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投資家の誰もがREIT破綻による混乱でうろたえたわけではない。相場の沈滞はあまたの敗者を生み出すと同時に、未来の成功者の母胎ともなり得る。今回登場する人物のように、暗い淵に沈みつつあったJ-REITの中に、はっきりと光明を見出す者も存在した。その日の午後、毎朝新聞経済部の服部は取材で赤坂インターシティにあるエクセルシオールカフェを訪れることになっていた。服部がREIT破綻に関する取材をしていると知った先輩記者から、ならばとREITに関する著書があり、個人投資家としても著名な紀伊山俊介弁護士を紹介されたためだ。インタビューの場所として指定されたそのカフェは、紀伊山弁護士の仕事場からは歩いて5分とかからない場所にあった。服部は初対面の場合、事前に取材相手のインタビュー記事や著書にはなるべく目を通すようにしている。そのほうが会話をリードしやすく、準備なしに会うのと比べて格段に効率がいいからだ。考え方を把握したうえで理解を示せば相手に取り入りやすくもなる。今回は地下鉄で赤坂の待ち合わせ場所に行く道すがら紀伊山弁護士の近著を読み込んでいた。「金銀財宝が眠るJリート市場」と題するその本では、全体の1/4近くもページを割いてマスコミ批判を中心としたタイトルと関係なさそうな話が繰り広げられていた。REITの魅力をアピールしつつ問題点にも切り込む一方で、国の行く末を嘆き、大衆をミスリードするマスコミへの怒りが随所でぶちまけられている。読み進むうちに顔面が蒼白になっていくのが服部自身にも判った。「これは手ごわいぞ・・」思わずひとりごちた言葉は轟然と響く列車の走行音にかき消され、誰にも聞きとがめられることはなかった。約束の時間より5分早くエクセルシオールに入ると、ちょうど紀伊山弁護士が席に座ろうとしているところだった。”気難しい憂国の士”という著書の印象とはまるで違う、物腰の柔らかい紳士がそこにいた。かしこまって挨拶をしようとすると、「まぁまぁお座りなさいな」と優しく着席を促す。親子ほどに年が離れているにもかかわらず、服部のことはさん付けで呼ぶし、本にあるような過激なマスコミ批判が飛び出してくる気配もない。服部はすっかり拍子抜けしたものの、違う意味でやはりこの取材は一筋縄ではいかないだろうと感じ始めていた。完全に相手のペースに飲まれつつあったからだ。「中央レジデンスの破綻について聞きたいというお話でしたね」本題を切り出したのも紀伊山弁護士のほうだった。「えぇ。今、業界関係者や監督官庁、それにアナリスト、投資家の方などにもお話を聞いてまわっているところでして・・」「なるほど。それでREITの本を出したばかりの僕にも白羽の矢が立ったわけですか」さも得心したというように紀伊山は大きく頷いた。「僕はあの破綻の裏には運用者の裏切りがあると感じているんだけど、そんな人間の意見でも参考になるのかねぇ?」服部は紀伊山弁護士には、先入観を与えないために陰謀説について話していなかった。にもかかわらず、運用者の裏切りなどという話が飛び出したのだ。「ぜひ、詳しくお聞かせ願えますか!」興奮のあまり弾かれたように身を乗り出したものだから、テーブルの揺れでコーヒーがこぼれそうになった。それでも弁護士は、店内の注目が二人に集まったのを気にする様子もなく、穏やかな笑みを浮かべたまま語り始めた。「そもそもJ-REITが破綻するなどおかしいんです。一般の大家さんと比べたら物件の質はREITのほうが圧倒的に上です。負債比率は抑えてあって、家賃収入も安定している。銀行にとってこんなに安心して貸せる相手はいないでしょう?REITの借換えができないなら全国の大家さんはことごとく破滅しますよ。世間じゃ頭金が2割とか3割なんて融資がザラなんですから」「うーん、確かに」すかさず服部が合いの手を入れる。「監督官庁も似たようなことを言ってますよ。金融機関が我々の期待するマナーを守る限り破綻するようなREITなどないとね」「にもかかわらず実際に破綻したということは、裏に何かある。”常識で考えればわかる”というわけですね?」”常識で考えればわかる”とは紀伊山弁護士が著書で何度も用いている言い回しだ。事象を多面的・立体的に捉える思考法を実践することで、世間の常識にとらわれずに物事の本質に迫れるのだという。その考え方は、彼の真骨頂と言って良いものだった。服部は弁護士の懐に潜り込むつもりで、ここぞとばかりにそのフレーズを使ったが、紀伊山はそんな意図を見透かしたかのように眉ひとつ動かさない。機嫌をとるつもりがあっさり聞き流されてしまった服部は、取材テクニックのことなど忘れ、ただ真摯に目の前の男の話だけに集中するよう決め込むほかなかった。「僕に言わせれば、中央レジデンスの破綻は運用者が私利私欲に走った結果だとしか考えられませんね。REITを差し出すかわりに何を得るつもりなのか知りませんが、見返りを得られる手段などいくらもありますよ。便宜というのは何も金銭に限りませんからねぇ」ここで服部が破綻前から何社かのハゲタカファンドが運用者に接触していたという話を漏らすと、弁護士はさもありなんという風情で何度も頷いた。「そうなるとトップは今ごろ連夜のご宴席ですか」「は・・?」「接待攻勢を受けて酒浸りということですよ。潰れる必要のないものをわざと潰したんです。こんな簡単な再生案件はないですよ。スポンサー希望の会社が列をなしていればそういうことにもなります。服部さんも既にそんな情報を掴んでおられるのでは?」その通りだった。取材を進めるうちに、破綻後スポンサーに名乗りを上げようと運用会社に接触してきた先が30社以上もあるという事実は把握していた。接待の話までは知らなかったが、状況からしていかにもありそうな話ではある。「それもこれも、先生流の常識で考えれば解かるというわけですか」もう降参ですとでも言うように服部がこぼすと、弁護士は満足げに頬をほころばせた。その瞬間、つかみ所がないと思っていた相手が初めて身近に感じられたような気がした。【雪風ファンドのJ-REIT小説(19)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。参考図書:「Jリート市場は宝の山」(ポプラ社/伊山俊介著)
2011.01.22
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人は他者との関わりなしに存在しえない。ゆえに人は存在するだけで誰かの生に波紋を投げかけているし、その波は相互に作用するものであるとは限らない。だから涼しい顔で日々の生活を送る当の本人が、知らないうちに誰かの人生を狂わせているというようなことが起こりうる。 中央レジデンス破綻の影響はその学校にも及んでいた。町田文理学院は、東京近郊に存在する通信制高校サポート校である。一般にはあまり知られていないが、サポート校とは、通信制高校に在籍する生徒を学業や生活の面で支援するために設立されたユニークな教育機関だ。 生徒には、事情により普通高校を途中で退学してやってくる者が多い。そんな学生たちを暖かく迎えるため、一般の教科だけでなく「ギター」「メイクアップ」「鉄道」「アニメ」といった一風変わったカリキュラムまで揃えているのが町田文理学院の特色だった。そこは、学校生活で深く傷つき、不登校になった若者にとっては“最後の砦”と呼べる場所だった。 「先生、俺、もうじき退学する」 何の前触れもなく教え子に切り出され、三浦洋也はビックリして飛び上がるようにのけぞった。目を見張り「本当か」と問うと、男子生徒は目を伏せたまま頷いた。 生徒の名は小池愛。ひ弱な体質と度を越して優しすぎる性格、それに女の子のような名前も災いして元いた学校で酷いいじめに遭ってきた少年だ。三浦は、これまでの生き地獄のような生活で極度の人間不信に陥り、誰ともうち解けようとしなくなったという彼を励まそうと心を砕いてきた。 その小池が自分から相談してきたということは、目を配り、気さくに声をかけるなどしてきた努力が実ったとみていい。とはいえ、それがよりによってこんな形でとは何ともやり切れない。 聞けば、資産運用の失敗がもとで両親はケンカが絶えず、結局は住む家を手放したうえに離婚をすることになったのだという。そのあおりで、小池は母とともに祖父母のいる青森で暮らさなければならなくなった。 地方でも通信制高校だけなら続けられる。しかし、この時期の少年には学校かそれに準ずる居場所が必要なのだ。だから、まだ不安定さが残る彼には、同年代の子供との交流を促すサポート校のような補助的機関が不可欠だというのが教育者としての三浦の見立てだった。 ただ、人口千人に満たないというその町では、町田文理学院のような通学できるタイプの支援施設など望むべくも無い。ようやく引きこもりから立ち直りかけた少年が慣れない田舎暮らしでどうなってしまうのか。好奇の目にさらされ、再びいじめを受けたりはしないか。不安は尽きない。 辛い経験を乗り越えようとあがき、授業を受けるときの顔つきも徐々にだが変わってきていた。稀にだが、後から入学して来た、似たような境遇の生徒と話す姿を見かけるようにもなった。あと一息だったのだ。 「先生みたいな大人もいるってわかってよかったよ。バスケの授業、楽しかったな・・」うつむいたままそう語る生徒の目は赤く腫れている。思うように生きられない無念がにじんでいるようだった。 三浦は無理に明るさを装って声を張り上げた。「小池!お前、何か一つこれは人に負けないってものを作れ。勉強でもスポーツでも、音楽や絵でも何でもいい。自信が持てるものが出来ればきっといいことがある。いいことがあるぞ!」 本当はこんな指導はしたくなかった。もっと時間をかけて、少しずつ対人関係なども含め慣らしていかなければならないのだ。心無い仕打ちを受け、弱っている生徒に、いきなり頑張れなどと吹くのはズブの素人がやることだ。 それでも、そのときの小池は三浦の熱意に突き動かされるように大きく頷いた。 J-REITは利回りを高めるために借入をして不動産を購入する。その商品を信用取引で買い建てるのは二重の借金を抱えるようなものだ。この少年の父親のように、住宅ローンの残債を抱えていれば、さらに過激な不動産に対する賭けとなる。思惑が外れれば家族まで破滅に至らしめる。 その後、小池少年は旧知の人間との関わりを絶った。三浦は八方手を尽くしたが、その行方は杳として知れないという。 【雪風ファンドのJ-REIT小説(18)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.12.23
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鷹匠の交渉術は一種独特だ。あらゆる手を尽くして相手の情報を集めると、次にその性格や置かれた立場を踏まえて沈思黙考する。それも、ただ考えるのではなく、完全にその人物なりきるつもりで考え抜く。そうやって交渉を有利に進める手段を見つけ出すのだ。 常人離れした心理分析能力が彼女のバイアウト業界における名声を支えていた。 「今回の件で鍵を握るのは復讐心よ」思わせぶりにそう前置きした鷹匠の言葉に、アシスタントの岸田玲は目を見張りながらコクリと頷いた。 「玲さんもJ-REITが何のために設立されたかは勉強してるわね?」「はい。大義名分としては不動産マーケットの下支えをするため。実態は不動産会社の便利な道具になってますけど」「そうね。投資主のためなんて言われたらどうしようかと思ったけど、親会社の経営のためっていう基本は押さえてるようね」 「J-REITは植民地、親は宗主国みたいなものですもん」得意気に言う岸田を微笑ましいと感じながら鷹匠が続ける。「じゃあ次の課題。運用会社のキーマンである花井氏の立場になって考えましょうか」 「市況が悪くなってきたときに親会社の言いつけで高い買い物の予約をさせられた。ところがマーケットがさらに悪化して購入資金の調達が難しくなった。投資家や銀行からは何で高い買い物をするのかと責められる。親会社に助けを求めても何もしてくれない。それどころか、親のほうは倒産の一歩手前だから逆に何とかして子から資金を吸い上げようとする」 ここで一度言葉を切ると岸田が深く頷いた。話にはついてきているようだ。 「要するに親会社のために尽くしても得るものがない状況ね。こんな場面でREITの投資家からの締め付けがさらに厳しくなる。銀行は返済を迫る。玲さん、あなたが経営者ならこれでも親会社・投資家・銀行のために尽くそうとするかしら?」「はい、精一杯頑張ります」間をおかず岸田が応じる。 言うと思った。やはりこの子って面白いわ。 「あなたならそうよね。でも花井氏はそんなバカ正直なタイプじゃないの。人を押しのけてでも上を目指す。それでいて保身に長けている。そうやって世渡りしてきた男。その彼がトップとしてREITの資産を意のままにできるんだから、それをエサにして保身に走ろうと思うのは当然よ。だからいっそ潰されては?って水を向けてみたってわけ」 今度はちょっと眉をひそめている。心情が理解できないか、それともバカ正直ってのが引っかかったのか、両方かしらね? 「J-REITって箱は、資金は外部から調達するけど、運営面では運用会社っていう別法人が支配してるわ。だから親会社が死にそうになったら、REITを新スポンサーに安く売り渡すかわりに運用会社の雇用維持を保証させるなんて考えも成り立つわけ。中央レジデンスの2人だって即座に否定しないで考え込んだでしょう?」 「うーん、そうでしたね。じゃあ鷹匠さんはあの段階で手応えアリアリだったんですか。だから気を引くようにサッと切り上げたってこと?」「そんなところよ」 「なんか理解できそうにないなぁ・・」岸田は納得いかないようでブツブツ言っている。 「これはね、言ってみれば復讐劇みたいなものよ。いいように使っておいてあとは知らないっていう親会社。親の言いなりでやってきたのに自分たちばかり非難するエクイティやデットの出し手。そんな関係者への逆恨みがもたらした安っぽい喜劇ね。主役は今ごろ腹の中で哂ってるんじゃないかしら?」 「うーん。そんな心のスキを突いたってわけですか。」「心のスキともう一つ、REITの外部運用って制度の綻びもあるわ。親会社との利益相反はよく言われるけど、仮に親を切り離してもREITと運用会社との利益相反が残るわけ。投資主には気の毒な話ね」 「だから破綻に誘導しちゃうなんて、さすが手段を選ばない"女ハゲタカ"ですねー。確かに破綻処理なら、うるさい投資家や銀行を抑えて、好きなように料理できますものね。でも、そんなだから上品な見た目に騙されたなんて言われちゃうんじゃないですか?」 口調が少しトゲを含んでいる。正義感の強いこの部下は鷹匠のやり口が気に入らないようだ。 「えげつないと思う?でも、こんなの業界では普通よ。実際、私たちのあとにも運用会社に似たような話が来たそうよ。それもゴールデンパラシュート付きで」「エーッ、REITを倒産させたら法外な退職金払うっていうんですか!ひどーい。でも何で知ってるんです?いつもの情報網ですか?」 「そうよ、と言いたいところだけど、ネタ元は花井氏本人だわ。ゴードンサックスではこういう条件だけど、おたくらはどうなんだって。今回のテキはしたたかよ。油断は禁物ね」 岸田が不安げな顔をしている。私なんかにお手伝いできるかしらって顔に書いてある。しかし演目はすでに動き出している。あとは作り上げた筋書きの実現に向けて最適なルートを進むだけだ。私たちには立ち止まっている時間などないのだ。【雪風ファンドのJ-REIT小説(17)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.12.07
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「今日という今日は中央レジデンスの秘密、教えてもらいますよ。この間の交渉にはどんな裏があったんです?」CVSキャピタル日本法人のキーマンである鷹匠凛は、REIT破綻を知ると同時に、デスクに詰め寄ってきた岸田を、面白いものでも眺めるような顔でジッと見つめた。鷹匠はこの優等生タイプの部下が気に入っていた。留学経験がある岸田は、流暢な英語を話す。企業買収で輝かしい実績がありながら、語学が出来ないのがネックでシニアマネージャーにとどまっている鷹匠にとって、完璧な通訳ができて、しかも気の合う岸田は重宝する存在だった。折り合いの悪い同僚に妙な訳を吹き込まれて酷い目に遭うことが珍しくなかった鷹匠には、快活で表裏の無い岸田がまぶしく思えることすらあった。「もうっ、鷹匠さぁん、笑ってないで説明してくださいよ!」馴れ馴れしい口調も、お互いの信頼があれば気にならない。日本舞踊を教えてとしつこくせがまれるのには辟易だけど、仕事の話は別。いい機会だから種明かしぐらいしておきましょう。そう思った鷹匠は、「しょうがないわね」と言いながら部下のアシスタントマネージャーに椅子をすすめた。「玲お嬢さまは何からお聞きになりたいのかしら?」かしこまって座る岸田をからかうように切り出すと勢いよく「全部です!」という答えが返ってきた。「いちから全部?」「ハイッ」「じゃあ逆に質問。今回の案件の鍵を握る人物は誰でしょう?」「花井潤一氏、ですよね?」 ここで少し間を置くと、不安になったのか部下の表情に陰がさした。そこですかさず口を開く。「正解よ。彼についてはどこまで調べたのかしら?」「東大出でテニスが趣味の53歳」「それだけ?」「えっと、割とカッコいいですよね」「ハァ、無駄な知識ばかりね」どうやらかなりの教育が必要のようだ。「いい?花井社長に目をつけたところまではいいわ。でもその後は全然ダメ。あなたの作ったローン提供の案は第一プリンシパルみたいな素人集団ならOKが出るかも知れないけどウチではペケよ」「何がいけないんです?」「もっと儲けられる方法があるからよ」「それが鷹匠さんの倒産しろって提案ですか?」口を尖らせるようにして岸田が訊いた。 「そう。倒産したら株や債権を買い叩いたうえで、スポンサーに名乗りを上げるの。あとは数回資本注入して支配権確保のうえ2年で再建完了。50億は稼げるわ。ここまでやるのが鷹匠流よ」「でも、普通に考えたら潰れて下さいなんて話、受け入れられるわけないですよね?」「その答えはもう出てるわ。倒産速報を見てあわてて私のところに飛んできたのでしょう?」「えぇ、そうなんですが、こうもうまく事が運ぶと何がなんだか・・」 さぁここからが本題だ。鷹匠が居ずまいを正すと、岸田のほうも緊張して背筋を伸ばした。「そのために相手のことを調べ上げるの。略歴や趣味だけじゃなく、家族や友人・同僚との関係、それにあらゆる嗜好・信条も徹底的にね。何がその人の人格を形づくっているかを理解して、そのうえで相手の所属する組織についてもトコトン知る。こうやって初めて交渉のスタートラインに立てると思って頂戴」事実、鷹匠は、調査にかかる手間と費用を惜しまなかった。情報こそがカネを生み出す源だということを、上層部も十分に理解していたため、彼女は内外の人材を活用しつつ自由闊達に動き回ることが出来た。 「はぁ。すると今回は花井社長に付け入る隙がアリアリだったってことですか」「そうね。それとJ-REITっていう仕組みに欠陥があったこと。この2点が中央レジデンスの案件では重要よ」ここまで言って、岸田の表情が曇ってきたことに気づいた。「なんとなく理解できてないって顔。玲さんってホントにわかりやすいのね。いいわ。1から10まで話してあげる。そのかわりあなたにもこれから色々やってもらうわよ」こう言ってやると、岸田はたちどころに目を輝かせた。嬉々としているアシスタントにつられて、"女ハゲタカ"のほうにも自然と笑みがこぼれた。【雪風ファンドのJ-REIT小説(16)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.12.02
