さすらいの天才不良文学中年

さすらいの天才不良文学中年

幻のハモン・セラノ

幻のハモン・セラノ

 壇一雄の「美味放浪記」(73年刊)が中公文庫で昨年復刊された。氏は美食家であっても谷崎潤一郎と異なり、おいしいもの目当てに出る旅などしない。現地で地元の人が食べるおいしいものを、現地の人と一緒に愉しみながら食べるのだ。

そのスペインの章である。リスボンからパリに向かう国際列車のコンパートメント(客車)の中で、壇一雄が荒くれ男どもと一緒に酒を飲むくだりがある。男たちが用意したハモン・セラノを肴に壇一雄がブランデーを振舞うのだ。ん? ハモン・セラノ? 

実はスペインの最高級ハム(Jamon Serrano、スペイン語ではJはハ行の発音)のことである。美味放浪記でも食べ物のダイヤモンドの如く書いてある。

 氏によれば、最上級のハムと言えば、東洋では中国雲南省の火腿(ハム)だ。雪に囲まれた気象と日光にさらされることが旨いハムの条件である。スペインでも同様に、ピレネーの山ふところか、グラナダのアルハンブラ宮殿から眺める雪山のふところも、ハムの生産地として最適だとしている。

そこで、おいらの友人である美食探検家のT氏(小泉首相で有名になった、あの仏産最高級チーズ「ミモレット」にも造詣が深い)にハモン・セラノのことを尋ねたら、残念ながらあまり詳しくはないとのことであった。したがって、国内で探すのは諦めて、今度ポルトガルに行ったときに隣がスペインだからそのときに手に入れようと考えていた。

ところが、先日ナショナル麻布スーパーのハム売り場の前にたったら、ショーケースの棚の中に、何とハモン・セラノと書いてあるのだ。ただし、残念なことに品物は陳列されていない。ちなみに、値段は100g1,400円と書いてある。う~ん、なるほど高そうだ。普通のハムは100gが100円~200円ぐらいである。

 しかし、諦めずに「ハモン・セラノは今度何時入る予定ですか?」と尋ねたところ、「少しならまだありますよ」と、答えがきた。狂喜乱舞。即座に買い求め、写真のとおり当日の酒の肴としたのである。


ハモン・セラノ


いやあ、脂肪と肉質が舌の上で絶妙に絡み合い、さらに塩味の加減が程よく混じり、これは、言ってみれば、肉で作ったチーズのようである。

牛乳からはチーズ、豚の後ろ足からはハモン・セラノと言いたい。しかも、このハモン・セラノの味はブルー・チーズの味に近い! おつまみとして最高傑作と感じた1日であった(写真のハモン・セラノは0.5mmに見事にスライスしてある)。壇一雄よ、ありがとう。感謝!





© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: