さすらいの天才不良文学中年

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悪魔の投機術入門(第3回)

悪魔の投機術入門(第3回)


 一財産創る話しである。結論を急ごう。相場で儲けた人物列伝によって、投機の奥義を覗いてみる。


1. 儲けは儲けと割り切ること                  

 芸者の川上貞奴と浮名を流した福沢桃介(あの福沢輸吉の婿養子)は、「死ぬまで投機家であった伝説のジェシー・リバモア」や「一級の経済学者であった投機家ケインズ」とは異なり、日露戦争前後の株式ブームの中で相場を当てて巨富を得た後、投機市場での儲けは儲けと割り切り、サッサと相場から退場した。その後、彼は、投機で得た資金で電力事業を興すことになるが、知る人ぞ知る「電力の鬼」松永安佐衛門は、彼の弟分である。

 福沢桃介は言う。「世間の金持ちは、偶然に今日の結果を得たくせに賢明ぶって先見の明などというホラを吹く」(彼の成功も偶然が重なったと言えなくもない)。

 しかし、彼の真骨頂は、日露戦争前後の波乱に満ちた時代にあって、上げ相場でも下げ相場でも実際に相場を当てたことと、大相場のときだけ出動し、儲けた後は「儲けは儲け」と割り切り、サッサと身を引いた点にある。


2.儲けること自体が好きだ?                     


 これに対し、福沢桃介と同時代に生きた「伝説の投機家ジェシー・リバモア」の人生は波瀾万丈であった。彼は14才のときから株式仲買の下働きを始め、鉄道株をカラ売りしているときに偶然大地震が発生、巨富を得た。

 彼はこれに味を占め、不況のたびにカラ売りでヤマを当て続けた。カラ売りでヤマを当てるというのは、ほとんどの人が討ち死にしているときに大儲けするわけだから一躍有名になる。

 しかし、いつもカラ売りで成功するというわけにはいかないわけで、リバモアは4回巨富を築き、4回一文無しとなった。

 特に1929年のニュ-ヨーク大恐慌のときでもカラ売りで巨富を得たが、最終的にはこれまたカラ売りで再起不能となり、哀れ63才でピストル自殺をしてしまうのである。

 彼の有名な言葉に「相場の醍醐味は、自分の予想が正しいことや、自分の頭を使った作業の結果が間違っていないかということを確かめることに尽きる」というのがある。

 これはつまり、「相場の目的は金ではない。相場自体に勝つことなのだ」ということであり、福沢桃介と異なり、勝ち逃げなど眼中にはなく、死ぬまで相場を張り続けた男であった。壮絶な人生ではあったが、ある意味で幸せな人生であったと言える。


3.上げ相場か、下げ相場か(自分の相場観を持つ)           


 視点を代えて、もう一つの大きなポイントに、「上げ相場で儲けるか、下げ相場で儲けるか」ということがある。

 投機で最終的に成功するか否かは、その人の持っている相場観、すなわち人生観、経済観、歴史観、教養、体験等によって決まるが、上げ相場で買って儲け、下げ相場でも売りで儲けようとすると、本人の持っている相場観が混乱してしまい、買っては下がり、売っては上がるという悲惨なパターンになりかねない。

 買っても儲け、売っても儲けるなんて至難の業だ。福沢桃介はこれをやってのけたのだが、彼は儲かった後、さっさと手仕舞いしたから成功したわけであり、彼とて長くやっていれば失敗していた可能性が高い。

 相場の格言ではなくても「中途半端は禁物」というのは、この場合にも当てはまるのだ。かって、証券会社のセールスマンが「絶対儲かる方法があります。日本郵船を買って川崎汽船をカラ売りしておくのです。こうしておけば、円安の場合、川崎汽船の株は不定期船が多いから上がるので売り玉は損を出しますが、円安は輸出企業に有利だから船株は上がり、買っておいた方の郵船株で充分に利益が出ます」と、極意を悟ったかが如く押し売りを奨めてきたものだ(なお、かって本欄でお話ししたヘッジファンドの手法もこれに近い)。

 しかし、これでは「利口じゃできない。バカでもできない。中途半端じゃなおできない」の典型だ。目論見が外れてしまえば、買い玉ではわずかの利益しか出ないのに、売り玉で大損を出すことになってしまう。市場の動きが不透明なときこそ、自分の方針は何であるかを決めておき(つまり、自分の相場観を持つ)、買いなら買い、売りなら売りに徹することこそが、長期的には誤りが少ないと言える。


4.元手の創り方                           


 ところで、あなたは、「そうは言っても元手がなければ相場が打てない」と言うかもしれない。

 そこで、元東洋製鋼大山梅雄社長(かって仕手筋として有名であり、大金持ち)の好きな言葉を引用したい。「元手を作る奥義は、入るを計って出るを制すに尽きる」と。しかし、あなたは、さらに言うだろう。「大会社の社長と私とでは、収入の量に違いがありすぎます」。

 これではあなたは投機家には向かない。大山氏は怒るのだ。「バカもん。いくら入るかではないのだ。いくら残すかなのだ。1円でも買えるものは無尽蔵にある。何が1円で買えるかを考えたことが、君はあるのか。例えば、家庭用水道料金が10m3、月額1500円としたなら、1円で180cc入りボトルが37本(約7リットル)買える計算になるのだ」。相場師になる人の発想はすごい。

 相場道の奥義を極めるには、未だ道遥かなり。(以下次号)



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