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まさかホントに倒産するとはね。さすが鷹匠さんと言うべきかしら? 米系の投資ファンド、CVSキャピタルの日本法人に勤める岸田玲は、中央レジデンス投資法人の民事再生を報じるニュースをあっけに取られるように眺めていた。"女ハゲタカ"の異名を持つ上司が中レジの死亡予告をしていたものの、彼女自身はそれを疑いの目で見ていたからだ。 入社3年目でアシスタントマネージャーの職にある岸田の所感では、資産内容を精査した結果、中央レジデンスがすぐに破綻することはないという結論に至っていた。にもかかわらず、他社にまでその名を轟かせるシニアマネージャーの鷹匠凛が正反対の意見を言ったのをいぶかしく思っていた。 それが、鷹匠の発言から1ヶ月も経たないうちに本当に破綻となったのだから、上司の読みの鋭さに舌を巻くしかなかった。 そっか。あのときのやり取りはこのための布石だったのか。岸田は、9月の3週目にシニアマネージャーとともに、中央レジデンスの社長と財務担当者の2人と対峙したときのことを思い出していた。それはREIT破綻から数えて22日前のことだった。CVSキャピタルは、中央レジデンスの苦境を聞きつけて、資金援助を申し入れていた。もとより、自らハゲタカの懐に飛び込んでくるようなことはないだろうと見ていたため、ダメ元の提案だったが、彼らは意外にもエサに食いつき、即座に会合が設けられた。ただ、そのときは岸田が金利6%のローン提供を柱としたプランを打ち出したのに対し、融資ではなく増資を受けて欲しいというのが中央レジデンスの言い分だったために交渉は難航していた。そんな、空気がよどみつつあったときに、沈黙を吹き飛ばすような鷹匠の爆弾発言があった。「いっそREITは潰されてはいかがでしょう?倒産後であれば増資の引き受けを確約いたします」岸田はビックリして隣に居る上司の顔を見やったが、彼女は挑むような表情で交渉相手を見据えている。聞き間違いではない。明らかに本気だ。いつもの上品な物言いではあるが、鷹匠の話は岸田の作った提案を台無しにするばかりか、先方に対しても失礼極まりない。中央レジデンス側の2人も、予想外の展開に唖然としたまま、後に続く言葉を待っているようだった。「これは、みなさまのためのご提案です。考えてもみてください。このまま運用を続けてその先に何があるでしょうか?機関投資家をはじめとするユニットホルダーがあなたがたに何をしましたか?個人投資家は味方になってくれますか?レンダーは勝手ばかりを言ってきませんか?」「なるほど。交渉決裂というわけですか」突如、中央レジデンス社長の花井が話を遮った。「あなたがたの考えはよくわかりました。さすがは死肉をあさるハゲタカと言うべきですかな」口元をゆがめながら皮肉っぽく吐き捨てる。「社長、考え違いをなさっているようですね。私はみなさまのためと申し上げたはずです」「えっ?」花井の顔つきが変わった。「私どもは、もしかしたらみなさまをお救いできるかも知れません。唐突に思われるかも知れませんが、花井さんは株式会社の発祥をご存知でしょうか?」花井が首を振ると、どういうつもりか鷹匠は株式会社のはじまりについて語り始めた。「株式会社の起源は大航海時代のヨーロッパにあります。植民地との交易などに船を出すのに、多くの資本家から資金を集める必要があったところから、出資と配当の仕組みが作られたと言われておりまして・・」「それが何だと言うんです」「では、結論から申し上げます。いまや中央レジデンスは難破船のようではありませんか?少なくとも、嵐の海にあって出資者を含めた関係者のすべてが助かろうとしても難しい状況でしょう。そこで、私どもは乗組員の命だけでもお救いできるよう計らうことができると申し上げたいのです」ここまで言うと、鷹匠は優雅にコーヒーカップを手にしつつ相手の反応をうかがった。花井は手に持ったペンの先を見つめ、財務担当者は腕を組んで考え込むような姿勢で固まっている。2人とも熟考する気配をにじませていた。口出しできる雰囲気ではないのを肌で感じた岸田は、黙って成り行きを見守るしかなかった。再び場の空気が膠着しそうになったのを嫌ったらしい鷹匠が、「では、今日はこれまでといたしましょうか」と言い、その日の会合は幕引きとなった。鷹匠は別れ際こう付け加えるのを忘れなかった。「ただし、従業員のみなさまを助けるためには、何があってもREIT物件を銀行に担保を差し出さないこと。これが絶対条件となります」不動産を担保で持っていかれれば、REITにまともな資産は残らない。これでは買収の旨味はなくなる。倒産までの無担保運用は、CVSキャピタルからすれば当然の主張だった。中央アセットのオフィスを出るとすぐに、岸田はシニアマネージャーに詰め寄ったが、唐突に驚天動地の提案をした理由はついに聞きだすことが出来なかった。女ハゲタカは艶然とした微笑を浮かべながら「J-REITって仕組みの綻びを突くの。そのうちわかるわよ」とだけ囁いた。【雪風ファンドのJ-REIT小説(15)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.11.30
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外資系企業では、解雇を言い渡すと同時に社員を会社から放り出すような例が珍しくない。自席に戻ることすら認めないのは、突然のクビでヤケになった人間が、データを破壊をしたり、機密情報を外部に持ち出すのを防ぐためだ。 因果なもんだ。中央レジデンスの連中を会社からたたき出した俺が、 今度はあいつらの問題で会社から放り出されるとはな・・・酒巻哲也はビバルディ投信の入居するビルを出ると、本社事務所のあるあたりを振り仰いだ。不意に「くそっ」と吐き捨てたのは、直前のいまいましい光景が思い出されたからだ。彼は社長直々にクビを宣告されたばかりだった。昼下がりのオフィスで、ジョージ・ ヒックマンに上機嫌な声で社長室に招かれた際には、悪い予感がした。酒巻は彼がそんな声色を使うときは、ロクなことがないということを経験からよく知っていた。案の定、社長室では良からぬ事態が彼を待っていた。ヒックマンに従って社長室に入ると、そこにはすでに人事・総務担当の部長が控えていた。大学の後輩で酒巻とは飲み仲間でもある彼が、目を合わせようともしない。嫌な予感が確信に変わったのと、外人社長が話を切り出したのは、ほぼ同じタイミングだった。「ミスターサカマキ、うれしい知らせだ。キミの人生にすばらしい転機が訪れようとしている」「はぁ」「何を言いたいかわからないかな?ではこんな話はどうです」ヒックマンは酒巻のとぼけた反応など意に介さず大仰に続ける。「例のREITは今いくらしてますか?」例のREITといえば中央レジデンス投資法人以外にない。なにしろビバルディ投信はこの破綻REITの筆頭投資主なのだ。どんな話が続くか察しがついた酒巻は、神妙に答えるしかなかった。「中央レジデンスでしたら後場寄りは5,900円でした」「オー、テリブル。ミスターサカマキ、取得価格はいくらですか?」「平均でだいたい24万円です」ヒックマンが大袈裟に目をむく。わかっていて聞いてるんじゃないかと思うが、そんな考えを口にするわけにもいかない。「つまり60億の投資が1億5千万になったわけですね?」「えぇ、そういうことになります」酒巻が恐縮しながら言うと、社長は深いため息とともにうつむいた。動作がいちいち芝居がかっている。しばらく間をおいたあとで顔を上げた社長の目は、今度は慈愛に満ちているように見えた。「ミスターサカマキ、今までキミと仕事ができて幸せでした。何か言い残すことはありますか?」こいつめ聖職者にでもなったつもりか。しかし、やっていることはクビ切り宣告以外の何物でもない。第一、振舞いのすべてがわざとらしいではないか。黙っていると、ヒックマン社長の顔から表情が消えた。この男は思い通りに事が運ばないとすぐに豹変する。先ほどとはうって変わって、いらなくなったおもちゃでも見るような目で酒巻の姿を捉えている。「ミスターサカマキ、キミは中央レジデンスが倒産準備を進めている間もせっせと株を集めていた。そうですね?」「えぇ」「破綻当日にも187口買っている。違いますか?」やはりこの男すべての数字を把握したうえで俺を追い詰めようとしている。もう観念するしかなかった。なおも社長が早口で責め立てる。