月夜茶会

月夜茶会

2010.07.31
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「テメェ!本当に覚えておけよ!?」
 激怒する羽山君につれられて、私達は剣道部へ向かった。
 騎士科が訓練に使うトレーニングセンターから少し離れた場所。
 小さくてオンボロな、こぢんまりとした昔ながらの建物。
 それが、剣道部の道場だ。
「普通科の剣道部は格闘技センター半分くらい使ってるのになぁ」
 秋篠君がそうぼやくのも無理はない。
 格闘技センターは本当に広い。

「しかたないよ」
 未亜は言った。
「向こうは全国大会連続出場の強豪。こっちは趣味でやってる弱小部っていうのが、周りの評価だもん。それに」
 エーイッ!
 ハーッ!
 道場の中からは気迫のこもった声が響いてくる。
「騎士剣道部がこうなっちゃった理由も、そういう所使っていたからっていうのが、あるからねぇ」
「どういうこと?」
「あの格闘技センターって、本当に最初は、騎士科の剣道道場を中心として建てられたんだよ」
 未亜は言った。
「普通課の剣道部や、柔道部が隅っこで小さくなってやってるしかなかった。んで、つけあがったんだと思うけど……ある日、規模と実績を笠にした騎士科の生徒達が部活中にふざけて剣振り回して」

「普通科の生徒、三人死んだんだよ」
「三人も?」
「よく手入れしてないスタンブレード振り回して、柄の部分から刀身がすっぽ抜けたんだって」
「スタンブレードの規格と運用が強化された事件だよ」
 秋篠が言った。

「そう。それで、騎士科の剣道部は1年活動停止。ふざけた挙げ句が死人出した不祥事が響いて、部の評価はがた落ち。栄光の後の後は」
 未亜は手を斜め下に動かした。
「落ちるだけ」
「……」
「今の連中がこんなボロい所にいるのは、周りに騎士がいない環境を望んだからだよ。誰も巻き込まないようにって」
「ふうん?」


 ハァッ!
 フンッ!
 気迫の声と共に、ハードラバー製のスタンブレードがぶつかり合う。
 狭い道場の中は、何とも言えない熱気に包まれている。
 私は、ちらりと羽山君と秋篠君を見た。
 何だろう。
 それまでと二人の雰囲気が違う。
 顔が本当に引き締まって―――カッコイイ。
 騎士としての何かが、この熱気に目覚めさせられたんだろうか?
 二人の体から、何だかオーラが放たれているようなそんな気さえする。
 だけど―――
「ふぅん?」
 同じ騎士なのに、そういうのを全然感じさせない水瀬君がぼやいた。
「こんなに動いて、お腹、空かないのかなぁ」
「そういう問題じゃないと思うけど―――あっ」
 未亜が私を軽く叩きながら言った。
「あそこあそこ!」
 道場の一番奥。
 今、防具に身を包んだ二人が剣を交えていた。
 周りの人達と比べても、動きが段違いにいい。
 まるで最初から打ち合わせでもしているのかと聞きたくなる位、互いの攻撃を紙一重で交わし、交わされている。
「あれ、部長の月宮先輩と聖護院先輩だよ」
「……へえ?」

