弁護士YA日記

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日出町法律事務所
2019年6月より1年間、日本弁護士連合会客員研究員としてイリノイ大学アーバナシャンペーン校に留学後、弁護士業務を再開しました。
弁護士葦名ゆき(あしな・ゆき)
2022.02.23
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ニュース ​です。
2012年にコネティカット州の小学校で起きた乱射事件で、遺族と銃製造メーカーが和解したそうです。

約80億円という和解金は、被告の破産手続が進行中の状態において、最大限の金額だったみたいです。
ただ、今回の和解の注目ポイントは、金額ではありません。

まず、一つは、そもそも銃製造メーカーが遺族への支払を認めたことです。「法的責任を認めた」というところまでは、和解の秘匿条項に入っているようなので分からないですが、銃製造メーカーが特定の犯罪について金銭の支払を認めるということ自体が、これまで考えられないことだったようです。

というのも、銃製造メーカーは、犯罪が起きた際の責任を免責する連邦法(2005年に導入されたthe Protection of Lawful Commerce in Arms Act、和訳すると、「武器法に関する合理的な商取引保護法」みたいな感じですかね)で手厚く保護されており、メーカーに訴訟を起こすというのは、あまりにもチャレンジングで成功の見込みはないだろうと言われていたらしいんですよね。そこに風穴を開けたことが大きいようで、原告代理人の戦略が成功したという視点が記事にあったので、興味を惹かれました。

法的論理としては、①被告銃メーカーは、違法行為を助長させるような宣伝を用いて販売していて(詳細立証したみたいです)、これは、州の消費者保護法に反する、②免責を認める手厚い法は確かにあるが、連邦法や州法に違反する販売については例外を認める条項がある、③よって、今回の販売に関しては免責が適用されない、ということのようです。

この辺の法律をきっちり読み込んで、かつ、事案に当てはめて説得的に論理展開する流れ、国を超えて痺れますよね。この和解によって、銃製造メーカーも安穏としていられなくなったという実質的な効果と、以前から疑問を呈されていた「こんなにも手厚い免責って銃製造メーカーに何で必要なの?」という疑問が再燃しているらしく、訴訟の結果が社会的な議論を巻き起こしています。こういうダイナミックな社会を変革する一因になる仕事、本当にかっこいいなあって感動しました。

そして、ポイント二つ目は、遺族がお金以上に固執していた、銃の販売戦略に関する内部文書(数千ページ)の開示をメーカーが認めたことです。ここも、被告のメーカーがそんな権利は原告にないと激しく抵抗していたのだけど、原告の遺族の願いは、2度と悲惨な銃乱射が起こらないことだったから絶対に譲れないとギリギリまで粘って交渉したらしいです。

和解を受けての遺族の会見動画も、​ こちら ​で見られます。
婚約間近の先生の遺族や、よりによって一年生のクラスが狙われたんでしょうか、6歳の子供の両親、家族等、涙なしでは見られないです。15歳になったはずの息子を見たかったのにあの子はずっと6歳のままなの、この訴訟を行うことはあの子との約束だと思っている、などの涙ながらの生の声は、余りにも悲痛です。でもだからこそ、2度と誰にも同じ悲しみ経験してほしくないから、どうしても、銃製造メーカーの責任を追求して、gun violence を根本から断ちたかったんだ、自分の愛する人の死に意義を持たせたかった、という想い、切々と伝わります。

この会見の弁護士としての視点からの注目ポイントは、6分あたりからの金髪青い目の女性、被害者の6歳の男の子のお母様が、他の法律事務所にも相談に行ったけど、銃製造メーカーを訴えるのは不可能だ、免責があるから、と全部断られたけど、原告代理人の事務所だけが、責任を問うのは可能だって引き受けてくれたんだ、って話す下りですね。
・・・自分が、原告代理人の立場だったら、断るのは本当に辛いけど、でも、引き受けられる気がしません。
弁護士なら分かりますよね、結果が極めて重大で、遺族の思い入れも非常に強い辛い訴訟、免責条項が法定されている被告に対する訴訟、そして、他の法律事務所がすべて断っている訴訟・・・これは普通引き受けられないですよ。何で、彼は引き受ける決断をできたのだろう、って直接お聞きしてみたいくらいです。

また、他の遺族がディスカバリで大量の内部書類が開示されて、いかに原告が利益のためになりふり構わない販売戦略をとっているかがわかったんだ、という下りも、ディスカバリない国の日本の弁護士としては非常に興味深かったですね。

ちなみに主任代理人、ずっと後ろに映っているんですが、遺族の話を聞きながら、18分頃からでしょうか、途中から堪えきれず、泣いておられます。まだお若い気がします。本当にしんどい訴訟だった筈で、弁護士だと国を超えてどれほど頑張ったか分かりますね。事件発生から9年、国を超えて、心から尊敬します。訴訟社会のアメリカにおいても、未開の地に道を切り開くことにはものすごい勇気がいる。その勇気が報われて本当に良かったと思うのです。
私は色んなことに興味がありますが、常に根底にあるのは、「社会において司法が担うべき役割は何だろうか」という想いです。その意味で、銃社会のアメリカの負の側面に、司法がどう取り組むかの可能性を示す、裁判が社会を変えていく実例の一つとして興味深く感じました。





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Last updated  2022.02.23 07:23:27
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