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障子越しの柔らかい陽ざしの中、静けさを壊さないよう保たれた室内には更に螺鈿細工や漆器、壁には水晶末で描かれた画が掛けられえもいわぬ静謐な雰囲気を醸し出している。
その室の上座に、貫禄のある体躯をした和装の男が端坐していた。
男の髪はその肌から滴る血潮のように紅く、腰の辺りまで無造作に伸ばしたそれは豪奢で獅子のたてがみのように見える。
上座に端坐していた男は目の前に縮こまる自分の部下を鼻で笑い、おもむろに足を崩して立て膝になった。
そうして足を崩して畳の上に坐すと、男のその紅い髪は畳に音を立てて滑り落ちて軽い渦を巻き、獲物を屠った後昼寝にまどろむ獅子の余裕と愉悦の哂いを男は見る者に与えた。
そのまま午餐を楽しむように男は間を置き、ここ一週間からの“ある人物”絡みの報告をしていた部下をおもむろに遮り、裏腹の笑みを唇に浮かべた。
「・・・・・・そうか。面倒を言ってすまんな。」
目元に凄みのある男の笑みは堅気ではない。
だがその笑みは、真実紛い物などではなかった。

男の目の前で怯えている部下は、ただ一度、引き際を間違ったのだ。
勝つために闘うならば、勝ち目を失った時点で終えるべきである。
個々人を見れば闘う理由は理想であったり、夢想であったり、意地であったり、狂気であったり、自棄であったり、綺麗事であったり、ただの無知であったりした。
この愚かな部下の場合は、ただの無知であったのだ。
なれば、蟻が自ずから無力さを知るまで好きにさせ、微笑とともに見守る度量あってこその絶対君主であろう。
それでも蟻が自らの落ち度に気づかぬ場合は・・・・・・・・、仕方ない、蟻は死ぬだろう。
「下がれ。」
男は最後通牒を突きつけ、部下は転がるように部屋を出て行った。
「・・・・・・焔蝶【クヌギ】様。」
部下が下がるのを見計らっていたように、部屋の外から男に声が掛けられる。
男・・・・・・・・・、蒐【シュウ】家の宗主である焔蝶は間を置かず自らの参謀に室内に入るよう促した。

先ほどの礼儀も欠いた部下のあたふたとした退出の非礼を詫びるように。
そしてそのまま青年は頭を上げない。
主の許しが与えられるまでは動かぬ心積りだろう。
「こっちに来い。」
焔蝶の許しに、青年は顔を上げ機密の話が出来る距離まで詰め、主の正面に座す。

ここ一週間からの“ある人物”絡みの報告をしていた先ほどの部下の情報が、情報と呼ぶにもおこがましいほど慎ましいものだったことを青年は指摘せず、悪魔で丁重な態度を崩さない。
それを見とどけ、焔蝶は報告しかけた青年の言を遮り、一気に切り込んだ。
「で、蒼炎【ソウエン】。お前から見た“アレ”はどんなだ?」
「・・・・・・・、健やかな方ですね。」
ほんの少しの躊躇いを見せ、それでも青年、蒼炎は相手を尊重する響きを保った。
“健やか”・・・・・・・・堅気ではない限り、それは褒め言葉にはならない。
蒼炎も丁重な態度ではあるが、話に振られた相手を褒めてはいなかった。
その返事を受け、焔蝶はすうっと目を細めた。
凄みのある眼が更に凄みを増し、ただそれだけで蒼炎は室内の温度が二、三度下がった心地を覚えた。
「・・・・・・・そう思ったのはお前だけじゃねぇだろうがな。」
そう言って蒼炎を見据えた焔蝶は、かと思うと話の人物を思い描くように遠くへと眼を這わせた。
九年間もの間、人質として捕らえていた朱樺【シュカ】家の幼い宗主の御子・・・・・氷翠王【シャナオウ】のことであった。
九年前、朱樺から奪いそのまま今の年の春まで北の地で監禁されていた“彼”がやっと蒐家の本家の地と屋敷に入ることが許され、“彼”の姿を見ることが出来るようになったのは、蒐家のほとんどの面々にとって九年の年月が経った今が初めてだ。
その“彼”・・・・・氷翠王を蒐家の中枢に喰い込ませる事を決めるやむにやまぬ事情が出来てまだ日が浅い。
その事情がなければ、いまだ“彼”は北の地で監禁されていただろうが、恐らく死ぬまで。
だが今や“彼”は蒐家の十二代目候補だ。
候補は候補で実際に成るかと言えば、それは零に近いとしても、焔蝶は一つのヤマを“彼”に任せる気でいる。
朱樺家の人間であり、いまだ成人の儀も済んでいない“彼”を焔蝶は信頼した訳ではない。
その仕事が成せるとも思っていない。
だが、これは決定事項でもある。
その理由の一つは朱樺家に対する面子だ。
“彼”を此処に置いているのは大義名分とは言え、九年前の朱樺家との確約の書には“今は幼年の宗主しか持たぬ朱樺家を他家から守るため”とある。
条件を拒めば朱樺の地を我らが攻めるという暗なる脅しと共に・・・・・・・・、それを拒める力を宗主とその御母堂を亡くした朱樺家は持っていなかったのだ。
そうして朋友の契りを結んでいた朱樺家を、今度は蒐家の国であるという血族の契りを結んだのだ。
そうして半ば以上一方的に結んだ契約だが、唯一つ朱樺家が提示してきた条件がある。
曰く、“亡父の御形見、現宗主の絶対の無事を約すること”。
つまり、氷翠王だ。
そうして氷翠王が成人するまでの間の朱樺の地を有する権利を蒐家は得たのである。
ほんの数ヶ月前までこの契約には問題が生じたこともなかった。
“蒐家の長男が朱樺の御子を強姦して、犯し殺し掛けた”などという噂が蒐家内だけじゃなくよりによって“朱樺”の地まで届くまでは。





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最終更新日  2006年07月03日 18時19分15秒
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