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さすらいの天才不良文学中年
新書 週刊誌 ビリーバット 円本
新書ブームは続く
新書と言えば、一昔前は、岩波新書(昭和13年創刊)、中公新書(昭和37年創刊)、講談社現代新書(昭和39年創刊)の教養路線を主流とする御三家を示していた。
サラリーマン向けに頑張っていた光文社のカッパブックス(昭和38年創刊)を加えれば、四天王と言っても良かった。この構図は長く変わらなかったが、それがどうだ。今や、新書のラッシュである。
最近では、異業種からの参入もあり、中にはコンピューターやパソコンが専門だったソフトバンクまでが新書を出し始めた。中身はコンピューターとは関係のない、タレントの高田純次氏の「適当論」などの新書で(版を重ねている)、総合出版社への転換の尖兵として新書が使われているらしい。
どうやら、この新書ブームは、文春新書(平成13年創刊)と新潮新書(平成15年創刊)が火を付けたようだ。それ以降、雨後の竹の子のように新書、新書、新書のブームである。昭和初期の円本ブームは知らないが、これと同じようだと指摘する知識人もいる。
併し、その新書の中身はと言えば、これがほとんど雑誌と同レベルである。昔は、新書の相場と言えばアカデミズムか時事であった。それが今や雑誌と変わらない興味本位のものばかりである。
しかも、本屋で売れるのは新書ばかりで、値段の高い単行本はさっぱりである。読者は、まともな読者と新書しか読まない読者とに二極化したのである。それに合わせて出版社も二極化することになるような気がしてならない。大丈夫か、日本。
人は見た目が9割
いつ落ち目になるかと見ていた新書ブームだが衰えを知らない(写真は最近買った新書)。
新潮新書「人は見た目が9割」を本屋で立ち読みした。ベストセラーらしい。併し、中身を見て驚いた。「人は見た目で判断するというよりも、身振りや表情などの重要性を説いた」、ただそれだけの本のようだ。
まあ、見た目で9割、そのとおりかもしれない。この本によると、アメリカの心理学者の研究では、人が他人から受け取る情報の割合は、顔の表情が半分以上の55%、続いて声の高さ(低さ)、大きさ(小ささ)、速さ(テンポ)が38%で、その二つを合計すると93%、話す中身は残りのたった7%らしい。
著者は、この結果から、人は見た目が9割と思ったのだが、日本ではこれに対して、じゃあどうしたらいいんだという本がなかったので書いたという。したがって、中身はつまらないが、タイトルは面白い、売れる本の条件にピッタシとなった。
ところで、おいらのサラリーマン生活の経験から言うと、「人は見た目が9割」というのは甘い。
実社会では、見た目以前に勝負がとっくに決まっているというケースがほとんどである。特にワンマン社長などは問答無用で、「人は見た目が10割」(正確に言うと見た目以前)でバッサリである。
分かりやすいが、恐ろしい世界でもあった。
週刊誌売り上げ増大の秘策
週刊誌の売り上げが低迷しているという。
根本的な問題はネット社会の到来で、活字文化そのものの危機にあるのだろう。
そういう問題があることを承知で、今回は小手先の話しをする。
週刊誌売り上げ増大の秘策である。
それは、グラビアの頁をヌード3Dにするのである。
眼鏡は、付録に付いている紙を細工して作ることができるようにすればよろしい。
おいらが子供だったころには、月刊雑誌「少年」や「少年画報」の付録で「飛び出す絵」もどきがあったと記憶している。
それのちょっと洒落た、今風のやつだと思えば良い。だって、ヌードが飛び出すんだよ。
どうだ、良いアイデアでしょう。
一過性かも知れんが、売り上げ増大間違いないと思うがのぅ~。
飛び出すヌード
先日、このブログで週刊誌売り上げ増大の秘策を書いた。
「週刊誌売り上げ増大の秘策である。
それは、グラビアの頁をヌード3Dにするのである。
眼鏡は、付録に付いている紙を細工して作ることができるようにすればよろしい。
おいらが子供だったころには、月刊雑誌「少年」や「少年画報」の付録で「飛び出す絵」もどきがあったと記憶している。
それのちょっと洒落た、今風のやつだと思えば良い。だって、ヌードが飛び出すんだよ。
どうだ、良いアイデアでしょう」(7月13日付けのブログ)
そうしたら、今週発売の週刊現代(8月14日号)が本当にそうしたのである(写真上。メガネ付き)。
いやあ、同じことを考える人がいるもんだなぁ~。それともおいらのブログを見たのかなぁ~?
