2002年08月18日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 いつもなら、盛岡から青森までは、国道4号線を走っていく。秋の田園風景も、のどかで風情がある。だが180キロも延々と続く道は、退屈するほど遠い。市街地を走る道は、混雑することはあっても、楽しめることはない。
 それでも、いつもなら、そんな走り慣れた道を行く。

 だが、あまりにも秋が深い。秋の色を逃すことが、惜しい。そう思って、盛岡からのルートを、八幡平越えのほうに変更してみた。
 ところが、松尾村に入ったとたんに、早くも後悔の気持ちが押し寄せてきた。まだいくらも走っていないのに、馴れない道は、早くも“遠い”という印象で、車ごと私を包んでしまったのである。
 だが引き返したくはない。
 そのまま山越えを、強行することにした。例によって、宿を決めてあるわけではない。気の向くままに車を走らせて、手頃な宿が見つかれば、利用するのである。
 10月中旬の秋の山は、昼でも風が乾いて涼しかった。夜になれば、相当冷え込むことだろう。防寒具は、いつもスリーシーズン用のシュラフ1枚を積んでいる。車内なら、その1枚だけで、冷気を凌げるはずである。
 そう決めつけて、改めて気持ちを奮い立たせて、カーブが続く山岳道路を、這い上り始めた。途中には、廃墟になった鉱山があるくらいで、見るべきものはない。高度を上げるに連れて、立ち枯れた白木が目立ち始める。残っている針葉樹たちも、サルオガセの衣を纏い、冬の厳しさを待ちかまえているようにも見える。
 11月下旬までは、あと1ヶ月と少し。その頃には、風が雪を運んできて、この道は通れなくなっていることだろう。


 完全に広葉樹林の中の、林のトンネルを走るだけの道になる。
 ところが、この広葉樹林の道が、息をのむほどの、黄葉の世界だった。ブナやクルミが多いのだろうか。どこまで走っても、何時間走っても、紅葉のトンネルを抜け出せないほどの、見事な黄色の世界が続いた。
 その空も見えないほどの林の中を、3時間以上も走っただろうか。夕暮れとともに、暗さが増し始めていた。だが日没後も道路を照らすような黄葉が、自分から光を発するような不思議さで、暗さを感じさせない。これほどの紅葉があるだろうか。
 目の奥が、黄色に染まったような気持ちだった。

 ぽつんと、林の奥に、明かりが見えた。人家の明かりが見えるということは、紅葉の明るさに紛らわされていたが、着実に夜が迫っているということだった。
 その明かりの主は、小さい1軒の宿だった。泊まれるかどうかを確認するには、程良い時間になっている。
 宿は、こんな山奥から飛びだしてきた不審人物さえも、気軽に迎え入れてくれた。簡単に泊まれることになったのである。

 案内された部屋が、変な色に見えた。部屋全体が黄色に見える。ふと思いついて、自分のカメラバッグを見直してみる。やはり黄色に見える。
 そんなはずはない。
 目を閉じてみた。
 瞼が黄色い。目を閉じると、全身から黄色のエッセンスが飛びだして、部屋を染めているように思われた。


 不思議な感覚だった。
 天地左右のどこまでも、黄色一色に包まれた道を、走り続けたことはなかった。いずれまた、あの道を走ってみたい。あの感覚を、再び味わってみたい。そう思いながら、そのチャンスを作り損ねている。

 あの日の強烈な印象は、30年を経た今も、鮮やかに残っている。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2002年08月19日 08時42分07秒


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: