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戸籍上及び生物学上の性は男性であるものの、内心において女性であり、外形的にも女性の身体を有するにもかかわらず、警察署に留置されるにあたり、男性警察官らによって、傷病調査等のために着衣を脱がされたり、ほかの男性留置人が在房する留置室に留置されるなどし、身体的精神的損害を被ったと主張し、国家賠償法1条1項に基づき、東京都に対し損害賠償を請求した。これに対し被告は、警察官らは単に戸籍及び生物上の性が男性であり、内心における性が女性である性同一性障害者を自称するにすぎない原告を、戸籍上の性別に従い処遇したにすぎないから国賠上、違法とされることはないと争った。東京地裁平成18年3月29日判決 判例時報1935号84頁は戸籍上及び生物学上の性が男性であるが、内心における性が女性であるとの確信を有し、性適合手術及び豊胸手術を受けている性同一性障害者に対する身体検査においては、特段の事情のない限り、女子職員が身体検査を行うか、医師若しくは成年の女子を立ち会わせなければならないと解するのが相当である。留置場の管理者は右のような性同一性障害者を留置する場合には、その名誉、羞恥心及び貞操等を保護し、留置場内の規律を維持するために原則として男子と区分して留置すべきである。として、これら違法行為により原告に生じた損害を慰謝するには30万円が相当であるとした。控訴されている。性同一性障害者については社会の認識理解が進みつつあると言われており、性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律が平成16年7月16日から施行されるなどしている。 上記判例時報 頭注
2006.09.14
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ホテル利用者がホテルに預けた物品の滅失、毀損につき、高価品の明告がない物品につてはホテル利用者に対する損害賠償額を15万円に制限しているホテル約款が、ホテル側に故意又は重過失がある場合であっても適用されるか 最高裁平成15年2月28日判決 判例タイムズ1127号112頁高価品の明告がなくともホテル側に預かり品の紛失、盗難について故意又は重大な過失があるときは、ホテルの損害賠償責任を軽減する約款は適用されないとされた事例 「宿泊客がホテルの従業員に預けた手荷物の盗難につき、客が手荷物に高価品が在中していることをホテル側に予め明告していなくとも、ホテル側に故意又は重大な過失があるときは、ホテルの約款に客から明告のなかった物品の紛失については損害賠償の限度額を15万円に制限する旨の特則があっても、この特則は適用されず、ホテルの損害賠償額の範囲がこの特則により制限されることはない。」 判例・学説の動向商法578条は運送に関し、同法595条は場屋主人への寄託に関し、いずれも利用客から高価品の明告がない場合には、物品が滅失毀損しても運送人又は場屋主人の損害賠償責任が生じない旨規定している。また、これらの業界では、この規定に類する各種の約款が各業者によって定められている。これらの規定、約款の趣旨は、本判決が前記に述べるとおりであり、このような理解には学説上も異論を見ない本判決は、商法595条について直接判示したものではないが、その理論・思考過程に照らすならば、同条や商法578条についても同様に解することになると考えられる。このような解釈は運送人や場屋主人にはやや厳しいようにも感じられないわけではない。しかし翻って考えてみると、高価品の明告がなくとも、これらの業者は顧客(他人)の物品を預かるのであるから、預かった以上は善良な管理者の注意を払って適切な方法で保管すべきところ、前記諸規定の立法趣旨の事情から前記の責任が減免されるときがあっても、業者側に重過失がある場合まで責任が軽減されるというのは、適切な方法で預かっていてもらえるであろうとの顧客の信頼を大きく裏切るものであって、顧客にとって甚だ酷であり、近時の消費者保護重視の思想に背馳することにもなる。そのような観点から見れば本判決の立場は今後とも堅持されことが予想される。野村直之弁護士の解説 判例タイムズ1154号142頁
2006.08.26
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原告は被告(A地区農業共済組合)の区域内で稲作等を営み、被告の組合員とされていた。原告は平成6年以降、被告に対し払うべき共済掛け金及び事務費賦課金を滞納したため平成9年から平成11年までの共済掛け金等を請求債権とし、滞納処分として農業災害補償法所定の手続きを経て原告の預金を差し押さえた。これに対し原告は農業災害補償法所定の農作物共済に原告が当然加入しているとする農業災害補償法の規定は憲法の定める結社の自由、職業の自由、財産権等を侵害し違憲であるとして、上記滞納処分の取消または無効確認を求める訴訟を提起した。1審(札幌地裁)2審とも憲法違反でないとした。最高裁平成17年4月26日判決の判旨農業共済組合の区域内に住所を有する水稲等の耕作の業務を営む者でその業務の規模が一定の水準に達するものは、当然組合の組合員となり当該組合との間で農作物共済の共済関係が当然に成立する旨を定める農業災害補償法の規定は憲法22条1項に反しない。憲法22条1項を始めとする経済的自由権の違憲審査基準に関し、最高裁は規制2分論(積極・消極2分論)をとっているとされてきた。例えば、小売商業調整特別措置法に基づく規制について、積極的な社会経済政策のための必要かつ合理的な規制の場合は、立法府の裁量的判断が著しく不合理であることが明白な場合に限って違憲になるとし、薬事法の距離制限ににつき、社会公共に対してもらたらす弊害を防止するための消極的、警察的規制である場合は、許可制に比べて緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によってはその目的が十分に達成できないことが必要であるとした。しかし、その後森林法に基づく分割制限について規制2分論とは異なる方向性を示したが、その後の公衆浴場の距離制限規定について、上記小売市場判決を引用したり酒税法に基づく酒類販売業規制につき上記薬事法判決及びいわゆるサラリーマン税金訴訟を引用している。このような各判例の流れをみると最高裁は規制2分論を一応念頭に置きつつも、これにとらわれることなく、対象となっている規制立法の目的を認定した上で、これとの関係で当該規制措置の必要性及び合理性に関する立法府の判断をどの程度尊重すべきか、当該立法の基礎となった事実(立法事実)にどこまで踏み込んで合憲性を審査するか、当該規制の態様、規制によって失われる利益と得られる利益の均衡等を考慮して、合憲性を実質的に判断する傾向にあるのではないかと思われる。学説上は、規制2分論に拠る見解が有力である。この見解は、消極的規制目的の場合は厳格な審査基準が妥当し、積極的目的規制の場合は緩やかな審査基準が妥当するとするものである。本判決は判文において小売市場判決を引用しており積極目的に属すると判断したとも見うるところである。 判例タイムズ1215号 内田義厚 判事の解説
2006.10.06
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面談強要等禁止仮処分命令申立事件の執行力ある決定正本につき執行文の付与が肯定された事例(東京地裁 平成24年10月12日判決)「事案の概要」Yは、Xが理事長を務めるAがYを不当解雇したと主張してその撤回を求めて争っていたが、Xの住居前で情宣活動を行ったことに関し、Xを債権者、Yを債務者とする面談強要等禁止仮処分命令を受けた。更に、同仮処分命令の執行力ある決定正本に基づくXの申立により、東京地方裁判所は、(1)Yまたはその支援団体の会員等の第三者をして、Xの自宅に赴いてXに対して面談を要求するなどしてXの住居の平穏を害する行為をし、若しくはさせてはならないこと及び(2)Yが(1)の義務に違反する行為を行ったときは、Xに対し、違反行為をした日一日につき金30万円の割合による金員を支払うことを内容とする間接強制条項を含む決定をした。本件は、Yが本件決定の(1)の義務に違反する行為をしたとして、Xが本件決定につき執行文付与の訴えを提起した事案である。「判旨」本件決定がYに送達された日以降の時期である4日について、Yまたはその支援団体の会員等がXの自宅周辺においてプラカードを掲示したこと、ビラを配布したこと等の行為があったことを認定し、これらは本件決定の(1)の義務に違反していると認められる。また、これらのプラカードを掲示する行為やビラを配布する行為そのものがXの住居の平穏を害しており、また、Yと支援団体の会員らは約7名から13名もの人数で、Xの住居前で約1時間半もの間情宣活動を行っており、たとえ大声を上げておらず、Xやその家族に直接働きかけていないとしても、Xやその家族に相当の心理的圧迫を与えていることは容易に推認でき、この点からもXの住居の平穏を害している。本判決は、以上に基づき、Xの請求を認容し、東京地方裁判所書記官が執行金額合計120万円についてXに執行文を付与することを命じた。判例時報2179号81頁
2013.05.17
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債権譲渡の対抗要件としての通知 通知すべき相手の所在不明指名債権の譲渡を債務者その他の第3者に対抗するためには、譲渡人が債務者に通知し、又は債務者がこれを承諾することが必要である。債務者の所在が不明である場合には債務者の承諾を得ることができないために、事前に承諾を得ていない限り、債権譲渡を債務者その他の第三者に対抗するためには、債務者への通知によらざるを得ないこととなる。この点、民法は意思表示の効力発生時期につき、隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力をが生じるとして到達主義を採用し、さらに、これによる不都合、すなわち、相手方が分からないときあ、相手方の所在が分からないときには、意思表示を到達させることができず、意思表示の効力を発生させることが一切できなくなってしまうことへの対策としてこのような場合には、公示の方法により意思表示をすることができる旨規定している(民法98条)これに対し債権譲渡通知は意思表示ではなく観念の通知(又は事実の通知)と解されているところ観念の通知については、その効力発生時期や相手方が所在不明等の場合の通知の方法に関する規定がない。A銀行が整理回収機構に貸金債権を譲渡した事案において東京地裁平成16年8月24日判決は「債権譲渡通知には、公示による意思表示に関する民法98条が準用又は類推適用される」として通説・実務の扱いを是認した。 判例タイムズ 1215号22頁↓ブログランキング参加してます。クリック、よろしく!
2006.11.27
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他人所有の自動車を運転中に物損事故に遭った者が、弁護士を代理人として損害賠償請求訴訟を提起した後、所有者から損害賠償請求権の債権譲渡を受けた場合について、この債権譲渡は訴訟信託に当たり無効であると判断した事例(福岡高裁 平成29年2月16日判決) 「事案の概要」Xは、①自らが運転する妻A所有の自動車とY1運転の自動車との交通事故、②自らが運転する知人B所有の自動車とY2運転の自動車との交通事故の2件の交通事故の損害賠償請求権(いずれも物損)について、A及びBから委託を受けたとして、自らが原告、弁護士を代理人として、Y1 及びY2に対する損害賠償請求訴訟を提起した。第1審において、Yら代理人がXの当事者適格を争ったため、Xは、A及びBからXに対する上記損害賠償請求権の債権譲渡を受けた。 「判旨」上告人は、本件訴訟提起時から弁護士である上告訴訟代理人に委任して訴訟行為を行わせているから、弁護士代理の原則(民事訴訟法54条1項)を潜脱するものではないものの、上記各所有者が原告とならず、上告人が原告となって訴訟を提起した理由は、上告人が加入する自動車保険の弁護士費用特約を使うためであったというのであり、上告人への債権譲渡は、上告人を原告にして訴訟を行わせることを目的として行われたものであるから、信託法10条により禁止されている訴訟信託にあたり無効といわざるをえず、上告人に本件第1事故及び本件第2事故についての損害賠償請求権が移転したとは認められない。判例タイムズ1437号105頁
2017.11.02
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労働者災害補償保険法による療養補償給付を受ける労働者につき、使用者が労働基準法81条所定の打切補償の支払をすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項但書の適用を受けることの可否(最高裁第二小法廷 平成27年6月8日判決)「事案の概要」業務災害による休業中のXが、Yから打切補償として平均賃金の1200日分相当額の支払いを受けた上で解雇されたことにつき、この解雇は労働基準法19条本文に違反し無効である等と主張して、労働契約法上の地位の確認等を求めた事案である。本件の1審及び原審は、労災保険給付について何ら触れていない労働基準法81条の文言等からすれば労災保険給付を受けている労働者について打切補償を行うことができるとは解されず、Xに対する解雇は、同法19条1項に反し無効であるなどとして、Xの地位確認請求を認容すべきものとした。これに対して、Yが上告及び上告受理申立てをした。「判旨」労働者災害補償保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、使用者は、当該労働者につき、労働基準法81条の規定による打切補償の支払いをすることにより、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項但書の適用を受ける。判例タイムズ1416号56頁
