながら、詩織が入れたコーヒーをがぶ飲みした。「せっかく詩織さんがレストランで使う上物のコーヒーを、わざわざサイフォンで入れたって言うのにこの男はがさつな・・・そう言うところが詩織さんの勘に触るのに、それがなぜ解らない?」と涼子は思いながら、いつもより丁寧にコーヒーをかき混ぜた。 朝食が終わりに近づいた頃、突然がさつな男がケダモノ目で、詩織と涼子を見た。涼子は「何で?突然」と思った。 がさつな男の目は、動物園で見た雄ライオンの目、そのものだった。 動物園と違って、涼子と雄ライオンと化した松島さんとの間には、鉄格子など何もなかった。涼子は「犯される・・・そして殺される。」と思った。そして「良次ならこの猛獣を毒殺してくれるはず。」と言う考えが涼子の頭をよぎった時、猛獣は詩織と涼子から視線を外し、出入り口の方角へ歩き出した。 ケダモノの目をした松島さんが、出入り口に辿り着いた時、ドアの外から「僕です。開けてください。」 と言う高梨の声が聞こえた。ケダモノの目をした松島さんは身動きする事無く、何かに耳を立てていた。 そこへ詩織が涼子とは対象的に平気な顔して「早く開けてあげたら、外寒いんだから。」 と言った。涼子が詩織を見ると詩織は、猛獣の調教師の様に頼もしく見えた。涼子は心の中で「助かった。」と安堵した。と当時に「馬鹿じゃない私。」と自らに突っ込みを入れた。 でも松島さんのケダモノの目は、限りなく本物のケダモノの目だった・・・はず。 つづく気が向いたら、押してね。
Dec 9, 2006
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管理事務所の中は、外と変わらないくらい冷え込んでいた。松島さんは「ちょっと待ってろ。」 と言って管理事務所の奥から、夏場に使うバーべキュウー用の炭を持ってきて、管理事務所の何年も使われていないぽい暖炉に、炭を入れて火をつけた。 涼子は、テキパキと仕事をこなす松島さんを、始めてみた。いつもは周りにいる武闘派の手下たちが、何かとやってくれていた。 もし、『海辺の街・最悪の世代』がなければ、松島さんはどんな高校生活を送っていたのだろか? 兄・ジョニーと良次の中学生的な子供じみた発想の元、催眠術や危険な麻薬入りの催眠誘導剤を使ってまで『海辺の街・最悪の世代』を起こさなければ、松島さんももっと違う高校生活を送っていたに違いない。 もともと海辺の街は悪そうな連中の少ない、静かな海辺の街に過ぎなかった。 兄・ジョニーとあほ良次のした事とは言え、涼子は多少罪悪感を感じた。 つづく気が向いたら、押してね。
Dec 4, 2006
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松島さんはキャンプ場の鍵を開けた。「何で、あんたがここの鍵持ってるの?。」 と詩織は聞いた。「昔、ここでバイトしてたから。」「返してないの?。」「返す理由はないだろ。」「あるわよ。常識でしょう。バイトが終わったらそう言う物は返すってのは。」「誰も返せとは言わなかった。」 と言って松島さんは、自分のキーホルダーに収まったままの鍵を詩織に示した。詩織は「あんたみたいな強面に、誰が意見を言えるって言うのよ。そのくらい解るでしょう。」 と詩織は強面の松島さんは叱った。 190センチ近い身長で、がっちりと筋肉が付けられた体の上に、1睨みで人で混雑した所でも道が開く強面の松島さんに、意見を言える人間は限られている。 中学の時から手に負えなくなった松島さんを、見放した両親は意見どころか、松島さんの存在すら無いかの様に振舞った。 教師も警察もただ仕事として事務的に松島さんに注意をするが、どこまで本気か疑わしかった。 この街で松島さんに親身に意見を言える人間と言ったら、ジョニーと詩織だけだった。 松島さんとジョニーの関係が崩れた状態の今、松島さんに親身になって意見を言える人間は詩織だけだった。 親身になって意見を言ってくれる存在。松島さんが最も欲してる存在。「松島さんはそんな存在の詩織を求め、そして恋に落ちた。」涼子はそう思いながら、2人の様子をにやけならが見つめた。 詩織に叱られた松島さんは「やれやれ。」と言う表情で、涼子を見た。涼子はその表情がどこか嬉しそうに見えた。つづくあなたの心に何か届いた時は、押してね。
Nov 29, 2006