で、立体ヌードを見た感想。
よろしい。
しかし、注文がある。
画面が暗いのである。青と赤のセロハンのメガネで立体化させているからだろうか、画面が赤と青の画面なのである。ここは何とかする必要がある。
もう一つ。当たり前のことだがコンテンツが重要である。簡単に云えば、どういうヌードにするかである。その出来不出来によって、画面の暗さなど関係なくなる。
やはり、週刊誌は記事もグラビアも中身だということを忘れてはならない。
BILLY BAT(ビリーバット)
BILLY BAT(ビリーバット)と聞いて、講談社の漫画雑誌モ-ニングに掲載中の人気マンガだと分かる人は少なくないだろう。
浦沢直樹の最新作品であり、現在まで単行本で第10巻まで発売されている。これが滅法面白いのである。おいらも愛読者であり、波乱万丈のストーリーと断言して差し支えなく、次はどうなるのだろうと読むたびに手に汗を握る。
ストーリーを云うのはルール違反だろうから差し控えるが(知りたい人はWIKIPEDIAでどうぞ)、一つ気になることがある。
それは、ストーリーテリングの作品の功罪である。
何が云いたいかというと、先日、オヤと思ったことの一つに「純と愛」の話しがある。
云わずと知れた国営放送の朝ドラなのだが(既に今春終了)、これを総集編にまとめたら1分50秒の作品に仕上がったというのである(インターネットが出典なのでよく覚えていない。ひょっとして間違えていたら、お許しあれ。だが、勝手に他人の作品をダイジェストにしてよいのかという疑問もあるが…)。
つまり、純と愛もストーリーだけを追うと、ただあらすじだけの作品になるという身も蓋もない話しである。
小説や映画などの芸術ではストーリー至上主義なのか、それとも「ねじ式(つげ義春)」のようにストーリーは二の次かという大論争を持ち出すつもりはないが(このブログの「おいらの小説作法」参照)、あまりにもストーリーにこだわりすぎると、純と愛の総集編のようにあらすじだけで議論されてしまうかも知れない。
ただ、諸兄よ。
注意して欲しいのは、おいらが純と愛やビリーバットをストーリーテリングだけの作品であるとけなすつもりはないことである。
浦沢直樹のすごみは、作品の背景に時代や人生があるから面白いのである。
だから、これからもストーリー展開が複雑になり、壮大な作品になることを期待してやまないのである。しかし、ただそれだけの作品にはなって欲しくないということが云いたいのである。
ずばり、答えは、ストーリーも面白いが、ストーリーだけではないぞという作品である。欲張りだが、そういう作品が本当の作品である。ただし、滅多にはないが…
改造社「現代日本文学全集版」永井荷風集(前篇)
改造社「現代日本文学全集版」永井荷風集である。
円本である。円本とは、改造社(そういう名前の、今にもつぶれそうな出版社があった)の山本実彦(さねひこ)が発案した「現代日本文学全集」である。
それはおいらの母が生まれる前年の昭和2年に刊行が始まった。
それまでは、明治大正の大作家の小説を読むには図書館に行くか、古本屋に行ってその作家の本を探すしかなかったのである。だから、これは大ヒットした。
しかも、大作家の小説が一巻ずつで(例えば谷崎潤一郎集)、それ以下の作家なら二人で一冊となった。
ただし、全集というのは間違っており、作家が死んでから出るのが全集、生きているときは文集(中国ではそういう)となるべきで、日本でも村上春樹集となるのが正しい。だから、個々の巻は○○○○集(例・永井荷風集)となっている。
そして、円本と呼ばれた理由は、一冊一円だったからである。
この円本の呼び名は改造社の山本の命名ではなく、その当時大阪や東京に登場していた市内1円均一の「円タク」から派生したと云われている。