「中央レジデンスはREITの代表が運用会社の社長を兼務していますね。業務の発注者も受注者もジュンイチ・ハナイだった。これでは彼のやりたい放題だ。疑問に思わなかったんですか?」ああ、わかってたさ。だが、あんな暴走をするとは予想がつかなかった。だいたい、REITと運用会社のトップが別の人間だって大差ないさ。どいつもこいつも親会社の操り人形みたいな奴ばっかりだ。J-REITってそういうヴィークルだろうが。あんただって、ほんの半年前には有利な条件で中央レジデンスの増資を引き受けたって大喜びしてたじゃないか。それを全部俺におっかぶせるつもりなのか!内心思うが、何をわめいたところでどうなるものでもない。酒巻は肩を落とし、「もう・・、いいですよ」と言った。大柄で快活な彼に似合わない、消え入るような声だった。社長が人事総務担当に目くばせすると、合図に応じて後輩の部長が退職条件に関する説明を始めた。形式的に1ヶ月後の解雇とするがその間は出社に及ばず、今後1ヶ月分の給与は支給する、自席に戻らずこの足で会社から出ていくように、会社が契約している社宅は1ヶ月以内に引き払うこと、といった話が続く。そんな説明の言葉も、全てを諦め、抜け殻のようになった酒巻の耳には届いていなかった。言われるがまま数枚の紙切れにサインをすると、男は慣れ親しんだオフィスを静かに後にした。【雪風ファンドのJ-REIT小説(14)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.11.24
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中央レジデンスの運用会社、中央リカードアセットマネジメントの社員は大部分が親会社から出向してきた人間だ。親会社である中央新都市開発が資金と人材を出して運用会社を作り、運用会社は外部から資金を集めたJ-REITを自在に操って親会社に資金を還流させるという役割を担う。これが親会社側から見たJ-REITのビジネスモデルだ。その運用会社の中で、受付の浅沼桃恵や経理の矢田部聡美のような中途採用のヨソ者は少数派だった。ちょっとでも変なマネしたらセクハラで訴えてやろうかしら?矢田部聡美はその日、朝からいらだっていた。IRの手伝いに自分を引っ張り出した犯人は、上司を恫喝するまでもなく、最近まで付き合っていた企画・IR部門の部長、甘利不二雄だとわかっていた。内乃村部長代理を問い詰めたのは、ただの憂さ晴らしに過ぎない。おどおどしながら機密をベラベラしゃべるのを見て以来、聡美にとっての上司はストレス解消以外に利用価値がない男になり下がっていた。上にかけ合って指示を撤回させるというのも単なる脅しで、実際にそんな悪あがきをする気はなかった。・・・・突然に別れを切り出しても平然としていた甘利が、私に下につけと命じた真意は何かしら。本当は未練たらたらなのか、意趣返しなのか。まあどうでもいい。どちらにしても今は嫌悪しか感じない。もう少しの辛抱。J-REITが潰れても会社が残るカラクリはわかったけど、そんな茶番にお付き合いする気はない。どうせこの会社とはボーナスが出たらおさらばするつもりだから。 それにしても、ここの連中は中レジ倒産のあとの慌ただしさに、ため息をつくはボヤくはで忙しいようだけど、本当に何も解ってない。どうして自分たちがとてつもなく恵まれていることをありがたいと感じないのか?こいつらの出身母体は、資産の8割以上が土地建物とそれに関係するものなのに、自己資本比率が4%しかない。そのうえ、不動産の値下がりで莫大な含み損を抱えて息も絶え絶え。どう見ても実質債務超過、倒産寸前にしか見えない。それが、たまたまREITの運用会社に出向していたというだけで路頭に迷わなくて済むのだから、幸運を喜ぶべきなのにね。聡美の考えは的確だった。REITの運用会社に多くの人材を送り込んだ親会社の中央新都市開発は、まさに死に瀕していた。REITに物件を買い取らせるつもりで積極的に借り入れをしつつ不動産開発に手を染めたのが失敗の元だった。 REITが資金調達に苦しむような市場環境になると、親会社は手持ちの物件や出来上がってくる物件をREITに売却できない。売却で現金化できなければ、借り入れの返済もままならず金利がかさむ。そうこうしているうちに、さらに不動産市況が悪化して抱え込んだ物件の価値が下がる。こうなると、仮に物件を売ることができても、親会社は借金を返しきれない。こうした悪循環が中央新都市開発の息の根を止めようとしていた。 確かにこんな状況になると親会社の顔色をうかがっても仕方ないものね。だったら意のままにできる中央レジデンス投資法人の資産を利用して自分たちだけ助かろうとするのもわかる。そのために不動産を担保に入れさせなかったってことか。 考えはすばらしく合理的。だけど投資家やレンダーの感情を無視しすぎ。本当にこんなたくらみが上手くいくかしら? 冷血女の懸念はのちに的中する。 【雪風ファンドのJ-REIT小説(13)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.11.20
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武蔵銀行は、東京都中央区に本店を置く都西部を地盤とする地方銀行である。総資産3兆円の中位行で拠点網は93支店を数える。その中で新宿支店はベスト4に入るいわゆるAクラス店舗であり、支店長職には役員の一歩手前という有力幹部が就くのが習わしだった。その日、新宿支店渉外三課の課長、小枝賢は出社と同時に支店長室に来るよう命じられ、背筋が寒くなるのを覚えた。まさか人事の話か?いや時期が違う。となれば用件は察しがつく。担当する中央レジデンス投資法人への30億の融資が焦げ付いた件で、とうとう支店長からも詰問されることになるに違いない。REITの破綻が発表されてから幾日も経過していたが、行内では針の筵のような状態が続いている。債務者区分が正常先となっていた大口先が突然倒れたのだから当然だ。小枝のため息は深まるばかりだった。ノックして部屋に入ると、支店長の生田は、「よう、来たか、30億の男」と言って雑誌のコピーらしきものを執務机の上に放り出した。まずは読めということのようだ。いきなり衝撃的なタイトルが目に入ってきた。 中央レジデンス破綻の舞台裏 引き金を引いた武蔵銀行の貸し剥がし「明日発売の東都経済だそうだよ、小枝君。ご親切に広報室長が送ってきた」苦りきった風情で支店長が口を開いた。「事実無根です。当行は担保を出せば切り抜けられるって・・」言いかけるのを支店長がさえぎる。「いや、わかってる。だがね、世間はそう取らんのだよ。誰もが当行が足並みを乱したと思う。何らかの形で責任を取らねばならんだろう」そう言うと、こちらが発言するのを促すかのように黙り込んでしまった。そういうことか。バンカーとしてやるべきことをやってきたという自負はある。しかし、大口融資先の破綻を前に何を言ってもむなしいだけのようだ。潔く責めを負うしかないのか?あいつとは正反対じゃないか!あいつとは、中央レジデンスの代表、花井潤一を指していた。破綻後の花井には驚かされっぱなしだった。まず電話で「面倒な話は弁護士に一任してますので、あちらに聞いてください」と言われ当事者意識のなさに呆れさせられる。さらに、「では、やはり経営責任を取られるのですね?」と問うと、「これから再生に全力を尽くすことで責任を全うする所存です」と言い放った。これでご理解、ご協力くださいと頼まれて、誰が納得できるというのか。一方の俺はいま、行内の実力者の前で、詰め腹を切らされようとしている。生田支店長の沈黙が、もの凄いプレッシャーになってのしかかってくる。重苦しい空気に耐えかねて小枝が口を開いた。「つまり私に辞表を書けと?」一瞬の間があって、支店長の「フハハハ」という乾いた笑い声が響いた。目は笑っていない。「いや、脅かして悪かった。しかし小枝課長、君はいつも真っすぐだなぁ・・。だが、簡単に辞めるなど口にすべきではない」ジロリと睨まれ、小枝は弾かれたようにハッと礼をした。「こんなことで君を切ったりするものか。ヨシケン実業、馬場電子、ソフィア医療福祉専門学校、タカダエクステリア、みんな君が取ってきた先だろう。その調子でこれからもひとつ頼む。こんな仕事を長く続けていればいろいろあるさ。いちいち責任を取ってたら首がいくつあっても足りんよ」目頭が熱くなった。30億のうちどれだけが貸倒損失になるかわからないが、役員一歩手前の生田支店長とて無事ですむはずが無いのだ。出世には確実に響く。それなのに、この人は俺に責任を負わせようとするどころか、期待をかけてくれるというのか。「小枝課長、君は無責任な経営者に怒り心頭らしいが、そう熱くなることはない。不実な輩にはきちんと報いがあるものさ。歪んだ感情など捨ててしまえ。まっすぐなのが君のいいところだ。その持ち味でガンガンいけ。責任は俺が持つ」ここまで言われては必死にやるしかない。営業実績が停滞気味だった小枝はこの時を境に息を吹き返した。彼のひたむきな奮闘は、生田支店長が年明けに傍系の武蔵ファクターへ転出させられた後も続いた。【雪風ファンドのJ-REIT小説(12)】
2010.11.16
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「ちょっと内乃村さん?これはどういうことでしょうか?何で私まで電話応対なんかにかり出されなきゃならないんです?」 トゲのある声が耳に刺さる。言葉遣いは丁寧だが、声のトーンも睨みつけるような目つきも、とても上司に対するものとは思えない。怖すぎる。額からにじむ汗をハンカチで必死にぬぐいながら、「そっ、それが~、う、上からの指示でえぇ」と搾り出すように答えるのが精一杯だった。 REIT破綻から6日目の朝、中央リカードアセットマネジメント財務経理グループの部長代理、内乃村寅雄は部下の女性に会議室に呼びだされ、突き上げを喰らっていた。 その女、矢田部聡美は元会計士という異色のキャリアを持っていた。大手監査法人に入所したものの、仕事内容の単調さとあまりの多忙さに嫌気がさして、会計士試験に合格すると同時にあっさり転身したという変わり者だ。役職はヒラの一つ上の主任だが、実質的には経理業務の全般を仕切っている。 もともと内乃村は、有能すぎる彼女に遠慮がちに接していたが、最近は頭が上がらないまでになっていた。ふとしたことで機密情報を漏らしたのがきっかけだ。 それは中央レジデンス投資法人が破綻する数日前、主任に相談したいことがあると言われて会議室へ行ったときのことだ。そこで矢田部が思いもよらない話を切り出したので、内乃村は息を呑んだ。 「あの、一つ聞いてもいいですか?いつも気の毒なくらい銀行にペコペコしてたのに、昨日から居留守使ってますけど、何でですか?もしかして、もう中レジのリファイナンスは諦めたとか?」 返答に窮していると彼女がさらに詰め寄ってくる。 「最近、小松・片岡法律事務所との行き来が激しいようですが、あれって顧問先と違いますよね?調べたんですが、小松恒史弁護士って“倒産村”のセンセイですよ?今うちが倒産専門の弁護士と毎日遅くまで打ち合わせることなんて一つしかないですよね?」 「そっ、そんなことは・・・・」何かを言おうとするが言葉が続かない。「内乃村さん?そこで絶句したら肯定してるのと一緒ですよ。潰すんですね?中レジ」 頷くほかなかった。動揺した彼はREITの民事再生という最高機密を漏らしたばかりでなく、気づけば余計な筋書きまで話してしまっていた。このときから、彼女は内乃村に遠慮のない態度を取るようになる。 今だってそうだ。IRへの応援要請にもの凄い勢いで抵抗してきている。しかし、上からのお達しだからどうにもならないのだ。けど、この女を説得するなんて俺には絶対無理だ。どうしたものか・・・ それにしても、このところ本当にツイてない。1ヶ月前に部長が緊急入院したあたりからだ。急遽代役として金策に走ったが、日をおかず、なぜ部長が胃潰瘍で倒れたのかを思い知る事になった。 掌を返したように取引の継続を渋ってくる銀行の担当者を、花井社長とともに訪ねまわったが、連中は担保を出せの一点張りだった。社長が断ったために、レンダーの若造から責めたてられたのは、一度や二度ではない。 ビバルディ投信の酒巻とかいう役員にも、出資要請を断られただけでなく、ほうほうの体で追い返された。屈辱だった。 大変だったのは監査法人との交渉だってそうだ。上が勝手に決めてきた物件の損切り売却が、向こうの代表社員の目に止まってしまった。融通の利かないベテラン会計士は、未発表の前期決算に減損損失を織り込めと言う。こうなると連中はテコでも動かない。 上層部のこんな単純ミスのせいで、REITの非課税要件を満たせなくなり、十億単位の法人税を余計に払うことになる。ルールにのっとって情報開示すれば、投資家が一斉に苦情を言ってくるのは確実という状況に追い込まれた。 俺にはわかるよ、社長 だから何もかもチャラにすることにしたんですよね・・・ 「ちょっと、聞いてるんですか?内乃村さん」 ハッと気づくと、眉を吊り上げた矢田部主任の顔が目の前にある。「私にIRを手伝わせるなんて指示した上司って誰です?取締役ですか?常務ですか?撤回させますので教えてください」たたみかけるように詰め寄ってくる。 そんなことをされたら部下の管理能力ゼロとみなされてしまう。定年を目の前にしてクビになったりしたら、あの怖い嫁に合わせる顔がない。 「そっ、それだけは勘弁して下さい!」気づくと部長代理は土下座せんばかりの勢いで主任に頭を下げていた。【雪風ファンドのJ-REIT小説(11)】
2010.11.15
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「甚だ遺憾に思っています」のっけからそう言われて、毎朝新聞経済部の服部は苦笑いしたい気分だった。監督官庁として中央レジデンス投資法人の破綻をどのように受け止めているか、という問いに対する金融監督省の課長の答えがそれだったからだ。”遺憾の意”だけでは、わざわざ取材に来た甲斐が無い。「すると渡部課長、やはり市場への悪影響が問題だと?」と、問い直すと、今度は意外にも突っ込んだ発言が飛び出した。「それもありますがね、我々としても困惑してるわけですよ。とにかく民事再生法適用申請に至る過程があまりに不透明だ。あれだけ不動産を保有していながら、担保を差し出すこともせずにいきなり破綻など聞いたことがない。なぜ戦わずに降参しなけりゃならんのかね?」監督官庁さえも破綻を疑問視している。これはなかなかの収穫だ。「それについては、社長の花井氏のコメントが取れてます。なんでも担保を差し出すと、倒産した際に投資家へ損害を与えるという話でしたよ」と、服部が問いに応じると、役人は言下に否定した。「そりゃキミィ、破綻ありきの発想ですよ。あのREITは死なずにすんだ。少なくとも我々に話を通すなりしてくれれば、やりようはあったのさ」服部はメモしていた手を止め、驚いたように顔を上げた。取材相手から話を引き出したいときによく使う手の一つだ。そのまま、「やはりレンダーに圧力、いや失礼、ご指導をなさって穏便にすませるとか、そういったことは可能だったと?」と聞くと、「そんなところです。他にも手はあるでしょうがね。だから計画倒産と聞いたときにピンと来たんだが、何かそういった噂でもあるのかね?」渡部が逆に質問を返しつつこちらの目をじっと覗き込んできた。相手は役人にしては珍しく腹を割って話をしている。この先の付き合いも考えるなら、こちらも期待に応えたほうが得策だ。服部は咄嗟にそう判断した。「実は、国内外のハゲタカファンドがかなり以前からあそこに接触していたってネタを掴んでまして・・」「ああ、電話でもハゲタカが暗躍とか言ってたな。どんなところだ?」「現在わかっているのは、第一プリンシパル、ゴードンサックス、CVSキャピタルといったところです」そこで渡部が疑問を差し挟んだ。「ちょっと待て。彼らの投資先は破綻会社ばかりじゃないだろう」「いや、そうなんですが、しかし課長もご存知のように破綻後のほうが処理はしやすいですからね。当然儲けも大きい」渡部がうなづきつつ再び疑問を口にした。「だがね服部君、正味の話、J-REITとは設立母体のいわば別働隊だ。親には逆らえんだろう。勝手に破綻させるなど出来るものか」宣言するように言うとまっすぐ服部を見据えてきた。その通りだった。突き詰めて言えば、REITとは親会社の利益を捻り出すための道具なのである。その親会社に派遣されている人間が勝手な真似を出来る道理はない。「ですが課長、たとえばその母体が死に体だったとしたらどうです?」服部は不敵な笑みを浮かべながら切り返した。頼りなさげだった当初の雰囲気は、いつしか影をひそめていた。 【雪風ファンドのJ-REIT小説(10)】
2010.11.11
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「課長、3時のお約束で毎朝新聞の服部様という方がお見えですが」 受付からの電話が来客を知らせる。手元の時計は2時59分を指していた。「時間には正確なようだが・・・」小声でつぶやいてみる。「しかし、ハゲタカだの計画倒産だのといった話のほうはどうかね?」金融監督省証券局課長の渡部がゆっくりと腰を上げた。 初のJ-REITの破綻事例となった中央レジデンス投資法人について色々お聞かせ頂けないかという連絡を受けたのはつい先刻のことだ。たまたまスケジュールに空白があったので「今から来れるかね?」と聞くと「では3時に」と即答してきた。やる気満々のようだ。 渡部のほうも記者が電話してきた際、陰謀めいた裏があるよう匂わせたのが気になっていた。名の知れた新聞の記者が言うことだ。根も葉もないなんてことはないだろう。取材に応じるかわりに洗いざらい聞きだしてやろう、という計算も働いていた。 そもそも、この倒産はおかしいことだらけだった。資金繰り破綻ということになってはいたが、J-REITが債務の契約内容に関する変更などを求めた形跡がない。リスケ要請が無いだけでなく、取引継続の条件として銀行が担保提供を求めた際に、REITが断った事実が判明している。 結局、倒産回避に向けた努力をろくにせずに白旗を上げたことになる。常識では考えられないことだ。渡部としても、なぜ中央レジデンスがこんなタイミングで民事再生の申請をしたのかが解かりかねていた。 第一、J-REITの破綻を阻止するためだったら、銀行局長どころか大臣を動かして救済の道筋を立てることだって可能なのだ。にもかかわらず、何の相談もないまま倒産に突き進んだ。あえて潰したようにさえ見える。記者が電話で言っていた計画倒産という言葉が頭をよぎった。 会ってみると、服部という記者は学生と見分けがつかないような若造だった。物腰が柔らかく新聞記者にありがちなふてぶてしさは感じられない。一見頼りない印象さえある。しかし、話を進めるうちに、その男は次第に迫力を増していく。彼がもたらした情報は、渡部を驚かせるに十分な内容だった。【雪風ファンドのJ-REIT小説(9)】
