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2010年03月02日
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遅くまで会議は長引いて、終わった時には既にオフィスは人影もまばらだった。
後片付けした時には、時計の針は既に10時も回り、最早オフィスには誰も居なかった。
すっかりお腹もペコペコ。
帰りにコンビニで惣菜でも買って帰ろうかな?と思いながら、事務所の裏口を出ると、外はザーザーと雨が降っていた。

「あれぇ。いつの間に?」

会議室の窓の外は闇の世界だったし、事務所は地上30階、雨音もしない宙空の中に聳えてたから気づかなかった。
今日は雨が降るとは思っていなかったから、生憎傘の持ち合わせはない。
困ったなぁと思い、どうしようかと、しばらく恨めしく空を見上げていた。

「どうした?傘ないの?」



「あれ?まだ居たんだ?」
「うん。コピー室で明日の資料焼いてたから」
「そうなんだ。部屋の電気消したから暗かったでしょう?」
「うん。ビックリしたよ。取り残された!って感じ」
「ゴメン、ゴメン」
「で、傘ないの?」
「うん。降ると思ってなくて」
「じゃあ、入れてあげるよ。俺、折り畳み持っているから」
「ホント?ありがとう!」

彼が差してくれた折り畳みの傘。
大きな彼の体が収まらないぐらいのチッポけな傘。


「自分が濡れちゃうよ」
「大丈夫だよ。濡れてないし」

嘘ばっかり。
どんな暗がりだとしも、街の明かりに照らせば、スーツの色が黒ずんでいるのはすぐ判る。
私なんか、そこまで過保護にする価値の無い女だよ。



歩きながら私達は先程の会議の場での話をした。
あの時はこういうつもりだった。
あの時はこう言えば良かった。
そんな話を一生懸命していた。
でも一生懸命していたのは彼だった。
私は会話しているフリしながら、何となく彼の存在に気を囚われてた。

こうして相合傘している二人。
何だか高校生のカップルみたいだ。
学校の帰りに彼氏としたっけか。
学校の友人の視線を背中に感じながら、それを無視するように二人の世界に浸っていた。
友達の輪から外れること自体が幸せに感じた。
何だか少し自分だけ大人になれたかのような気がして。
今私は同僚君との世界のドップリ浸っていた。
別に同僚君は彼氏でも何でも無いのに、まるで彼氏のような気がしてしまった。

「ねぇ、聞いている?」
「えっ?!う、うん!!」

同僚君の問い掛けに、ふと我に返る私。
四次元空間から三次元に帰還したかのような気分。
慌てて話を聞いている素振り。

「雨一番かな?」
「ん?なぁに?」
「立春を過ぎて、初めて雨だけが降る日のこと。北海道じゃ、そう呼ぶんだよ」
「北海道出身なんだっけ?」
「そうだよ」
「物知りね」

それにしても、何だか、彼の腕にすがりたい気分。
不意の肩でも抱いてくれないかしらん?
・・・なんて、ふしだらな私。
いけない妄想。
会議が長引いて疲れてんのかな?

でも、相合傘なんて久しぶりなんだもん。
相合傘は何だか楽しい♪
童心に返ったかのよう。
こんな雨の日を過ごせるなら、梅雨になっても構わない。

「ねぇ?」
「うん、なに?」
「もうこんなに遅い時間じゃない?」
「そうだね。
「晩御飯どうするの?」
「大丈夫、彼女と待ち合わせなんだ」
「え?!こんな時間に?」
「うん。今日遅くなるって言ってあったから、なら待ってるって」
「あぁ、そう。イイ彼女ね」

ヤケに現実に引き戻された。
何だか千尋の底に引き摺り下ろされた。
こんな男の腕にすがりたいと思った自分が情けなくなった。
いっそ一人で雨宿りしていれば良かった。

今日の私の心は雨模様。
冬の氷雨に打たれて芯まで冷えて。
あぁ、誰か雨宿りさせて下さいな。
濡れた小さな私の体を、あなたの大きな傘で守って下さいな。
冷え切った私の小さな体を、あなた大きな肩で包んで下さいな。

雨一番。
春一番。
私が今欲しいのは、彼一番。





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最終更新日  2010年03月02日 08時36分09秒
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