では、当時の1円とはどれくらいの価値があったのだろうか。大学出の初任給の2%程度に相当したと云われているので、今の初任給が20万円だとしたら4千円の本となる。
4千円というとかなり高いが、それでも本が買えるということで円本はベストセラーになるのである。ということは、それまでの本がいかに高かったかということである。
改造社の山本は当時としては普及版を廉価の一冊1円(ただし、上製本は1円50銭)、全巻を予約制とし、月1冊配本するというアイデアによって自己資金を持たない自転車操業的企画に社運を賭けたのである。
ところが、前述のとおり、これが大当たりする。23万人の応募者の予約金23万円が改造社に入り、同社は大出版社となったといういわくつきの物語である(この項続く)。
改造社「現代日本文学全集版」永井荷風集(後篇)
円本は当たった。
日本人は売れると分かるとすぐに真似をする。
春陽堂も円本を発行し、筑摩書房、講談社、河出書房、中央公論社も続いて「日本文学全集」、「世界文学全集」を出し続ける。大作家は一躍大金持ちになったと云わていれる。
昭和はこうして文学が最も読まれた時代である。では、なぜ昭和の時代にこういう全集が読まれたのか。
それは、戦後の私立大学(短大を含む)の文学部は女子学生ばかりで、文学部の女子学生がお嫁に行くには小説の一つも読んでいなければならないという風潮があったからである。
平成に入ってから、この風習はすたれた。今の女子学生は、小説など読みはしない。文学全集を買う家もない。時代は変わるのである。
ところで改造社のその後を云わないと片手落ちである。
改造社は岩波書店の岩波文庫に対抗して改造文庫を発行する。また、「マルクス・エンゲルス全集」を刊行する。マルクス・エンゲルス全集はおいらの世代では大月書店が有名だが、改造社が老舗なのである。
しかし、時節柄、昭和19年に軍部の圧力により改造社は解散させられる。ま、戦争中にマルクス・エンゲルス全集を出版していては具合が悪いだろうなぁ。
終戦後、改造社は再建され、創業者の山本実彦は政治家としても活動したが、その死後、若社長がアメリカ式経営を導入し、社内は大混乱に陥り衰退する。まことに改造社の歴史は波乱万丈の歴史である。
さて、改造社の永井荷風集である。これは、1円50銭した上製本である。箱入りで「天金」である。
天金とは、本の上の部分(これを「上小口(うわこぐち)」と呼ぶ)が金で塗装されているのである。しかも、総クロスのハードカヴァーで金文字。う~む、当時としてはさぞや豪華だったのだろうなぁ。
そして、本文は総ルビ。奥付には著者の印税印が押してある。永井荷風集では壮吉の印。荷風の本名は、永井壮吉である。
今では検印省略と云って若い人など知らないだろうが、昔の本には皆作家の印鑑が押してあったのである。今、奥付に印を押すと云うとその理由が分かる人など誰もいない。
明治時代までは、出版社の社員が作家の家まで出版する本を荷車に山積みにして持込んでいたのである。そして、作家は印税のための印鑑を自ら押していたのである。これは本が高価であり、出版社に作家が発行部数をごまかされないためだったと云われている。
そして、この奥付に印鑑を押すという風習は昭和40年代前半までは続いていたように思う。それは古き良き時代なのか、それとも悪しき風習なのか、しかし、おいらは思うのである。それは立派な歴史であると。
いやあ、趣深いのぅ。これだから、古書漁りはやめられないでござる(この項終わり)。
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