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涼子は「試練、高梨に課せられた試練。詩織さんみたいな綺麗な人が試練に対する成功報酬なら、雪道だってお花畑に見えるよ。私だって好きな人が成功報酬なら、地獄の底だって世界記録で走り抜けてみせる。」と助手席でポテトチップスを食べながら、雑誌を読んでいる詩織を見ながら思った。 車が山道をくねくねと曲がった後、やっとキャンプ場の入り口に着いた。松島さんは車から巨大なペンチを取り出すと、キャンプ場の門の施錠を掻っ切った。詩織が「何でそんな物持ち歩いてんのよ?。」 と詩織が聞くと松島さんは「いるだろ。よく。」 と平然と答えた。 詩織と涼子はあきれた。 松島さんが駐車場に車を停め、泣き喚くエンジンを切ると、冬のキャンプ場は一気に静まり返った。「静かね。そして何より寒い。」 と詩織は言った。松島さんは「だったら、早くい行こうぜ。」 と言ってキャンプ場の管理事務所に向かった。 涼子と詩織も後に続いた。 涼子はキャンプ場の入り口を見たが、松島さんが課した試練を乗り越えて、大好きな詩織をめがけて走ってくる高梨の姿は、まだ無かった。 「試練。」と涼子は呟いた。 海辺の街・最悪の世代と涼子に課せられた試練は、まだ何も解決していない。「今は逃げてばかりだけど・・・いずれ攻勢に出てやる。」と涼子は決心した。 つづく良かったら、押してね。
Nov 25, 2006
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松島さんはそれを打ち消すかのように、無駄にでかい音のエンジンをかけた。何かを察した高梨は、慌ててカートを押して走り出し、車のトランクに向かった。その後姿を、詩織は苦笑いしながら見つめた。松島さんは、悪そうににやけていた。涼子は「松島さん、たち悪い。」 と言った。松島さんは「いいじゃん、このくらいしたって。」 と言う松島さんを横目に、詩織は「ばーか。」と言う口の動きをさせながら、カートを押しながら、松島さんの横を通り過ぎて、トランクに食料を運び入れた。 トランクに食料を入れ終わると、高梨が2台のカートを店に返しに走った。 松島さんは詩織が乗り込んだのを確認すると、高梨を乗せずに車を発車させた。それに気づいた高梨は慌てて店から駆けてきた。 涼子が「松島さん大人気ない。ねえ、詩織さん。」 と言って詩織に同意を求めた。すると詩織が「いいんじゃない。どこまで付いて来れるか試して見るのも。」 と言った。涼子は「詩織さんまで・・・。」 と言った。詩織の同意を得た松島さんは、かまわずアクセスを踏んだ。 高梨は1キロ近く走らされた。そして、高梨の走る様子に飽きた松島さんは、一気にアクセルを踏み高梨を引き離した。 涼子は後方に遠ざかって行く高梨を見ながら「ちょっと!松島さん。」 と抗議をしたが松島さんは「行き先はあいつも知ってるんだ。そのうち来るさ。試練さ、試練。奴に課せられた乗り越えるべき試練。」 と言って車を止めようとはしなかった。詩織も「大丈夫よ。」 とだけ言って、スーパーで買ってきた雑誌のページを捲った。涼子は「もうー。」 とだけ言って、すでに遥か彼方にいる高梨を見送った。 つづく良かったら、押してね。
Nov 24, 2006
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詩織と高梨が海岸線沿いの、スーパーで食料を買いに言っている間、駐車場で松島さんが「あの2人、できてんのかな?。仲いいよね。」 と言った。涼子は「そお?。」 と心無く答えた。松島さんは「あいつら同じレストランでバイトしてるだろ。だからさそれでいい感じになったりして・・・。」「まさか。」 と涼子は言ってみたが、学校では見せない高梨の表情は気になっていた。片意地が張ってないと言うか、そんな表情。 スーパーの出口から、詩織と高梨がスーパーのカートを、押しながら出てきた。 高梨が何かをボケたのだろうか?高梨のおでこを詩織が軽く叩いた。 高梨の顔から笑顔がこぼれた。 空から振り出した小雪が、詩織と高梨の様子を美しく演出をした。 つづく心に何かが届いたら、押してね。
Nov 21, 2006
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海辺の街・最悪の世代の暴走と、松島さんが鳴らした勝利のクラクション・・・が涼子の心に虚しさをもたらした。 涼子を逃がすためにやってくれたと言う事は解っていても、その虚しさを自分の心から、突き放す事は出来なかった。・・・何が『海辺の街・最悪の世代』よ。仲間の苦悩1つ取り除いてあげる事も出来ないで、ただの無力な少年の集まりに過ぎないじゃない。小さな街でいきりたって騒いだところで、何が変わると言うの?お兄ちゃんの心が元に戻るとでも言うの?。馬鹿げてる・・・無力な少年たちが騒いでるだけなんて・・・ 無駄にでかいエンジン音を出す車は、市街地を抜け海岸線を走り出した。 冬の海は荒れていた。 冬の海をさびしげに見つめる涼子を心配して、高梨が声をかけようとしたが、いい言葉が見つからず、声を掛ける事は出来なかった。 つづく心に何かが届いた時は、押してね。
Nov 20, 2006
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冬の海が見え始める頃、どこからともなくバイクのエンジン音が聞こえ始めた。そして、車が海岸通りを走り始めると、前方に3台のバイクが見えてきた。松島さんは「5分未満。」 と言って誇らしげに詩織に視線を投げかけた。詩織は「ただの暇なだけじゃない。こんな雪の日に朝からバイクで集まるなんて。」 と言ったが、松島さんの誇らしげな微笑みは崩れなかった。 松島さんは、3台のバイクに手で挨拶をすると、後方の追跡車を指し示した。3台のバイクは、追跡車の周りにまとわり付き、進路の妨害を始めた。追跡者の車内から「どけ!ガキども!。」 と怒声が上がった。 松島さんの車がビーチを通り過ぎる頃には、バイクの数は数10台に達し、涼子たちを乗せた車は、簡単に追跡車の追跡から逃れる事が出来た。 松島さんは勝利のクラクションを軽く鳴らすと、用心のため一旦市街地に入り、尾行が無いか確認した上で、冬のキャンプ場へ向かった。 つづく良かったら押してね。
Nov 19, 2006
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詩織に「涼子ちゃんと高梨は後ろに乗って。」 と言われ、高梨と共に松島さんの車の後部座席に乗り込んだ。「まさか、詩織さんまで私と高梨を二人きりに?。」と言う思いが浮かんだが、松島さんの無駄にでかいエンジン音を出す車の、エンジン音にかき消された。 松島さんが「どこまで?。」 と詩織は「キャンプ場。」 と答えた。「キャンプ場?冬は閉まってんじゃないか?」「だからいいのよ。」「なあ、俺にも少しぐらい事情を教えてくれよ。一体涼子ちゃんは誰に狙われてるんだ?。俺にだって知る権利は在ると思うぜ。こうやって俺の車に乗ってるわけだし。知ってんだろ。詩織。」 と詩織に聞いた。詩織は「呼び捨てしないで。」 と言った。松島さんは「俺、なんか悪い事したか?。」 と詩織に聞いた。詩織は「何も・・・単なる意好き嫌いの問題だから気にしないで。」 と答えた。松島さんは「それが一番傷つく。」 と言ってため息をついた。 道は雪は解け始めていたが、まだだいぶ積もっていた。タイヤにチェーンを付けていない松島さんの車は、かなり速度を落として進んだ。 車は海辺の街の中心部の駅通りを抜けるて、海岸線に向かう道をまっすぐ走った。 涼子が何気に窓の外を見ていると、対向車線の車の運転手と目が合った。「あっ!。」 と涼子は声を上げて頭を伏せた。横に座っていた高梨が「どうしたの?。」 と聞くと、涼子は「あいつらだ。」 と言った。対向車線を走っていた車は、道をUターンしてこちらに向かってきた。詩織は「急いで!。」 と松島さんに言った。松島さんは凍結した道でスピードを上げた。 チェーンを付けた追跡車は徐々に、距離を縮めてきた。松島さんはバックミラーを見ながら「良次!どうにかしろ。何か策をさっさと考えろ!」 と高梨に向かって言った。車内の詩織と涼子と高梨は『え?。』と言う表情で松島さんを見返した。松島さんは「間違えた・・・高梨だった。」 松島さんの恐持ての顔に少し照れがでた。そして「・・・あっそうだ。高梨、ジョニー一味を5分後にバイクに乗ってビーチ前で待機させろ!俺の車の後ろを走る車を妨害しろ!と伝えろ。」 と高梨に命じた。高梨「5分後?道路が凍結してるのにバイクで5分後ですか?。」 と言った。松島さんは「俺たちはそこいらのチンピラとは訳が違う。県警本部長に『海辺の街・最悪の世代』と言わしめたほんまもんの悪だ。のろのろしてねえで、さっさと集めろ!。」 と言った。松島さんに言われて高梨は急いで、携帯で松島さんの命令をジョニー一味に伝えた。つづく良かったら押してね。
Nov 18, 2006
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涼子の瞳から涙が零れ落ちそうになった時、詩織が「涼子ちゃん行くよ。」 と言って涼子を引き離した。 これからと言う時に・・・涼子は中途半端な気持ちのまま、詩織の胸から引き離された。 詩織は「とりあえずここは危ない。安全な場所へ移りましょう。」 と言った。そして涼子の隣に座っていたジョニーを見て「あなたがしっかりしないから。」 と言ってジョニーの頭を軽く叩くと、ジョニーは苦笑いを浮かべた。 詩織は「涼子ちゃん連れて行くけど、良次の件であなたもも狙われるかも知れないけど、大丈夫?。」 とジョニーに聞いた。ジョニーは「俺を誰だと思ってる?。」 と威勢を張った。詩織は微笑を浮かべるとジョニーの肩に手を置いた。 ジョニーは詩織に「ありがとう。」 と小声で言った。詩織とジョニーは一瞬目を合わした後、高梨に「高梨、行くよ。」 と命じた。 外に出るともう雪は止んでいた。 上がりつつある太陽の光が白い雪に反射して眩しかった。 アパートの建物の外に出てると、まだ松島さんの無駄にでかいエンジン音を出す車が停まっていた。車内には松島さんがじっと待っていた。 車体に積もった雪が一晩中ここにいた事を物語っていた。 涼子は松島さんの車を見て、温かいココアを持っていくのを忘れている事に気づいた。 涼子は「恩義に薄い女。」と自戒した。 つづく良かったら押してね。
Nov 17, 2006
