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さすらいの天才不良文学中年
霧笛楼 ホテルニューグランド
霧笛楼が俺を呼んでいる
横浜元町の仏蘭西料亭「霧笛楼」で、とある会合を開いた。夕方開催の時間まで少し余裕があるので、久し振りに横浜中華街を覗いてみようと思った。
みなとみらい線「元町・中華街」の駅は、新しい。まるでロスの地下鉄の駅のようだ。電車を降りた途端に海外バックパッカーの気分が甦る。
横浜中華街の歴史は140年あるという。考えてみれば、世界中どこに行ってもチャイナタウンは存在する。海外出張や旅行では、その都度、食事でお世話になってきた。中華料理があるとホッとするのである。アリゾナのフェニックスに1週間滞在したときは、中華料理店があったから過ごせたようなものである。
さて、久し振りの中華街である。まず、横浜中華街は東西南北にそれぞれ門を配置している。東側入り口の朝陽門から入る。
インフォメーション・センターがあり、受付の可愛い女の子からパンフレット(地図)を貰う。これもバックパックの基本である。
中華街をぐるっと一回りする途中、善隣門をくぐる。中国語で歩行者天国などと書いてあり、面白い。
中央に位置する関帝廟にお参りし、お賽銭を投げる。新年はどうぞ良いことがありますように。
食料品店の店先でトムヤンクン・ラーメンを発見する。中華エビセンもある。タイカレー・ラーメンやビーフンと共にゲット。こういうものを発見する喜びもある。
横浜中華街は、身近な海外体験を味わえる手頃なスポットである。
さて、ご存知元町「霧笛楼」である。食通の先輩が美味い飯を食うならここしかないと言うので、先輩たちとの会合場所とした。
場所も良い。その昔、山の手の外国人居住地と山下町・海岸通りに所在した外国商館を結ぶ通りとして、今も異国情緒が残る元町である。そこに和洋折衷の館を配し、美味いフランス料理を食わせてくれるのだ。
霧笛楼の座敷も情緒があって良い。食事も当日のメインは仔牛フィレ肉のステーキ赤ワインソース、ポテトのサンドウイッチ風と白菜添えである。これがまた特筆ものである。美味しさが五臓六腑に染み渡った。
ワインはご主人が厳選され、洗練されたブルゴーニュワインである(もちろんボルドーもある。なお、ご主人がフランスのワイン農場で買付けをし、このお店のシャンパンを醸造しているとのお話しもあった。ご主人の食事やワインを追求するマインドに脱帽)。文句のつけようがない。
良い店、良い料理、良い先輩。すこぶる満喫した一日であった。霧笛楼が俺を呼んでいる。
横浜ホテルニューグランド(前篇)
ホテルが好きである。
旅の醍醐味の一つがホテルである。おいらがこれまで泊まったホテルで一番良かったのは何と云ってもラッフルズだ。シンガポールでサマセットモームの定宿だった。
お茶の水の山の上ホテルも快適だった。思い起こせば、旅にとって良いホテル(宿)は欠かせないことに気付く。
元々、旅は人生の節目で日常の垢を落とすためでもある。その旅で疲れを癒すのがホテルである。そういうときにただ寝るためだけのビジネスホテルなどでは旅が台無しになりかねない。
しかし、若いときはピカピカの、合理性に富んだホテルが好きだった。今思えば恥ずかしい限りだが、歴史や伝統よりも機能を重視していたのである。だが、それでは薄っぺらである。少々値が張っても非日常の世界に浸れるのであれば、クラシックなホテルに泊まるというのが人生の贅沢でもある。
やはり中身で勝負しなければ。
今回は愚妻とこのホテルに泊まった。
さて、ホテルニューグランドである。
横浜山下公園に停泊している氷川丸の前に鎮座している古いホテルだ。マッカーサーの宿でもあった。今でもそのマッカーサーが宿泊していた部屋(スイート)が本館3階に残されている。
その隣の部屋318号室に鞍馬天狗で有名な作家、大仏(「おさらぎ」と読む)次郎が住んでいた。小説を書くために約10年、定宿にしていたのである。
今回はそのスペシャルルームに泊まることができた(この項続く)。
横浜ホテルニューグランド(中篇)
ここで、ホテルニューグランドの歴史を語っておかなければならないだろう(下の写真は、ホテルニューグランド内庭の夜景風景)。
