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2021.03.24
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カテゴリ: 旅を推理する

   当時はモントリオールへの直行便がなくて、
を使うとシカゴ周りになり、
   カナダに住んでいる友に聞くと、
   ルートはトロント乗り換えとなるが、エア・カナダが良いと勧められた。

アテンダント(最近は、スチュワーデスとは言わないそうだ)に、
4人の日本人がいて、不自由はない。
再び、隣の女性が気になる動きをしだした。
肩が触れ合う距離にいるのだ、気になって仕方がない。





彼女の名前を香里(仮名)としておこう。
香里は、離陸の後、足元に置いていたカバンから、
小さなキャビネサイズのアルバムを取り出して見始めた。
そして、再び鼻水をすすり始めたのである。

失礼とは思ったのだが、私はアルバムを覗き見してしまった。
両親、祖父母、姉妹の写真と思われる。
私からは読めないが、それぞれにメッセージが添えられていた。
飛び立つときに手渡されたのだろうか。

普通に考えれば、香里はこれから留学にいくところだろう。
鼻水をすすっていると思ったのは、泣いていたのかもしれない。
香里は一頻り、鼻水をすすって涙を流すと、
コンタクトの調子が悪くなったか、コンタクトをはずした。

めがねを取り出し、鼻の上にかけた。
感傷の世界から現実に引き戻される瞬間だ。
痛みはごく、現実的なものなのだ。
香里の緊張は、まだ、続いていたようだ。

足元に置いてある鞄を、自分の膝元に乗せては中身を入れ替え、下に置く。
そのときに私の足にぶつけたりして、「すみません」と何度も謝る。
コーヒーとともにもらったプラスチック製のスティックを落としてみたりする。
それを拾い上げるのにまた一騒動である。

手に持ったコーヒーカップが宙に浮いてさ迷う。
頭は、座席の下にあるのだ。
私はぶっ掛けられないかと心配でならなかった。
何だか見ていられないのだ。

成田を飛び立ち、 1 時間半が経過し、機内食が配られた。
私はサーモンを選び、香里はビーフを選んだ。
香里は携帯電話でその写真を撮っていた。
先をこされたので、私はいまさらデジカメを取り出しにくい。

仕方がない、帰りに撮影することにした。
これは後に香里から聞き出したことだが、
カナダでの食事環境が心配で、気をつけないと太ってしまうと恐れていた。
それで、口にするものを全て記録しておこうと考えたらしい。

寮のペアレントにお願いしたとしても、食べる量が根本的に日本人と違うのだ。
自分で制御しないとだめだと考えているらしい。
それで、写真をとっておくと、食べる量を自分で気にするだろうということだった。
まあ、初めの内だけだろうと私は思ったが、口には出さなかった。

私は長丁場を考えて、このまま押し黙っているのもつらいと思い、
香里に声をかけてみることにした。
「後、 10 時間以上あるので、少し、話しかけてもいいですか」
私はこのように話しかけた。

食事にとりかかる体勢であった香里は、少し驚いたようだが、
反面それを待っていたかのように、関を切って色々なことを話し出した。
不安を持っている人はその不安の一部を他人に話すことで
不安から開放されようとするのだ。

「緊張してますか」
「ええ、もう、大丈夫ですが、飛び立つ前、とても。私、飛行機が怖いんです」
日本語がおかしい。
「汗かいてましたよね」

「ええ、手にもびっちょり」
そういって、今もぬれているかのように、手を握り締めては広げたりしている。
私と話し出してすぐに、香里は落ち着きを取り戻した。
話しかけたのは正解だったようだ。

「さっき見ていたのは家族のアルバムですか。
 ごめんなさい。後ろから覗いてしまいました。メッセージなどもありましたね」
「ええ、姉が作ってくれていて、先ほどもらったんです。家族の気持ちをはじめて知って」
と思い出したかのように少し声を詰まらせる。

「泣いていましたね。
 はじめ、飛び立つ前に見たとき、花粉症で鼻水をすすっているのかと思いました。
 でも、アルバムを見ていてすすりだしたので、これは泣いているのだと思いました」
私は、なごませようと、からかい気味にそういった。

その後、
香里はたくさんのことを話してくれた。
会話形式で書くと大変なので、
次回以降に、まとめて書きます。

その前に、思い出したのでちょっと。
空港で私がサンドイッチを買っていると、どこかのアテンダントが目の前で、
小さなうな重(はがきサイズ)を買い込んで行った。
うまそうと思ったが 850 円ほどしていた。

その人は、私の飛行機のアテンダントだった。いつ食べるのだろう。つづく。

   現在追記
   私は会社人生の残り10年を人事の人材育成の部署で過ごした。
   『人間研究』がライフワークだ。
   だから、私の旅は人との出会い中心になってしまう。

   今から考えると、
   機内での女性との会話は
   『アクティブ・リスニング』をしていたようだ。
   基本、私は聞き上手だ。

   女性が女友だちに色々なことを話すように、
   初めて会った私に対して、多くの人が色々なことを話してくれる。
   ある人が「根ほり葉ほりね」と言ったことがある。
   そこがただの『傾聴』ではなく、『積極的な傾聴』ということだ。

   心の中に不安を閉じ込めておくと人はストレスを感じ、
   知らぬ間に病んでしまう。
   話すことで多少とも不安が解消される。
   コミュニケーションは皆の健康につながるものでなくてはならない。

   私はそう思う。

​
プロカウンセラーが教えるはじめての傾聴術 [ 古宮昇 ] ​






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最終更新日  2021.03.24 11:52:50
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