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私が香里に話しかける前に、
アルバムを盗み見した後、
私が想像したことを書いておく。
香里は、神奈川県横浜市生まれ。
横浜といっても浜っ子ではない。
内陸を走る田園都市線の沿線である。
香里は今日、 2
年間の留学のためにモントリオールに向かっている。
語学と西洋文化の体得が主な目的だ。
大学では、仏文学を専攻している。
3
回生だ。
就職を前に海外生活を一度経験したかった。
それは大好きな祖父母に影響されてのことだった。
祖父母は結婚してすぐに海外赴任した。
それから子供たちが幼稚園に上がるまでの 5
年間をモントリオールで過ごした。
父はそのことをうろ覚えにしか記憶にない。
祖母は暇があると香里姉妹にモントリオールのことを話してくれた。
豪雪地帯。
短い夏。
その期間に行なわれる様々なイベント。
街中いたるところにある教会。そこで行なわれるミサ。
パイプオルガンの音色と聖歌隊の天使の声。
色々な人種が集まって暮らしている街。
そしてメイプルシロップの国。
それらの事は、香里にとっては、
シンデレラなどの御伽噺よりも不思議な世界だった。
そのお陰で大学に進むと、迷わず仏文学を専攻した。
モントリオールはフランス語圏である。
仏語が公用語で、
半分ほどの人が英語も話せる。
仏語と英語の両方が街中で聞けるという、
語学習得にもうってつけの街といえる。
3回生になったら留学というのも、
香里の家では当たりまえの、前から決っていたことであった。
準備は半年前から進んでいた。
まだまだだと思っているうちにこの日がやってきた。
姉は、香里がホームシックにかからないようにと、
密かに家族の写真とメッセージを小さなアルバムにまとめていた。
そして旅立ちの朝、香里に手渡すのである。
抑えていた感情が涙となって流れ出した。
寂しい旅立ちではなかったのだが、
やはり
2
年間、
初めて家族と離れて暮らすのだ。
旅立つ方も送り出す方にも思いがある。
香里にとって、一人旅は初めてである。
いつも家族や友達が隣にいた。
しかし今回は、全くの一人だ。
期待もあるが、いくばしかの不安もある。
飛行機も不安だった。
香里は飛行機に乗ることが怖かった。
金属の塊が飛び上がることが
信じられない種族だった。
隣に誰が座るのかも不安だった。
12
時間も隣りあわせなのだ。
素敵な出会いになるか、
修行の始まりになるのか、運試しのような気がした。
「こわそうな外人さんだったらどうしよう」
「キモイ、おじさんだったらどうしよう。体をさわられるかもしれない」
「かっこいい、男性だったらどうしよう」 ……
。
期待は甘くもくずれた。
隣には父親と同年代の中年の男性が座った。
ビジネスマンのようだ。
(まあ、それが私なのだが ……
)
想像の物語はここまで。
次回は香里に聞いた本当の話。さて、どの程度言い当てているだろうか? つづく。
現在追記
私は当時から文章を書くのが趣味だった。
暇があれば大学ノートに文字を書きなぐっていた。
隣のお嬢さんの行動はまさに、想像を掻き立てるものだった。
そういえば、私のあのノート、どこにいったのだろう。
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