PR
「 ケンちゃん、お父さんの体の調子はどう?」
ケンちゃんのお父さんは高校の先生である。
そしてケンちゃんも高校の先生をやっている。
お父さんは、癌を患っていた。
胃の摘出手術も受けていた。
「 うん、そのことなんだけどね・・・。
親父、5月に、亡くなった。
でもね、本当に頑張ったと思う。 癌が発覚してから、3年。
あの人は本当に頑張った。
去年の9月ごろ、もう声もろくに出ない状態なのに、
仕事してた。 先生やってた。
『 進路指導、生徒の進路指導しないと!』って、
11月まで、必死で先生やってた。
本当にすごい人だった。」
僕たちは全員、言葉を失った。
僕たちは、10年前、大学の卒業旅行として、
僕とケンちゃんの地元広島を旅した。
ケンちゃんの実家に2泊、僕の実家に1泊した。
ケンちゃんの実家での滞在。
お父さんと酒を飲みながら、いろんな話をした。
みんな、あの日のことを考えていたに違いない。
こみ上げてくる。
あの日のことと共に、涙がこみ上げてくる。
でも、涙を流すわけにはいかなかった。
お父さんのことを、涙をこらえながら、
凛とした顔で話すケンちゃんの前では。
「 ケンちゃん、みんなでケンちゃんの実家にお邪魔した日。
あの時、お父さんが言ってくれたこと。
覚えてる?」
「 うん、覚えてるよ。 幼いときから、何度も聞かされた。
その話をみんなにしているのを見ていて、
なんだかとてもうれしかった。」
そう、僕らはあの日、大切なことを、お父さんから教わった。
つづく・・・。