面目躍如
国民が美しく心を寄せ合う。穏やかに和やかに
新元号「令和」についての首相談話だ。
4月Ⅰ日11時30分、珍しく親子孫三代がテレビの前にいつの間にか集まっていた。テレビの画面には新元号発表の時を待つ人たちであふれる様子が映されていた。思っていたより関心を寄せている人が多いことが分かる。心待ちしているのは、私だけではなさそうだ。
海千山千の政治家が一世一代の演技に顔を紅潮させ、手に持った額を示していた。後世に残る名場面だ
万葉集からの出典だと聞いたとき、何とも言えない感動が生まれ、せっつくようにその場をたった。別部屋の滅多にあけない書架の硝子戸をあけた。昭和五〇年に購入した日本書紀に始まる日本古典文学全集五十冊が収められている。全集のうち四冊が万葉集だ。
新元号の典拠は五巻の梅花を歌う三十二首の序文の出ている一冊を家人の所に持ち込んだ。
天平二年正月十三日に帥老(そちのおきな)の宅に集まりて宴会を申(の)ぶ。とある。
大伴旅人の屋敷でその歌会が催されたと解説にある。
初春の 令 月にして、気淑く風 和 ぐ
私が黙って指差す箇所に、夫が、娘が、孫が覗きこむ。
夫は鉛筆で線を引いたり丸で囲んだりしている。
「元号が知らされた途端に、万葉集を持ってくるなんて、おばあちゃんは凄いよ。万葉集がある事だけでも、驚き」
と、孫娘がいった。充実感のある時だった。
さらに翌日の新聞で気分は高揚。
『あった ! 万葉集!』という見出しで足利学校の職員が二〇分後に蔵書の存在を知り、大喜びしたと書かれていた。
その記事を見ながら、私は直後に見つけたのだから、足利学校に勝った、と、内心鼻高になった。けれど、それを話す相手が周りにいなかった。
その日の夕方、やってきた孫が聞いてきた。
「おばあちゃん万葉集、読んだことあるの」
「五〇年間手にしたことなし。飾っておいた」
「道理で真新しいと思った。おじいちゃんが真っ新の本に鉛筆で線引いたり丸で囲んだりしたから、気になっていた。それにしてもその本高かったんでしょう」
「憧れて買ってはみたものの、支払いが大変だった。もちろん枕草子や源氏物語、平家物語は少しは読んだよ。宇治拾遺物語はおもしろかったね。今昔物語も開いたかな。でもあまり読んだとは言えないね」。
「今回面目躍如したじゃない、本もおばあちゃんも」
「今朝ラジオで聞いたんだけど、この序文の主大伴旅人はね、もの凄くお酒が好きだったんだって。それに当時のお酒はとてつもなく甘かったんだってさ。これから万葉集の大ロマンが広がるよ」
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