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2006.07.02
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カテゴリ: 物語


 玄関を入ってすぐ右手にはテレビ。四方の鴨居には所狭しと洋服がかけてあって、西の窓際には木製の鏡がある。鏡にはS字フックで藤の籠、中には化粧品が入っている。乾燥がひどくてさ。そう言いながら塗りつけていた保湿クリーム。ピンク色のキャップ。
 鏡の後ろから部屋を横切るように紐を渡して洗濯物がかかっていた。実家においてきた子どもの名前の入った虫キングのバスタオル。わたしが泊まるときに寝巻きとして借りるジャージの上下。仕事着だと言っていた襟ぐりの大きく開いた、ミニのワンピース。貸してもくれるけど11号はないのよ。失礼しちゃうよね。そう言ってブラシをかけていた。
 流しには一組のマグカップ。ご飯を炊くのにもカフェオレを作るのにも使うゆきひら鍋。茶碗。コップ。買い置きのつぶつぶみかんジュース。……みかんジュース?
 思い立って、唯一残されていた缶ごみの袋を開けた。きれいに洗われたみかんジュースの缶がごろごろと入っている。
 間違いない。ここはみどりの部屋だ。
 一気に疲れが出た。座っていられないほど眠くなって、畳の上にごろんと転がった。
 いったい何が起こっているのだ。みどりに。あるいはこの部屋に。
 隣の部屋からテレビの音がかすかに聞こえてくる。深夜放送特有の若い女の声。声の主が女だということはわかるけれど、意味を取れるほどの音量ではない。気ぃ、使うよね、集合住宅は。

 みどりはこの部屋の状況を知っているのだろうか。もし知っていたなら、なぜ昨日のメールで知らせなかったのだろう。
 借金の取立てがやってきて、家財道具を根こぞぎ持っていったとか?
 公的な金融機関からしか借りていないと聞いていたが、もしかしたら町金に手を出したのかもしれない。それが返せなくて……。まさかね。町金がどんな取立てをするのか想像もつかないけどカーテンまでは持っていかないだろう。使いかけの保湿クリームなんか売り物にならないんだし。
 本人に確認したいけれど、連絡を入れるには時間が遅すぎた。朝から晩まで働くみどりの貴重な睡眠時間を奪いたくはない。今晩はここで夜を明かして、明日、朝一番で連絡を入れてみよう。
 畳がひっそりと体温を奪ってゆく。震えながら、わたしは眠った。
 隣の住人が立てる小さな物音に何度も目を覚ました。みどりの知らないところで誰かが荷物を運んだとしたら、その誰かはこの部屋の鍵を持っているということになる。
 怖い、と思った。背骨にひたひたと滲みこんでくるような怖さだった。





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Last updated  2006.07.15 23:33:54
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