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「大変だったね。」と言う詩織の言葉に、涼子は初めて自分が置かれていた状況が大変な状況だと言う事に気づいた。 兄・ジョニーが少年院に帰って、良次が行方をくらました後、ジョニーが躁鬱状態に陥った。それまでうるさい位いたジョニーの仲間たちも、徐々にジョニーを避け始めた。誰も来なくなった。 涼子は一人、躁鬱を繰り返すジョニーの対応にあたった。 長距離トラックの運転手が帰ってく事も無く、ただ一人状況を変えようと悪戦苦闘を繰り返した。「良次を連れ戻せば、何とかなるかも知れない。」と思って良次の家に行くと、怪しい連中に拉致されるし、そいつらから逃げるために、雪の山道を裸足で逃げ回らなければならなかった。 涼子は詩織の胸の中で、涙があふれそうになった。 詩織が「涼子ちゃんごめんね。もうちょっと早く、涼子ちゃんの手助けをしてあげられれば良かったんだけど。私が大人気なかったね。」 と言って、自分が愛した良次が心を寄せてしまった涼子を抱きしめた。 詩織は「涼子がいなければ、良次と別れることは無かったのに・・・」と良次と別れた直後は、街で涼子と会っても直視することすら出来なかった。 涼子に罪は無い事ぐらい十分に解っていたのに。 詩織は「ごめんね。」 と再び言った。 つづく良かったら押してね。
Nov 16, 2006
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ジョニーとは対象的に、高梨はさっと我に返って、自分に課せられた涼子のボディーガードと言う使命を思い出した。 そして、自らの懐に手を突っ込んで拳銃らしきものを取り出した。 その瞬間、涼子の背筋に拳銃の持つ冷たさと凶暴性が伝わって鳥肌がたった。 涼子の驚きに気づいた高梨は、素早く拳銃を懐に閉まって、涼子を一目見た後、再び玄関に向かった。その慌てようからその拳銃が本物である事を涼子は悟った。「良次だ・・・良次が持たせたんだ。怪しい連中と付き合いのある良次なら、拳銃ぐらい簡単に手に入れられるに違いない。高梨は・・・高梨は普通の高校生なのに・・・あんな物持たせて。」涼子の胸に、良次に対する怒りがこみ上げてきた。 その時、ドアの向こうから「涼子ちゃん開けて!。」 と言う女の声が聞こえた。高梨が鍵を解いてドアを開けると、拳銃の冷たさや凶暴性とは対照的な顔した詩織の姿が見えた。 詩織は高梨の肩に手をかけ「お疲れ。」 と言ってリビングに入ってきた。そして涼子に「大変だったね。」 と声をかけ涼子を軽く抱きしめた。「大変だったね?・・・そう大変だったんだ。」詩織が涼子の頭をそっと撫でてくれた。すると涼子の心と体から、疲れがやっと抜け落ちていった。つづく良かったら押してね。
Nov 15, 2006
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事の重大さに、やっと気づいた高梨は恐怖に震えた。 涼子は呆然と立ち尽くす兄・ジョニーに向かって。「お兄ちゃん、あのあれ、良次がね。私のボディーガードを高梨君に頼んだのね・・・だから変な事は何もないのよ。」 と弁明した。 放心状態のジョニーは涼子の言葉は届かなかった。ジョニーは「いずれこんな日が来る事は予期してた・・・。」 と涼子と高梨の関係を誤解したまま言った。そして数秒間・・・数分間かも知れない時間、ジョニーは放心状態のまま涼子と高梨を見つめた。 そして「まあ、どうぞ。」 と放心状態のジョニーは、高梨如きに丁寧に言った。 恐怖で現状認識が出来なくなった高梨は「うけとまわりませた。」 と言うとジョニーに言われたとおりに、部屋に入った。 放心状態に陥ったジョニーと、恐怖に怯えて現状の認識が出来なくなった高梨は、魂を抜かれたかの様にリビングに向かって歩いていった。 そして、亡霊に引きずり込まれるかのように、ソファーに座らされた涼子は、魂を抜かれた二人に挟まれて、夜が更けるまで古い映画を見続けた。 映画の内容は?・・・途中で寝てしまったのか、内容はよく覚えてない・・・ただ兄・ジョニーが涼子の手を握り今生の別れかの様に、大泣きをした。それにつられて高梨までも泣いた。 朝、玄関のドアを叩く音で、3人は目覚めた。「叩けよ、さらば開かれん。」 と、まだ放心状態から抜けきれないジョニーは、呟く様に言った。 つづく良かったら押してね。
Nov 14, 2006
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涼子が玄関の扉を開けると、目の前に兄のジョニーが立っていた。涼子は慌てて「わっ!。」 と声を上げた。兄は「『わっ!。』じゃねえよ。今何時だと思ってんだ!。もう12時回ってんだぞ!。」 と言うと、涼子の背後に隠れるようにしている高梨を発見した。そして「高梨?。」 と言って戸惑った表情を見せた。 片親の父親が長距離トラックの運転手をしているため、涼子が幼い頃からほとんど家にはいなかった涼子に取って、兄・ジョニーは父であり母で兄であった。 幼いときから朝早く起きて朝ごはんをちゃんと作ってくれたし、教師の家庭訪問や三者面談にも兄・ジョニーが対応してくれた。 兄・ジョニーが良次とくるんでグレた時も、涼子に対しては父であり母であり兄で続けてくれた。 それほどまでに大切に育てた、まだ高校1年の妹が初めて男を家に連れてきた。それも深夜12時を回った時間に、さらにやばかったのは涼子の服装だ。旅館の泥にまみれた浴衣にスリッパ、そして男物のセーター。 海辺の街・最悪の世代のリーダー・ジョニーはただ呆然と立ち尽くした。 つづく良かったら押してね。
Nov 13, 2006
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涼子はアパートの古びた階段を上りながら、数日前の出来事を思い返した。 数日前、涼子が音楽室の掃除を終え、音楽室を出ようとすると、突然扉が閉まり、外から鍵を掛けられた。涼子が「えっ!」 と声を出して扉の隣にある窓を見ると、女子の集団が嬉しそうにこちらを見ていた。 その時、高梨が音楽準備室から出てきた。音楽室にはすでに涼子と高梨以外の人間はいなかった。 閉じ込められた。二人きりで・・・ 涼子はため息をつきながら「もうやめてよ。」 と窓からこちらを観察している女子の集団に向かって言った。窓の外からさち子が「チャンス、チャンス。」 と言って涼子をせかした。涼子には高梨の表情を確認する余裕すらなかった。 音楽室に、掃除の時間の終わりと授業の始まりを告げる、ショパンが流れ始めた。 涼子の背後で高梨が「困ったね。」 と良次の様に冷めた口調で言った。良次に憧れている高梨は、たまに良次のようなしゃべり方をする。 授業が始まる時間が訪れると、廊下の女子の集団は解散して、涼子と高梨は解放された。 涼子は「『困ったね。』どういう意味だろう?高梨は私のことどう思ってるのだろう?。」 と自宅がある3階のフロアに着いたとき、ふと思った。 つづく
Nov 11, 2006
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アパートの階段を上りながら高梨が「さっきはありがとう。かばってくれて。」 と言った。涼子は「うん。」 とだけ言った。 涼子と高梨が付き合ってると言う噂が、クラスでたった以降、涼子はどうしても高梨を意識しないように心がけたが、どうしても意識してしまった。 今だって心臓が激しく高鳴ってる。「何で?。高梨君の事なんかなんとも思ってないはずなのに。」と涼子は思った。「あっ!」 と涼子は声を上げた。高梨は「どうかした?。」 と聞いた。涼子は「うんん、なんでもない。」と答えたが、涼子は「このまま行くと高梨くんは今日、私の家に泊まる気だ。ボディーガードす ると言うことはそういうことだし、ジョニーがいるから何も出来ないとは思うけど・・・ジョニ ー一味の男たちが家に泊まることには慣れてはいたけど・・・この胸の鼓動が高まったままで私 は大丈夫?。」と涼子は思った。 暗い階段を並んで歩いている内に、高梨の手が涼子に当たった。涼子はすばやく手を引っ込めた。 こんなに胸と高鳴らせながら、このアパートの階段を登ったのは初めてだ。「今夜は私とジョニーと高梨君の3人だけ・・・・・どうしよう。」と涼子は思った。つづく
Nov 9, 2006
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涼子が「高梨君は何も知らないと思うよ。良次は何でもぺらぺらとしゃべる方じゃないし・・・。」 と言うと、松島さんはため息をついて、高梨を軽く突き飛ばして解放した。 涼子は、無駄にでかいエンジン音がする車から降りると、高梨と並んでアパートに向かった。 背後で松島さんが車のドアを、力任せに閉める大きな音が聞こえた。 その音で高梨はびくついた。 そしてそれまで近所に響いていた、無駄にでかいエンジン音の音が消えた。涼子が振り向くと、松島さんはエンジンを切った車の中でハンドルに持たれながら、じっと何かを考えていた。 高梨が「ずっとあそこにいる気かな?。」 と涼子に聞いた。 「いる気だ。」と涼子は心の中で呟いた。涼子が誰かに狙われていると知った以上、松島さんが知らぬ顔で帰れるはずはない。松島さんはそういう人だ。 躁鬱状態のジョニーから逃げてしまった松島さんが、あまりジョニーと関わりがなかった高梨の様に簡単にジョニーの住む部屋に近づくことはできなかった。 松島さんに出来る事は、車の中でじっとうな垂れる事だけだった。 空から降る雪が、松島さんの車の車体に少しずつ積もり始めた。 涼子は「あったかいココアでも持って行ってあげよう。」 と言った。 つづく
Nov 8, 2006
