小説REIT破綻

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2011.01.22
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投資家の誰もがREIT破綻による混乱でうろたえたわけではない。相場の沈滞はあまたの敗者を生み出すと同時に、未来の成功者の母胎ともなり得る。今回登場する人物のように、暗い淵に沈みつつあったJ-REITの中に、はっきりと光明を見出す者も存在した。

その日の午後、毎朝新聞経済部の服部は取材で赤坂インターシティにあるエクセルシオールカフェを訪れることになっていた。服部がREIT破綻に関する取材をしていると知った先輩記者から、ならばとREITに関する著書があり、個人投資家としても著名な紀伊山俊介弁護士を紹介されたためだ。

インタビューの場所として指定されたそのカフェは、紀伊山弁護士の仕事場からは歩いて5分とかからない場所にあった。

服部は初対面の場合、事前に取材相手のインタビュー記事や著書にはなるべく目を通すようにしている。そのほうが会話をリードしやすく、準備なしに会うのと比べて格段に効率がいいからだ。考え方を把握したうえで理解を示せば相手に取り入りやすくもなる。

今回は地下鉄で赤坂の待ち合わせ場所に行く道すがら紀伊山弁護士の近著を読み込んでいた。

「金銀財宝が眠るJリート市場」と題するその本では、全体の1/4近くもページを割いてマスコミ批判を中心としたタイトルと関係なさそうな話が繰り広げられていた。REITの魅力をアピールしつつ問題点にも切り込む一方で、国の行く末を嘆き、大衆をミスリードするマスコミへの怒りが随所でぶちまけられている。読み進むうちに顔面が蒼白になっていくのが服部自身にも判った。

「これは手ごわいぞ・・」思わずひとりごちた言葉は轟然と響く列車の走行音にかき消され、誰にも聞きとがめられることはなかった。

約束の時間より5分早くエクセルシオールに入ると、ちょうど紀伊山弁護士が席に座ろうとしているところだった。”気難しい憂国の士”という著書の印象とはまるで違う、物腰の柔らかい紳士がそこにいた。

かしこまって挨拶をしようとすると、「まぁまぁお座りなさいな」と優しく着席を促す。親子ほどに年が離れているにもかかわらず、服部のことはさん付けで呼ぶし、本にあるような過激なマスコミ批判が飛び出してくる気配もない。



「中央レジデンスの破綻について聞きたいというお話でしたね」本題を切り出したのも紀伊山弁護士のほうだった。

「えぇ。今、業界関係者や監督官庁、それにアナリスト、投資家の方などにもお話を聞いてまわっているところでして・・」「なるほど。それでREITの本を出したばかりの僕にも白羽の矢が立ったわけですか」

さも得心したというように紀伊山は大きく頷いた。

「僕はあの破綻の裏には運用者の裏切りがあると感じているんだけど、そんな人間の意見でも参考になるのかねぇ?」

服部は紀伊山弁護士には、先入観を与えないために陰謀説について話していなかった。にもかかわらず、運用者の裏切りなどという話が飛び出したのだ。

「ぜひ、詳しくお聞かせ願えますか!」興奮のあまり弾かれたように身を乗り出したものだから、テーブルの揺れでコーヒーがこぼれそうになった。それでも弁護士は、店内の注目が二人に集まったのを気にする様子もなく、穏やかな笑みを浮かべたまま語り始めた。

「そもそもJ-REITが破綻するなどおかしいんです。一般の大家さんと比べたら物件の質はREITのほうが圧倒的に上です。負債比率は抑えてあって、家賃収入も安定している。銀行にとってこんなに安心して貸せる相手はいないでしょう?REITの借換えができないなら全国の大家さんはことごとく破滅しますよ。世間じゃ頭金が2割とか3割なんて融資がザラなんですから」

「うーん、確かに」すかさず服部が合いの手を入れる。

「監督官庁も似たようなことを言ってますよ。金融機関が我々の期待するマナーを守る限り破綻するようなREITなどないとね」

「にもかかわらず実際に破綻したということは、裏に何かある。”常識で考えればわかる”というわけですね?」

”常識で考えればわかる”とは紀伊山弁護士が著書で何度も用いている言い回しだ。事象を多面的・立体的に捉える思考法を実践することで、世間の常識にとらわれずに物事の本質に迫れるのだという。その考え方は、彼の真骨頂と言って良いものだった。



「僕に言わせれば、中央レジデンスの破綻は運用者が私利私欲に走った結果だとしか考えられませんね。REITを差し出すかわりに何を得るつもりなのか知りませんが、見返りを得られる手段などいくらもありますよ。便宜というのは何も金銭に限りませんからねぇ」

ここで服部が破綻前から何社かのハゲタカファンドが運用者に接触していたという話を漏らすと、弁護士はさもありなんという風情で何度も頷いた。

「そうなるとトップは今ごろ連夜のご宴席ですか」「は・・?」「接待攻勢を受けて酒浸りということですよ。潰れる必要のないものをわざと潰したんです。こんな簡単な再生案件はないですよ。スポンサー希望の会社が列をなしていればそういうことにもなります。服部さんも既にそんな情報を掴んでおられるのでは?」

その通りだった。取材を進めるうちに、破綻後スポンサーに名乗りを上げようと運用会社に接触してきた先が30社以上もあるという事実は把握していた。接待の話までは知らなかったが、状況からしていかにもありそうな話ではある。

「それもこれも、先生流の常識で考えれば解かるというわけですか」もう降参ですとでも言うように服部がこぼすと、弁護士は満足げに頬をほころばせた。その瞬間、つかみ所がないと思っていた相手が初めて身近に感じられたような気がした。


※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。

参考図書:「Jリート市場は宝の山」(ポプラ社/伊山俊介著)





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最終更新日  2011.02.04 23:01:16
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