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昨日(10月6日)の続きです。少し変わった放射線の有効利用としては、害虫の駆除というのもあります。沖縄以南の亜熱帯から熱帯地方には、ウミリバエという昆虫がいるそうですが、この昆虫がゴーヤやカボチャなどの瓜科の植物に卵を産みつけてしまい、収穫に多大な悪影響を与えるのだそうです。このウミリバエの蛹(さなぎ)を大量に捕獲して、単に駆除してしまう代わりに、放射線を照射することによって、「不妊のオス・ウミリバエ」を作り上げるという方法をとるのだそうです。その後、自然に放たれた大量のこの「不妊オス・ウミリバエ」たちは、メスと交尾します。しかし、メスがいくら卵を産んでもその卵は「不妊オス・ウミリバエ」との交尾の結果の卵のため孵ることがありません。そのため、子どもウミリバエが生まれないということになります。その結果、だんだんウミリバエの数が減っていくことになり、最終的には種として絶滅に至るというわけです。即時的な効果が期待できるというものではなく、ある程度の時間的スパンが必要とのことですが、環境に悪影響を及ぼすことなく、害虫駆除が確実にできるということで注目を集めている方法なのだそうです。このように見てくると、放射線を照射することによって人は多くの利益を享受できるというわけですが、残念ながら事はそう簡単ではないようです。というのも、以下のような説に代表される反対論も多く存在するからです。電離放射線を食品にあてると、放射線のもつエネルギーによって食品の成分である物質の分子から電子が分離分解され(いわゆる活性化=フリーラジカル)、化学的に不安定になって、その後に放射線分解生成物という成分の異なった物質が生じる。そのなかには、毒性をもつものもあり得る。つまり照射によって、成分が変わることによる危険性が生じるのである。 この危険性については、すでに海外から報告されている。1998年、ドイツのカールスルーエ連邦栄養研究センターが、食品への放射線照射により2ドデシルシクロブタノンができ、それをラットに与えたところ、細胞内の遺伝子(DNA)を傷つけるという報告を出した。日本で1967年から行われた照射ジャガイモ・タマネギなどをねずみに食べさせた実験でも、生殖器官である卵巣の重量低下、死亡率の増加、頸肋という奇形の発生などが発生していることが指摘されている。放射線が人体に危険であることはよく知られている。胸の集団レントゲン撮影も、リスクの方が大きいと、最近は行われなくなってきた。食品照射で微生物を殺菌するとすれば、胸のレントゲン撮影のゆうに1億倍を越える放射線量を食品に照射することになる。さらに、コバルト60のような放射性同位元素(放射性物質)を運搬し、照射施設で管理するのも大変なら、使用後に、放射線の出る能力の残る廃棄物をどうやって処理していくかも問題だ。 もう一つ大きな問題は、研究室ではともかくも、照射食品には実用的な検知法がないということだ。食品そのものから、残留農薬や食品添加物を分析する方法はある。ところが、照射された食品自体をとりあげて、それに放射線が当てられたかどうか(定性試験)、どのくらいの線量を照射したのか(定量試験)は、確立されていない。表示が正しいかどうかを検査したり、違法な照射食品がないかどうか、実地の検疫所や流通現場で検査する方法がないのである。 さらに問題なのは、このように、目にみえない形で殺菌が行われることそれ自体であろう。どんなに不衛生な扱いをされ菌が多いものでも、この照射施設を通りさえすれば菌は少なくなり、流通・検疫に適するものになる。しかも、生のようにみえる。照射により煮たり焼いたりした以上の成分的な変化を受けているにもかかわらず、何でもないようにみえるのだ。 スパイスの場合、93品目がスパイスの範疇に入れられることになると、ありとあらゆる加工食品に放射線照射したスパイスが入る可能性がある。食品衛生法により、放射線照射食品に表示の義務づけはあるが、今の解釈では加工食品に及ぶ食品すべてに表示の義務づけはない。食品照射の問題に対し、日本では1976年頃から反対運動が続けられてきた。1988年前後からは、貿易との関連も強調されている。私たち1人ひとりがこうした問題に注意を払っていきたいものだ。 スパイス云々のくだりに関しては、「2000年12月、全日本スパイス協会が、スパイスに放射線を照射することに対しての認可を厚生省に要請した」ことに対する危惧です。(前回述べたように、照射スパイスに関しては、既に多くの国々で商品化されているわけですが。)