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内装を見た途端、
(まずかったかな)
私は浮気を後悔し始めた。
照明が怪しい色合いで、いたって安っぽい。
カウンターもないし、
酒ビンも見えない。
客も店員もいない。
見た目はぼったくりのスナックのような雰囲気だ。
奥からひょろっとした、のっぽの男が出てきた。
力の弱そうな男だ。
(いざとなれば……、うん、なんとかなるだろう)
私は覚悟を決めて浮気を続行した。
「ここはどんな店なんだ」
普通、聞かない質問をしている自分自身に驚いた。
「日本酒を飲ませる店ですよ」
魚や、野菜の料理が自慢だと言う。
男はメニューを渡しながら、
奥の席に私を導いた。
「今、団体さんが出たばかりで、ひと段落してたんです」
流行っていることを私に告げている。
男と入れ替わりに、
奥から普段着の上品な女がお通しを持ってきてくれた。
ちょっと見とれてしまった。
浮気最高。
女にお勧めの日本酒を聞いてみた。
味の好みを聞かれたので、14代をイメージしていた私は。
「
フルーティーなもの」と答え、14代が出てくるのを期待した。
女が奥に入っていった。
のっぽの男が2本の酒を持ってきた。両方とも、14代ではない。
「14代は置いていないの」
期待を裏切られたので、私は声を荒げてしまった。
どっちの期待かって? それはもう……。
「14代はメジャーになりすぎて、手に入らないんですよ」
すまなそうに、男は答え、
「これも負けずにフルーティーですよ」
と、私の答えの意味を察したようだ。
1本は、桃色の酒だった。
見た目が女性用と思い却下した。
何やら薀蓄をたれたが、
まだこの男を信用したわけでない。
もう一本は山形の酒でこちらは日本酒っぽかった。
酒の名前もしっかり確かめもせずこちらに決めた。
うまい、これはいける。
少し、男を信用してしまった。
二杯目は逆に「辛めの酒」を勧めて欲しいと言った。
男はやはり、2本持ってきた。
薀蓄をたれていたが、耳に入ってこない。
今度も、後の酒を頼んだ。
確かにしっかり辛かった。
舌がぴりぴり刺す感じだ。
身を正して飲まなければ、
弾かれてしまう。
こうなると、3杯目が楽しみだ。
「お兄さんのお勧め」をお願いした。
のっぽの男は『而今(じこん)』というお酒を一本もってきた。
今回は1本だけだ。
自信があるのだろう。
今、人気上昇中の酒で、手に入りづらいと言う。
「先ほど、14代がお好みと言ったので、これにしました。
多くの酒が、十四代に似せて作っているが、
この而今は一番それに近いですね。
この説明はちょっといただけないと私は思った。
確かに十四代は
美味しいと思う。
だからと言って、それに似せて作るとは志が低いのではないか。
酔った頭で目の前の
而今のグラスに説教していた。
「若い酒造主が、新しい酒作りを志しているんですよ」
こちらのほうが、何だかワクワクする。
「ウォー」
一口飲んで、私はうなってしまった。
バック・ツー・ザ・フィーチャーのデロリアンが体の中を通りすぎ、
火のついたタイヤの後が残ったような感じだ。
口に含むと、舌先にシャンパンのような弾ける感じがする。
これは酸味なのだろう。
ごくりと喉を通ると、フルーティーな味わいだ。
直ぐ後を、やはり酸味が追いかけてくる。
シャンパンの感じが辛さを演出し、でも全然辛いのではない。
フルーティーの味わいが甘さを期待させ、でも甘ったるいのではない。
酸味なのだ。
酸味がうまくコントロールされていて、口の中で大騒ぎさ。
十四代に一番近いといったが、十四代ってこんな感じの酒だっけ?
これは若さ溢れる21世紀の酒だと、大絶賛の私でした。
……。
丸いロックが浮かんだジョニ黒が目の前にある。
仕上げ
の酒だ。
でも浮気が過ぎて、手が出せない。
『あなた、浮気しているでしょ』
ジョニ黒の正妻が私を勘繰っている。
「いや、ぜんぜん」
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