ジム・ジャームッシュ監督の個人オムニバス映画。当初の予定は『lanewyorkparisromehelsinki』という全部小文字のタイトルで、la(ロサンゼルス)、newyork(ニューヨーク)、paris(パリ)、rome(ローマ)、helsinki(ヘルシンキ)という地球上の5都市の名。ジャームッシュ監督は世界各地の同じ1夜を映画にできないかと、考えたか思いついたのでしょう。ロスとヘルシンキでは時差が10時間あるから、ロスを19時、ニューヨーク22時、パリとローマ午前4時、ヘルシンキ午前5時とすることで、なんとか時間合わせができる。どれもタクシーを描いた短編なわけだけれど、その各都市の5台のタクシーでの出来事は、この「地球上で」まったく「同時に」起こっていたエピソードということです。原題は night が単数であることから1夜であることがわかるわけで、「地球上でのある一夜の出来事」くらいの意味に捉えるべきでしょう。各エピソードのつなぎ画面に5都市の時刻を表示する5つの時計が写され、1話終わるごとに針が逆回りしてもとの時刻に戻される。ロサンゼルスでコーキーがヴィクトリアを乗せていたちょうどその同じ頃、ニューヨークではヘルムートがヨーヨーを乗せていた、以下同様・・、と5つの物語は同じ夜の同じ時刻に、世界の5都市で起こっていたことなのだ、とジャームッシュはこの画面で示したいのだと思います。そこは見落とすべきでない。遠距離恋愛の恋人が夜星空を眺めながら、「今頃あの人もこの同じ星を見てるんだろうな」なんてのがありますが、そういう感慨があります。考えてみれば今こうしてこの文をボクが書いているときに、この映画を紹介して下さったはる*37さんも何処かで何かをしてらっしゃる(たぶん寝ておられる)だろうし、この映画に出たウィノナ・ライダーもおそらくアメリカのどこかで何かしているし、ベアトリス・ダルもたぶんパリか何処かで何かしている。映画の内容自体もそれぞれに「与えられた自分の生を生きること vivre sa vie 」をしている人々を描き、またタクシーの運転手と客という人生のほんの一瞬を交錯させた人と人の出会いと別れを描く。ジャームッシュ監督の博愛精神のようなものを感じる映画です。地球を東方向に回ることで、実際の同じ時間が現地時刻としてだんだん遅くなっていく。日没にロスで始まった映画が少しずつ夜が更けてゆき、早朝の夜明けのヘルシンキで終わる構成も見事です。