一方、最近さかんに話題にもなっている「活性化=フリーラジカル」と照射食品の安全性については、「照射食品推進派」側の反対意見もあります。放射線を照射すると、食品中で原子や分子から電子が除去され、電荷を帯びた粒子(フリーラジカル)が生成されます。フリーラジカルは、対になっていない電子をもつ原子あるいは分子で、不安定な構造になっているために一般に非常に反応性が高く、まわりの物質と反応して安定な状態になろうとします。フリーラジカルは食品照射によって生じますが、同じように加熱や光分解、粉砕、食品成分と酸素や過酸化物との反応などによっても生じます。したがって、パンのトーストや揚げ物などのような調理でも、フリーラジカルは生成されるのです。量的には、照射された乾燥食品よりも非照射のトーストのほうが、多くのフリーラジカルを含んでいると考えられています。フリーラジカルは、口のなかで唾液などと混ざり、たがいに反応して消滅していきます。したがって、フリーラジカルを含む照射食品を摂取しても、有害な影響を受けないということは、長期にわたる動物実験でも確かめられています。こうしてみてくると、今盛んに議論を呼んでいる「遺伝子組み換え食品」以前に、それに近い、あるいはある意味それ以上の問題となる食品が既にあったということになります。遺伝子組み換え食品にしても、放射線照射食品にしても、こうしてまったく正反対の意見があるということ自体、その是非、特に人体に対する影響に関しては、今現在誰にもよくわかっていないというのが実際のところのような気がします。その影響が人間や環境にどう出てくるのかよくわからないというのであれば、個人的にはあえてそうした食品を食べたいとは思わないのですが(こんなことに、自分や家族のからだを賭けるようなチャレンジ精神は、残念ながら持ち合わせていないものですから)、しかしことは日本国内だけの問題では収まらないという状況もあるようです。というのも、遺伝子組み換え食品、放射線照射食品、いずれの食品においても大きな影響力を持っているのはどうやらアメリカらしいからです。(前にも書きましたが、つくづくアメリカという国は不思議な国だと驚くことがあります。中国や日本などの輸入製品に対するチェック機能は、時として感心するくらいキッチリあるようなのに、こうした食品群はまったく抵抗ないかのように積極的に推進していくという国なわけです。食品に対する根本的な考え方が、日本人とは違っているのかもしれません。)そして日本はというと、残念ながらアメリカの圧力には抵抗できない国です。特に経済貿易がらみとなると、アメリカのごり押しに日本政府はすんなりと許可を出してしまうということが過去に幾度もありました。これにさらに、大手の力のあるメーカーや有力団体の圧力などが重なると決定的です。そうしてそのしわ寄せの行き着く先は、悲しいことに我々日本国民ということになってしまうというわけです。納得いかないものは、納得いかないとみんなで声高に叫ぶことも必要だということになりますが、食品に利用されている放射線は、実はこれだけではないのでした。次回こそ、今回のシリーズのメインテーマ、そして最終回になるはずです。
2007.10.07
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かなり長いブランクになってしまって、今まで長々と何の話をしてきたのかほとんど忘れてしまっているとは思いますが、9月15日以来の「放射線」の話の続きです。どうやら前回までに見てきたところによると、微量の放射線は、からだに危害を与えるものではなく、それどころか、からだにとっては有効な作用さえあるらしいということがわかりました。そして、このいわば「放射線は人類にとって有益なのだ」説の論拠となるものが、ひとつには人間が普通に生活している環境には、微量の放射線は常に溢れていて、だからといって危険なことは何もないという「自然被曝」の考え方であり、さらには世界各地にある放射能泉の温泉治療に代表される「ホルミシス効果」ということになるわけです。(しかし、こうした「放射線は安全かつ有効」であるという説を誇大にクローズアップして、実際は微量かつ自然ではない人為的に作られた原発などの高エネルギーの放射線までが、同じようにその安全性、有効性に関して主張される傾向があるようですが、これは如何なものでしょうか。)(原発の是非はともかくとして、それはちょっと違う議論なのではと思ってしまうのですが。)(高いリスクはあるが、今の日本には必要不可欠なエネルギー源だと、単純に主張してほしい気がします。)