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しかし、もう1つ重大な組織変更が今回の全人代で決定した。それは海洋管理部門の改変である。一言でいえば「国家海洋局」の権限強化と公安警察権限の導入であり、中国の海上法執行機関の大胆な統合だった。
これは、中国にとって長年の懸案でありながら、まさに関係各部門間の既得権益がぶつかり合ったため実現が阻まれてきたものだった。この統合問題については、ちょうど1年前に本欄で取り上げた(「 中国は第2の海軍をつくるのか、海上の衝突に対処する『沿岸警備隊』構想
」)。
中国の海上法執行機関は大小合わせて多数存在するが、主要な機関は以下の5つである。
・国土資源部の国家海洋局が指揮する「中国海監総隊」(海監)
・公安部の「公安辺防海警総隊」(海警)
・交通運輸部に属する「中国海事局」(海巡)
・「農業部漁業局」(漁政)
・「海関総署密輸取締警察」(海関)
(カッコ内は所属する艦船の名称)
これらの機関にはそれぞれ独立した任務があるとはいえ、多少なりとも重複があったこともあり、米国のコーストガード(沿岸警備隊)や日本の海上保安庁のような幅広い任務を統括できる機関の設置が求められてきた。
そうしたことが背景にあり、かつ東シナ海における尖閣諸島を巡る日中の緊張、南シナ海でのベトナムやフィリピンとの主権争いなどの要因が手伝って、2012年11月の第18回党大会では胡錦濤報告の中で生態文明建設の部分に「海洋資源開発能力を高め、海洋経済を発展させ、海洋の生態環境を保護し、国の海洋権益を断固擁護し、海洋強国を建設する」という記述が現れた。
確かに、中国は2010年に「海島保護法」を公布しており、中国の領有する島嶼および周辺海域における生態環境の保護、経済権益の確保に乗り出していた。しかし、「海洋強国」ということになれば、領土領海の擁護のための海軍の拡充に加え、強力な海上法執行機関を設置する必要性も認識していたはずだ。これを受け、今回の全人代における政府活動報告では、今年の政府活動に対する提案の中で、「海洋の総合的管理を強化し、海洋経済を発展させ、海洋資源開発能力を高め、海洋生態環境を保護し、国家の海洋権益を守る」ことが強調された。
まさにこうした文脈に沿う形で、中国国務院(政府)は3月10日、「海監」「漁政」など海上法執行機関に所属する中国公船について、国家海洋局や農業部など複数の機関に分散している運用機能を統合し、「国家海洋局を母体として権限を大幅に強化した新たな機関の創設」を盛り込んだ中央省庁の統廃合案を全人代に上程し、会期中の14日にこれが採択された。
すなわち、海洋監視などにあたる公船や航空機の運用を、「国家海洋局」に権限を集中させる形で統合再編しようとするものであり、また、その上部機関として海洋権益に関わる部門の調整にあたる「国家海洋委員会」を新たに設置することになったのである。
統合再編の対象となったのは、国家海洋局海監総隊に所属する「海監」、漁業監視を目的とする農業部漁業局の「漁政」をはじめ、海上警察に相当する公安部辺防海警察総隊の「海警」、海関総署密輸取締警察の「海関」の4つである。
航路管制を主な目的とする交通運輸部海事局の「海巡」は除外された。「海巡」が除外された理由は明らかにされていないが、鉄道部の吸収で交通運輸部が事務手続き的に手一杯であることを斟酌し、統合を先延ばしにしたのか、あるいは「海巡」が人員2万人を抱え、規模的には最大の機関であるものの、保有する約800隻強の船舶のうち、大部分が国内河川用か100トン以下の小型船舶で、外洋に出てパトロール任務ができる大型船舶が少なく、東シナ海や南シナ海で「即戦力」にならないと見切ったか、いろいろな解釈ができる。
ただ、海上法執行機関の統合という流れが具体化したからには、いずれ「海巡」も取り込まれることになるだろう。統合された4機関の保有する中国公船の総数は2000隻を超え、海上保安庁の保有する船舶総数(約450隻)の5倍近くに上るが、その多くは小型船舶である。1000トン以上の大型艦で見れば、中国側の総数は32隻であり、海保の49隻が上回っている。統合後の監視活動は国家海洋局の中に設置される「中国海警局」が実施することになる。
問題は、その中核となる国家海洋局で、この機関が創設された経緯を含め、中国海軍との関係が強いことを考えれば、新設される「中国海警局」はいわば「海軍別働隊」であり、「第二海軍」の色彩が濃い組織と言えることである。
中国共産党中央組織部は国務院(政府)の機構改革の一環として権限が強化された国家海洋局の新人事を決め、同局に新設された中国海警局の初代局長に公安部副部長の孟宏偉を任命した。孟宏偉は国家海洋局の副局長も兼務する。
なお、権限が強化された国家海洋局の局長は、引き続き劉賜貴が務め、劉賜貴は中国海警局の政治委員を兼務する。劉賜貴は、習近平が福建省の省長だった2000~2002年、同省アモイ市長を務めていたから、両者の関係は近い。
また、国家海洋局の中に「中国海警局」を設置するという不自然さから察するに、近い将来国家海洋局が「中国海洋部」に昇格する可能性も否定できない。
なお、「中国海警局」は、トップが公安部から送り込まれ、またその名称から推測できるように、公安部辺防海警察総隊の「海警」をベースにしている。
公安部の辺防部隊は、中国人民武装警察部隊の一部であり、そこに辺防海警察総隊が配置されていたことを考えれば、「中国海警局」は今後、基本的には公安部の指揮下に置かれ、また人民武装警察部隊が公安部と中央軍事委員会の二重の指導下にあることを考慮すれば、中央軍事委員会とのパイプもあることになる。上部機関の中国海洋局が海軍に近いことと併せて考えれば、まさに「第二海軍」と言えるだろう。
「中国海警局」が東シナ海、南シナ海での中国の「主権」擁護の尖兵となることは間違いない。問題点を指摘するならば、中国はかねてより、新設される「コーストガード」を「準軍事組織」として位置づけてきたことだ。「海監」や「漁政」は「準軍事組織」ではなかった。これが性格を変えてパラミリタリーの組織として東シナ海や南シナ海に出てくるとすれば、果たして尖閣諸島を守る海上保安庁の巡視船で対応しきれるかどうか。「準軍事組織」なら、当然のごとく武装しており、武力の威嚇を平然と行いかねないからだ。「中国海警局」を巡る動きに注目しておく必要がある。(おしまい)
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