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高梨タモツ、普段は良次に金魚の糞の様に着いて回っている、ジョニー一味の穏健派の一人だ。 哺乳類かどうかも疑わしい、武闘派の連中と違って、学校にも毎日通い何でジョニー一味にいるのが不思議なくらい、まじめな少年だ。 涼子に取って面倒なのは、涼子と高梨が付き合ってるんじゃないかと言う噂だ。 高梨は涼子と同じ高校の同じクラスで席も隣だった。 結構、人気のある高梨との噂は「悪い気はしない。」が付き合ってもいないのに、そういう噂がたつ事は「気に入らない。」 その噂のせいで、好きでもない高梨の事が妙に気になってしまう。 そんな存在にボディーガードなんてされたら、気が気でない。 吹雪の中、走ってくる高梨の存在に気づいた松島さんは「高梨?。」 と呟いて窓を開けた。そして「高梨、どうした?。」 と高梨に話しかけた。松島さんにびびり気味の高梨は「良次さんに、涼子さんのボディーガードをするように言われて・・・。」 と言った。「涼子ちゃんのボディーガード。」 と言って、松島さんは不可解な表情をして後部座席に座る涼子を見た。そして「涼子ちゃん誰かに狙われてるのか?。」 と言った。 良次に今日の事は誰にも言うな口止めされていた涼子は、首をかしげてとぼけた。 涼子から何も聞き出せない事に気づいた松島さんは、車から降り高梨をつかんで「どういう事だ?。」 と言って脅した。完全に硬直した高梨は「僕は何も聞いてはいません・・・。」 と怯えながら答えた。松島さんは「良次にはお前が言った事は言わないから。」 と言った。高梨は「僕はただ、涼子さんのボディーガードをしろと言われただけで。」 と言った。 つづく
Nov 2, 2006
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松島さんは何も口を利かず、じっと運転を続けた。 良次は窓から降る雪を、じっと見つめていた。 ジョニーの沈黙が2人の少年の沈黙を招いた。 何らかの解決方法があるのか?時間が解決してくれるのか?このまま沈黙が続くのか? それは事情を知る涼子にも解らなかった。 無駄にでかいエンジン音を出す車は、怪音を響かせながら山道を抜け、海辺の街の入り口を示す橋を渡った。 海辺の街では雪が吹雪いていた。 車が橋を渡り終えると、良次が涼子の腕をつついた。涼子が良次を見ると良次はメモを渡した。そして「俺はここで。」 と松島さんに言った。松島さんは何も言わずに車を止めた。良次は「それじゃあ。」 と言って涼子を一目見ると、車を降りて吹雪の中を街外れの川上の方へ歩いていった。 松島さんは「あいつの家、あっちだった?。」 と涼子に聞いた。涼子は「うんん。」 と言いながら首を振った。松島さんは「・・・だろ。」 と言って吹雪の中に消えていく良次を一目見た。涼子は「いろいろあるんじゃない。良次には。」 と言った。松島さんは気に入らないそぶりのまま、アクセルを踏んで車を走らせた。 涼子は良次から手渡されたメモを、街灯を頼りに見た。 メモには3日後に薬が出来上がる事。その間、高梨が涼子のボディーガードに着く事。良次の携帯には連絡をしない事。連絡は高梨経由でする事。などか事務的に書かれていた。 涼子は「高梨が私のボディーガード・・・また面倒な奴が。」と思った。 良次が裏切ったあの老人の手下達が、自分にまで危害を加えるのだろうか?私の居場所や名前を彼らは調べる事が出来るのだろうか? と涼子は思考に耽った。「あっ。」 と涼子は思わず声を上げた。松島さんが「どうした?。」 と聞いた。涼子は「なんでもない。」 と答えた。涼子は「しまった!携帯あの旅館に忘れてきた。」と思いながら、心配そうにバックミラー越しに眺める松島さんに笑顔を送った。 車が涼子のアパートの前に着くと、高梨がアパートの前から走ってきた。涼子は「面倒な奴が。」 と呟いた。 つづく
Oct 21, 2006
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涼子が夜空を見上げると、暗闇から冷たい雪が次から次へと降ってきた。止む気配はまったくなかった。 寒空の中、良次と松島さんも、睨み合いを止める気配はまったくなかった。 涼子は「寒い。」 と言うと、松島さんの車に向かって、とぼとぼと歩き出した。睨み合いを続ける良次と松島さんは微動だにしなかった。 涼子が松島さんの車のドアを閉めた音がした直後、無駄にでかい車のエンジン音が静かな雪降る森の中に響き渡った。 松島さんは「涼子ちゃん!何やってるの。」 と言って慌てて自分の車に走り寄った。涼子は構わずアクセルを踏んだ。車は滑りやすい山の雪道を走り出した。 松島さんは悲鳴にも似た声で「涼子ちゃん止めろ!。」 と叫んだ。松島さんらしからぬ声に、良次は笑った。松島さんのらしからぬ声の「涼子ちゃんお願いだから停めて。」 と言う声に涼子は車の窓を開けた。そして「乗りな!。」 と強気に言った。松島さんは「乗るから、取りあえず停めてくれ。」 と嘆願した。涼子は「良次も乗れ!。」 と言うと、松島さんは地獄から響いてくる様な恐ろしい声で、良次に「良次!乗れ!乗らんと殺すぞ!。」 と叫んだ。良次はあからさまな殺意を感じた。そして「こんな所で殺されてたまるか。」 と呟いて急いで車の後部座席に乗り込んだ。 良次が乗り込んだ事を確認すると、涼子は車を止め運転席を松島さんに譲り、後部座席の良次の隣に乗り込んだ。 松島さんは運転席に座ると、安堵のため息をついた。 涼子は「さっ、お家に帰ろう。」 と明るく言った。 つづく