しかしとにかく、放射線は現在、前述のような医療分野での利用以外にも、工業分野や研究分野などでも幅広く利用されているといいます。有名なところでは、考古学や古生物学などの分野で使われている、放射性同位体の半減期を利用して古い年代を測定するというものがあります。つまり放射線は、一般にはあまり馴染みはないとはいえ、既に多方面で実用化され、利用されている科学技術だというわけです。こうした状況にある放射線ですから、食品分野においても既に利用されています。まず、食品と放射線と聞いてすぐ思い浮かぶのは、「放射線照射食品」です(舌をかみそうになりますが)。放射線照射食品とは、「コバルト60やセシウム137のような放射性物質から出るガンマ線や、電子加速装置からでる電子線を食品にあてることで、殺菌や殺虫、または作物から芽が出るのを止めたりして保存性を高めた食品」のことです。食品においては、ジャガイモの発芽防止に利用したのが最初といいます。「ジャガイモやタマネギなどの発芽組織の細胞は、放射線の影響を受けやすく、他の部分の細胞はあまり影響されないので、商品価値を落とさずに発芽を防止することができる」のだそうです。こうした食品照射に用いられる放射線は、世界的に権威のあるコーデックス委員会(FAO/WHOの合同食品規格委員会)などにおいて厳格に規定されているといいます。では、なぜ食品に放射線を照射するのか、その利点といわれるものをまとめてみます。・ 透過力が強いので、包装した最終製品に照射しても、殺菌、殺虫の効果がある。 ・ 照射による温度上昇は一般に2℃前後なので、冷凍食品の殺菌も可能となる。 ・ 栄養素の損失については、加熱の場合と同様に一部のビタミンが影響を受ける程度である。 ・ 連続処理が可能なので、大量に処理できる。 ・ 最終的には熱に変わって消失するので、残留の心配がない。 食品照射は、上述のように「野菜の発芽防止、殺虫、殺菌、果実の熟度抑制など広い範囲での応用が可能なため」、世界的には既に以下のような食品と利用目的で実用化されているそうです。 ・ ジャガイモ、サツマイモ、タマネギ、ニンニクなどの発芽防止 ・ バナナ、マンゴー、パパイヤなどの熱帯または亜熱帯産果実の熟度抑制 ・ イチゴの貯蔵期間延長(照射と冷蔵の併用) ・ 穀類や豆類、果実の害虫、肉などの寄生虫の殺虫 ・ 鮮魚、食肉、家きん肉(鶏など)の腐敗菌の殺菌による貯蔵期間延長 ・ サルモネラ、病原性大腸菌、腸炎ビブリオなどの殺菌による食中毒防止 ・ 香辛料などに多いかびや耐熱性芽胞菌の殺菌 放射線の食品照射は、従来の農薬などによる殺菌、殺虫や温度調整による貯蔵方法などに比べて、はるかに有効性が高く、応用範囲も広いというわけです。さらには、環境に対して悪影響を及ぼしたり、その残留性によって人間の健康への害が問題視されている農薬やポストハーベスト(収穫後の農産物に使用する殺菌剤、防かび剤)を使わなくてすむことにもなるというわけです。こうした利点ばかりのような照射食品ですが、日本での現状はどうなのでしょう。日本では、1972年に発芽防止のためのジャガイモへの放射線照射が、食品衛生法により認可されました。その後、ジャガイモ以外の食品への照射は認可されていません。ジャガイモの照射は北海道で行われており、士幌に照射施設があります。照射ジャガイモには、食品衛生法に基づく表示基準により、照射された旨の記載をしなければならないとされています。現在は照射ジャガイモのみとはいえ、実用化に向けた研究は次々行なわれているようです。タマネギの発芽防止、米および小麦の殺虫、ウインナーソーセージと水産練り製品の殺菌処理による貯蔵期間延長、ウンシュウミカンのかび防止について、原子力特定総合研究のプロジェクトとして、日本原子力研究所および国公立の研究機関や大学などがそれぞれ専門分野を担当した研究がすでに終了しており、食品としての健全性はどの品目も問題がないことが明らかにされています。世界各国の動向はというと、WHOやFAOが食品照射の実用化を各国に勧告しており、世界で食品照射を実用化している国は、2001年度のIAEAの資料によると、30ヶ国以上に達しています。このなかで、処理量が多いのは中国と米国です。また、許可品目としては、香辛料が圧倒的に多くなっています。主要実用国のなかで、近年特に食品照射の実用化を推進しているのが米国です。話が中途になりましたが、明日につづくです。
2007.10.06
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