関東大震災によって横浜のホテルは壊滅的な打撃を受け、横浜は一面焼け野原となった。現在のホテルニューグランドの傍にあったホテルグランドも倒壊した。
当時の横浜商工会議所会頭であった井坂孝氏(ホテルの初代会長)は、復興のシンボルとしてホテルニューグランドを開業しようとし、古巣の東洋汽船から土井慶吉氏を常務として迎え入れたのである。
この土井氏が出来物で、欧米を視察し、パリで最初の支配人となるスイ ス人アルフォンゾ・デュナンを採用、コック長としてサーリー・ワイルを採用した。
ワイル料理長は本格フランス料理のほかにパリ下町風の自由な雰囲気を取り入れ、コース以外にアラカルトも用意するなど、お客様本位のサービスを採用したという。
また、番頭の土井氏は、玄関のドアボーイに英国風の制服を着用させたり、自動車の他に人力車と法被姿の車夫を常駐させている。欧州の雰囲気と日本的な細やかなサービスとを融合させ、お客様の利便性を第一とする接客思想を創り上げたのである。
横浜に外国の香りがするのは、当時の海外旅行は横浜から出港するのが常であり、外人も横浜から日本に入ってきたからである。横浜にホテルは必須だったのである。
なお、今では東洋汽船の名を知る人もいないが、浅野総一郎が創設した、かつては日本郵船、大阪商船と並んだ三大船会社の一つであった。
さて、では何故おいらがこのホテルに憧れたか。それは、多くの映画にこのホテルが登場したり、海外の有名人が泊りたがるという理由だけではない(ジャンコクトーもこのホテルに宿泊している)。
その持つ雰囲気である。横浜といえば山下公園である。港の見える丘である。そこでこのホテルは圧倒的な存在感を示しているからである(この項続く)。
横浜ホテルニューグランド(後篇)
そういうこともあって、かねてよりこのホテルに宿泊したいと思っていたのである(写真は本館入り口)。
実は連休最終日の24日が結婚記念日であった。この日の翌日は土休日ではないので、宿泊をとりやすい。少し前から計画を立てていたので、ネットで宿泊を申し込んだ。おいらはよく旅に出るのでいつも使っている某サイトを経由して申し込んだ。
結果的にはこれが大正解。
当日、チェックインしたら、前篇で述べたとおり、大仏次郎のスペシャルルームに案内されたのである。恐らくグレードアップしていただいたのだろう。これには感激した(写真はホテルのキー。318号室だが、「813」と刻印されている。右から読ませるのは防犯上の理由とも云われる。なお、大仏次郎は猫が好きだったのでこのキーのみ猫のマスコットが付いている)。
さて、こういうホテルに宿泊する場合、ホテル自体が観光の目的となる。ラッフルズや山の上ホテルに泊まったときもホテルの中を見学するのが愉しみであった。用もないのにホテルをうろうろとするのは宿泊者の特権でもある。
それに加えての愉しみは、ホテル内レストランでの食事である。
ニューグランド発祥の食事として有名なのがドリアである。実は、ナポリタンもそうである。プリンアラモードもこのホテルが創ったものである。それがニューグランド内のレストラン、ザ・カフェである。
宿泊した日の昼にこのザ・カフェに入ろうとしたら、これが長蛇の列で17組待ち。やはり人気があるのだ(土日はいつも満席だそうだ)。さすがに列に加わるのをあきらめ、ホテルの中庭(噴水があり、これがまた風流な創りである)見物をしていたら、イタメシ屋がオープンテラスで営業していることに気付いた。
イタリアンレストラン、イル・ジャディーノである。大人の昼食はこういうところで愉しむものである。記念日だから、財布を気にしないでイタメシにすることにした。
なお、ザ・カフェには翌日の昼に行った。平日なので、待たずに良い席に座ることができたことを付け加えておく。
とまれ、ニューグランドホテルを堪能することができた二日間であった。このホテル、宿泊しないで施設だけ利用してもその良さが味わえるし、また、もちろん宿泊する愉しみもあるのである。
ニューグランドは近場でもあるので、おいらは再びこのホテルに泊まるつもりでいる(この項終わり)。
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