2015.12.18
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会社が無認可添加物を含んだ「大肉まん」を販売したため会社が損害を蒙った場合、取締役に善管注意義務違反があったとして、株主の取締役に対する53億4350万円の損害賠償請求が認められた事例大阪高裁平成19年1月18日判決 上告されているA会社の株主である原告が、A会社の元取締役である被告2名に対し、106億円余りの損害賠償を求めた事案原告の主張は、被告らは 1 納入された食品の受入検査を行うべき注意義務を怠り、商品が食品衛生法に違反することを認識して販売し、加盟店営業補償等により会社に損害を与え2 食品に無認可添加物が含まれると指摘した者に対して多額の口止め料を払い3 食品の回収、謝罪等の被害回復措置を取るべき注意義務を怠り会社に損害を与えた というものである。第一審の大阪地裁は、被告らは、納入した「大肉まん」の原材料に無認可添加物が含まれていることを知ったのにこれを廃棄せず、その販売を継続したこと、行政庁からの販売禁止の行政処分を受けて「大肉まん」の販売を中止したが、加盟店に多額の営業補償を支払ったことなどを認定し、原告の請求を全面的に認めた。大阪高裁は、被告らの善管注意義務違反を認めたが、仮に被告らが善管注意義務に違反することなく販売を中止するなどしても会社の信用の失墜ないし売り上げ低下は回避できなかったとして、損害は営業補償等の費用105億円の半額に相当する額と口止め料6300万円の範囲であるとして判決した。 判例時報1973号135頁ブログランキング参加してます。↓ クリック、よろしく!
2007.10.05
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住宅供給公社巨額横領事件 役員らに対する損害賠償請求X公社の元経理事務担当職員であったAは、平成5年2月から平成13年10月までの約8年の間、理事長印を勝手に使用するなどしてX公社の銀行預金口座から約14億円を払い戻してこれを横領した。そこでX公社は当時の理事長ら歴代役職員の地位にあったYら19名に対し、管理職としての職務遂行上、預金管理などの善管注意義務に違反したと主張し、総額約9億円の損害賠償を請求した。団体の業務は役員のほか多数の従業員によって行われるものであるが、種々の業務にはリスクを伴うことは当然であるから、役員としては、リスク管理等のために内部統制システムを構築し、これに基づいて個々の役員や従業員の職務執行を監視ずる義務を負うことは当然であって、従業員の違法行為を認識しあるいは認識可能であるのに、その違法行為を看過し、阻止是正するなどの措置を講じなかったときには、善管注意義務ないし忠実義務に違反したとして損害賠償責任を免れない。本判決は損害賠償責任を肯認したが、損害賠償の額については、「本件横領のように社員の故意による犯罪行為により会社が損害を被り、会社がその社員を指導監督すべき立場にある上司に対して指導監督上の過失責任を追及するという場合には、第3者が同様の訴訟を提起する場合とは異なり、会社がその故意の犯罪者に対して包括的な労務指揮権、業務命令権を行使できる立場にあり、社員の業務活動により会社の目的を達成しているという密接な関係にあったことに照らすと、故意の犯罪者の有責性を被害者である会社側の過失に準ずるもとして捉え、指導監督上の過失ある社員の損害賠償責任を民法418条の過失相殺規定の類推適用により減縮するのが相当である。また、公社は青森県により設立され、青森県の出資割合が55パーセントと過半数を超えるところ、青森県の監査においても横領行為を発見することができなかったことも原告側の過失と捉えるのが相当である」として役員らの責任割合を14億円の1%から2%と認定し、その割合での額について損害賠償を命じた。 青森地方裁判所平成18年2月28日判決 判例時報1963号110頁高裁で和解で終了している。
2007.06.20
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