2010.11.11
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月曜日の朝は、じっくりメイクをしながら序々に仕事モードに切り替えていくのが桃恵の習慣だったが、今日は勝手が違う。鏡には今にも泣き出しそうな女の顔が映っていた。「会社、行きたく・・・ない」沸き立ってくる感情が言葉になるのを辛うじて飲み込む。一緒に暮らす母を気遣ってのことだ。聞かれたら心配をかけるに決まってる。中央レジデンス投資法人の破綻が発表されたのが木曜日の17時。それ以降、文字通り地獄のような時間が彼女を待っていた。リートの運用会社、中央リカードアセットマネジメントの受付と代表電話を担当する桃恵には、当日朝から一切の来客や電話を役員につながないよう指示が出ていた。銀行関係までシャットアウトするのは異例のことだ。ついにXデーが来たのだと確信した。経理にいる親友にREITを倒産させると聞いてから、3日あまりが経過していた。 朝から開催されている緊急役員会の議題は、昼までには社内の誰もが知るところとなっていた。ただ、それでも事務所内には普段と何ら変わらないのんびりとした空気が流れていた。横では「79,000円。ストップ安だねぇ」「やっぱり漏れてるくさいっすよね」といった他愛ない会話が交わされている。変わったことと言えば、株価が下がっていることに対する問合せの電話が5件もあったことぐらいだ。IRに取り次いだあとで、「何て答えてるんでしょうね?」と、さりげなく隣に座る係長に聞いてみたら、「問題ありません、だよ。そう言うしかないからねぇ」と、乾いた声でのたまう。何もかもが白けきっているような気がした。そんな空気がガラリと変わったのは、16時10分頃、倒産発表のおよそ50分前だ。東経データバンクからの「18時に東証で会見って聞いたけど、何なの?広報につないでくれる?」という恐ろしく早口の電話を皮切りに、マスコミ各社からの問合せが殺到しだしたのだ。やがて、会社の受付にかつて経験したことの無い数の報道陣が押しかけ、IR部門の主任を取り囲むようになった。上役が出払っているために応対している若手担当者は「あなたじゃ話になんないよ」などと言われ、顔を引きつらせている。17時ちょうどの東証での適時開示と同時に「民事再生手続開始の申し立てに関するお知らせ」と題するペーパーが記者たちに配られた。彼らの多くはそれを奪い取るようにして手にすると、小走りで事務所を出て行った。その足で会見場に向かうのだろう。突風のようにやって来たマスコミ関係者が会社を飛び出したのとほぼ同じタイミングで、今度は電話の洪水が襲ってきた。出遅れた新聞・雑誌・テレビ等のメディア、それに銀行・保険・証券・投資家などもプレスリリースに気付き、一斉に連絡を入れ始めたのだ。「どうなってんだ!責任者を出せ!」などと興奮した口調でまくし立てる相手も少なくない。「担当は他の電話に出ております」と言うと、桃恵にも怒りをぶつけてくる。そんな鉄火場のような慌ただしさの中で、意外なことに彼女は慌てず、腐らず、ただ黙々と自身の使命を果たしていた。「受付には受付の意地があるの。聡美みたいな仕事はできないけど、誰にでも公平に感じのよい受け答えをすること、それと、まわりの雰囲気に気を使うこと、これだけは誰にも負けないって言えるようになりたいんだ」そう社内の友人に語ったことのある彼女は、言葉通りにその日も表情や声に怒りや悲しみといった負の感情が出ないよう懸命に心がけていた。そして、「IRの人とかもっとつらい筈だもの。こんな時だからこそしっかりしなきゃね」などと周囲を励ましながら、けなげに応対を続けた。しかし、自分なりのプロ意識でまとった”明るい受付嬢”という仮面を維持することは、彼女の心に途方も無い負荷を与える。倒産現場という極限状態にあるのだから無理も無い。やがて、鏡に映る蒼ざめた素顔に、「大丈夫・・、大丈夫だから」とささやき、自分を元気づけるのが桃恵の出勤前の日課になってゆく。その習慣は、ある事件を契機に彼女が会社を去ることになる日まで続いた。【雪風ファンドのJ-REIT小説(8)】
2010.11.10
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短大を出てすぐに証券界へ飛び込んだ。あれから19年になる。浮き沈みの激しいマーケットのなか、電話営業で、支店の窓口で、それなりの修羅場も経験してきた。自分でも芯が強くなったと思う。それでもやっぱり心が挫けそうになるときがある。特にこんな朝は・・・「君たちも知ってのとおり、今日は中央レジデンスの破綻が他の関連銘柄に波及する可能性が高い。当面はJ-REITや不動産株は推奨しないことになるから、みんなもそのつもりで」ミーティングの席で支店次長からの訓示が続いている。言われなくてもわかってる。このあと、それより投信だ、投信を売れといういつもの話になるんでしょ?でも、その前に潰れたREIT持ってた人に連絡を入れなけきゃいけない。あなたのファンドが破綻したって伝えて、上場廃止後は預かれないとか説明しなきゃいけないの。中には私たちの連絡が第一報になる人だっているんだよ?たいていの人は、こんな話を聞くと声の調子がどこかおかしくなる。「そんな・・」と言ったまま絶句する人。「どうしてそんなになってるのに知らせなかった」とか「主幹事として責任を取れ」と怒りだす人。動揺を隠そうとするものの、支離滅裂な話をする人。・・・心が痛い。 こういう場面で人間の地金が出る。私たちのほうも真価が問われる気がする。破綻発表があってすぐに、中央レジデンスを保有しているお客さんをリストアップした。公募の割当をもらってそのままって人が多い。私の担当は5人。それぞれの顔が頭に浮かぶ。奥さんに先立たれたと寂しそうに語っていたおじいさん、建材屋の気さくな経営者、40代の普通のサラリーマン、年配の主婦。みんなショックだろうな。でも、致命的じゃないのが救いといえなくもないか・・・。だけど、中央レジデンスの保有者はもう一人いる。甲斐陽子さん、私が勝手に憧れ、恩人だと思ってる人。キャリアOL風の彼女とは10年来の付き合いになる。小ざっぱりとしたファッションに、いかにも仕事の出来そうな雰囲気をまとう彼女は、めったに来店しないのに支店では有名人だ。損を補填しろと騒いで隣の窓口の子を困らせるオヤジがいたとき、「ああはなりたくないわ」と聞こえよがしに言って、ひと騒動になったのがきっかけだ。男とあやうくケンカになりかかっても、彼女は毅然とした態度を崩さなかった。あとで怖くなかったのか聞いたら、「警備員が後ろに来てるのがわかってたからね」と、いたずらっぽく笑った。たぶん曲がったことがきらいな性格。そんな彼女が中央レジデンスをたくさん持ってる。下手をすると人生を変えてしまうほどに。「年金なんてあてにならないから自分で運用しないとね」というのが口癖だった。なのに、老後の足しどころの騒ぎではなくなってしまった。彼女もヘコんでるんだろうなぁ。「・・・君、笠原君、君はどう思うかね?」突然次長から話を振られた。ぼうっとしているのを見咎められた?でも大丈夫。昔の私じゃない。考えはまとまってる。「なるほど、不動産関連はいま確かに鬼門かも知れません。ですが、このセクターの事業環境は昔とは大きく違ってきています。特にJ-REITという”経営安定化装置”を手にした財閥系大手は、むしろ妙味アリと感じます」次長が怪訝そうな顔をしている。わかってる。窓口の女が何を生意気なぐらいに思っているのだろう。ヤツには、少々数字を上げたぐらいでいい気になるなと言われたこともある。構わず話を続ける。「三井不動産、それと三菱地所。これらはREITを使って運用報酬のみならず管理報酬・仲介手数料、それに修繕工事の受注でも稼げますし、資産のオフバランス・オンバランスが自在です。含み資産もありますから不動産不況でもそうそう倒れません。逆張り戦略を提案する価値は十分あると思います」言い終えると、室内がシンとなった。しょせんは準総合職にここまで求められていないということか。気づくと、私は味方ですと言いたげな感じでこっそりウインクしてくる後輩がいた。それで十分だ。ふと、どこからか小さい拍手の音が聞こえてきた。振り返るといつの間に出社してきたのか、入口で支店長が悠然と手をたたいている。「さすが、わが支店のエース。なかなかの見識です。みなも彼女の姿勢を見習うように」張りのある声が部屋中に響く。気まぐれなボスのことだ。本心で言っているかどうかなんて判らない。でも悪い気はしない。次長がうって変わってウンウンうなづいているのがなんとも可笑しい。・・そうだ、甲斐さんとの出会いが私を変えたんだ。彼女のような人を目標に、デキる女になりたくて勉強するようになった。仕事も勉強、勉強してお金をもらえると思えばそう辛くなくなった。自然とかわいがってくれるお客さんが増え、営業成績も伸びた。「何とかして恩を返したい」拍手が広がっていくのを聞きながら、小枝子は無意識にこぶしを強く握り締めていた。【雪風ファンドのJ-REIT小説(7)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.11.02
