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さすらいの天才不良文学中年
痴人の愛 内藤陳 エロティシズム
美人になる秘訣「痴人の愛」
美人になる秘訣をそっと教えよう。「自分が美人だ」と思いこむことである。その逆はあり得ない。
谷崎潤一郎「痴人の愛」のヒロイン、ナオミは、主人の譲治によってそう思い込むようになる(写真は、谷崎潤一郎。男前である)。
その堂々たる自信は、予想を超えてナオミを変身させてしまい、譲治の意図に反して事はあれよあれよと進んでしまう。ナオミは毒々しいまでの美女に変身したのである。
譲治は、妻のナオミがいかに奔放でふしだらな女になっても、もはやその魅力に抗しきることは出来ない。
谷崎の私的体験を題材にした小説と言われるが、優にそれを超えて普遍的な作品になっている。読んでいくうちに読者が共犯者とさせられる、稀に見る傑作である。
本日と明日はお休み
本日と明日は休日につき、お休みです。
写真は、生前の谷崎潤一郎。隣は松子夫人と思われます。
これも今回、神保町でゲットした写真集(「日本写真年報1969」)。おいらが、19歳のときのものです。
それでは、皆様よろしゅうに。
平成22年11月13日(土)
謎の不良中年 柚木惇 記す
宮 林太郎の生涯(前編)
本日から三日間、先月号の「関ネットワークス」に掲載した「宮 林太郎の生涯」をお贈りします。
1.神田古書街の楽しみ
勤務先が神田神保町と目と鼻の先の九段下である。昼休みには、神保町の古書街を散策するという楽しみがある。何せ、ここで探せない古書はないという世界でも有数の本の街である。
ここでのちょっとした喜びというのは、廉価で掘り出し物が見付かったときである。てっとり早いのが、店先のワゴンセールである。どの書店も客引きのために店頭にワゴンを出し、100円均一や3冊500円などとして、端本を山積みにしている。
中でも有名なのが、タムキンである。これは、「田村書店」の均一本と云う意味で、タムキン。知る人ぞ知る、昨日までの高額商品をばっさりと値引きしてワゴンの中に無造作に置いている(田村書店は靖国通り沿いの「書泉グランデ」傍)。
おいらは田村書店の近くまで来ると、今日は何の本が置いてあるかなという期待でアドレナリンが体中を駆け巡るのである。
2.中田耕治の謹呈本
先月のことである。おいらが「長島書店」(同じく靖国通り沿い。「神田古書センター」傍。この店の均一本も有名)のワゴンセールを覗くと、文庫本の山の中に渋澤龍彦(仏文学者、作家)が数冊置いてあるのを見付けた。渋澤を一言で云えば、エロティシズムとタナトス(死神)の探究者である。
本好きには、好きな作家の本が直ぐ目に留まるのである。ふと見ると、その隣に中田耕治(作家)の「メディチ家の滅亡」があるではないか。
おいらはいずれポルトガルに住みたいと思っているのだ。だから、欧州の歴史にも目が無い。そこで手にとってみたら、「え? 中田耕治からの謹呈本」と気付いた。氏のサイン入りである。謹呈先は「宮林太郎」とある(写真)。
おいらは考えた。通常こういう場合、一冊あれば他にも必ず同じような本があるはずだ。ゴキブリが一匹見付かれば、最低二匹は生息しているのと同じである。
これが的中した。中田耕治の著書を探すと、宮林太郎宛のサイン本が全部で三冊もあったのである。では、この古書は宮林太郎が処分したのだろうか(この項続く)。
宮 林太郎の生涯(中編)
3.宮林太郎の書き込みのある文庫本
見付けた本を仔細に検分してみると、この宮林太郎という人は、謹呈本に多数の書き込みをしていることに気付いた。
古本の場合、本への書き込みがあると値段は格段に下がる。
だから、ワゴンセールになったのだろうか。書き込みのある本は中田耕治のサインがあっても200円均一であった(書き込みのない本は300~400円)。
そう思って他の本も探してみると、宮林太郎の持っていたと思われる本が続々と出て来た。
そこで、書き込みを読んでみると、例えば、バタイユの「マダム・エドワルダ」の見開きには、
「ヘンリーミラーは高級な女のことは書かない。いつも淫売だ。それがてっとり早くていいのかも知れない。セックスを端的に描こうとすると女そのものの持つ陰部の秘密から書き始めなければならぬ」
