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2006年03月30日
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「私は、見捨てない。」
限りない強さをその声音に滲ませ、その毒のように強すぎる“赤”の瞳が真直ぐに此方を見据える。
殺気さえ宿す、真率にすぎる、眼。
不屈の意志を表すこの人に、一体誰が何を言えただろうか。
「氷翠王【シャナオウ】様・・・・・・・・・。」
狗王【クオウ】は内心呻きつつも、主を諫める言葉を探す。
だが、それも氷翠王が己の覚悟と共に述べた言葉には敵おうべくもない。
自然と焦る心が苛立ちを生み、手指が畳を掻いた。
その狗王の無意識の営みに、氷翠王は何を思ったのか一瞬眼を細める。

「たかだか“守人”二人ぐらいで進退が危ぶまれるほど、お前たちは愚鈍か。もしそうなら、今まで、時間が幾らあっても足りぬほど多忙な中でそれでもこんな時だからこそと、育てずともそこそこ使える人材を腐るほど見つけても手を出さず、多少のリスクを負っても仕事を与えお前たちを育ててきた私は、かなりの時間を無駄にした、と言うことだな?」
氷翠王のあまりの言い様に狗王は眼を瞠った。
神に護られた身の“守人”二人をたかだか、と言えるのはこの人ぐらいではあるまいかという思いと、侮りの言葉に十分の自負と誇りをもって否、と言える思いと。
矛盾した自分の中のそれらの感情に、狗王は思わず膝を叩いて笑いたい衝動に駆られる。
守人二人を主が連れてきても、もう慣れてしまったのか『なんだか分からんが客人』で済ませてしまう良く言えばおおらかで豪胆な朱樺【シュカ】の臣下たちの中、自分だけはまともだと考えていたが・・・・・・・・・。
(相当毒されていたらしい。)
これであの子供二人が居つくようになれば、村の連中は他の氷翠王に拾われて来た者たちの時と同じように、『なんだか分からんが仲間』になるのだろう。
その証拠に、目の前の主君は試すような厳しいことを言いながらも不屈のその瞳を笑ませている。
それは、楽しげに。
自分の言葉に『そんなはずはない。』とあたかも答えを得ているように。
ああ、と狗王は嘆息する。

そして、その言葉を狗王の口から聴きたい、とばかりに氷翠王は柔らかく微笑して促す。
軽く頬杖をついて、細い線の顎を少し上げて。
こういう仕草を見て確認する。
命令と人をいなすことに慣れている事を。
(当たり前だ。)

自然と笑む唇を止める術も持たず。
(朱樺の、・・・・・・・・・我らの主君たるべき人なのだから。)
「泣く子も黙る狗王殿も、氷翠の前では跡形も無いな。」
沈黙を長い間守っていた涼【リョウ】が最後に苦笑と共に言葉を紡いだ。
それを皮切りに、来訪者の話は終わりになる。
この男は早く氷翠王を休ませたいがために此処に居るのだろう。
狗王も、これ以上この話を突付くつもりは無かったが退出の礼を氷翠王に向けた後、それでも釘を刺すのを忘れなかった。
「彼らに関する情報は集めておいてくだされよ、涼殿。」
その狗王の言葉に涼は涼やかに微笑んで見せた。
『言われずとも。』
口には出さぬ言葉が聞こえるのを狗王は確認して、
「では、氷翠王様ゆるりとお休みなされませ。ですが、雪に濡れた体を温めることはお忘れにならずに。今の時分なら、温泉に誰も居らぬでしょう。」
氷翠王をいたわる言葉を向けて、襖を開ける。
その言葉に氷翠王が頷き、
「ああ。心配事を増やした身で言うことではないが、お前も早く休め。」
その温かい言葉を頼もしく、嬉しく感じながら、再び礼をし、部屋を出て長い廊下を一人で歩む。
氷翠王の部屋から先程まで眼にしていた、静かに降る、見る度に氷翠王を思い出させる凄冽な雪を脳裏に思い出しながら。





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最終更新日  2006年03月30日 20時04分11秒
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