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お預り資産状況 90,715,611円「さすがにちょっとは減ったな。やっぱリーマンショックが効いたぜ。それにしたって、ククッ・・、1Kのボロアパートに住む俺が、こんな金持ちだとは誰も思うまいて」鈴木耕太郎は、狭い部屋でPCに表示されたネット証券のトレード画面を見ながら一人ほくそ笑んでいた。もうすぐ午後の取引が始まる。食べ終えたカップ麺を片付けるのももどかしく、ただ脇へ押しやると、再びPCに向かって動意株を調べ始めた。見るのは株価だけではない。売買高のうねりこそが大事というのが鈴木の信条だった。「株の人気を反映した出来高や、騙しがいっぱいの板情報、それと株価の値動きから、モニタの向こうにいる人間の心を読むんだ。いや、連中の心理を読んだつもりになる。でもって、ここぞというとき勝負に出る。波に逆らわないように動くわけよ。全ては勘。コツを言葉にするなんて無理無理。強いて言えば損切りは機械的に、それ以外はヒラメキで決めるってぐらいのもんだ」こんなやり方で、勝つことも負けることもあったが、鈴木の資産は割りと順調に増えてきた。しかし、時折彼は思う。「俺のやり方っていつまでも通用するんか?勘が鈍ったらオシマイなんかな?」現にスランプに陥ることもあった。言葉で説明できないような感覚に頼っているだけに、ある日突然勘が働かなくなるのが怖い。中央レジデンスの情報に目が止まったのも、そんなぼんやりとした不安が頭をかすめている時だった。その銘柄は、当日午前の東証値下がり率ランキングの上位に名を連ねていた。中央レジデンス投資法人 92,000円 前日比▲7,000円下落率7.1%。J-REITってやつか。配当好きのじいさん向け商品だな。おろ?配当って年2万円も出るんか。鼻歌まじりに利回りを計算すると、税金を引いた後でも20%近い数字になる。予想分配だと確かにそうなる。「なんだなんだ?3千万も突っ込めば配当だけでラクラク生活できるじゃん」思わずヒュ~と口笛を吹く。本来、いくら投資すれば何円手に出来るといった考え方は危険極まりないものだ。利回りが確実であるかのように錯覚して、投資額を膨らませてしまいがちだからだ。しかし、そのとき不覚にも彼は予想配当に目を奪われ、いつもなら決してしない判断を下してしまった。敬礼するようなポーズで、「コータロー行きま~す」と一人叫ぶと、売り注文が膨れ上がる寄り付き直前の板に思い切り買いをぶつけてしまったのだ。「ヒャッホー!とりあえず後場寄り300口ゲット。年収600万確定~♪」デイトレーダーで勝ち続けられる人間などほんの一握りに過ぎない。鈴木は安定した家賃収入という誘惑に負け、自分が定めたルールを曲げてしまったために、この後もさらに傷を広げることになる。結局、彼が中央レジデンスの分配金を手にすることはなかった。【雪風ファンドのJ-REIT小説(6)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.10.29
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時としてありふれた日常の中に、その後の運命を大きく変える分かれ道が潜んでいることがある。しかし、多くの人はそれが重要な局面だとは気づかずに、後になって悔やむのである。投資会社ビバルディの取締役運用部長、酒巻哲也もそんな一人だった。部長席の直通電話が静かに鳴ったのは、木曜日の午前11時を少し過ぎた頃だった。軽くひょいと受話器を上げると、「中央レジデンスの花井でございます」という聞きなれた声が響いてくる。声の主は、酒巻のファンドが大株主になっているREITの代表、花井潤一だった。「前からお願いしておりますように、契約済みの物件購入のために何とか150億追加でご出資いただきたく」花井は挨拶もそこそこに、いきなり本題を切り出した。「はぁ?その話ならもうお断りしたでしょう」受話器を握り締めたまま、酒巻は露骨に顔をしかめる。10日ほど前に財務経理グループの責任者を引き連れてビバルディ投信にやって来た際、追加出資は無理だとハネつけたばかりだった。なにせ、前に40億円あまりを第三者割当増資の形で出資してから半年も経過していないのだ。しかも、その投資は中央レジデンスのマーケットでの値下がりによって半分以下の価値となっていた。その上に150億など出せよう筈もない。しかも、資金使途は1年以上も前に親会社から買う約束をさせられた大型物件の購入だという。あまりにムシのいい話に腹が立ち、説明の途中で「オイッ、お客さんがお帰りだ」と秘書室に向けて怒鳴って追い返したほどだ。にもかかわらず、また同じ件で電話してくるとは一体どういう神経をしているのか。このとき酒巻は、相手が民事再生法の適用申請を議題とする緊急役員会の合間に電話をかけていることなど、まるで想像もしていなかった。「では物件購入は諦めますので、キャンセル料をご用立ていただけませんか。50億ほどになります」花井にしれっと言われ、酒巻はかえって落ち着きを取り戻した。怒るのも馬鹿らしくなったのである。50億円か。あっさり言ってくれる。ビバルディ投信の運用資産は約8,000億、そのうちこのような戦略的投資に使えるプライベートエクイティの枠は1,500億ほどだ。中央レジデンスへは増資とマーケットで買った分を合わせると、既に60億あまり投入しているが、50億程度なら追加で出せないこともない。しかし----である。親会社への違約金ということは、出した金はまるごと親に吸い上げられるだけだ。REITの収益には何ら寄与しない。やはりノーだ。酒巻は一応すまなそうに取り繕い、「花井さぁん、何度言われても答えは変わりませんよ。無理なものは無理。この件はこれっきりにして下さいよ」とだけ口にした。花井の反応は予想外だった。掌を返したように素っ気無く、「あぁそうですか。では結構」とあっさり引き下ると、ではと言い捨て勝手に電話を切ったのである。ん?今のが筆頭株主に対する態度か?最後の勝ち誇ったような声音は何だ?泣きついてくると思ったのに、この諦めのよさはどういうことだ?中堅運用会社で役員にまで登りつめた酒巻にも、ハゲタカの意を受けREITを操る男の真意までは読めなかった。およそ6時間後、酒巻は失意のどん底へ突き落とされることになる。【雪風ファンドのJ-REIT小説(5)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.10.27
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この子ったら自分の心配ばかりしちゃって REIT持ってる連中が聞いたら何て思うかしら?聡美は思いつめた表情で問いかける同僚に、そんな感情を悟られないように気をつけながら言葉を続けた。「それがね、中レジが潰れてもウチの会社は平気みたいなの。社員はリストラされないし、お給料も減らないんだって。潰れるのは運用してるREITだけだから、ウチはそれに新しいスポンサー見つけて、会社も抱き合わせで助けてもらうって算段よ」「えーっ!じゃあ私たちも大丈夫なのね。ちょっと、驚かさないでよ。もーう」そう言った桃恵は、早くもいつもの調子を取り戻している。向かい合った同僚の晴れやかな笑顔に軽い微笑で応じながら、聡美はやはりこの子はお人形のように受付と電話業務をしているだけで、会社のことが何もわかっていないと感じていた。中央リカードアセットマネジメントは、自己資本比率が80%を超え、現預金も十分にある。中央レジデンスから運用報酬として吸い上げた収入が、ほどよく社内に蓄積されていたからだ。もとより倒産する要素などありはしない。ちょっと脅かされたぐらいで動揺するほうがおかしいのだ。その上で聡美は、REITに関する問合せ窓口が、運用会社である中央リカードになっていることの意味も熟知していた。破綻発表後に殺到するであろう電話を受ける桃恵がどんな目に遭うのかは容易に想像がつく。その時、このかわいいだけが取りえの小娘がいつまで笑っていられるか・・・「じゃあさ、新スポンサーさんは大手の一流どころだといいなー。だってエリートでカッコいい人がたくさん来るかも知れないし」屈託無く語る桃恵の言葉に、噴き出しそうになりながら「いくらなんでも不謹慎過ぎよ」と笑って応える聡美。傍目には2人は仲の良い友人同士にしか見えなかっただろう。あまり気乗りしないまま付き合っていた企画・IR部門の幹部が、何度も桃恵を食事に誘おうとしていると知ってから、聡美の彼女に対する感情は変化していた。プライドを傷つけられた憤りが桃恵に向けられた格好だ。それでも表面上は女同士の関係が変わらなかったのは、聡美が怒りに任せて自分の理知的な雰囲気を壊すような真似をしたくなかったからだ。男問題で“親友”とモメ事など起こせばクールなイメージが崩れてしまう。彼女の気位の高さが決してそれを許さなかった。こうして水面下では聡美の思惑通り、目の前にいる女を振り回したあげく、苦悩にあえぐのを見て悦に入るという冷徹なシナリオが、寸分の狂いも無く進行していた。【雪風ファンドのJ-REIT小説(4)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.10.24