と書き込んである。
おいらは瞬時にこの宮林太郎が只者ではないと思い、これらの本を全て買い取ることにしたのである。
4.宮 林太郎とは
古書を抱えて自宅に戻り、早速ネットで宮林太郎のことを調べてみた。驚いたのは、<みやばやし・たろう>ではなくて、<みや・りんたろう>であったことだ。しかも、2003年の7月に亡くなられている。享年91。
本職は目黒の医者(本名、「四宮学」)で、東京作家クラブ会長とある。おいおい、書いている作品は主としてエロ小説だそうだ。性豪作家ともある。
代表作は「サクラン坊とイチゴ」(著作は十数冊)。この代表作はカフカの変身ではないが、ある朝男が目覚めると絶世の美女に変身しており、エロティシズムとエスプリに満ちた小説とある。興味深い本であるが、残念なことにそれ以上の内容は分からない。
氏の経歴をみると、徳島市出身で明治44年生まれ。東京医科歯科大学を卒業し、祐天寺に医院を開業、芥川賞作家であった石川達三の主治医を務めていたとある。
ネットによれば、「貧乏臭いのは大嫌いで、一日中セックスのことばかり考えているとのこと」。宮林太郎はやはり只者ではなかったのだ。
全国同人雑誌作家協会前会長でもあり(同人で活躍)、永年に渡り日記「無縫庵日録」を付け、その量は永井荷風の「断腸亭日乗」の三倍を超えていると云うから、こりゃまた驚く。
これも何かの縁である、いずれ、氏の小説を読んでみたいものである(この項続く)。
宮 林太郎の生涯(後編)
5.蒐集したものの没後の行方
さて、長島書店のワゴンセールに宮林太郎の本が並んだのは、今年の3月。宮林太郎が亡くなってから7年後である。
どうやって、彼の本が神保町に流転したのだろう。おいらは、本屋の親父に聞いてみた。
「この本はどこから入手されたものですか」
「こりゃ、市場だね」
最近は古本屋に売られた本が一旦古書市場に出され、プロの古本屋がそこで古本を買うことが多い。これでは、売った人がどんな人だったのか、古書店の親父でも分からない。
想像だが、宮林太郎の7回忌が済んで、親族縁者が何かの理由によって蔵書の処分をしたのだろう。膨大な蔵書であったに違いないが、今、手許にあるのはこの文庫本だけである。単行本や全集は散逸したのだろうか。
昔、井上ひさしのエセーを読んでいたときに、作家の蔵書が散逸する悲しい話しが掲載されていたことを思い出す。
散逸するだけならまだ良い。書き込みもそのまま第三者の目に触れるのである。偉そうなことを云っていても、その手の内が丸見えである。誰にも見られたくない書き込みもある。しかし、世の中は無情である。苦労して蒐集し、書き込みまでしても、蒐集したものの没後の行方は皆こうなるのである。哀れである。
宮林太郎。一人の作家の蔵書がこうして散逸した。おいらの手許で蘇ったとしても、その事情は変わらない(この項終り)。
内藤陳氏逝く
いささか旧聞に属するが、内藤陳氏(以下、敬称略)が逝かれた。
昨年暮れのことであったが、そのことをまた、思い出させることがあった。
おいらの神田神保町の行きつけの店のことである。
和田誠のサイン入り書籍(写真上)を発見したのである。値段は3,150円。この「新人監督日記」は和田誠が阿佐田哲也原作の映画「麻雀放浪記」を監督したときのものである。
たまに本屋で見かけることがあり(2,000円前後)、映画を創るとはどういうことなのか、一度読んでおきたい本だと思っていたので、手に取った。
驚いた。内藤陳宛ではないか(写真下)。
おいらは、何を隠そう、内藤陳の大ファンなのである。迷わず購入した。
内藤陳、昭和11年生まれ。平成23年12月没。享年75才。天才的なボードビリアンであり、トリオ・ザ・パンチでの拳銃さばきは見事であった。得意なギャグは、「おら(俺)、ハードボイルドだど!」。しかし、本当に良かったのは、「血が先!」(茅ケ崎)である。意味不明だと思うだろうなぁ。
しかし、その内藤陳は、大の本好きだったのじゃょ。エンターテナー系の小説をいち早く紹介する、優れた書評家でもあったのである。氏は、後に日本冒険小説協会を設立して初代会長となる。