 どっちがどっちだかわかんないけど、勝負は一瞬でついた……んだと思う。
 片方のスタンブレードが脳天ギリギリで止められ、もう片方のスタンブレードの切っ先がのど元に突きつけられている。
「相打ち?」
「いや」
 羽山君は言った。
「聖護院の突き技が先に入った」
 そうなんだ。
「違うだろう。羽山」
 秋篠君がそれを否定した。
「絶対、月宮先輩の一撃の方が先だ」
「そんなことはない」
「いや、絶対、月宮先輩だ」
 ……。
 お互い、普段は仲いいけど、騎士としての何かが絡むとそうはいかないらしい。
 互いににらみ合いに近くなった所で、二人の手が同時に掴んだのは、
 水瀬君の襟首だ。
「―――水瀬」
「どっちが先だった」
「……あんなの、相打ちだよ」
 水瀬君は宙ぶらりんになったままで言った。
「実戦じゃ意味がない」
「意味が……ない?」
「実戦で大切なのは」
 羽山君に降ろしてもらった水瀬君は言った。
「生き残ることだよ。あの場合、どっちが先で後でも、戦場じゃ共倒れは避けられない。一々差し違えていたら命がいくつあっても足りない」
「……なら、どうする?」
「本当に実力のある騎士同士っていうのは」
 水瀬君は言った。
「相手の実力が自分と同等以上なら戦わないよ」
「なんだそれ」
「自分より強いのと戦わなければ、最強だから」
「納得できるか……おっ?」
 気がつくと、こちらに気づいたのだろう。防具の面をとった二人がこちらに向かって歩いてきた。
 ……うわ。
 二人とも、びっくりするくらいの美人だ。
 オレンジ色の髪。くりっとした猫のような瞳をした可愛らしい女性と、見るからに外人とおぼしき金髪の女性だ。
「―――久しぶりね。光信」
 金髪の女性が、日本語で話しかけたのは羽山君だ。
「聖護院なんていうから、まさかと思ったが」
「相変わらず、鈴紀には弱み握られてるみたいね」
「―――うるせぇ、ダイコン」
「っ!」
 それまでの勝ち誇ったような口調はどこへやら、あからさまにカチンと来た。という顔の金髪の女子生徒が羽山君を睨んだ。
「少なくとも俺はイヤイヤ来てるんだ。ここで帰ってもいいんだぜ?」
「―――なら、帰んなさいよ」
「何?」
「鈴紀に言っておくわ。光信は使い物になりませんって」
「―――っ!」
「使いものにならない、負け犬に用はないの」
「言ってくれるじゃねぇか……ダイコンの分際で」
「私にそんな口聞いて良いの?涼子さんとはメル友なんだけど?」
「よろしく頼む」
 涼子さんの名前を出された羽山君は、ポンッと金髪の女子生徒の両肩に手を置いた。
「……節操のなさは相変わらずね」

 休憩時間。
 部員達が三々五々、思い思いの場所で休憩している。
「今度の大会は」
 オレンジ色の髪をした女性が部長の月宮桜香(つきみや・おうか)先輩。
 どこかで見たと思ったら、去年の生徒会副会長だった人だ。
「私達にとっても最後の大会だし、負けたくないのよね」
「就職絡んでいるから?」
「え?ああ、私達」
 月宮先輩が、金髪の副部長さん、聖護院エリカ先輩と軽く目配せした。
「大学進学組だから」
「―――へ?」
「騎士として仕事ってのも悪くないけど、もっと別なこともしたいのよ。出来れば一生、長く続ける仕事見つけたいし。エリカはエリカで家継がなくちゃいけないし」
「……あの旅館と教会か?」
「そう。女風呂除いた光信が逆さづりにされたあの尖塔、まだ残ってるわよ?」
「……勘弁してくれ。あれは鈴紀にそそのかされて」
「その気になる辺り、あんたって本当に単純よね。で?男子、任せて良いわね?」
「負けてもいいんだろう?」
「ええ」
 エリカは頷いた。
「無様に負けてきなさい。笑ってあげるから」
「くそっ……おい、水瀬、お前も参加しろ!」
「僕?ダメだよ」
 水瀬は、ずっと視線を一カ所に向けたまま言った。
「魔法騎士は、そういうの、出ること禁止」
「ああ……」
 桜香は、ポンッと手を打った。
「水瀬君だっけ?君、第四分隊なんだ」
「はい。だから、僕はダメです」
「残念だなぁ」
 エリカは言った。
「見るだけで、そこのエロガキなんか比べ者にならない位、筋がよさそうなのに」
「エロガキって誰だよ……」
「光信、黙れ……どうしたの?」
 水瀬は無言で開かれたドアを指さした。
 そこには、他の部員と混じることもなく、一人だけ開かれたドアから差し込む光を浴びながらスタンブレードの手入れに熱中する女の子がいた。
 銀髪を肩の辺りで切りそろえ、リボンを結んだまるで日本人形のような女の子は、剣と自分以外、この世に存在しないと言わんばかりの熱心さで手入れに没頭している。

「高原さんのこと?」
「高原?」
「高原来夢(たかはら・らいむ)。次期女子部長候補」
「……無理じゃないかな」
 水瀬はぽつりと言った。
「あれじゃ」
「?」
「……おかしいなぁ」
 水瀬は首を傾げた。
「あの子……でも」
 不意に、来夢が立ち上がると、スタンブレードを手に外に出た。
「ごめんなさい」
 水瀬はそう言うと、その後を追った。







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最終更新日  2010.07.31 12:19:54 コメントを書く
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