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「ねぇ、ウチの会社もう終わりらしいよ。でも、普通の倒産じゃないみたいで・・・」経理の聡美に給湯室でいきなり囁かれ、桃恵は目を丸くした。同じ時期に中途採用になった親友の聡美は、受付と電話番が主な仕事の桃恵よりも社内事情に詳しい。興味津々だったが、ネタがネタなだけに、「シッ!ここはヤバいっしょ」と人さし指で口を押さえるゼスチャーをすると、「ハルモニに5時半でどう?」と小声で行きつけの洋風居酒屋を指定した。会社が危ない・・・?思い当たるフシはあった。最近見知らぬ男たちを社内で良くみかけると噂になっていたが、桃恵は最初に応対する立場から、それが顧問先とは違う弁護士事務所のスタッフだと知っていた。幹部の面々が行く先を告げずに外出する機会が増えたのも何だかおかしい。投資家と名乗る人から資金調達は大丈夫か、担当者を出してくれというムッとするような電話がかかるようになったのもこの1ヶ月ほどのことだ。そう言えば、銀行からの電話が急に横柄になったとかいうぼやきも聡美からは聞いていた。どうも何かが会社で起きているらしい。 普通の倒産じゃないってなんだろ もしかしてあっちがヤバいって話かな・・・?桃恵の勤務する会社は、中央リカードアセットマネジメント。中央レジデンス投資法人というJ-REITを運用していた。同僚の聡美が新宿野村ビルの地下にあるハルモニに着いたのは、約束の時間を20分過ぎたころだった。彼女が「ゴメンゴメン、実はね、帰り際に・・・」と遅れた言い訳をしようとするのを両手で制し、「そんなことよりさっきの話」と言った桃恵の表情は真剣そのものだった。「会社が終わりって何なの?普通の倒産じゃないとか言ってたけど」聡美は、普段はかすかな微笑みをたやさない同僚の、いつになく緊張した面持ちをじっくり眺めながら、財務経理グループの幹部から聞き出したばかりの話を語り出した。「ほら、あの中央レジデンス、潰しちゃうんだって。もともと資金繰りは危なかったんだけど、導管性が満たせないとか会計士に言われちゃって、社長がもう諦めたって話なのよ。リートなのに税金取られちゃうのがマズいんだって」潰れるのは会社ではなく、会社の運用するファンドの話だった。でも、中央レジデンスを運用するのが仕事なのに、そのファンドが倒産しちゃったらどうなるんだろう。それにドーカンセイって何?キレ者で通る聡美の説明は的確に違いないのだが、難しすぎて解らないところがある。そこで桃恵は、いま最も気になる質問をすることにした。「それで私たちどうなるの?」【雪風ファンドのJ-REIT小説(3)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.10.21
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「ふざけるな!」テレビのニュース番組に釘付けとなっていた杉田真一は突然、凄まじい形相で怒鳴った。数時間前に、帰宅途中の京王線内で中央レジデンスの破綻を知った。瞬間、目の前の景色が歪み、地面が波打つような感覚に襲われて反射的に強く目を閉じた。何秒間そうしていただろうか。意識が飛びそうになるのを堪え、そのまま自分を励ますように深く息をついて、ゆっくり、ゆっくりと目を開いたが、やはり眼前の携帯に表示されているのはリート破綻のニュースだった。Jリート初の倒産中央レジデンス投資法人(東京都新宿区)は10日25日、東京地裁へ民事再生法の適用を申請した。負債総額は約1,000億円。 見間違いではなかった。800万円あまりを投資したファンドが破綻したのだ。一介のサラリーマンに過ぎない杉田にとって、800万は決して軽くない金額である。結婚して5年になる2歳年上の妻がマンションに住みたいと言うのをのらりくらりとかわし、長い間かけて貯めてきたなけなしの資金を投じたのが、利回り7%というこのREITだった。 配当で生活が楽になると思ったのに破綻するなんて・・・ ミドルリスク・ミドルリターンってのは大嘘かよ!あたり構わず叫び散らしたい気分だった。それでも杉田は「投資は自己責任、落ち着こう、落ち着くんだ」と何度も自らに言い聞かせ、帰宅してからも努めて平静を装っていた。いずれは妻にも話さなければいけないと思いつつも、厳しく詰られるのが判っているだけに切り出せずにいた。しかし、たまたま目に入ってしまった夜のニュース番組で中央レジデンス代表の”ヘラヘラ会見”を見た瞬間、無理に抑え込もうとしていた感情が爆発してしまったのだ。激怒するあまり、思わずリビングのテレビに向かって叫び声を上げた父親を、4歳になったばかりの娘が怯えたような表情で見つめていた。「どうしたのよ?周りに聞こえるじゃない」台所から妻の美咲が怪訝そうな表情をのぞかせた。咄嗟に応じることが出来ず、「いや、なんでもないよ・・」と口を濁すが、美咲の「ニュースがどうかしたの?」と咎めるような声が追いかけてくる。社宅住まいでありながら、ご近所に聞かれるような大声を出したのが腹に据えかねているらしい。真一は「本当に何でもないんだ」と言いながらそのままトイレに行くフリをした。リビングから逃げるように出て行く際、視界の端に幼いさくらの不安げな顔があったのが気になった。用を足すでもなく個室に入ると、大声で怒鳴ってしまった反動なのか、昂ぶった感情は急速に冷え、同時に自責の念が襲ってきた。 まるで魔法だな 800万の消失マジック 何ともありがたくないショーじゃないか あのカネは一体どこに消えていくのだろうぼんやりそんな思いにふけっていると、外から「パパー、おふろー」というさくらの声がして、にわかに現実へ引き戻された。美咲は勘のいい女だ。夫の様子にただならぬものを感じ、心配で娘を呼びにやったに違いない。真一はふと、家族のこれからに思いを致した。美咲にはすまないことをした。あんなに欲しがっていたマンションの夢を遠のかせてしまった。頑張って切りつめてくれいるのを知っていたのに、俺は欲にかられて取り返しのつかないことを・・・さくらにしたって、これであの子の望むような学校への進学も、趣味のための習い事もさせられないかも知れない。俺はなんて情けない男だ。こんなんじゃ父親失格だ。「パパー、まだなのー」幼い一人娘の無垢な甘え声が、今は真一の胸を締めつけた。【雪風ファンドのJ-REIT小説(2)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.10.18
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「参ったなぁ・・」「どうするよ?」毎朝新聞記者の服部は、後ろでTVクルーがぼやいているのを聞きながら、眼前に広がる異様な光景を凝視していた。自然と厳しい表情になったのは、強烈な不信の念を覚えずにいられなかったからだ。日本版不動産投資信託、J-REITが初めて破綻したと聞き、東証の会見場に駆けつけていたのだが、そこには他人事のような風情で事態を説明する破綻ファンドの代表、花井潤一の姿があった。口元には笑みさえ浮かべているように見える。「・・・しかしながら米国に端を発しました、サブプライム問題の影響によりまして・・・」最近ではどの破綻企業も決まって口にする弁解が、席上のマイクを通して空虚に響いている。経済部に異動になってから3年が経過しようとしていたが、こんな奇妙な倒産会見は初めてだった。普通なら、そこでは刀折れ矢尽きた経営者が、神妙な面持ちで行き詰るまでの経緯を説明し、債権者でもない記者たちに頭を下げて詫びるという”儀式”が執り行われる筈だった。しかし、目の前にいる男は相変わらず悪びれる様子も無く、淡々と話を続けている。「・・・今後の再生案につきましては、東京地方裁判所及び監督委員の指導監督のもと、関係者各位のご支援、ご協力を賜り・・・」中央レジデンス投資法人代表の爽やかな表情には、破綻会社の当事者らしい悲壮感など皆無だった。参ったとぼやくTVクルーらは、いかにも倒産会見という風情のニュース向きの映像を狙っていたものの、いっこうにそれらしいシーンが撮れないので苛立っているのだろう。わずか10分たらずの一方的な説明を終えると、経営陣が弁護士とともに退席しようとしたため会見場は騒然となった。「ちょっと待ってよ!」「経営責任は?」「スポンサー候補は目星はついてるの!」怒号が響く中、数人の顔見知り記者が追いすがったが、彼らは何も言わずにその場を去っていった。服部はその場を動かなかった。いや、動けなかったと言ったほうが正しい。あまりの出来事を前にして、毒気に当てられたかのように体が硬直してしまったのだ。 ニコニコ倒産会見だと? ・・・J-REITって何なんだ。 所詮はファンド、他人のカネってことか?会場で一人放心しているかのように見える男の頭の中を、疑念と義憤とがないまぜになった思考が駆け巡っていた。服部も、REITが投資家からカネを集めて不動産買い、そこから得られる収入を配当するという仕組みなのは知っていた。しかし、その商品に潜む闇については、これまで関心を抱いたことが無かった。 あんな無責任で許されるのか。 放っておいていいのか。やがて思案にケリをつけた男は、「いいわけねぇだろ」と呟くと、勢いよく立ち上がった。【雪風ファンドのJ-REIT小説(1)】※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件等とは一切関係ありません。
2010.10.08
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