Oct 8, 2006
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涼子と良次の二人は、松島さんの無駄にでかいエンジン音を出す車のライトに照らされた。久しぶりに見る光は、やたら眩しかった。 松島さんは車から降りるて、ドアを叩きつける様に閉めると、旅館の泥まみれの浴衣にスリッパを履き、セーターを着た眉毛の無い涼子を見ると、「良次!お前!涼子ちゃんに何をした!。」 と怒鳴りながら良次の胸倉を掴んだ。 涼子は慌てて松島さんと良次の間に割って入って、良次の胸倉を掴む良次の二周りは太い筋肉に包まれた松島さんの腕を掴んだ。そして「松島さん待って。」 と叫んだ。松島さんは涼子を生まれて初めて睨み付けた。 身長が190cm近くある松島さんから、見下ろされるように睨みつけられると、涼子は足がすくんだ。 強く力を込められた松島さんの腕は、今にも良次をこの世から消してしまいそうな程、凶暴さを感じた。 松島さんはその腕にさらに力を込めた。涼子もさらに力を込めて松島さんの腕を握った。 松島さんは涼子から良次に視線を移すと「説明してもらおうか?。」 と攻撃的な声で良次に言った。良次は間をおいて深呼吸をした。そして「説明はできない。」 と言った。松島さんは「何!。」 と聞き返した。良次は「何も説明はできない。涼子ちゃんの件に関しても、ジョニーの件に関しても。」 と言った。松島さんは「俺たちがどんな思いでいたか、お前に分かるのか?。」 と怒鳴った。松島さんの怒りが身体が伝わり、良次を叩き潰そうと動こうとした瞬間、涼子は「松島さん!。」 と再び叫んだ。その言葉に一瞬躊躇した松島さんの身体は、良次を殴ることはせず、ただ突き飛ばした。 良次の身体は道路脇の藪の中に突っ込んだ。 松島さんは怒りで息を荒げながら、良次を見下ろした。涼子は良次に駆け寄り「大丈夫?。」 と言って手を差し伸べた。良次は「なんとか。」 と言った。 松島さんは良次を睨み続けていた。 良次は涼子が差し伸べた手を握ることは無く、一人で立ち上がった。そして良次も松島さんを睨み付けた。 涼子は何もすることも出来ず、ただ立ち尽くしていた。 身動きを取ろうとしない3人頭上から、静かに小雪が降り出して、それぞれの肩と頭に冷たい雪が積もり続けた。 つづく
Oct 1, 2006
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降り積もった雪が、この世界の音のすべてを吸い込んでしまったかの様に、辺りは静まり返っていた。 「この件が終わったら、ジョニーに会いに行くよ。僕とジョニーを会わせる為に、涼子ちゃんはわ ざわざ僕を探しに来てくれた訳だし。」「迷惑だった?。」「かなり迷惑。」「正直ね。」「ところでジョニーの様子はどう?。」「前より口数は減ったけど、それ以外は変わらない。」「そう・・・。」 と良次が言ったきり会話は途絶えた。 ジョニーの問題は深刻だ。今、ジョニーが何を思っているのか、誰にも想像もつかなかった。・・・僕の仇を討って少年院に入れられたのに、『海辺の街・最悪の世代』で一人だけ迎えにも行かなかった。そして一目も会うこともなく、行方をくらました。ジョニーにしてみれば許しがたい相手だ。僕は・・・ 「気が重い。」 と良次はつぶやいた。 それは涼子にしても同じことだった。 躁鬱状態に陥ったジョニーと、距離を置かざる得なかった松島さんや『海辺の街・最悪の世代』にとっても気が重い問題だった。 ジョニーの事を「無二の親友」と言っていた松島さんにとって、結果的にジョニーを見捨てた形になった自分の行為は、自分自身の信条からも許しがたい行為だったはずだ。 そしてその原因を作った良次を、許すはずはなかった。 遥か遠くから、無駄にでかい車のエンジン音が聞こえた。 良次は再び「気が重い。」 とつぶやいた。 つづく
Sep 18, 2006
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良次は涼子の手を握った。涼子は「何?。」 と聞いた。良次は「暗くて歩けないだろ。」 と言った。涼子は「どこかに行くの?松島さんがそこにいろって言ったのに。」 と言った。良次は「道路に出るだけだよ。」 と突き放すように言って、涼子の手を引っ張って歩き出した。「松島さん呼んだ事、怒ってる?。」 と涼子は聞いた。良次は「別に。」 と言った。涼子は良次に引っ張られながら「怒ってる。」 と呟くように言った。 涼子と良次が20分ぐらい山を下ると、車道らしき道に突き当たった。車道と言っても街灯も無く、車一台がやっと通れる程度の道だった。 車道には雪がかなり降り積もっていた。 光が無いはずの暗闇の中、車道に積もった白い雪が微かに光を放っているように見えた。 涼子と良次は車道の脇に腰掛、わずかな光を放つ雪をじっと見続けた。 つづく