さて、おいらは顔見知りの店番にサイン本の出所を尋ねると、氏の関係者が処分したらしい。大量の本が処分されたという。そう云えば、内藤陳の経営する歌舞伎町ゴールデン街のバー「深夜プラスワン」にはおいらも若かりし頃、何回か飲みに行ったことがあるが、あの店ではいつも本が山積みになっていた。
先日の夕方、新宿で飲む機会があったので、少し時間があったから、その後、店がどうなっているのかと、ゴールデン街に足をのばした。残念ながら、他の店を予約していたので、店の前だけを覗くだけでしかなかったのだが、営業している雰囲気であったので安心していた矢先である。
今でも店の中は昔と同じような雰囲気なのだろうか。いずれ時間を作ってお邪魔したいと思っている。
閑話休題。
やはり、故人になると生前の本は処分されてしまうのである。内藤陳のもとに集まった大量の書籍も、こうして散逸してしまうのである。
そう思うと、何だかやるせない気持ちになるのだよねぇ。だけど、内藤陳、良い人生を送ったと思うなぁ。75歳という年齢も丁度良い。勿論、氏は麻雀放浪記にも出演していたのである。今は、ただ合掌のみ。
フランスで紹介される日本のエロティシズム
フランスで紹介される「日本のエロティシズム」と書くと、これはもうそれだけでトレ・ビアンである。
神田神保町で「L’IMAGINAIRE EROTIQUE AU JAPON」(日本のエロティシズム。写真上)と云う本をゲットしたので、嬉しくてこのブログに取り上げてしまった。
この本に紹介されているエロティシズムは、普通の日本の情景である。
しかし、おいらたちが何気なく見ているものでもフランス人から見ればぶっ飛んだ文化=日本のエロティシズムに映るのである。
でもね、早い話しが、おいらたちは自国の文化を理解できずにいるのだということを気づかされるからこの本は怖い。
石子順三が「俗悪の思想」と評論したおいらたちの何気ない日本の断面も、彼に指摘されなければその正体を誰もが気づかないのと同じである。
上のイラストは「RYOKO KIMURA」の「OIRAN RIDER」。
こういう気の利いたイラストを、何でフランスの書物から逆輸入しなければいけないのかねぇ。
三省堂書店池袋本店「古本祭り」(その2)
2冊目は、アニエス・ジアール著「エロティック・ジャポン」(2010年、河出書房新社)である。
この本には原書があり、既に入手している(フリーページ「本の愉しみ『エロティシズム』フランスで紹介される日本のエロティシズム」参照)。
原書は仏文なので、辞書を引けば何とか訳すことができるが(おいらの第2外国語は仏語)、英語のようにはいかない。
したがって、日本語訳があると助かるのである。
もともとこの本には訳語があることは知っていたが、3,800円とやや高めであったことや原書はカラー写真が満載で当面はそれだけで充分だと思っていたことから、入手しそびれていた。
しかし、この本を手に取ってみると今、調べている巫女のこと(小説の題材に取りあげようと思っている)が掲載されており、買わずにはいられなくなった。小説の資料として買う本までは制限していないのである。
それにしてもこの著者、アニエス・ジアール(写真下)とは一体何者なのだろう。日本のエロ・カルチャーを知り尽くしている(ように思われる)。
巻末の著者紹介によれば、
「フランスの女性ジャーナリスト。1969年、フランス・ブルターニュ地方のヴァンヌに、哲学教師の父とリベルタン文学の専門家である母の間に生まれる。
モロッコ、カメルーンなどの北・西アフリカなど、幼少期をアフリカ大陸で過ごす。
アフリカ時代から三島由紀夫などの日本文学や漫画に傾倒。
17歳でパリに上京し、名門リセのフェネロンに編入。
パリ第3大学で近代文学の修士号を取得後、高等情報通信科学学校を卒業(修士論文は「フランスのプレスから見た日本アニメの暴力性」)」(以下、略)とある。
う~む、大したもんじゃ。こういう人もいるんじゃのぅ。
なお、巫女については別途項を設ける。巫女って、あの世(神)とこの世をつなぐ存在でありながら、なぜセクシーなのか?
こういうことをフランス人から真面目に教わるのである。こういうことって、あり?(この項続く)。
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