HANNAのファンタジー気分

HANNAのファンタジー気分

July 6, 2026
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ジョージ・マクドナルド の長編 『リリス』 。ファンタジー小説のご先祖だから読んでおかなければ! と、むかし買い求めました(ちくま文庫)。

 主人公の相続した屋敷の図書室に、隠し扉やそこから半分突き出た本があり、黒服の司書が出没します。あやかしのようなその司書の後をつけた主人公は、屋根裏部屋の古い鏡の向こうの、摩訶不思議な世界へ。そこでは、司書はオオガラス(raven)に変身し、みみずを土からほじり出して投げ上げるとチョウになって舞う。太陽の色はみみずの赤だという。
 司書は墓守だと自己紹介し、白いシーツにくるまれて並ぶ死人たちの横で眠れと、主人公に勧める。時が満ちれば死人たちは目覚めるのだから、と・・・

 訳者の 荒俣宏 、解説を書いている 矢川澄子 両氏とも、物語をあれこれ詮索するより、めくるめくイメージ、生と死の転換、多元的な世界などに身を任せて味わうのがよい、と書いています。
 で、とにかく読み進むと、短い挿話が続くなかにも、ストーリーがおぼろげに現れてきます;


 女王リリスが街を支配し、子どもに滅ぼされる予言を信じて、赤子をすべて市外へ捨てさせていたのです。その赤子が無垢な子どもたちとなって森に住んでいる。うっかり大人に育ってしまった者は悪い巨人になる。
 主人公は、リリスの美や甘言にさんざん惑わされた後、無垢な子どもたちを率いて戦い、彼女をとらえます。墓守が、彼女に改心をせまります・・・

 と、そこまではついて行けたのです。
 しかし、墓守(つまりオオガラス、つまり司書)が、旧約聖書のアダムであると明かされると、物語の後半は、宗教的な感動に満ちた魂の遍歴みたいな語り口になってゆき、主人公が死の眠りのあと復活し「法悦」や「歓び」を体験するのに、異教徒の私はどうしても乗り遅れてしまいます。作者マクドナルドはプロテスタントの牧師さんですから、お説教くさくなるのは仕方ないのかもしれません。

 ストーリー的に言えば、頑迷なリリスの魂を、生まれ変わりに至る死の眠りにまで導き、異世界には隠されていた水の流れがほとばしり出て美しい川や湖を作り、主人公はその体験を心に、現世に帰還する――ようです。
 しかしそれがキリスト教的な死後の復活や天国(永遠の生命)への参入だと説かれると、何だかそらぞらしく思えてしまいます。この異界はカトリックのいう煉獄のような場所だったのでしょうか。カラスの性格(バードセルフ)を持つ司書レーヴン氏が、単なる狂言回し的老賢者ではなく、人類の父アダムだ、とはどうも私にはイメージが違いすぎて…、最後まで黒服の墓守でいてほしかったと思いました。

 それに、キリスト教の神はアダムとイヴに服従を求め、イヴが戒めを破ったために楽園追放となったのです。従順なアダムに対し、彼の最初の妻といわれるリリスは(ユダヤや中世の伝承によれば)、対等であることを主張します。史上最初の女性は、史上最初の男女同権論者でもあったわけで、悪者扱いばかりする気にはなれません。なぜといって、そういうふうにリリスを創ったのは神様だったというのですから。
 被造物であるリリスが、

  「だれもわたくしから”わたくし自身”を奪いとることはできないわ」
  「わたくし自身の考えがわたくしを作ります」  ――マクドナルド『リリス』荒俣宏訳

と言い張るとき、服従するばかりでなく自立していこうとする人間性が見える気がしてしまうのですね。


 それどころか、だんだん現実世界と異世界、目覚めている時と夢見ている時が入り交じり、見分けがつかなくなります。荘氏の「胡蝶の夢」のようです。目覚めたと思っても実はそれもまた夢でした、というのがくり返され、最後にはひとりぼっちで図書室に戻るとあります。
 その後の現実世界でも幻影を見たり、実はこれは夢なんじゃないか、と思ったりしながら、生命が「やがて、いやおうもなく、夢とひとつになる」(ノヴァーリスの引用)のを待ち続けている、という言葉で、長大な物語を締めくくっています。
 思うに、これはマクドナルドの最晩年の作品ですから、彼は自分の生命(意識)が夢(無意識)とひとつになり、やがて天に召されることを日々感じ取り、それを物語にしたのでしょうね。

 あまりにも霊的レベルが高すぎて、なかなか理解しがたいのも無理はありません。
 HANNA的には、カラス男のレーヴン氏レベルで大満足です。





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Last updated  July 6, 2026 11:20:23 PMコメント(0) | コメントを書く


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