Sep 16, 2006
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良次は「この僕を脅すなんて、世が世なら君を殺していたかも知れない。」 と言った。涼子は「えっ?。」 と聞き返した。良次は「ほんの冗談だよ。」 と言った。涼子には冗談には聞こえなかった。「世が世なら・・・ありえない話じゃないかも。秘密を守る為なら少女の一人や二人。」と涼子は 思った。涼子は気を取り直して「で、松島さんを呼ぶの呼ばないの?。」 とあえて強気で言った。「呼ぶよ。涼子ちゃんにしゃべられたら、松島さんの心証をさらに悪くする。金と権力のある人間 にしか薬を売らない薬屋なんて、松島さんの最も嫌いな人種だからね。」 と良次の声が聞こえたと思うと、真冬の森の暗闇の中で、携帯の光に照らされた良次の顔が現れた。涼子は驚いて「わっ!。」 と声を上げた。良次は一目、涼子を見ただけで何も言わなかった。 松島さん相手に、それどころではないらしい。 携帯電話が繋がると同時に、携帯電話から松島さんの低い声が聞こえた。「良次か、今どこにいる?。」 と涼子にも解るほど、松島さんの声は怒りに満ちていた。良次は「あの、今、山の中に・・・。」 と緊張しきった声で答えた。松島さんは「山の中?。」 と聞き返した。良次は「いまGPSで居場所を送ります。」 と言って、良次は携帯を操作した。松島さんはデータを確認すると「そこにいろ!すぐ行く。」 と言って松島さんは電話を切った。 携帯の光に照らされた良次の表情は、明らかに怯えていた。涼子は「そんなに怖がる事ないでしょう。旅館での勢いはどうしたのよ?。まるで別人よ。あの旅館の人 達に比べたら、松島さんなんてチンピラでしょう。」 と言った。良次は「人間のやくざを前にした時の怖さと、虎の様な獣を前にした時の怖さは別物だ。」 と言って携帯を閉じた。 再び、辺りは暗闇につつまれた。「松島さんは、特にジョニーを裏切った奴を絶対許さない。」 と言う良次のつぶやく声が、暗闇の中から聞こえてきた。 つづく
Sep 14, 2006
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涼子が「叫ばなくても・・・。」 と言うと良次は「涼子ちゃんは乱闘に参加した事が無いから、解らないだろうけど松島さんは10人20人ぐらいなら、ばったばった倒していくんだよ。アレは人間じゃない。」 と言った。涼子は「でも松島さんは根はいい人だよ。」 と言った。良次は「利害で動かない善人の方が、利害で動く悪人より危険だ。松島さんはジョニーが少年院を出所し たにも関わらず、俺が迎えにも行かずに行方をくらました事を、今でも怒ってる。多分、あいつ の中では完全な裏切り者だよ。俺は。大体、ジョニーもジョニーだよ。誰も仇を討ってくれなん て事、言った覚えが無いし、むしろ俺は止めたんだよ。それを勝手に仇を討って少年院に入って 俺に恩を着せたつもりか?俺は恩とか義理人情とか大嫌いだ。それにあいつらが暴れれ度に、警 察やらやくざやらに手をうって、後始末をやってるのは誰だと思ってるんだ・・・。」 と良次は普段たまった不満を言い続けようとしたが、涼子は「解ったから。みんな良次には感謝してるって。」 と言った。良次は「松島さんの怒りは収まってない。」 と言った。涼子は「説明すれば解ってくれるよ。」 と言った。良次は「説明?この国の黒幕みたいな奴から逃げ回ってたと?誰が信じる?それに今の涼子ちゃんの格好 も松島さんにどう説明する?泥が付いた旅館の浴衣と男物のセーター。ジョニーの可愛い妹の涼 子ちゃんのその側には裏切り者の良次が・・・見ただけで奴は本能的に凶暴さを俺にぶつけてく るよ。」「大丈夫だって、良次が思っている以上に松島さんは大人よ。事情を知れば松島さんだって。」 と言った。良次は「あっ・・・今日、遭った事は誰にも言わないで。」 と突然冷静な口調で言った。涼子は「どうして?。」 と聞いた。良次は「僕の商売はあまり表ざたにはしたくない。だって金持ちにしか売らない薬やって世間体は良くな いだろ。」 と言った。涼子は「解った。誰にも言わない。その代わり松島さんの車呼んでいい?。」 と聞いた。良次は低い声で「僕を脅す気?。」 と言った。涼子はその声に少し怖くなって和らげる気で「脅すなんて・・・ほんの口止め料代わりだって・・・。だから松島さん呼んで、私の携帯、旅館 においてきたみたいだから。」 と言った。 良次の返事はなかなか返っては来なかった。 つづく
Sep 8, 2006
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