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2012.09.16
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 8月23日、埼玉県営大宮公園野球場。西武・ソフトバンク戦のプレイボール前の出来事だった。西武は主将のリードオフマン・栗山巧が左尺骨骨折で離脱し、若鷹軍団には2連敗中と暗雲が垂れ込めていた。そんな中、シートノックを終えた三塁側ベンチで、首脳陣やナインを前に熱弁を振るう男がいた。

 声の主は、新助っ人のクリス・カーター、その人だった。

「勝者と敗者の間には、1センチの差しかない。俺たちはチャンピオンを目指すチームだ。きょうはチャンピオンのように闘おう。チャンピオンは、あきらめない」

 山田通訳によって訳されると、西武ナインの肉体が火照った。勇気がみなぎり、活気が出て来た。

 主砲・中村剛也の先制2ラン。大崎雄太朗のダメ押しソロ。サブマリン・牧田和久の好投。5-2と完勝し、連敗は止まった。レオ軍団を再び上昇気流に乗せる、貴重な1勝となった。

 試合後、渡辺久信監督は勝因を聞かれると、目尻を下げて語った。

「きょうはね、カーターが試合前のミーティングで、みんなに闘志の湧くような言葉を言ってくれたんだ。それで『ヨシッ!』という感じになった。気持ちを奮い立たせる言葉だったよ」

「スピーチが少しでもチームの役に立てたら、うれしいですね」


 帰り際、わたしがつたない英語で話しかけると、照れながら言った。

「きょうの勝利はナカムラやオオサキ、マキタらの活躍があったからです。でも、スピーチが少しでもチームの役に立てたら、うれしいですね。僕はライオンズというチームが、大好きなんです」

 そう言ってガッチリと、わたしの右手を握った。ちょっとだけ痛くて、それがなんだか、うれしかった。

 ワシントンではジミー・カーター大統領がロナルド・レーガンに敗れ、その職を失った翌年の1982年。クリス・カーターは、カリフォルニア州に生を受けた。

 父・ビルさんは脳外科医。叔父も医師をしていた。クリス少年は幼少期から学業が優秀であると同時に、野球がうまかった。母が我が子に描く未来予想図はもちろん、「医者になって欲しい」だった。

日本での活躍を毎試合、ネットでチェックする父親。
 野球に熱中する一方、名門・スタンフォード大に進学後は人間生物学を専攻し、細胞の研究に明け暮れた。「野球選手になりたい」というクリスを後押ししてくれたのは、他ならぬ父だったと話す。

「父は日本で野球をすることにも、すごく喜んでくれています。毎試合、インターネットで僕の活躍をチェックしているんですよ」

 '04年のドラフト17巡目でダイヤモンドバックスに入団。'07年にはレッドソックスに移籍し、'08年にメジャーデビュー。メッツに移籍した'10年には、自身最多の100試合に出場した。そして今年、新たな戦いの場を求め、カーターは海を渡った。

 異国でのチャレンジは、順風満帆なスタートではなかった。3月上旬のオープン戦では走塁中、右膝を痛めた。中旬には都内の病院で右膝遊離体除去手術を受けた。開幕からずっと、二軍の日々が続いた。初めて見る日本の桜は、もの哀しい風景に映ったことだろう。

「タカヤマさんとの出会いは本当に大きかった」


 高山は言う。

「カーターって、猫背なんですよね。だから余計、落ち込んでいるように見えて。自分、英語はできないんですけど、毎朝あいさつしたり、話しかけるようにしたんです。自分は1歳年上なんですけど、『キューさん』『センパイ』とか言ってくるようになって」

 エミネムやジャスティン・ビーバーなどの音楽を流しながら、一緒にトレーニングに励んだ。いつか西武ドームのレフトスタンドを、ふたりで沸かせる日を夢見て――。

 高山の気配りには、カーターも感謝を口にする。

「春先、ファームでの日々は苦しい時期でしたが、タカヤマさんとの出会いは本当に大きかった。今でも仲のいい友達です。逆に言えば、自分がさらにいい野球選手になる土台を作れたとも思うんです。今になってみると、とても良い期間だったとも言えるんじゃないでしょうか」


 6月23日、ファームで結果を積み重ね、カーターは一軍に昇格した。試合中、ベンチから闘争心むき出しで出番をうかがう表情と理知的な素顔とのギャップは、すぐさまライオンズファンの注目を浴び、愛される存在になっていった。

 報道陣には「トゥース!」「オツカレチャン!」と笑顔で語りかけ、練習前のアップでは「ほっともっと!」という謎のかけ声とともに、ダッシュに臨む。ペットボトルの緑茶と、レッドブルをゴクゴク飲み干し、ハイテンションでグラウンドへと走っていく。

 8月28日、ゲーム差無しで迎えた札幌ドームでの日本ハム・西武による直接対決の首位攻防戦。6回には代打・高山がダメ押しの今季1号3ランを放ち、レオ軍団が第1ラウンドを制した。ベンチには自分のことのように喜ぶ、カーターの姿があった。

 もう一度、高山に聞いてみた。カーターって現在のライオンズで、どんな存在ですか?

「今のチームにとって、なくてはならない存在ですよ。ムードメーカーですからね」

文武両道を地で行く青い目のサムライが、熱パをさらに熱くする?
 昇格から2カ月が経過した。8月28日現在、打率3割。得点圏打率は4割。スタメンは保証されていないが、勝利打点は中島裕之と同じ3をマークしている。そして記録以上に、その雄姿は鮮やかな記憶として刻まれていく。

 日本に来て、良かったかな? そんなわたしの問いにカーターは力を込めて、こう答えてくれた。

「素晴らしい選手、監督、コーチに囲まれて野球をやっている。今はただ、ライオンズファンの声援に応えたい。打席で100%の姿勢を見せて、ファンの皆さんに喜んでもらえるプレーをしていきたい。そうやって、恩返しをしていきたいんです」

 夏の終わり。吹き抜ける風に、秋の気配を感じる。それでもこの男の闘争心は、さらに熱さを増すばかりだ。文武両道を地で行く、青い目のサムライ。熱パのジャングルに、きょうもカーターの咆哮が響き渡っている。






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最終更新日  2012.09.16 08:22:55
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